インフレーション 単語

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インフレーション

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インフレーションinflation)とは、インフレと略され、デフレーションという対義を持つ言葉であって、以下の意味をす。

  1. 経済学の用で、通貨価値の下落と物価の上昇が継続的に発生していることを示す。
  2. 天文学の用で、初期の宇宙が急な加速膨を起こしたことを示す。宇宙のインフレーション(cosmic inflation)とかインフレーション理論inflation theory)とも言われる。
  3. 漫画の分析で使われる言葉で、バトル漫画においてストーリーが進むにつれてキャラクター戦闘力が際限なく強大化して描写が段々と過になっていくことをす。パワーインフレとも言われる。
  4. 日本俗語で、ありがたみが薄れることを示す。1.で通貨のありがたみが薄れることから転じた。
  5. 英単で、「膨」「ふくらみ」「うぬぼれ」「慢心」という意味を持つ。動詞形はインフレート(inflate)。

本記事では1.について解説する。

概要

定義

インフレーションとは、通貨価値の下落と物価の上昇が継続的に発生していることを示す言葉である。

通貨価値の下落により「同一量商品の価格の上昇」かまたは「同一価格商品の内容量の削減(シュリンクフレーション)」が発生する。ゆえに「インフレーションとは、同一量商品の価格の上昇かまたは同一価格商品の内容量の削減のことを示す言葉である」と定義してもよい。

指標

インフレの度合いを示すものはインフレ率である。インフレ率は、ある日の物価準を分子にして、1年前の同じ日の物価準を分にして、分率で表し、年率の物価上昇率として表現するのが一般的である。

インフレ率を計算するに当たって、ある日の物価準を示す数値と、1年前の同じ日の物価準を示す数値の両方が必要となる。

物価準を示す数値の代表例は消費者物価指数CPIGDPデフレーターの2つである。なかでも消費者物価指数は物価準の尺度として最もよく使用される[1]

インフレの影響

インフレのは様々なものが挙げられる。本記事において以下の項で詳しく解説する。

インフレの影響その1 金銭債務者の利益と金銭債権者の損失

インフレの影響その2 支出の増加と実質利子率の低下

インフレの影響その3 実質賃金の低下

インフレの原因についての考え方

インフレの原因についての考え方にはに2種類あり、「インフレは需給のバランスが崩れて需要過多・供給過少になったときに発生する」という考え方と、「インフレは内に出回る通貨の量が過剰になったときに発生する」という考え方がある。

前者の考え方は、タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルを使って細かく説明することができる。すなわち、「正の需要ショックを受けて総需要曲線が右に行移動したり、不利な供給ショックを受けて短期総供給曲線が左に行移動したりして、総需要曲線と短期総供給曲線の交点が上方に移動するときに物価が上昇してインフレになる」と説明できる。

後者の考え方は貨幣数量説と呼ばれ、その支持者をマネタリストという。貨幣数量説は長期の経済における貨幣を説明する際に最もよく使われる[2]。ただし貨幣数量説は説明が大雑把になりがちである。

インフレを原因で分類

インフレは原因で分類することができる。

本記事において『インフレを原因で分類』の項で詳しく解説する。

インフレを速度で分類

インフレは、インフレ率の高さ、すなわち物価上昇の速さで分類することができる。

クリーピングインフレ カタツムリが這い回るような(creepゆっくりとした速度で、緩やかに進むインフレ。マイルドなインフレとも言われる。年間インフレ率2~3程度をすとされる。

ギャロッピングインフレ 強く駆け回るような(gallop)速い速度で、足に進むインフレ。年間インフレ率10えるとこう呼ばれる。アルゼンチンブラジルといった南米はこのインフレである時期が多い。日本は第1次オイルショックのときにこのインフレを経験した。

ハイパーインフレ 過度な(hyper速度で猛に進むインフレ。間インフレ率50%えるインフレ率になったらそののことをハイパーインフレと呼ぶ。詳しくはハイパーインフレーション(経済学)の記事を参照のこと。

インフレの分析は経済学において重視される

経済学者経済パフォーマンスを測定するのにいろいろな種類のデータを用いるが、なかでも、実質GDPとインフレ率と失業率の3つを特に重視する[3]

実質GDPの高さとインフレ率の低さと失業率の低さの中で最も重視されるべきものは実質GDPの高さとされる[4]。とはいえ、インフレ率が経済学にとって重要な数値であることに変わりはない。

インフレの影響その1 金銭債務者の利益と金銭債権者の損失

通貨価値が下がり、同一量商品の価格の上昇が起こる

インフレは、通貨価値の減りをもたらし、同一量商品の価格の上昇をもたらす。

「インフレ率○が10年続いたときに、通貨価値がどれだけ下がり、物価がどれだけ上がるか」というのを示す表を掲載しておく。

インフレ率 通貨価値 物価 備考
7 0.51倍 1.97倍 高度成長期並みインフレ
6 0.56倍 1.79倍 高度成長期並みインフレ
5 0.61倍 1.63倍 高度成長期並みインフレ
4 0.68倍 1.48倍
3 0.74倍 1.34倍 クリーピングインフレ
2% 0.82倍 1.22倍 クリーピングインフレ
1 0.91倍 1.10倍
0 1.00倍 1.00倍
-1 1.11倍 0.90倍 デフレ
2% 1.22倍 0.82倍 デフレ
-3 1.36倍 0.74倍 デフレ

年間インフレ率が3の状態が10年続くと、物価は1×1.0310=1.34392 なので1.34倍になり、通貨価値は1÷1.0310=0.74409なので0.74倍になる

