医学記事 医療や健康に関する相談は各医療機関へ |
非ステロイド性抗炎症薬(Nonsteroidal anti-inflammatory drug)とは、「抗炎症作用」「鎮痛作用」「解熱作用」を有し、ステロイド骨格をもたない医薬品のことである。略称はNSAID(エヌセイド、エヌセッド、エヌエスエイド)、複数形はNSAIDs(エヌセイズ、エヌセッズ、エヌエスエイズ)。
概要
要約
抗炎症薬
抗炎症薬は、炎症を抑える医薬品である。炎症は、病原体侵入や組織損傷などの異常に際して機能する生体の防御システムであるが、不快感や痛みを伴い、病原体だけでなく自己の細胞も破壊されてしまう。したがって、炎症の防御システムとしての機能をできるだけ損なわずに、疼痛や自己破壊的反応を抑制することを目的として、抗炎症薬を使用する。
抗炎症薬は、その化学構造および作用メカニズムから、「副腎皮質ステロイド薬」と「非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)」の2つに大別される。このうち、副腎皮質ステロイド薬(主として糖質コルチコイド)は、その強力な抗炎症作用、抗アレルギー作用のため、炎症性疾患やアレルギー性疾患の治療に用いられる。しかし、多彩かつ重い副作用があり、服用を急激に減量ないし中止すると離脱症状があらわれてしまう。これと比してNSAIDsは、ステロイド構造をもたず、作用機序も異なり、副作用を制御しやすいため、汎用されている。
NSAIDs
代表的なNSAIDsとして、アスピリン(バファリン®、ケロリン®)、エテンザミド(ノーシン®、新セデス®)、ジクロフェナク(ボルタレン®)、インドメタシン(インダシン®、インテバン®)、イブプロフェン(ブルフェン®、イブ®)、ロキソプロフェン(ロキソニン®)、メフェナム酸(ポンタール®)、ピロキシカム(フェルデン®)、セレコキシブ(セレコックス®)などがある。
解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン(カロナール®、タイレノール®)、スルピリン(メチロン®)、イソプロピルアンチピリン(セデスハイ®、サリドン®)などは、抗炎症作用がないためNSAIDsではない。
NSAIDsに共通する作用、臨床での応用を下に示す。
- 抗炎症作用
- 鎮痛作用
- 解熱作用
このほか、アスピリンは低用量で血小板凝集阻害作用(血栓の形成を抑制する作用)を示すため、心筋梗塞や脳梗塞などの治療ないし予防に用いられる。ただし、高用量では効果がない(アスピリンジレンマ)。
NSAIDsの副作用としては、消化性潰瘍などの消化管障害、皮膚障害、腎障害、気管支喘息(アスピリン喘息)などがある。まれに、薬物アレルギー反応を引き起こすこともある。とくに消化管障害が起こりやすいため、NSAIDを投与する場合、消化管粘膜を保護する工夫がなされる。一般には、胃酸分泌を抑制するためにH2ブロッカー(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)を併用する。アスピリン製剤のバファリン®には、胃酸を中和する作用をもつ制酸薬(やさしさ)が配合されている。同じくアスピリン製剤のケロリン®には、胃粘膜を保護する作用をもつ桂皮が配合されている。
作用機序
主作用
炎症には、「アラキドン酸カスケード」と呼ばれる代謝経路が深く関与している。これは、アラキドン酸を材料とし、生理活性物質であるプロスタグランジン類やトロンボキサン類を合成する代謝経路である。たとえば、プロスタグランジンE2(PGE2)は血管拡張、気管支拡張、発熱などの作用をもつ。
このアラキドン酸カスケードの最初の反応には、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素が係わっている。一般にNSAIDsは、このCOXを阻害することで、PGE2などの炎症を惹起する生理活性物質の産生を抑制し、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を示す。
多くのNSAIDsは、COXの疎水性チャネル内に結合することで酵素活性を阻害する(可逆的な阻害)。ただし、アスピリンはCOXのセリン残基をアセチル化することで阻害する(不可逆的な阻害)。
また、COXにはサブタイプ(亜型)が存在し、NSAIDsは生体内に常在し恒常性の維持に関与しているCOX-1と、炎症時に誘導されるCOX-2の両方を阻害するものが多い。エトドラク、メロキシカム、セレコキシブのように、COX-2を選択的に阻害するNSAIDsもある。塩基性NSAIDsはCOXを阻害せず、作用機序は不明である。
消化管障害
前述のように、一般にNSAIDsはCOXを阻害することによって、炎症に関与する生理活性物質PGE2などの合成を抑制する。PGE2は、血管拡張や気管支収縮などに係わるが、胃では胃粘液分泌促進、塩酸分泌抑制、消化酵素分泌抑制に関与する。
NSAIDsによってCOXが阻害されると、このPGE2の合成が抑制され、胃粘液の分泌が低下し、胃酸の分泌が亢進することになる。結果として、胃の細胞が胃酸に晒され、消化性潰瘍(胃の細胞そのものの消化)が引き起こされる。
生体内に常在しているCOX-1と、炎症時に誘導されるCOX-2の両方を阻害(非選択的に阻害)するNSAIDsは、この消化管障害があらわれやすい。よってCOX-1をほとんど阻害せず、COX-2を選択的に阻害するNSAIDsとして、セレコキシブなどが開発された。消化管障害の低減が期待されている。
しかし、COX-2を選択的に阻害するNSAIDsは、血管を拡張させ血小板凝集を抑制するプロスタグランジンI2(PGI2)を減少させるものの、血管を収縮させ血小板凝集を促進するトロンボキサンA2(TXA2)を相対的に増やしてしまう。結果、血栓が形成されやすくなり、急性心筋梗塞などのリスクが高まるという欠点がある。
気管支喘息
NSAIDsによってCOXが阻害されると、アラキドン酸は代償的に5-リポキシゲナーゼによって代謝され、ロイコトリエンA4(LTA4)を生ずる。さらにLTB4、あるいはシステイニルロイコトリエン(LTC4、LTD4、LTE4)へと代謝される。また、システイニルロイコトリエンは、気管支を収縮させる作用をもつ複合体SRS-A(アナフィラキシー低速反応物質)を形成する。
これらロイコトリエン類は、気管支喘息やアレルギー反応などに関与している。たとえば、ロイコトリエンC4(LTC4)は気管支を収縮させ、気管支粘液の分泌を促進させる作用をもつ。
NSAIDsによって誘発される気管支喘息は、NSAIDsの代表格アスピリンの名を冠して「アスピリン喘息」と呼ばれるが、COXの阻害に起因するものであり、アスピリンの服用に限って起こるものではない。
分類
NSAIDsは、その化学構造に基づき、サリチル酸系、アリール酢酸系(フェニル酢酸系、インドール酢酸系など)、プロピオン酸系、フェナム酸系、オキシカム系などに分類される。なお、この節で挙げる医薬品は一例である。また、日本で承認されていないNSAIDsや、厳密にはNSAIDsに含まれない解熱鎮痛薬も参考までに掲載している。
サリチル酸系NSAIDs
アリール酢酸系NSAIDs
プロピオン酸系NSAIDs
フェナム酸系NSAIDs
関連動画
関連項目
親記事
子記事
兄弟記事
- 4
- 0pt