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当記事では、2014年2月9日に執行された東京都知事選挙について述べる。
医療法人徳洲会グループからの収賄疑惑で猪瀬直樹前都知事が辞任したことを受けて行われた選挙である。猪瀬が1年、猪瀬の前任の石原慎太郎が4期目当選から1年半といずれも短期間で辞任しているため、過去3年間で3度目の都知事選となった。
告示日は1月23日、投開票日は2月9日(小笠原諸島の母島のみ2月8日)。期日前投票は1月24日から2月8日まで。ネット選挙解禁後初の都知事選ということもあり、各陣営のインターネットの活用方法にも注目が集まった。
巨大与党の支援を受ける舛添要一元厚労相を軸に、都議選・参院選と好調な共産党を筆頭とする左派勢力の結集で雪辱を狙う宇都宮健児元日弁連会長、小泉純一郎元首相とのタッグで「脱原発」の争点化による無党派層への訴求を目指す細川護熙元首相、旧太陽の党や維新政党・新風などの支援を背景に中道寄りで除名経験のある舛添を忌避する自民右派層の切り崩しを図る田母神俊雄元航空幕僚長の3候補が争う展開となった。
選挙の結果、分厚い自民・公明支持層の大半を固め切った舛添が大差で当選を果たした。当初有力な対抗馬とみなされていた細川は中間層・無党派層への浸透に失敗し失速、予想外にこれらの層に喰い込んだ宇都宮の後塵を拝した。田母神は右派系ネットユーザーを中心とする圧倒的なネット応援キャンペーンの後押しを受け、右派的な若年男性層からの得票では善戦したものの、それ以外の層への広がりを欠き4位に終わった。
その他の候補の中ではドクター・中松やマック赤坂と言ったお馴染みの面々が得票を落とす中、初挑戦の家入一真が約9万票を獲得する健闘を見せた。3年間で3度目と選挙自体に新鮮味が欠けるうえ、前日までの豪雪の影響もあって投票率は46.14%に留まり、都知事選史上3番目に低い数字となった。
▲立候補を届け出た候補者は以下の16名(並びは届け出順、年齢は立候補当時のもの。太字は大百科に記事のある人物)。19名が出馬した1999年に次いで2番目に立候補者数の多い都知事選となった。
候補者名 | 年齢 | 経歴 | 支持党派 (上段:政党・政治団体 下段:政治家個人) |
備考 |
---|---|---|---|---|
ひめじけんじ (関口安弘) |
61 | 建物管理会社社長 元航空自衛官 |
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宇都宮健児 | 67 | 弁護士 元日弁連会長 |
共産党 社民党 新社会党 緑の党 |
前回2位(968,960票) |
ドクター・中松 (中松義郎) |
85 | 発明家 | 前回5位(129,406票) | |
田母神俊雄 | 65 | 軍事評論家 元航空幕僚長 |
維新政党・新風 石原慎太郎(維新)ほか旧太陽の党所属議員 |
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鈴木達夫 | 73 | 弁護士 元NHK職員 |
革命的共産主義者同盟全国委員会(中核派) |
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中川智晴 | 55 | 設計事務所代表 元文部省職員 |
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舛添要一 | 65 | 元厚労相 元参議院議員(2期) |
自民党 公明党 新党改革 連合(労働組合) 渡辺喜美(みんな) |
|
細川護熙 | 76 | 元首相 元衆議院議員(2期) 元参議院議員(3期) 元熊本県知事(2期) |
民主党 結いの党 生活の党 小泉純一郎(自民) 松野頼久(維新) |
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マック赤坂 (戸並誠) |
65 | 政治団体代表 貿易会社社長 |
スマイル党 |
前回8位(38,855票) |
家入一真 | 35 | 起業家 | ||
内藤久遠 | 56 | 元派遣社員 元陸上自衛官 |
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金子博 | 84 | ホテル運営会社社長 | ||
五十嵐政一 | 82 | 社団法人理事長 コンサルタント会社社長 |
前回9位(36,114票) | |
酒向英一 | 64 | 元瀬戸市職員 | ||
松山親憲 | 72 | 警備員 | ||
根上隆 | 64 | 政治団体代表 元中野区職員 |
日本維新の会の非太陽系陣営(いわゆる大阪派・橋下派)は自主投票としたものの、松野頼久国会議員団幹事長が細川支持を明言し【都知事選】細川氏、14日にも小泉氏と会談 - MSN産経ニュース[外部]、党幹事長の松井一郎大阪府知事も「本音では細川」と漏らすなど「脱原発の細川氏に頑張ってほしいが…石原御大に怒られる」維新・松井幹事長が本音吐露 - MSN産経west[外部]、細川を後押ししようとする動きも見られた。
一方みんなの党は党是である脱原発を訴える細川を推さずに自主投票としつつ、細川の首相時代の借入金問題を追及する構えを見せた【都知事選】細川氏は「佐川の資金問題」説明を 渡辺みんな代表、「争点は『政治とカネ』」 - MSN産経ニュース[外部]。なお同党の渡辺代表は個人的な見解は舛添支持に近いとしている時事ドットコム:みんな、都知事選は自主投票[外部]。さらに民主党の支持母体である連合は、東電労組など原発推進派労組の圧力もあり脱原発色の薄い舛添支持に転じた連合東京が舛添氏支援へ 都知事選、民主都連と一線 :日本経済新聞[外部]。
