死ゾとは、
本記事では上記の1.と2.の双方を説明する。
1.の概要
かつて「ひらがなよりも、カタカナがより正式である」とみなされていた時代があり、その頃の文章では現代ならば「死ぞ」と表記されるであろう場合にも「死ゾ」と表記されることがあった。
「死」の後につく係助詞の「ぞ(ゾ)」は断定、強調などの意味をもつ。また「死」一文字で名詞的に「死」を指す用法だけでなく動詞的に「死ぬこと」を指すこともあったようだ。
よって、古い文書で登場する「死ゾ」は、文脈によって「死だ」「死こそは」「死ぬぞ」「死んだ」などの様々な意味合いで用いられうる。
この節の冒頭で引用した文章は、現代語にすると「鍾馗は昔、進士[2]に及第しそこなって、無念の余りに内裏[3]の階(きざはし)[4]の柱で頭を打ち砕いて死んだ」といった感じになる。
2.の概要
『真夏の夜の淫夢』(『BABYLON STAGE 34 真夏の夜の淫夢』)とは同性愛者男性向けのポルノビデオの一タイトルである。そして、話せば長くなる複雑な経緯を経て、『真夏の夜の淫夢』に関連するポルノビデオ内に登場する人物やその発言内容は、インターネットミームとしてインターネット上で盛んにネタにされるようになった。
そのインターネットミームを盛んにもてあそぶ界隈、通称「淫夢」界隈で、この「死ゾ」という言葉が用いられることがある。概ね「死ぬぞ」「死んだ」「死ぬわアイツ」などといった意味合いで用いられることが多いようだ。
これは、上記の『真夏の夜の淫夢』と同じメーカーが1999年7月20日に発売したポルノビデオ『誘惑のラビリンス』(『BABYLON STAGE 27 誘惑のラビリンス』)の第3章「空手部・性の裏技」に登場する男性出演者、通称「MUR」(みうら)の台詞に由来すると思われる。
など、語尾に「ぞ」が付く台詞を何度も発声している(以上4つ以外にも複数)。これらの台詞は、「淫夢」界隈においては
- 「すっげぇきつかったゾ~」
- 「肝心な所洗い忘れてるゾ」
- 「嘘つけ絶対見てたゾ」
- 「いいゾ~これ」
と、「ぞ」を「ゾ」とカタカナで表記されることが基本となっている。
これはおそらく、漫画『クレヨンしんちゃん』において、主人公である「野原しんのすけ」が「~だゾ」という口調を使っていることに影響されたものか。
これらの「ゾ」を使って表記されたMURの台詞が、「淫夢」界隈内で定番の台詞、いわゆる「淫夢語録」として何度も何度も引用された結果として、「淫夢」界隈では「~ゾ」という語尾を多用するようになった。
その結果、「淫夢」界隈の人々は「死ぬぞ」「死んだぞ」と表記する際にも「死ぬゾ」「死んだゾ」と表記することが多くなるわけだが、それがいつしか奇妙な縮め方をされるようになり、この「死ゾ」が現れ始めた……とも説明できる。
しかし、短文投稿サイト「Twitter」で「"死ゾ"」を検索してみると、2013年以後に突然使用例が増えている(それまでにも散発的な使用例が皆無ではないが)。「いいゾ~これ」で同様にTwitter検索を試みると、2011年中から盛んに使用されているのに、である。
単純に「空手部・性の裏技」の台詞に由来するというだけならば、この時期に急に増えるという事はやや不自然である。つまり、2013年頃に何らかの「死ゾ」が盛んに使われだす「きっかけ」があった可能性が高いと思われるのだ。
その「急に使用例が増えたきっかけ」を探ったところ、はっきりと断言はできないものの、どうやら当時かなりの人気を集めていたバンダイナムコエンターテインメントのアイドル育成ゲーム『THE IDOLM@STER』(アイドルマスター)シリーズに関連するようであった。
この頃に、インターネット掲示板サイト「2ちゃんねる」のなんでも実況(ジュピター)板(通称、なんJ)などで「『THE IDOLM@STER』に登場するアイドルキャラクターらに「死ね」系の辛辣な台詞を、そのキャラの口調で強引に言わせてみる」という趣旨の書き込みが散見されたようだ。たとえば、語尾に「なの」をよく付けるキャラクターである「星井美希」は「死ねなの」と言わされていた。
そしてアイドルキャラクターらのうち、語尾に「だぞ」をよく付けるキャラクターだった「我那覇響」は「死ねゾ」と言わされていたのである。語尾が「ぞ」ではなく「ゾ」となっているのは、なんJ板は「淫夢」界隈との親和性が高く、語尾に「ぞ」が付く我那覇響とMURを関連付けることが多かったため(このあたりは「我那覇くん」の記事も参照されたい)。そして、それがネタとして繰り返されるうちに「死ゾ」と省略されたらしい。
そして、この言葉は次第に『THE IDOLM@STER』とは全く関係ない場面にも流出していったようだ。その際に、命令形を担う「ね」の一文字が脱落していることから「死ね」という意味だったことは抜け落ちたようだ。だが逆にこのことで、「死ね」という攻撃的な言葉ではなく、ややオーバーな表現として日常的に使用しうる「死ぬぞ」「死んだ」「死ぬわ」という意味にも取れる言葉としても使用できるようになったと思われる。
こうして、以後「死ゾ」という言葉が「淫夢」界隈にある程度定着してしまい、現在に至っているものと思われる。
殺ゾ
ちなみに、「死ゾ」からは「殺すぞ」という意味を込めた「殺ゾ」(ころぞ)という言葉も派生したようだ。「死ねゾ」から「ね」を抜いて成立した「死ゾ」からの連想で、「殺すゾ」から「す」を抜いた表現として生まれたものではないかと思われる。
例えば、以下の「淫夢」界隈の動画『将棋.mp4』の再生時間02:21で、前述の「MUR」の台詞として使用されている。
この動画『将棋.mp4』は2015年7月10日に投稿されたものだが、「Twitter」で「"殺ゾ"」を検索してみるとこの日以後に使用例が明らかに増えている。再生数などから察するに人気の動画だったようなので、多くの視聴者に影響を与えたものかと思われる。
ただし、Twitterでは2013年5月から「殺ゾ」の使用例が確認できるので決してこの動画が初出と言うわけではない。
関連動画
関連項目
脚注
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