東京創元社とは、日本の文芸出版社。主にミステリー、SF小説を刊行している。
概要
元々は京都に本社を構える創元社の東京支社。1948年に独立し、54年から東京創元社となった(公式には1954年創業としている)。61年に一度倒産したが復活。現在は翻訳ミステリー、翻訳SFの老舗として知られている。講談社と並ぶ本格ミステリの砦であり、早川書房と並ぶ海外ミステリ・海外SFの砦。かつてはゲームブックの出版社としても知られていた。
2022年現在、発行している雑誌は隔月刊の総合文芸誌『紙魚の手帖』のみで、ほぼ文芸書、それもジャンル小説(ミステリー、SF、ファンタジー)の出版専門に近い出版社である。小説以外では、「碁楽選書」という叢書で囲碁の本を継続的に刊行している。
国産ミステリーの新作を扱うようになったのは1988年から。折原一、北村薫、有栖川有栖、山口雅也などを立て続けに送り出し、また本格ミステリの長編新人賞・鮎川哲也賞や短編賞の創元推理短編賞を主催して今邑彩、芦辺拓、加納朋子、貫井徳郎、北森鴻、飛鳥部勝則、大倉崇裕、加藤実秋などをデビューさせ、新本格ムーブメントに多大な貢献を果たした。ちなみに宮部みゆきの初単行本(『パーフェクト・ブルー』)もここ。
近年は鮎川哲也賞から麻見和史、似鳥鶏、七河迦南、相沢沙呼、青崎有吾、市川憂人、今村昌弘、方丈貴恵など、2021年まで刊行していたミステリ専門誌『ミステリーズ!』(終刊)が主催する短編ミステリの新人賞・ミステリーズ!新人賞からは梓崎優、深緑野分、伊吹亜門、櫻田智也などを送り出している。
SFも長年翻訳物のみを扱ってきたが、2007年に『銀河英雄伝説』の新装版を刊行することになったのをきっかけに日本人作家の作品も取り扱うようになった。
現在、新人賞として創元SF短編賞を主催し、芥川賞作家の高山羽根子、日本SF大賞作家の宮内悠介や酉島伝法などを輩出している。『筺底のエルピス』のオキシタケヒコ、『裏世界ピクニック』の宮澤伊織もこの賞の受賞者。
また埋もれた作家・作品や若手作家の発掘に非常に熱心であり、自前の新人賞出身作家に限らず、叢書「ミステリ・フロンティア」などで他社の新人作家にも積極的に発表の機会を与えている。ライトノベルから米澤穂信や桜庭一樹を拾ってきたほか、SFやホラー、少女小説や児童文学出身の作家まで、ジャンルの垣根に囚われず作家を発掘してくることにかけては定評がある。他社で絶版となった古い作品の復刊にも熱心。
その一方、自社作品の文庫化に関しては非常にマイペースで、普通は2~3年で文庫化されるところ、人気作家の作品や話題作でも5~6年、あるいはそれ以上放置することも珍しくない。逆に他社なら文庫化されずに終わりそうな地味な作品を10年以上経ってから唐突に文庫化することもある。
翻訳物が中心の出版社ということもあってか基本的に商売っ気は薄く、たくさん刷ってがんがん売ろうという姿勢を見せることは少ない。2012年には『ビブリア古書堂の事件手帖』などの影響で日常の謎ミステリブームが起こる中で、日常の謎ミステリの既刊を山ほど抱えているにも関わらず全く売りだそうとしないなど、良くも悪くもマイペースな出版社である。そのせいか、文庫本の値段が他社と比べて明らかに高い(大抵は800円から900円、そう厚くなくても1000円を超えることも多い)ことは一時期よく読者から文句を言われていた。近年は他社の文庫の値段も上がっているので、以前ほどの割高感は無くなっている。
主な文庫・叢書
- 創元推理文庫
- 1959年創刊。初期は「本格(横顔)」「ハードボイルド(拳銃)」「サスペンス(猫)」「その他(時計)」とジャンル分類を示すマークがついていたが、分類が難しい作品が多くなったせいか、読者からも分類がおかしいと突っ込まれることも多く、途中でやめてしまった。
名前が名前だし推理小説専門レーベルと思われがちだが、1990年まではSF作品も刊行していたし、現在もファンタジー作品を刊行しており、現在は「M(ミステリ)」分類と「F(ファンタジー・ホラー)」分類(1969年から)に分かれている。
国内作品を扱うようになったのは1984年の「日本探偵小説全集」刊行から。国内M分類は黄色、海外M分類は作家別に色が違う背表紙。F分類は国内外とも灰色。かつてはG分類(スーパーアドベンチャーゲーム)としてゲームブックも出ており、ゲームブックブームの時期には一時代を築いた。 - 創元SF文庫
