ルクレール(Leclerc)とは、
- フランスが開発した第三世代MBT(主力戦車)。ルクレルクと呼ばれる場合もある。
- モナコ出身のF1ドライバー → シャルル・ルクレール
- アニメ「Vivy -Fluorite Eye's Song- 」の登場人物(CV:山根綺)。
概要
AMX-30の後継として開発された第3世代の主力戦車。当時のGIATが開発した。データリンクなど高度な電子機器を搭載していることから、3.5世代戦車とも呼ばれる。
ハイパーバーと呼ばれる独特のパワーユニットを搭載しているが、独特すぎて外国のトライアルで落ちたり、エンジンだけMTUに換えられたりという可哀想な現象も起きている。あまりに独特すぎて、当のフランスですらまともに維持できないらしい(後述)。
操行はバー状ではない、上下が欠けたような円形状のハンドルを用いておこなう。そのハンドルの中央部にヘッドライトやクラクション、ウィンカーなどのスイッチを集約しており、インターフェイスは便利な方。見た目も戦車の割には乗用車っぽいところもあり、こういった点を見ているとシトロエンかルノーが作ったような気がしてくるが、そういうわけではない。
無垢でバカな軍ヲタだった頃は、戦車雑誌のPANZERにはすっかり騙された(これも後述)。
開発経緯
第二次世界大戦まで戦車開発がさかんだったフランスだが、戦後は流れが停滞してしまう。
結果的には第二世代MBTとしてある程度のレベルに達したAMX-30などがあるが、この段階でドイツではレオパルド2など第三世代MBTの時代に入っていた。
この遅れを取り戻すべく、第三世代最後発の利点を生かして様々な新機軸を盛り込んだのがルクレールである。
構造上の特徴
火力
ルクレールに搭載される火器は以下のようになっている。
名称 | 口径 | 携行弾数 | |
主砲 | Cannon de 120mm-Modele F1 | 52口径比長 120mm | 22発(即応弾)+18発(予備弾) |
同軸機銃 | M2HB | 12.7mm | 950発 |
車長機銃 | AA-52 | 7.62mm | 200発 |
その他 | GALIX | 80mm | 14発 |
ルクレールの主砲はGIAT社が独自に開発した120mm滑腔砲が採用されているが、ラインメタルの120mm滑腔砲と同じ薬室を持っているため、ラインメタル系と同じ規格の弾薬を発射できる。[1]
また、90式戦車と同様の自動装填装置を砲塔後部に搭載することで装填手を省き、乗員は3名になっている。
名称 | 種類 |
OFL 120 F1 | APFSDS(タングステン弾芯) |
OFL 120 F2 | APFSDS(劣化ウラン弾芯) |
OECC 120 F1 | HEAT-MP(多目的対戦車榴弾) |
OFLX 120 G | APFSDS演習弾 |
BSCC 120 F1 | HEAT-MP演習弾 |
OFL 120 F1はラインメタルと共同開発したもので、ドイツではDM43の呼称が与えられている。タングステン弾芯のF1だけでなく、劣化ウランを使うF2もある。
GALIXは砲塔左右に配置された筒型発射機で、スモークディスチャージャーとしての役割がある。しかし発煙弾だけでなく、フレアや破片榴弾を使用することも可能。
よって、戦車抜きで戦車猟兵大隊送りになり、ルクレールに肉弾攻撃を仕掛ける場合には注意が必要である。もし同車が破片榴弾を使用した場合、鉄球が飛んできて頭がグチャってなるかも知れない。
電子装置
ベトロニクス(Vetronics…Vehicle+Electronicsの造語。車輌電子工学)により高度な照準能力などを備える一方、その操作はきわめてシンプルなもので、C4I機能を当初から組み込んだ初の戦車ともいえるだろう。
防御
装甲は90式戦車同様に複合装甲を内装モジュラー方式で組み込んだ形となっている。
ルクレールの特徴でもあるレオパルド2と比べると扁平な形の砲塔と大きく主砲側面に張り出した照準等のセンサ群は、バイタルパート(重要部分)の露出を嫌ってのもので、地形を生かして遮蔽物に隠れたとしても砲塔部分を露出させた際に出来るかぎり見せる部分を最小限に抑える効果を狙ったものと考えられる。
ただ、砲盾(主砲基部の装甲)が90式戦車に比べると幾分小さく、複合装甲のブロック(バルク)が小さいことがうかがい知れる。これが日本と素材加工技術の差なのか、あるいは設計デザインの都合上なのかは意見が分かれるところかもしれない。ちなみに砲塔側面をぐるりと囲むブロック状のシロモノは増加装甲などの類ではなくて工具箱となっている。一応、空間装甲の役目も果たすのかもしれないが、あまり効果はないかもしれない。
動力