エクセルオープンオフィスといった表計算ソフトを使っている人が、B1のセルに年間インフレ率()、B2のセルに年数を入れるとする。B2のセルに入れた数だけ年が過ぎたときの物価は「=(1+B1*0.01)^B2」の数式で計算される数値だけ倍になり、B2のセルに入れた数だけ年が過ぎたときの通貨価値は「=1/(1+B1*0.01)^B2」の数式で計算される数値だけ倍になる

通貨価値が下がり、現金保有や金銭債権から実物保有へ移っていく

インフレになると通貨価値が下がるので「現のまま保有するとお金の価値が下がっていく。それなら、銀行に現を貸し付けて、普通定期といった『名利子率の分の利子収益を得られる債権』に替えてしまおう」という考えが広まる。名利子率がインフレ率よりも高いことを期待でき、「名利子率-インフレ率=実質利子率」で計算できる実質利子率がプラスになって得をすることを期待できるのなら、そうした選択肢を選ぶことができる。

インフレ率を正確に予測するのは難しいので「普通定期利子率は名利子率だが、その名利子率よりもインフレ率が高くなるのではないか。『名利子率-インフレ率=実質利子率』で計算できる実質利子率がマイナスになってしまって損をするのではないか」という疑いも出てくる。その疑いが強くなると、「不動産(土地・建物)や宝飾品(塊、宝石)や美術品(絵画)といったモノを買おう」という考えが広まる。つまり、「名利子率の分の利子収益を得られる債権」を実物資産に変換しようという考えが広がる。

インフレに強いのは不動産、宝飾品、美術品である。インフレになったら同時にそれらの価格が上昇するので、全く気と言える。ちょっと検索すると財テクに詳しい人が「○はインフレに強い」とる文章が多数ヒットする(検索例1exit検索例2exit検索例3exit検索例4exit)。

実物資産の中でもインフレ対策として特に人気があるのが、時間が経っても消耗しないと考えられていて法定耐用年数が定められておらず減価償却費という費用が発生しないものである。土地、塊や塊といった金属宝石、取得価額が100万円以上の美術品が代表例である[5]

ただし、「時間が経っても消耗せず減価償却費を計上しなくてよい実物資産」であっても、租税負担が発生したり、それを警備する費用が発生したりする。土地には固定資産税が掛けられ、租税負担という費用がかかる。また、土地を放置して他人に占拠された状態が長く続くと、その土地は占拠していた人の所有物になってしまうので[6]、土地を所有したら定期的交通費を負担してその土地に行かねばならない。金属宝石や高額美術品も窃盗されないように厳重な警備が必要で、費用がかかる。結局のところ、インフレになったときの資産は、通貨価値の下落を甘んじて受け入れるか、費用を払う羽になるか、のどちらかになる。

通貨価値が下がり、同一価格商品の内容量の削減(シュリンクフレーション)が起こる

インフレになると、同じ価格の商品の内容量が少なくなる。このことをシュリンクフレーションという。詳しくは当該記事を参照のこと。

通貨価値が下がり、金銭債務者が利益を得て、金銭債権者の損失が発生する

利子お金を借りた後にインフレになると、お金を借りたときよりお金を返すときの方が通貨の実質的な価値が低くなっているため、返済額が同じであっても実質的には返済額が下がったのと同じことになる。そのためインフレは、利子債務のある者にとってはプラスになり、利子債権を持つ者にとってはマイナスになる。

A社が利子100万円を借り、そのあとにインフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。借100万円を返すときにインフレになって機械が1台200万円まで値上がりしていたとすれば、額は同じ100万円でも、実質的な返済負担は0.5倍にも減少したことになる。機械1台の借に対して機械0.5台の返済をしたことになり、借したA社にとっては得である。

利子お金を借りた後にインフレになると、「借りたときに決めた返済額」の実質的な価値が低くなっているため、「借りたときに決めた返済額」の通りに返済したとしても実質的には返済額が下がったのと同じことになる。そのためインフレは、有利子債務のある者にとってプラスになり、有利子債権を持つ者にとってはマイナスになる。

A社が有利子100万円を借り、そのあとにインフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。利子を付けて借120万円を返すときにインフレになって機械が1台200万円まで値上がりしていたとすれば、実質的な返済負担は減少したことになる。A社はを借りる前に「機械1台の借に対して機械1.2台の返済をするのか・・・」と思っていたが、実際は機械1台の借に対して機械0.6台の返済で済んだ。

インフレになると債権者に損が生まれつつ債務者に利益がもたらされ、債権者から債務者へ所得が移転する格好になる。このことは経済学教科書では「まったく恣意的な富の再分配」と表現される[7]

インフレに伴う「富の再分配」は一律課税型資産課税や一律割合型給付と似ている

インフレになると債務者が利益を得て、債権者が損失をこうむり、富の再分配が発生する。

インフレによる富の再分配がどのように行われるかというと、「一定割合の資産を徴収する一課税資産課税」や、「一定割合の負債を免除する一割合給付」とよく似たものとなる。

機械1台を100万円で買える状態の時点で、Aは現20億円(機械2,000台分)を持って負債を持たず、Bは現200万円(機械2台分)を持って負債を持たず、Cは現負債も持っておらず、Dは現を持たず負債200万円(機械2台分)を持ち、Eは現を持たず負債20億円(機械2,000台分)を持っていた。

時間が経ってインフレになり機械1台を200万払って買える状態になり、AからEまで保有する現額も負債額も変化がなかったが、実質的には変化している。Aは現20億円(機械1,000台分)を持って負債を持たず、Bは現200万円(機械1台分)を持って負債を持たず、Cは現負債も持っておらず、Dは現を持たず負債200万円(機械1台分)を持ち、Eは現を持たず負債20億円(機械1,000台分)を持っていた。

