クラウディングアウトとは、経済学の言葉である。
概要
定義
政府購入や消費を増やす財政政策を行うことで投資を減少させて実質利子率を上昇させることをクラウディングアウトという。
完全な閉鎖経済の国で顕著に発生する
クラウディングアウトは完全な閉鎖経済の国において顕著に発生する。完全な閉鎖経済の国とは、輸出と輸入が全く起こらず純輸出がゼロであり資本流出と資本流入が全く起こらず純資本流出がゼロである国のことである。
クラウディングアウトをモデルによって説明するときは、そのモデルが完全な閉鎖経済の国を表すことを前提にすることが定番である。
大国開放経済の国で部分的に発生する
大国開放経済の国で政府購入や消費を増やすと、実質利子率が上昇して投資や純資本流出が減る。政府購入の増加額と消費の増加額を足した数値は、投資の減少額と純資本流出の減少額を足した数値と一致する[1]。
ちなみに、大国開放経済の国Aにおける投資と純資本流出の比率は、他の大国開放経済の国Bの実質利子率で決まる。B国の実質利子率が上昇すればA国で純資本流出の比率が高くなって投資の比率が低くなるし、B国の実質利子率が下落すればA国で純資本流出の比率が低くなって投資の比率が高くなる[2]。
大国開放経済の国Aで政府購入や消費を増やし、それ以外の大国開放経済の国で実質利子率に変化がないとする。その場合は、大国開放経済の国Aで投資と純資本流出が同じ割合だけ減少し、投資と純資本流出の比率が一定である。
小国開放経済の国で発生しない
大国開放経済の国で政府購入や消費を増やすと、それまで世界共通実質利子率と同一だった実質利子率がいったん上昇する。しかし、海外発のキャリートレードが起こって資本流入が続き、実質利子率が世界共通実質利子率の水準まで下がっていく。こうして実質利子率が維持され、投資が維持される。政府購入の増加額と消費の増加額を足した数値は、純資本流出の減少額と一致し、純輸出の減少額とも一致する[3]。
クラウディングアウトの説明
投資財モデルでの説明
完全な閉鎖経済の国におけるクラウディングアウトは、タテ軸投資財価格・ヨコ軸投資財Iの投資財モデルで説明できる。
投資財の代表例は住宅や工場であり、1年を超える長い時間を掛けて消耗する財のことである。
投資財需要曲線は右肩下がりである。投資財価格が高いと投資財の購入量が減り、投資財価格が低いと投資財の購入量が減るからである。
投資財供給曲線は、垂直線になったり右肩上がりになったりする。経済学の教科書では話を単純化させるために前者の状態で描かれる。
「国家全体の供給能力(総生産Y、実質GDP)」から「政府購入Gに向けられる供給能力」と「消費Cに向けられる供給能力」と「純輸出NXに向けられる供給能力」を引くと、「投資財Iへ向けられる供給能力」を得られる。つまりY-G-C-NX=Iである。
そして完全な閉鎖経済の国は純輸出NXがゼロなので、「投資財Iへ向けられる供給能力」はY-G-C=Iと計算することができる。
政府購入Gや消費Cが増えると、「政府購入Gに向けられる供給能力」や「消費Cに向けられる供給能力」が増えるので、その煽りを食って「投資財Iへ向けられる供給能力」が減り、投資財供給曲線が左に平行移動し、均衡点が右肩下がりの投資財需要曲線に沿って左上に移動し、投資財Iが減って投資財価格が上昇する。投資財価格が上昇すると、借り入れ金額が増えて貸し倒れリスクが高まって実質利子率rが上昇する。
簡単に言うと次のようになる。国内の企業の生産能力には限りがある(Yが一定である)。政府が財政政策で政府購入や消費を増やすと(GやCを増やすと)、国内の企業は政府購入や消費に対応することが増えるので投資財を作るほどの余裕を失い、投資財の生産量が少なくなる(Iが減る)。投資財供給曲線が左に平行移動し、均衡点が右肩下がりの投資財需要曲線に沿って左上に移動し、投資財Iが減って投資財価格が上昇して実質利子率rが上昇する。
投資資金モデルでの説明
完全な閉鎖経済の国におけるクラウディングアウトは、タテ軸実質利子率r・ヨコ軸投資資金Iの投資資金モデルで説明できる。
投資資金需要曲線は右肩下がりである。実質利子率rが大きいと借り入れできる投資資金が減り、実質利子率rが小さいと借り入れできる投資資金が増えるからである。
投資資金供給曲線は、どれだけ実質利子率rが上昇しても限界貯蓄性向MPSや限界消費性向MPCが一定のままの国民ばかりの国なら垂直線になり[4]、実質利子率rが上昇すると限界貯蓄性向MPSが増えて限界消費性向MPCが減る国民が多い国なら右肩上がりになる[5]。経済学の教科書では話を単純化させるために前者の状態で描かれる。
「国家全体の資金(総生産Y、実質GDP)」から「政府購入Gに向けられる資金」と「消費Cに向けられる資金」と「純資本流出CFに向けられる資金」を引くと、「投資Iへ向けられる資金」を得られる。つまりY-G-C-CF=Iである。
そして完全な閉鎖経済の国は純資本流出CFがゼロなので、「投資Iへ向けられる資金」はY-G-C=Iと計算することができる。
政府購入Gや消費Cが増えると、「政府購入Gに向けられる資金」や「消費Cに向けられる資金」が増えるので、その煽りを食って「投資Iへ向けられる資金」が減り、投資資金供給曲線が左に平行移動し、均衡点が右肩下がりの投資資金需要曲線に沿って左上に移動し、投資資金Iが減って実質利子率rが上昇する。
簡単に言うと次のようになる。国内の資金には限りがある(Yが一定である)。政府が財政政策で政府購入や消費を増やすと(GやCを増やすと)、国内の資金は政府購入や消費に向かうことが増えるので投資に向かうほどの余裕を失い、投資資金の量が少なくなる(Iが減る)。投資資金供給曲線が左に平行移動し、均衡点が右肩下がりの投資資金需要曲線に沿って左上に移動し、投資資金Iが減って実質利子率rが上昇する。
政府購入と減税の比較
拡張的な財政政策は、政府購入を増加させる政策と減税をする政策の2つに分かれる。
拡張的な財政政策の中で、政府購入を増加させる政策はクラウディングアウトを大きく発生させて投資を大きく減らす。
一方で減税の政策は、政府購入を増加させる政策に比べて、クラウディングアウトを小さく発生させて投資を小さく減らす。
完全な閉鎖経済の国があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であるとする。政府が国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れつつ1兆円の政府購入をしたとする。政府が金融市場から1兆円を借り入れたので国民貯蓄Sが1兆円減って投資が1兆円減る。そのあとに政府が政府購入を1兆円増やす。すべて通じて見渡すと、政府購入が1兆円増えて投資が1兆円減え、実質GDP(Y)が一定である。
完全な閉鎖経済の国があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であり、限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3だとする。政府が国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れつつ1兆円の減税をしたとする。政府が金融市場から1兆円を借り入れたので国民貯蓄Sが1兆円減って投資が1兆円減る。そして消費が7000億円増えて投資が3000億円増える。すべて通じて見渡すと、消費が7000億円増えて投資が7000億円減り、実質GDP(Y)が一定である。
関連項目
脚注
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』212~213ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』216ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』175~176ページ、190ページ、214ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』92ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』99~100ページ
- 0
- 0pt
- ページ番号: 5573926
- リビジョン番号: 3267674
- 編集内容についての説明/コメント: