アザゼル単語

アザゼル

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アザゼルヘブライ語原文でעזאזל英語表記でAzazel)とは、ユダヤ教やその流れをむ「アブラハムの宗教(キリスト教イスラム教など)」関連の典や伝承などで登場する言葉である。

この言葉が聖書正典において正確には何を意味している言葉であったのかは、判断材料が少なすぎるため根拠に乏しく、諸説紛々でこれといった定説はない。

現在一般的には、聖書偽典を元に堕天使名前として、あるいはグリモワール等のオカルト書籍の記述を元に悪魔名前として使用されることが多い。

聖書正典において

「アザゼル」という言葉が聖書の正典に登場する回数は非常に少ない。

ユダヤ教ヘブライ語聖書のひとつ「トーラー」(キリスト教では旧約聖書に収録されている)の「レビ記」、中でも第16章にしか登場しない上に、そのレビ記第16章でも第8節で一回、第10節で二回、第26節で一回と、三つの節で計四回記載されるのみである。

少ないのですべて書き出すと、

  • レビ16:8「アロンはこの二匹の山羊達のためにくじを作らねばならない。一方のくじは(YHVH)のためのもの、もう一方はアザゼルのためのものである。」
  • レビ16:10「しかし、アザゼルのためのくじが当たった山羊は、の御前で生かしておかなくてはならない。この山羊を通じて贖罪を行う、すなわちアザゼルのために荒野に送り放つのだ。」
  • レビ16:26「アザゼルのために山羊を送り出した彼は、を洗い、体をに浸さなくてはならない。しかる後に彼は営に入ることができる」

尚、レビ記第16章の該当部分の物語展開自体については「スケープゴート」の記事の「」の項を参照されたい。

以上の他にアザゼルに関する記述はない。このたった四回の言及が、聖書正典内でのアザゼルに関する全てなのである。

ここから推測せねばならないわけで、かなり無理難題であるということがわかるだろう。

ユダヤ教のラビたちによる解釈 

レビ記、そしてそれが載っているトーラーは、元はといえば「ユダヤ人の言ヘブライ語で記された、ユダヤ教典」である。ならば、この典を専門に研究してきたユダヤ教ラビ(学者、法学者)の解釈が最も信用できよう。

さあラビさんたち、「アザゼル」とはどういう意味ですか?

ラビA「山の名前だろ。そこに山羊が向かう」
ラビB「崖の名前だよ、そこに山羊を突き落して殺すんだ」
ラビC「『送り放たれる』って意味だよ」
ラビD「『罪を運び去る』って意味」
ラビE「と対させてるんだから、なんだかよくわからんが『邪悪な』って意味じゃね?」
ラビF「『自然界の』を意味しているのだ」

・・・専門でも、駄なもんは駄だったようだ。

このように、ラビたちの間ですら意見が食い違っているのである。

ヘブライ語表記からの解釈

ヘブライ語で「עזאזל(azazel)」と書く。この表記から説明を試みた者も居た。

強くなる」という意味の「עזז(azaz)」、「」という意味の「אל(el)」の合成で、ヘブライ語で「の強者」を意味し、その名の示す通りを与えられていた天使(あるいは堕天使)という説。

または、「山羊」を意味する「עז(ez)」と「逃れる」を意味する「אזל(ozel)」が合わさり「逃れる山羊」という意味であるという説。この説は聖書を英訳する際に採用された例もあり、「スケープゴート」という言葉のにもなった。(詳細は「スケープゴート」の記事を参照。)

しかし、これらの解釈が自然なら、ヘブライ語プロであるラビたちもとっくの昔にこれを採用していそうなものである。いまひとつ説得がない。

聖書偽典において

聖書正典に出てくるのは上記のとおり非常に少ない記述のみである。しかし、外典や偽典には堕天使の名として「アザゼル」という単が出てくるものがある。これらが何かの参考になるかもしれない。