ここまでの文章を表にすると次のようになる。

A(大持ち) B(小持ち) C D(小借持ち) E(大借持ち)
資産 負債 資産 負債 資産 負債 資産 負債 資産 負債
インフレ前 機械
2,000台分
0 機械
2台分
0 0 0 0 機械
2台分
0 機械
2,000台分
インフレ後 機械
1,000台分
0 機械
1台分
0 0 0 0 機械
1台分
0 機械
1,000台分

較のため、「大持ちの資産に90資産課税をして、小持ちの資産50%資産課税をして、小借持ちの負債50%を帳消しにする給付金を渡して、大借持ちの負債の90を帳消しにする給付金を渡す」という政策を実行したとする。つまり累進課税資産課税や、累進の借帳消し給付金である。そうなると次の表のようになる。

A(大持ち) B(小持ち) C D(小借持ち) E(大借持ち)
資産 負債 資産 負債 資産 負債 資産 負債 資産 負債
累進課税資産課税や累進帳消し給付金の前 機械
2,000台分
0 機械
2台分
0 0 0 0 機械
2台分
0 機械
2,000台分
累進課税資産課税や累進帳消し給付金の後 機械
200台分
0 機械
1台分
0 0 0 0 機械
1台分
0 機械
200台分

さらに較のため、「大持ちからも小持ちからも機械1台分の資産課税をして、小借持ちにも大借持ちにも機械1台分の借を帳消しにする給付金を渡す」という政策を実行したとする。つまり人頭税の逆進的な資産課税や、逆進的な借帳消し給付金である。そうなると次の表のようになる。

A(大持ち) B(小持ち) C D(小借持ち) E(大借持ち)
資産 負債 資産 負債 資産 負債 資産 負債 資産 負債
人頭税の逆進的資産課税や逆進的借帳消し給付金の前 機械
2,000台分
0 機械
2台分
0 0 0 0 機械
2台分
0 機械
2,000台分
人頭税の逆進的資産課税や逆進的借帳消し給付金のの後 機械
1,999台分
0 機械
1台分
0 0 0 0 機械
1台分
0 機械
1,999台分

インフレ税という表現

インフレーションは政府が人為的に発生させることが可である。そしてインフレが発生すると現保有者や債権者が損をする。

政府が発生させたインフレによって現保有者や債権者が損を被ることは、政府が行う徴税によって通貨を保有している者が損を被ることとよく似ている。このため、政府が人為的に引き起こすインフレのことをインフレ税と呼ぶことがある。
 
もちろん、インフレ税という表現は喩的な表現である。税金とは政府の強制によって納税者の基本的人権の1つである財産権を否定し、納税者の保有する通貨を取り上げて政府通貨を移転させることである。一方、インフレでは通貨を保有している者から政府通貨が移転するわけではない。

また、インフレ税という表現は、インフレで債権者に損が与えられることだけを強調しており、インフレで債務者に利益が与えられることを無視している。だいぶ一面的な表現であり、やや偏向した表現である。

「インフレ税」という表現は「インフレ税&インフレ給付」とか「インフレ税・給付」とでも言い換えると実態を正しく伝えることができる。

金銭債務者と金銭債権者の経済格差を縮める

インフレにおいては、現保有者が損をする。

インフレに対応するため、現保有者が現銀行や個人や企業に貸し付けて債権者になったとする。契約を結んだときに予想したインフレ率を上回るインフレになったら、債務者が得をして債権者が損をする。

インフレになると債権者が損失を受けて債務者が利益を得るので、債務者と債権者の経済格差が縮小し、平等社会に近づいていく。

ただし、後述するようにインフレになると労働者使用者の格差が広がる。その点でいうとインフレは格差社会の原因になる。

インフレの影響その2 支出の増加と実質利子率の低下

支出性向の高い金銭債務者に所得が移転して支出が増える

債務者は債権者よりも支出性向が高い」と仮定するのが妥当とされる。おそらくそうであるからこそ、そもそも債務者は借をしているのである[8]

インフレになると支出性向の低い債権者に損失がもたらされ、支出性向の高い債務者に利益がもたらされ、支出性向の低い者から支出性向の高い者へ所得の移転が行われる。このためインフレになると支出が増える。

以上のことは「負債デフレーション理論」を裏返しにした考え方である[9]

閉鎖経済なら、内消費や内投資が増えて実質GDPが上昇する。

固定相場制を採用する小国開放経済なら、内消費や内投資が増えて実質GDPが増えつつ外貨準備高が増えるか、もしくは、海外向け投資が増えて実質GDPが一定になりつつ外貨準備高が減るか、のどちらかになる。

変動相場制を採用する小国開放経済なら、内消費や内投資が増えて純輸出が減り実質GDPが一定となるか、もしくは海外向け投資が増えて純輸出が増えて実質GDPが増えるか、のどちらかになる。

期待インフレ率が上昇して実質利子率が下がる

インフレになると期待インフレ率が上昇する。そして「名利子率-期待インフレ率=実質利子率」で計算できる実質利子率が減る。

以上のことは「デフレになると期待インフレ率が下がって実質利子率が上がる」という考え方を裏返しにした考え方である[10]

閉鎖経済なら内投資が増えて実質GDPが上昇する。

固定相場制を採用する小国開放経済なら、内実質利子率の低下により自発のキャリートレードが発生して資本流出が起き、内実質利子率を「世界共通実質利子率とその固有のリスクプレミアムの合計値」にまで上昇させる。その際に際的投資によって自通貨売り・外通貨買いが行われる。中央銀行が自通貨買い・外通貨売りをして名目為替レートを維持する。以上により実質GDP が一定となり、外貨準備高が減る。