- 1991年創刊。1963年からスタートした創元推理文庫のSF分類が独立したもので、独立以前の作品も増刷の際に創元SF文庫扱いになっている。長らく翻訳専門だったが、2007年からは日本人作家の作品も扱うようになった。田中芳樹『銀河英雄伝説』の現在の収録レーベルはここ。レーベル史上最大のベストセラーはジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』。国内・海外とも薄紫の背表紙。
- 創元ライブラリ
- 1995年創刊。エッセイ、評論、コミックなど、小説以外の作品が入る文庫レーベル。また創元推理文庫やSF文庫には入れにくい海外の主流文学や、国内外の幻想文学作品がここに入ることもある。刊行点数は少なく、近年は年に1冊出ればいい方。ものによっては1冊2000円とかするものも。背表紙は白。
- 創元文芸文庫
- 2022年創刊。創業68年にしてついに誕生した非ジャンル小説の国内一般文芸作品を収録する文庫レーベル。創刊第1弾は本屋大賞を受賞した凪良ゆう『流浪の月』の文庫化で、おそらくはこの作品を文庫化できるレーベルが無かったために作られたと思われる。
- 創元クライム・クラブ
- 1991年創刊。単行本叢書。国内の既成作家のためのミステリ専門叢書だが、国内ミステリの新刊ならなんでもこの叢書から出るというわけではなく、どういう基準で出してるのかはわりと謎。
- ミステリ・フロンティア
- 2003年創刊。単行本叢書。国内の若手ミステリ作家に書き下ろしの新作を書かせる叢書。ミステリーズ!新人賞受賞作家の初単行本もここから出る。主な作品に米澤穂信『さよなら妖精』『折れた竜骨』、伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』など。当該記事も参照。
- 創元日本SF叢書
- 2011年創刊。単行本叢書。創元SF短編賞受賞作家をメインにした国内SFの新刊を出す叢書だが、刊行数は少ない。
- 創元海外SF叢書
- 2014年創刊。単行本叢書。海外SFを単行本で出す叢書。
- 海外文学セレクション
- 1994年創刊。単行本叢書。海外の主流文学や幻想小説などを刊行する叢書。
- 創元ブックランド
- 2004年創刊。単行本叢書。翻訳ヤングアダルトの単行本を出す叢書。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品などを出していたが、2015年で刊行終了した模様。
- キイ・ライブラリー
- 1980年創刊。単行本叢書。主にミステリ・SFに関する評論書を出す叢書。
記事のある東京創元社刊の作品
- 亜愛一郎の狼狽 (泡坂妻夫、創元推理文庫)
- オリエント急行の殺人 (アガサ・クリスティ、創元推理文庫)
- 折れた竜骨 (米澤穂信、ミステリ・フロンティア/創元推理文庫)
- 啄木鳥探偵處 (伊井圭、創元クライム・クラブ/創元推理文庫)
- 銀河英雄伝説 (田中芳樹、創元SF文庫)
- 銀河帝国興亡史 (アイザック・アシモフ、創元SF文庫)
- 黒後家蜘蛛の会 (アイザック・アシモフ、創元推理文庫)
- 最後から二番目の真実 (フィリップ・K・ディック、創元SF文庫)
- さよなら妖精 (米澤穂信、ミステリ・フロンティア/創元推理文庫)
- 屍人荘の殺人 (今村昌弘、単行本/創元推理文庫)
- 〈小市民〉シリーズ (米澤穂信、創元推理文庫)
- 地球幼年期の終わり (アーサー・C・クラーク、創元SF文庫)
- ドラキュラ (ブラム・ストーカー、創元推理文庫)
- ドラキュラ紀元 (キム・ニューマン、創元推理文庫)
- 渚にて (ネビル・シュート、創元SF文庫)
- 星を継ぐもの (ジェイムズ・P・ホーガン、創元SF文庫)
- 〈ベルーフ〉シリーズ(王とサーカス、真実の10メートル手前) (米澤穂信、単行本/創元推理文庫)
- マヴァール年代記 (田中芳樹、創元推理文庫)
- 妖精作戦 (笹本祐一、創元SF文庫)
関連動画
↓創元SF文庫「聖者の行進」に収録のアイザック・アシモフの中篇小説「バイセンテニアル・マン」を元ネタにした動画。東京創元社の公式Facebookページにて、「こんな動画があることをお教えいただきました。 感動的です!」というコメントとともに紹介された。
↓創元SF文庫「歌う船」(作:アン・マキャフリー)を元ネタにした動画。
関連項目
親記事
子記事
兄弟記事
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