なぜだ!? これほどの男が奴隷なんかに...とは、漫画『ヴィンランド・サガ』におけるセリフである。
概要
原作12巻第86話『帰れないふたり』、アニメは17話より。奴隷編の中盤における場面の一つで、農場の用心棒、蛇のセリフ(厳密には心の声)である。
背景
セリフに至るシーンまで
主人公・トルフィンが奴隷とされていた(とはいえこの時点ではほぼ解放が決まっている)ケティルの農場では、近隣の農場から主を殺して逃亡した奴隷・ガルザルによって大騒動となっていた。
ガルザルは妻のアルネイズを見つけるため追手を撒きながら農場を渡り歩き、ケティルの農場に入り込んだ。そこに着いた彼はアルネイズがケティル奴隷になっていることを知り、力ずくで取り戻そうとするも、用心棒(作中では客人とも呼ばれる)の取りまとめ役である蛇[1]に敗れ、囚われてしまう。
トルフィンと、同じく奴隷であり(解放の条件でもあった)開墾を進めていく上で共に汗を流し、朋友となったエイナルは従前より何かと親しくしてもらったアルネイズを救う為、ガルザルを救い出すことを提案した。しかし、アルネイズはもはや以前の夫と違うことと、既に今の主であるケティルの子を宿していることを理由にいったんはそれを拒絶する。
トルフィンとエイナルはそれを聞いて一旦は引き下がるも、翌朝になって用心棒たちがトルフィンたちの住処まで来て家探しに来たため、ガルザルが逃げ出したことを察した。二人は情報を得るために彼女が居所にしているスヴェルケルの家(彼女はケティルの奴隷兼愛妾だったが、大旦那でありケティルの父親であるスヴェルケルがもはや自活が困難になったのを見て、ケティルの奥方が面倒を見るように命じていた)に急行する。
到着した二人は、ガルザルをおびき出すために張り込んでいた蛇をはじめとする三人の用心棒を警戒しながら事情を聞き出した。アルネイズは昨晩は一旦諦めてはいたものの、既にただならぬ傷を負っているガルザルを心配して手当だけでもしようと彼が囚われている砦まで向かったのである。しかしその結果ガルザルはアルネイズを半ば脅して縄を切らせ[2]、見張りについていた四人の用心棒を殺めて逃げ出した。
エイナルはアルネイズに対し、ガルザルと共に農場を逃げ出すことを提案した。彼女はそれを承諾したため、トルフィンと共に力を貸すことにし、ある作戦を考えた。それは、ガルザルに偽装して用心棒たちを引き付け、トルフィンはその隙にスヴェルケル[3]が寝ているベッドの下にいるガルザル当人を引き出し、荷馬車に載せて南の国境(デンマークの南、神聖ローマ帝国との国境)まで逃がす。というものであった。
これは途中まではうまくいき、ガルザルに扮したエイナルの外套を見た用心棒たちは蛇を含めた3人全員で騎乗して彼を追跡した。そして計画通りにトルフィンがガルザルをスヴェルケルの下から引き出して逃げようとした所、蛇だけがスヴェルケルの家まで戻ってトルフィンの前に立ちはだかった。蛇は追跡の最中、手負いにしては走る速度が早すぎることに違和感を覚え、他の二騎は追わせたままにした上で引き返したのである。
蛇は「交渉の余地はねェ。おとなしくガルザルを渡せ。渡さなけりゃ斬る」と言いながらおもむろに剣を抜き、トルフィンに迫った。
トルフィンと蛇の戦い
トルフィンはかつて彼の父、トールズを殺めたアシェラッドへの復讐のため、ヴァイキングに入って数え切れないほどの人間を殺した過去があった。その為、彼は長いことその怨念に取り憑かれて毎日悪夢を見ていたが、エイナルと共に育てた小麦畑が嫉妬した奉公人に荒らされて喧嘩になった際、トルフィンはもう二度と暴力を奮わない誓いを己に立てたのである。
しかし、彼がこの時直面した状況はその封じたはずの暴力を再び放たなければならないものであった。迫りくる蛇を見ながら、相手は彼一人だから気絶させれば脱出できる、剣をかわして顎に一撃食らわせれば……と算段をたてていたところに、彼の心中にアシェラッドが現れ
「ヤレヤレ仕方ねっか? この際このケンカは私欲も私怨もねぇ純粋な人助けだ。お前にゃゲンコ振るう大義名分がある。まもっとも? むこうにゃむこうの大義名分もあるだろうがな……。さァてどうするトルフィン。あくまで非暴力の誓いをつらぬくか。それとも人助けのために一戦ぶちかますか……」
と囁いた。
そしてトルフィンは逡巡の末、もはや目前にまで来ていた蛇に対して、拳をふるうもこれはかわされ、蛇は返す刃で振り下ろすも、トルフィンは見事に避けた。しかし、生半可で勝てる相手ではないと悟ったトルフィンはかつてイングランドをはじめ北海沿岸でふるい続けた短剣の構えで、蛇に対峙した。
やがて蛇とトルフィンは剣と拳を交わし始め、とてつもない速さで応酬を繰り返した。二人は即座に相互が強いことを認識し、蛇の方は自らの剣をかわしつづけることに、トルフィンは蛇の一閃一閃の素早さと、反撃の機敏さにそれぞれ違う思いを抱いた。
前者は蛇がトルフィンに対し、後者はトルフィンが蛇に対して抱いた率直な思いである。蛇はもともとミクラガルド(ビザンツ帝国)の戦士で、トルフィンは先述の通りアシェラッド兵団で侠気(カルルセヴニ)の異名をとったほどの使い手だったが、互いに互いのことを伏せていたからこその思いであった。
この戦闘は決着がつかず、直接的な勝敗ではなく、うまく蛇がトルフィンを誘導して蛇がガルザルが乗る荷馬車の前方をとったことで事実上決することになった。このシーンは認識し得なかった強者同士が力に触れて境遇を不思議がるというところで興味深いものがある。
関連項目
脚注
- *もちろんこれはあだ名である。ケティルの農場の用心棒は元犯罪者やいわゆる凶状持ちなので、本名を名乗ることが出来ずあだ名でよびあっているのである。
- *アルネイズはその直前にガルザルに全てをやり直そうと言われ、心が揺らいでしまったのである
- *スヴェルケルは奴隷になるか否かは運が決定するものと考えており、全体的にトルフィンたちに対し同情的であった。その為、自らのベッドの下を貸すなど力を貸していた
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