変動相場制を採用する小国開放経済なら、内実質利子率の低下により自発のキャリートレードが発生して資本流出が起き、内実質利子率を「世界共通実質利子率とその固有のリスクプレミアムの合計値」にまで上昇させる。その際に際的投資によって自通貨売り・外通貨買いが行われ、名目為替レートが上昇し、短期で物価が硬直的なので実質為替レートも上昇し、純輸出が増え、実質GDPが上昇する。

IS-LMモデルで閉鎖経済の国を分析する

これまでの2項をもっとも分かりやすく体現するのは閉鎖経済である。

閉鎖経済を分析するにはタテ軸名利子率・ヨコ軸実質GDPIS-LMモデルを使うことが望ましい。

閉鎖経済で物価が上昇すると、まずLM曲線が上に行移動して、均衡点が左上に移動して、名利子率が上昇して実質GDPが下落する。しかしそれだけではなく、支出性向の高い債務者に銭が行きわたって投資や消費が増え、もしくは期待インフレ率が上昇して実質利子率が減少して投資が増え、IS曲線が右に行移動して、均衡点が右上に移動して、名利子率が上昇して実質GDPが上昇する。以上のことをまとめると、物価が上昇すると名利子率が必ず上昇し、実質GDPが必ず下落するとは言い切れず一定になったり上昇したりする可性がある。

インフレの影響その3 実質賃金の低下

金銭債権者の労働者に損失を与え、金銭債務者の使用者に利益を与える

労働者使用者企業経営者や)は、労働契約法第6条に定められる労働契約を結んでいる。それにより、労働者債権者でありつつ労務債務者となるし、一方で使用者債務者でありつつ労務債権者となる。そしてインフレは債権者に損失を与えて債務者に利益を与えるので、インフレになると労働者が損をして使用者が得をする。

以上のことを具体的に言うと次のようになる。インフレになると物価の上昇に伴い名賃金も上昇するが、物価よりも名賃金のほうが高い硬直性を持っているので、物価の上昇にべると名賃金の上昇は時期が遅れて上昇幅が少ないものとなる。このため労働者の実質賃金が低下し、労働者は損をして使用者は得をする。

インフレが進んで労働者が損をした例の1つは第一次世界大戦の好気に伴うインフレである。ヨーロッパから日本へ軍需物資の注文が殺到し、日本は造業などの分野で空前の好気となって一気に実質GDPを増加させたが、インフレになって物価が上がって労働者の実質賃金が減少し労働者生活苦となった。大戦景気というWikipedia記事exitにはインフレによる労働者生活苦が記述されている。

企業経営者やといった使用者にとって、インフレは実質賃金を下げるものであるから望ましいものである。経済学者の中には「インフレは労働市場歯車を差す」と論じるものがいる[11]。インフレによる実質賃金の低下により使用者が人を雇いやすくなって構造的失業が減ることを望ましいとする心理からそういう表現が生まれている。

労働者と使用者の経済格差を広げる

一般的に、労働者の方が経済的に弱い立場に置かれていて、使用者の方が経済的に強い立場に恵まれていて、労働者使用者の間に経済的格差がある。それだからこそ、日本国憲法第28条労働者労働三権を認めているのである。

インフレになると労働者使用者経済格差がさらに広がる。その点でいうとインフレは格差社会の原因になる。

実質賃金が低下し、構造的失業が減って摩擦的失業が増える

インフレになると実質賃金が低下するので、企業における実質賃金最低額が下落して使用者が人を雇いやすくなって構造的失業が減少し、労働者が「この職場では幸福になれない」と考えるようになって離職するようになって摩擦的失業が増加する。

構造的失業の減少幅が摩擦的失業の増加幅よりも小さいのなら、失業率が増加する。

構造的失業の減少幅が摩擦的失業の増加幅よりも大きいのなら、失業率が減少する。

インフレーションを原因で分類

デマンド・プル・インフレーション

正の需要ショックが発生して総需要曲線が右に行移動して物価が上昇して発生するインフレをデマンド・プル・インフレーション という。

分かりやすくいうと、一定の供給に対して需要が増加して供給が需要に追いつかないために生じるインフレをデマンド・プル・インフレーションという。

正の需要ショック政府国会中央銀行の政策で発生させることができる。

国際金融のトリレンマに従うと世界中のは①閉鎖経済、②大国開放経済、③固定相場制を採用する小国開放経済、の3つに分かれる。また、経済学では④変動相場制を採用する小国開放経済を分析することも重視される。

以上の4種類の国家は、政策で発生させられる正の需要ショックがそれぞれ異なる。表にすると次のようになる。

国家の種類 正の需要ショックの発端となる政策
閉鎖経済
  • 財政政策で政府購入と消費を増やす
  • 融政策で投資を増やす
大国開放経済
  • 財政政策で政府購入と消費を増やす
  • 融政策で投資と純輸出を増やす
  • 貿易政策で純輸出を増やす
固定相場制を採用する小国開放経済
  • 財政政策で政府購入と消費を増やす
  • 貿易政策で純輸出を増やす
変動相場制を採用する小国開放経済
  • 融政策で純輸出を増やす

日本第一次世界大戦朝鮮戦争ベトナム戦争に参戦しなかった。しかし、参戦国から日本へ軍需物資の発注が相次いだので、純輸出が増えて正の需要ショックが発生してインフレになった。