都議会に3人、都内の市区議会に約50人の議員を擁する東京・生活者ネットワークは、「脱原発を掲げる候補を応援する」としつつも、宇都宮を支持した前回とは異なり細川・宇都宮いずれの脱原発派候補を支持するかは明言せず、自主投票とした東京都知事選挙について | 東京・生活者ネットワーク[外部]。ただし都議3人は独自に細川支援を表明した都知事選:都議会ネット、細川氏を支援 /東京 - 毎日新聞[外部]。
なお猪瀬知事への辞任圧力が強まりつつあった2013年12月に突如として衆議院議員を辞職した東国原英夫も、2011年の都知事選で約170万票を獲得した実績があったことから有力候補とみなされており、実際に水面下で公約作成などの準備を進めていたものの、1月中旬になって出馬を正式に断念した東国原氏、都知事選出馬見送り…周囲に意向 : 地方選 : 選挙 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)[外部]。
▲順位 | 候補者名 | 得票数 | 得票率 | 順位 | 候補者名 | 得票数 | 得票率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 舛添要一 | 2,112,979 | 43.4% | 9 | 中川智晴 | 4,352 | 0.1% |
2 | 宇都宮健児 | 982,594 | 20.2% | 10 | 五十嵐政一 | 3,911 | 0.1% |
3 | 細川護熙 | 956,063 | 19.6% | 11 | 姫路けんじ | 3,727 | 0.1% |
4 | 田母神俊雄 | 610,865 | 12.5% | 12 | 内藤久遠 | 3,575 | 0.1% |
5 | 家入一真 | 88,936 | 1.8% | 13 | 金子博 | 3,398 | 0.1% |
6 | ドクター・中松 | 64,774 | 1.3% | 14 | 松山親憲 | 2,968 | 0.1% |
7 | マック赤坂 | 15,070 | 0.3% | 15 | 根上隆 | 1,904 | 0.0% |
8 | 鈴木達夫 | 12,684 | 0.3% | 16 | 酒向英一 | 1,297 | 0.0% |
当選者は背景色を赤色、供託金を回収した候補者(得票率10%以上)は背景色を青色で表している。
高支持率を維持する自民党と都内に100万近い基礎票を持つとされる公明党の支持層をがっちりと固め、さらに普段は民主党を支持している東電労組を始めとする労組票の一部も確保するなど支持を広げた。中道寄りで公明・民主支持層に喰い込みやすいスタンスだったことも影響していると見られる。無党派層からの支持率もトップであり、仮に高投票率であったとしても圧勝は揺るがなかった可能性が高い。
年代別・男女別で見ても全区分で支持率トップとなった。ただ年代別では明確な老高若低の傾向が見られた。女性問題がネックとされることの多い舛添だが、女性からの支持率も高水準を保った。今回の選挙でも女性問題が特に槍玉に挙げられたが、その多くは十数年も前から何度も取り上げられた昔の愛人たちや既知の隠し子に関するものが大半を占め、新たな愛人や隠し子を暴露するものではなかったため、やや新鮮味を欠いたきらいもあった。
ネット上では田母神を支持する右派系ネットユーザーが中心となって繰り広げたネガティブ・キャンペーンの最重点対象となった。既存メディアが報じる女性問題や金銭問題に加え、在日認定や夫人の創価学会員認定、自民党東京都連BBSの炎上など様々な攻撃に晒されたが、大勢に影響を与えるには至らなかった。
前回と異なり支持基盤が左派のみとなったため供託金没収の惨敗も予想されたが、共社支持層の大半を固めたのみならず、無党派層からも舛添に次ぐ支持を集めるなど、意外な善戦ぶりを演じた。中道陣営の乗らない純粋左派候補の得票としては80年代以来の高水準であり、敗れはしたものの一定の意地は見せた形となった。
年代別の支持率では主要4候補中もっとも偏りが少なく、老若問わず概ね20%前後の支持に収まった。男女別では女性からの支持の方がやや多かった。政策別で見ると、エネルギー政策よりは雇用や福祉に関心を持つ有権者からの支持が高くなる傾向が見られた。
連合の離反が響いて最大の支持基盤となるはずだった民主支持層の約4割しか固められず、さらに当てにしていた無党派層からの得票でも宇都宮に後れを取るなど苦戦を強いられた。また脱原発派の票も宇都宮はもちろんのこと、表向きは脱原発に賛同する舛添にもある程度流れており、争点化・差別化に失敗したことが窺える。
年代別では舛添以上に老高若低の傾向が見られ、特に20代では主要4候補中最下位に落ち込んだ。若い世代はそもそも政治家時代の細川を基本的に知らないため、知名度ブーストが働く余地がなかったと言える。男女別では大きな差は見られなかった。
政策関心別で見ると、エネルギー問題を挙げた有権者の票は比較的多く集められたものの、他の分野を挙げた有権者からの支持は総じて低調であり、シングルイシュー型選挙の限界を示す結果となった。
中道寄りの舛添を忌避する自民支持層の一部と維新支持層の一部(石原派・旧太陽派)を喰い取ったものの、無党派層からの支持率は宇都宮・細川にも大差を付けられており、総じて右派層以外への浸透を欠いた。
田母神自身は都政レベルの災害対策や雇用問題を積極的に訴えるなど「マッチョ右派」としてのイメージを緩和しようと試みた節があり、実際雇用問題に関心のある有権者からの支持率は細川を上回り、宇都宮と競り合うほどだった。だがネット内外の応援者や選対はむしろ歴史認識や国家観、外交防衛問題などイデオロギー的テーマをより大きく取り上げて田母神を賛美する傾向が見られ、ややちぐはぐな対応となった。