アザゼルが登場するのは、正典の他には「エノク書」、「死海文書」内の「巨人の書」、「アブラハムの黙示録」などである。

エノク書

ユダヤ教キリスト教における聖書偽典の一つ。ただしエチオピア正教(および1993年エリトリア独立時にそこから分したエリトリア正教)では旧約聖書正典としている。また、偽典ながらも新約聖書正典(ユダ手紙)に引用されているという、特異な位置にある。

そのテーマエノクという人間昇天して天使メタトロンになるまでの過程である。

しかし地上の人間達を監視する「り番(ギリシア語で「γρήγοροι(グリゴリ)」。「油断なく見る」の意。スラブの「第二エノク書」ではそのまま音訳され「グリゴリ」となっている)の任にあった天使達200名が堕する過程も詳しく描かれている。(※ただしエノク書にもバージョンがいろいろとあり、細かい内容は異なっている。)

シェムハ(ギリシア語で「Σεμιαζά」。英語表記・発音は定まっておらず「Shemhaza シェムハザ」以外にも「SemJaza セムヤザ」「Shemyaza シェムヤザ」、他多数)というリーダーに率いられていた「見り番」の天使たち総勢200名は、地上に住まう人間女性)に欲情し、人間を妻に迎えあまつさえ子供までもうけてしまう。
アザゼルもこの「見り番」の天使のうちに名前がある。

さらに天使たちは人間達に上界の秘法とされる様々な技術・知恵をもたらした。
それぞれの天使によって人間にもたらした知識は異なるが、アザゼルはナイフといった武器防具の作り方や金属の利用法、さらに腕輪などの装飾品・化粧宝石・染料に関する知識を与えたという。

その後、天使たちが人間女性との間に設けた子供ネフィリムが途方もないサイズまで巨大化し(およそ1350m程と言われる)、地上のあらゆる食べ物が底をつき終いには共食いすら行うという混乱状態に。もいよいよ堪袋の緒が切れてしまい、大洪水人間達や天使たちによって乱れきった地上を洗い流すに至る。
この際、は大天使ラファエルに対してじきじきに、アザゼルを捕えて罰することを命じている。

余談だが、このエノク書をモチーフとしたビデオゲームが「El Shaddai - エルシャダイ -」であり、ゲーム中にアザゼルも登場する。ゲーム主人公イーノックとはエノクのことである。

「巨人の書」

死海文書」のうちに含まれていた、それまで知られていなかった文書の一つ。エノク書で記載されていた「見り」の天使たちと人間の女たちの間に生まれた巨人たちについて、その詳しい運命が記載されている。

この中にもアザゼルの名前が含まれているという。おそらくエノク書の補遺的な内容であると推測される。

アブラハムの黙示録

旧約聖書偽典の一つ。スラブ翻訳のみ現存する。内容はタイトルの通り、アブラハムの言行録が

アブラハムがホレブ山でへの生贄をささげようとした際、人を話す汚らしいの姿をしたアザゼルが現れ、邪魔をしようとする(旧約聖書創世記における類似の場面の焼き直しと思われる)。しかし、アザゼルは強大な天使ヤホエル(Yahoel)に追い払われる。

このアザゼルも堕した大天使であるとされ、この書の中ではアダムイブをそそのかして禁断の木の実を食させたのもアザゼルの仕業だったとされている。

悪魔としてのアザゼル

グリモワール術士アブラメリンなる魔術の書」(本文ではなく訳者がつけた注釈部分)やコラン・ド・プランシーによる有名なオカルト本「地獄辞典」にも、悪魔の名としてアザゼルという言葉が登場する。

これによって悪魔名前としても広まった。ちなみに「アゼルAzel)」「ハザゼル(hazazel)」「アザエルazael)」「アシエルasiel、assiel)」といった別名もある。

姿はに、頭部には山羊を持ち、にはをぼうぼう生やしている大男という出で立ちで描かれる事が多い。
しかし一方、「7つのの頭、14の顔、6対(12枚)のを持つ」という伝承もあるらしく、先述の姿とべると何とも威圧感に満ちている。

フィクション作品のアザゼル

以下に、アザゼルとされるキャラクターが登場する作品について記述する。

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最終更新:2024/03/29(金) 05:00

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