日本第二次世界大戦に参戦した。そのときに軍需物資を盛んに調達したので、政府購入が増えて正の需要ショックが発生してインフレになった。

デマンド・プル・インフレーションのときは、それと同時に実質GDPが上昇する。タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルにおいて、総需要曲線が右に行移動し、均衡点が右肩上がりの短期総供給曲線に沿って右上に移動する。

コスト・プッシュ・インフレーション

不利な供給ショックが発生して短期総供給曲線が左に行移動して物価が上昇して発生するインフレをコスト・プッシュ・インフレーション という。

分かりやすくいうと、一定の需要に対して供給が減少して供給が需要に追いつかないために生じるインフレをデマンド・プル・インフレーションという。

不利な供給ショックは①資本の量を減らす不利な供給ショック、②労働の量を減らす不利な供給ショック、③使用者に属する生産技術を減らす不利な供給ショック、④労働者に属する生産技術を減らす不利な供給ショックの4種類に分かれる。これらの中で話題になるのは①と②である。

①のなかで資となる原材料の供給が不足して発生するインフレが最も有名であり、インフレと呼ばれている。②の中で人件費が増加して労働の供給が不足して発生するインフレが最も有名であり、賃金インフレと呼ばれている[12]

①の中の資インフレで有名なものは、原油の供給が減ることによるものである。1973年の第一次オイルショック1979年の第二次オイルショック2022年ウクライナ戦争に伴う原油高、などが例である。

①の中の資インフレの例として、2022年ウクライナ戦争に伴う小麦粉や木材の値上がりなども挙げられる。

コスト・プッシュ・インフレーションのときは、それと同時に実質GDPが下落する。タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルにおいて、短期総供給曲線が左に行移動し、均衡点が右肩下がりの総需要曲線に沿って左上に移動する。

スタグフレーション

スタグフレーションとは失業率の上昇を伴うインフレのことをいう。

資本の量を減らす不利な供給ショックによってコスト・プッシュ・インフレーションになったとき、スタグフレーションになりやすい。

ただし、資本の量を減らす不利な供給ショックによってコスト・プッシュ・インフレーションになったとしてもスタグフレーションにならないことがある。詳しくはスタグフレーションの記事を参照のこと。

デマンド・プル・インフレとコスト・プッシュ・インフレが合体する例

第二次世界大戦の時の日本は、デマンド・プル・インフレーションとコスト・プッシュ・インフレーションの両方が合体したインフレを経験した。軍隊の活動により政府購入が拡大して正の需要ショックとなった。またABCD包囲網による禁輸措置で原材料の調達が難しくなり不利な供給ショックとなった。さらに、軍隊に人手がとられて企業の労働が不足し不利な供給ショックとなった。

政府が人を雇って公務員にして多めの賃金を支払うとする。政府が人を雇うのは政府購入の一部分となり[13]閉鎖経済大国開放経済固定相場制を採用する小国開放経済なら正の需要ショックとなる。そして政府が労働市場に参加して高めの賃金を提示するので、企業もそれに対抗して高めの賃金を提示するようになり、世の中の賃金準が上昇する。そうなると労働量が減る不利な供給ショックとなる。

日本が経験してきたインフレ

近代化以前の日本においてしばしばインフレが発生した記録が残っている。有名なものは江戸時代荻原重秀が貨幣鋳して政府購入を増やして正の需要ショックを起こして発生させた「元・宝永のインフレ」である。

近代化してからもしばしばインフレとなった。この記事exit1902年以降の日本のインフレ率が掲載されているので、それに基づいてなインフレを示す表を作成する。

インフレ率 解説
1946年 289.2% 敗戦直後のインフレ。襲で生産設備が破壊され、不利な供給ショックとなった。
1918年 33.2% 第一次世界大戦の好気に伴うインフレ。ヨーロッパから日本に軍需物資の注文が殺到し、純輸出が増えて正の需要ショックとなった。価も上昇し、米騒動が勃発した。
1974年 23.1 第1次オイルショックのインフレ。第4次中東戦争の末に産がOPECを結成し、原油を減産した。石油価格が急上昇し、不利な供給ショックとなった。
1951年 17.2% 朝鮮特需のインフレ。1950年朝鮮戦争が勃発し、朝鮮半島で戦うアメリカ軍からの発注が急増し、純輸出が増えて正の需要ショックとなった。
1980年 7.8 第2次オイルショックのインフレ。OPECの原油減産や産イランにおける革命を原因とする原油減産が重なり、石油価格が急上昇し、不利な供給ショックとなった。

ハイパーインフレは年間26が3年続くなどして3年以内で物価が2倍になる状態」と国際会計基準exit定義しており、それによると敗戦直後のインフレと1917~1919のインフレがハイパーインフレに該当する。1940~1942年の3年間は物価が1.94倍、1942~1944年の3年間は物価が1.88倍なのでハイパーインフレに該当しない。

高度経済成長期のインフレ率は5~7の範囲に収まっている。昭和末のバブル景気のインフレ率は2~3と、極めて穏当な準で推移していた。

閉鎖経済の国でインフレをもたらす政策

閉鎖経済の国

本項では閉鎖経済においてインフレを発生させる政策を列挙する。

閉鎖経済は最も単純でわかりやすい。

大国開放経済閉鎖経済小国開放経済を混合させたような状態のなので、閉鎖経済特性がおおむね当てはまる。

政府購入を増やす

政府購入を増やすと正の需要ショックが起きる。国家予算の公共事業費を増やし、政府地方公共団体公共事業関連の政府購入を増やす。こうした政策を財政出動とか積極財政などと呼ぶ。

国家予算の軍事費を増やし、政府の軍隊関連の政府購入を増やす政策も財政出動とか積極財政などと呼ぶが、特に軍事ケインズ主義exitと呼ぶことがある。

消費課税を減らして消費を増やす

消費課税を減税すると可処分所得Y-Tが増えて、可処分所得に限界消費性向MPCを掛けた分だけ消費が増え、正の需要ショックが起きる。

消費課税とは財・サービスの消費に対して科される租税で、消費税酒税ガソリン税などである。なかでも消費税は消費活動に対する総合的な罰であり、消費を冷え込ませる強を持っている。消費税を引き下げることで消費が増える。 

給付金を増やして消費を増やす

民に給付金を与えると可処分所得Y-Tが増えて、可処分所得に限界消費性向MPCを掛けた分だけ消費が増え、正の需要ショックが起きる。

税金というのは民から政府通貨が移転する現で、給付金というのは政府から民に通貨が移転する現である。給付金の給付は税金取り立てと正反対の現であり、可処分所得Y-Tの中のTが減る現であり、可処分所得Y-Tが増える現である。

消費を活発に行っていて限界消費性向MPCが高いとされる若年層・新婚世帯・子育て世帯の民に対して政府地方公共団体給付金を支払うと、効果的に消費を増やすことができる。

幼児教育償化、高校教育償化、大学教育償化、大学学費の引き下げ、奨学金利引き下げ、奨学金利を引き下げてゼロマイナスにする、奨学金の返済義務の免除、結婚した世帯への支援結婚新生活支援事業費補助金exit)の増額、児童手当(子ども手当)の増額、など。

「人が学校で学んでから卒業すると、その人自身のみならず政府も利益を享受することになる。ゆえに学生だけに学費を負担させるのではなく、政府にも学費を負担させる」と述べて、受益者負担原則の解釈を拡大し、学費を補助するために政府が支払う給付金を増やす。受益者を個人に限定せず政府にも拡大する。

「ある世帯が出産して子育てすると、その人自身のみならず政府も利益を享受することになる。ゆえに子育て世帯だけに養育費を負担させるのではなく、政府にも養育費を負担させる」と述べて、受益者負担原則の解釈を拡大し、養育費を補助するために政府が支払う給付金を増やす。受益者を世帯に限定せず政府にも拡大する。

政府購入を増やして公務員の賃金を増やして民間の賃金が増えるようにする

政府購入を増やして公務員労働者賃金を引き上げると正の需要ショックが起きる。公務員の雇用は政府購入の一部になる。

そうすると民間企業労働者に支払う賃金を引き上げるようになり、内の労働者賃金が全体的に増え、不利な供給ショックが起きる。

公務員の雇用を増やすときは現業公務員の雇用を増やすことが効果的である。現業公務員労働三権のすべてを認められているので労働組合を結成して労働運動を行って世の中全体の労働運動を牽引する可性が非常に高く、世の中の賃上げの動きを非常に効果的に作り出す。

また、公務員の雇用を増やすときは非現業公務員の雇用を増やすこともまずまず効果的である。非現業公務員労働三権のなかで団結権と団体交渉権を認められており、労働組合を結成して労働運動を行って世の中全体の労働運動を牽引する可性がまあまあ高く、世の中の賃上げの動きをまずまず効果的に作り出す。

公務員の雇用を増やすとき、警察官や自衛官のような治安担当の非現業公務員の雇用を増やすことはあまり効果的ではない。治安担当の非現業公務員労働三権を全く認められておらず、労働組合を結成して労働運動を行って世の中全体の労働運動を牽引する可性が皆無であり、世の中の賃上げの動きをあまり効果的に作り出すわけではない。

公務員の給与を引き上げると、世の中の大企業の給与を引き上げる効果がある。中央政府地方公共団体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。中央政府地方公共団体公務員給与を引き上げることで、大企業は「々も給与を引き上げよう。そうしないと、優秀な学生がすべて的職場に引き抜かれてしまう」と焦るようになり、大企業の賃上げが進んでいく。

労働に対して賃金を与えることを政府が率先して行い、世の中の企業に範を示す。災害の後片付け業務に参加した人や、際的スポーツイベントの観戦に訪れる外国人観光客に対して案内を行う業務に参加した人や、際的スポーツイベントの観戦に訪れる外国人観光客に対して医療サービス提供した医師看護師に対して、政府が謝礼を確実に支払う。そうすることで世の中の企業に「労働者にタダ働きをさせてはいけない、やりがい搾取は許されない」という気が生まれ、企業労働者サービス残業を強要することができない潮が生まれ、賃上げの流れが生まれることが期待できる。

民間企業が賃上げをすると労働量が減って不利な供給ショックが起きる。

余暇を増やす

前項の政策によって内の労働者賃金が増えると、使用者労働者残業依頼しにくくなり、労働量が減って不利な供給ショックとなる。

そして、内の長時間労働が抑制されて労働者の余暇が増え、「長時間労働から解放され、お金を使うヒマがある」という状況になり、余暇を増やした労働者限界消費性向MPCを増やしてより多くの消費をするようになって正の需要ショックが起きる。

所得税累進課税を強めると、高額所得者が「仕事すればするほどを稼げるわけではない」と考えるようになり、高額所得者が仕事中毒ワーカホリック)にならなくなり、高額所得者の労働意欲が抑制される。そして企業経営者は高額所得者であることが多いので、所得税累進課税を強めると企業経営者の労働意欲が抑制される。企業経営者は使用者として労働者に労務の提供を要する立場であり、企業経営者の労働意欲が抑制されると労働者も多大な労務の提供をせずにすんで長時間労働から解放される。以上のように、所得税累進課税を強化すると、労働量が減って不利な供給ショックが起き、余暇を増やした労働者限界消費性向MPCを増やしてより多くの消費をするようになって正の需要ショックが起きる。