第三世代最後発という面もあり、動力性能は優れている。泣き所はハイパーバーと呼ばれるエンジン。ディーゼル&ガスタービンの複合機関で、ガスタービンがディーゼルの過給機とAPUを兼ねる。コンパクトでかつ高出力のエンジンであるものの前線でメンテナンスは無理らしく、修理する場合はエンジン周辺部分のパワーユニットごと交換という豪快な方法をとっている(もっともその交換自体は手間も時間もかからないように作ってあるが)。
フランス本国などで使用する分にはあまり問題にならない方法なのだが、どうもエンジンの稼働率が思わしくないという噂も聞こえてくる。なにやら346台中142台のみ運用が可能(稼働率41%!)とか、近代兵器にあるまじき稼働率でもあるが…そりゃ故障のたびに後方のデポ(補給所)に送ってればそうなるよね…。
(ただし元々この数字が出たのはフランス軍の予算不足を報じたものでもあるので、ルクレールそのものの問題なのかは微妙であることを注意してほしい)
輸出
こういったこともあってか、UAEに輸出された「トロピック・ルクレール」はMTUのユーロパワーパックになり、車体後部にAPUを増設している。またスウェーデンの新戦車トライアルには落ちた。やはりハイパーバーが足を引っ張ったらしい。
派生モデル
最近は治安維持活動における市街地戦闘を想定し、各種装備を供えた「ルクレールAzur」というコンセプトモデルが登場している。レオパルド2も同様のモデルを出しているが、既存車両に市街地防御機能を付加すると、やたら重くなってしまう欠点が伴うのがやっかいな所。
蛇足で市街地戦闘コンセプトモデルの特徴を、ルクレール・レオ2両者から拾ってみる。
- 全周防御
敵の攻撃がどっちから飛んでくるかわからない、戦闘正面を限定できないのが市街戦、特に治安維持活動である。だから古典的戦車戦では妥協していた、正面60度を越える範囲の防御性能も強化しないといけない。 - サーチライト
戦車とは不釣合いな気もするが、治安維持活動では有用と言われる装備。怪しいやつを見つけたら、主砲連装のサーチライトで照らしてやる。ということは照らされた方にしてみれば、戦車の主砲と連装機銃が確実にこっちを向いていると言うことである。こっち見んな。 - ドーザー
90式戦車や10式戦車に付けられるようなやつ。あれがあれば瓦礫やバリケード、乗り捨てられた自動車を排除しつつ前進できる。部長が派出所に突撃する時も使えるかもしれない。
PANZERに騙された
「PANZER」と言えば、我が国において有数の戦車雑誌である。軍事板を見れば記述の正確性が怪しいとの評判が多く、軍板をROMった今の若い軍ヲタにとっては、そんなことは常識となっているだろう。
だが某氏ほどの専門知識がなく、インターネットなんて便利なモノがまだ普及していなかった時代に少年期を過ごしたオッサン軍ヲタは、PANZERが垂れ流したルクレールの物凄いデマに引っかかっていたのだ。
PANZERに騙されたのは、装甲に関する知識である。昔のPANZERが流していたデマを要約するとこういうことになる。
ルクレールのモジュール装甲は外装式である。
今にして思えば、あんなセコい金具で拘束セラミック装甲を固定できるはずがないと、常識でわかりそうなもんだと思うだろう。事実、ルクレールの砲塔で唯一の外装式モジュール装甲になっている照準機直下のそれは、頑丈そうなボルトで砲塔に固定されているのだから。だがネットでの情報交換とクロスチェックがままならなかった時代には、そんなものかと思う人がいた。
しかしネットが普及し軍板が一般的に読まれるようになると、「あの金具はちゃっちいだろ。道具箱か、せいぜい中空装甲なんじゃね?主装甲じゃないよ」という詳しい人の指摘を目にするようになる。
この指摘を裏付けたのは、ルクレールを詳細に特集した月刊「グランドパワー」の一戸氏の記事である。その記事において、ルクレールは内装式モジュール装甲であること、外側にくっついているアレがただの道具箱に過ぎないことが写真付で紹介された。やっぱりPANZERは長らく誤報を続けていたのだ。
尚、PANZERはその記事が紹介されてから「んん~装甲は内装式的なムニャムニャ」という記事を書くようになり、現在では内装式モジュールとして記事を書いている。
兵器や軍事に興味を持ち、こういった軍事雑誌を読む若い軍ヲタにオッサンからアドバイスをするならば、「何事につけてもメディアリテラシーは重要である」となるだろう。専門知識を踏まえて詳しい説明をしてくれる某氏も、「なんでも疑ってみて自分で考えるんだ。私の言うことも鵜呑みにしちゃイカン」と言っている。
勿論、疑って考えるにしても基礎的な知識や教養が欠けていれば、結局は正しい判断をすることはできない。だから学校で習う物理や数学、化学、公民なども大事にしてほしい。
関連作品
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関連項目
脚注
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