マネーゲーム株式や債券といった券や外通貨暗号資産の売買)に個人が参加しにくい体制を作り上げる。キャピタルゲイン税(株式等譲渡益課税)やインカムゲイン税(株式等配当課税)について、一課税をとりやめて累進課税にしたり、累進課税を強化したりする。そうすると、「寝ても覚めてもお金を増やすことばかり考える人」の割合が減って、人々の余暇が増えて限界消費性向MPCが高まって消費が増えて正の需要ショックが起きる。

中央銀行がマネーサプライMの供給を増やして投資を増やす

中央銀行資金供給オペレーションをして、自通貨建て国債を買い入れてマネーサプライMの供給を増やすと、短期において物価Pが硬直的なので実質貨幣残高M/Pの供給が増え、名利子率が下落し、短期において期待インフレ率が硬直的なので実質利子率が下落し、投資が増え、正の需要ショックが起きる。

政府が自通貨建ての国債の返済に行き詰まったとする。そのときに中央銀行資金供給オペレーションをして自通貨建て国債を買い入れれば政府の財政を援助することになり、政府は増税をしなくて済み、政府購入を増やす政策や給付金を出して消費を増やす政策を続行でき、正の需要ショックを起こす政策を続行できる。

短期金利の名利子率を0近くにする政策をゼロ金利政策という。

短期金利の名利子率をマイナスにする政策をマイナス金利政策という。

中央銀行が1年をえる期間の国債を大量に買い込み、長期金利を下落させる政策を量的金融緩和という。ただし、「量的金融緩和をすると、短期金利長期金利利差が小さくなり、長短利差が縮小し、銀行の経営を圧迫する。経営に余裕がなくなった銀行は、優良な借り手にだけ融資するようになり、貸し渋りをする。このため量的金融緩和駄で逆効果な政策である」という考え方もある。この考え方をバーサルレート理論という。

統制経済で物資の過剰供給を防ぐ

政府経済に介入する統制経済を採用し、内業者に規制を掛け、不利な供給ショックを起こす。

恵まれて農産物が豊作になったとき、農産物をそのまま大量に出荷すると市場で値崩れを起こして物価が下がる。そうなると農家の売上が減り、豊作貧乏という状況になる。農家貧困化することを防ぐため、農林水産省農協導して緊急需給調整施策を行い、農家の手によって農産物を地中に棄する。

固定相場制を採用する小国開放経済の国でインフレをもたらす政策

政府購入や消費を増やす

固定相場制を採用する小国開放経済において政府購入や消費を増やすと正の需要ショックが起きる。それに加えて、中央銀行の外貨準備高が増えていく。

このことを詳しく書くと次のようになる。政府購入や消費が増えると名利子率が上昇し、短期において期待インフレ率が硬直的なので実質利子率が上昇する。それに合わせて外発のキャリートレードが発生し、資本流入が起きて内名利子率と内実質利子率を元通りに下落させる。それと同時に際的投資が自通貨買い・外通貨売りをするので、固定相場制を維持する中央銀行が自通貨売り・外通貨買いを行い、外貨準備高を増やしていく。以上から、正の需要ショックが起こり、中央銀行の外貨準備高が増える[14]

中央銀行が自国通貨建て国債を買い入れると外貨準備高が減る

固定相場制を採用する小国開放経済において政府が自通貨建ての国債の返済に行き詰まったとする。そのときに中央銀行資金供給オペレーションをして自通貨建て国債を買い入れれば政府の財政を援助することになり、政府は増税をしなくて済み、政府購入を増やす政策や給付金を出して消費を増やす政策を続行でき、正の需要ショックを起こす政策を続行できる。ただし、そのときに中央銀行の外貨準備高が減っていく。

このことを詳しく書くと次のようになる。中央銀行が自通貨建て国債を買うと、マネーサプライMの供給が増え、短期において物価Pが硬直的なので実質貨幣残高M/Pの供給が増え、名利子率が下落し、短期において期待インフレ率が硬直的なので実質利子率が下落する。それに合わせて自発のキャリートレードが発生し、資本流出が起きて内名利子率と内実質利子率を元通りに上昇させる。それと同時に際的投資が自通貨売り・外通貨買いをするので、固定相場制を維持する中央銀行が自通貨買い・外通貨売りを行い、マネーサプライMが減って元通りの準になり、外貨準備高を減らしていく[15]

関税を高めて純輸出を増やす

固定相場制を採用する小国開放経済において関税を高くして保護貿易にすると輸入が減る。中央銀行固定相場制を維持して輸出が一定のままとなるので、純輸出が増え、正の需要ショックが起きる。それに加えて、中央銀行の外貨準備高が増えていく。また、輸入が減るので内に出回る物資が減り、不利な供給ショックが起きる。

このことを詳しく書くと次のようになる。関税を高くして輸入を減らすと輸出が一定なので純輸出が増え、実質GDPがいったん増える。実質GDPがいったん増えるので名利子率が上昇し、短期において期待インフレ率が硬直的なので実質利子率が上昇する。それに合わせて外発のキャリートレードが発生し、資本流入が起きて内名利子率と内実質利子率を元通りに下落させる。それと同時に際的投資が自通貨買い・外通貨売りをするので、固定相場制を維持する中央銀行が自通貨売り・外通貨買いを行い、外貨準備高を増やしていく。以上から、純輸出が増えて正の需要ショックが起き、中央銀行の外貨準備高が増える[16]

関税を高くして保護貿易を促進すると、際的資本移動を制限することになる。そうなると企業経営者が従業員に「君たちは較的に高賃金を得ているが、発展途上国の低賃金労働者と同じような働きをしている。君たちを雇用することをやめて、工場を低賃金発展途上国へ移転して、発展途上国の低賃金労働者を雇用して、海外で作った製品を内に輸入しようと思う」と言っても、それを実行することが難しくなる。従業員は自信を維持することができ、賃上げを要する意気を持つことができ、内の各企業で労働運動が強まり、内の賃金が高まる。内の賃金が高まると、労働量が減って不利な供給ショックになるし、労働者の余暇が増えて限界消費性向MPCが増えて消費が増えて正の需要ショックが起きる。

変動相場制を採用する小国開放経済の国でインフレをもたらす政策

中央銀行がマネーサプライMの供給を増やして自国通貨安に誘導する

変動相場制を採用する小国開放経済において中央銀行資金供給オペレーションをすると、自通貨安になり、純輸出が増え、正の需要ショックが起きる。一方で自通貨安になって輸入が減るので、内に出回る物資が減り、不利な供給ショックが起きる。

このことを詳しく書くと次のようになる。中央銀行資金供給オペレーションをして自通貨建て国債を買い入れてマネーサプライMの供給を増やすと、短期において物価Pが硬直的なので実質貨幣残高M/Pの供給が増え、名利子率が下落し、短期において期待インフレ率が硬直的なので実質利子率が下落する。それに合わせて自発のキャリートレードが発生し、資本流出が起きて内名利子率と内実質利子率を元通りに上昇させる。それと同時に際的投資が自通貨売り・外通貨買いをするので名目為替レートが上昇して自通貨安・外通貨高になり、短期で価格が一定なので実質為替レートが上昇し、純輸出が増え、正の需要ショックが起きる[17]

政府購入や消費を増やしても正の需要ショックが起こらず、それどころかデフレ圧力が生まれる

変動相場制を採用する小国開放経済において政府購入や消費を増やしても、その分だけ純輸出が減って、正の需要ショックが起こらない。一方で自通貨高になって輸入が増えるので、内に出回る物資が増え、有利な供給ショックが起き、デフレが発生する。

このことを詳しく書くと次のようになる。政府購入や消費が増えると名利子率が上昇し、短期において期待インフレ率が硬直的なので実質利子率が上昇する。それに合わせて外発のキャリートレードが発生し、資本流入が起きて内名利子率と内実質利子率を元通りに下落させる。それと同時に際的投資が自通貨買い・外通貨売りをするので名目為替レートが下落して自通貨高・外通貨安になり、短期で価格が一定なので実質為替レートが下落し、純輸出が減り、実質GDPが一定となり、正の需要ショックが起こらない[18]

関税を高めても正の需要ショックが起こらず、それどころかデフレ圧力が生まれる

変動相場制を採用する小国開放経済において関税を高くして輸入を減らすといったんは純輸出が増えるが、名目為替レートの下落によって輸出が減って純輸出が減り、純輸出が元通りとなり、正の需要ショックが起こらない。一方で自通貨高になって輸入が増えるので、内に出回る物資が増え、有利な供給ショックが起き、デフレが発生する。

このことを詳しく書くと次のようになる。関税を高くして輸入を減らすと輸出が一定なので純輸出が増え、実質GDPがいったん増える。実質GDPがいったん増えるので名利子率が上昇し、短期において期待インフレ率が硬直的なので実質利子率が上昇する。それに合わせて外発のキャリートレードが発生し、資本流入が起きて内名利子率と内実質利子率を元通りに下落させる。それと同時に際的投資が自通貨買い・外通貨売りをするので名目為替レートが下落して自通貨高・外通貨安になり、短期で価格が一定なので実質為替レートが下落し、純輸出が減り、実質GDPが元通りになる。結局、実質GDPが一定となり、正の需要ショックが起こらない[19]

関連Wikipedia記事

関連コトバンク記事

関連項目

脚注

  1. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』47ページ
  2. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』118ページ
  3. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』5ページ
  4. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』65ページ
  5. *不動産の中の建物や、金属宝石の割合が少ない装飾品や、取得価額100万円未満の美術品は、時間の経過に従い消耗すると考えられていて、法定耐用年数が定められており、法定耐用年数の期間内で減価償却費という費用が発生することになる。事務所用のコンクリート建て建築物の法定耐用年数は50年であり、5千万円で購入した場合、50年間にわたって毎年100万円の減価償却費が発生する。
  6. *土地を占有する人は、所有の意思をもって穏かつ然と占有を開始し、占有の開始時に善意(他人の所有地であることを知らない)かつ、過失(知らないことに過失がない)の場合には10年間占有すれば、土地の所有権の取得時効が成立し、土地の所有権を得られる。占有の開始時に悪意(他人の所有地であることを知っている)の場合には20年間占有すれば、土地の所有権の取得時効が成立し、土地の所有権を得られる。民法第162条exitで以上のことが定められている。
  7. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』141ページ
  8. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー347ページ
  9. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー347ページ
  10. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー347349ページ
  11. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー145ページ
  12. *野村證券の用語解説ウェブサイトexitでは、資インフレや賃金インフレという言葉が紹介されている。
  13. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』33ページ、40ページ
  14. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー377~378ページ
  15. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』378~379ページ
  16. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』380~381ページ
  17. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』371~372ページ
  18. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー369~371ページ
  19. *マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリーマンキュー』372~374ページ
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