いいかい学生さんとは、「学生さん」に何らかを諭す際に用いる台詞である。
おそらく最も有名なものは漫画作品『美味しんぼ』に登場する台詞の一部としてであり、本記事でもこの台詞について主に説明する。
概要
学生さんに何かを諭すときに使う日本語としては特に不自然なところもない一般的なものであり、例えば1950年代の書籍でも「いゝかい学生さん、仮名子だけには惚れてくれるなよ。こいつは絶対だよ」と「学生さん」に釘を刺す台詞が掲載されている。
しかし、2023年現在の日本で最もこのフレーズとして有名なものは、雁屋哲(原作)と花咲アキラ(作画)のコンビによる漫画作品『美味しんぼ』の台詞としてであろう。
この台詞は、『美味しんぼ』の初期のエピソードである「トンカツ慕情」内で登場する。このエピソードはビッグコミックス版では第11巻に、小学館文庫版では第8巻に収録されている。
以下に、本エピソード「トンカツ慕情」のあらすじを説明する。特に、この台詞への流れは引用紹介する。
あらすじ
勤務している新聞社にて、食べ物に関連する相談事を募ることにした主人公「山岡」たち。すると、アメリカで事業を成功させて富裕になっている男性「里井」から、トンカツに関する相談事が届く。
聞くと、若いころに食べたような美味しいトンカツを食べたいのだが、30年ぶりに日本に帰国して様々なトンカツを食べてもどうも当時の思い出と比べて美味しく感じないのだという。
若いころの味覚を思い出の中で美化してしまっているのかもしれない、と自嘲している里井に対して山岡は別の可能性も示唆する(詳細は後に説明されるが、当時そのトンカツを提供していたトンカツ屋が、しっかりした素材で調理する優良店であり、そして作中の「現在」の多くの店で提供されるトンカツはそこまで優良な素材は使用していなかったため)。
そして、「若いころに食べたトンカツ」について問われた里井が語った思い出話は、以下のようなものだった。
里井がまだ日本にいて、学費を稼ぐ苦学生だったころ(本作が雑誌掲載されたのは1980年代であり、舞台設定は「現在」なので、30年ほど前の1950年代と思われる)。給料をもらったばかりの道すがら、数人組の暴漢に襲われてお金を奪われてしまった。
怪我を負っていた里井を助けてくれたのは中年の男性。その男性は、自分の妻と営んでいるトンカツ屋「トンカツ大王」に彼を案内し、自慢のトンカツ定食を振る舞ってくれる。
店主「はい、お待ちどおさま!」
(トンカツ定食が並べられる)(驚く里井)
里井「ぼ、僕金ありません、さっき奴らに取られちゃったから!!」
店主「いいからおあがりよ、私のおごりだ。」
(店主の妻が、笑顔でやり取りを見守っている)店主「そんなしょんぼりした顔してると、生涯、貧乏神にとりつかれるぞ。 トンカツ食えば元気になる、食べとくれよっ!!」
里井「はいっ! いただきます!!」
シャク シャク
(トンカツをかじる里井)里井「うほおっ、うんまいっ!!」
店主「なあ学生さん、若いうちの苦労は身になるよ。 うんと苦労すれば必ず報われるとも。」店主の妻「勉強してえらくなって頂戴よ。」
店主「なあに人間そんなにえらくなるこたあねえ、 ちょうどいいってものがあらあ。」
(頬杖を突きながら語る店主)店主「いいかい学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。 それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ。」
(※強調のための太字は引用者が付加したもの)
里井は、恩人であるトンカツ屋夫婦に再会したいとも思っているが、アメリカでの成功するまでの厳しい生活の中で生きていくのに必死になっていた期間に手紙を出すことも途絶えさせてしまっており、いつのまにか音信不通となってしまっていたのだった。
その後、山岡たちは勤務している新聞社の調査力を用いて、騙されて財産を奪われたことを理由に店を閉め老人施設に入っていた「トンカツ大王」の店主夫婦を探し出すことに成功。里井は夫婦と再会することができた。
また、世間のトンカツではおろそかにしているような上質な素材も取り揃えており、腕が鈍っていなかった店主は当時のような美味しいトンカツを里井に提供。思い出通りの美味しいトンカツに、里井は感激する。
そして、里井は「トンカツ大王」の新たな店舗を恩人夫婦に提供したいと申し出て、里井と夫婦の双方が涙するのであった。
アニメ版
『美味しんぼ』はテレビアニメ版が存在するが、このエピソードも28話「トンカツ慕情」としてアニメ化されている。
YouTubeの「美味しんぼ 公式チャンネル【デジタルリマスター版】」というチャンネルにて、この28話は無料公開されている。
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https://twitter.com/oishinbo_ch/status/1636698971950440454
評価・読者の反応
『美味しんぼ』の中でも初期の話であるため読んだ人が多いこと、また「いいかい学生さん~」の台詞が印象的であることなどからこの「トンカツ慕情」の回は知名度が高い。同作の印象的な回を挙げる企画などでも選出されることもある。
「いいかい学生さん~」の台詞について、「成功して得た多額のお金で店舗を買って恩返ししてるわけで、えらくなり過ぎてむしろ正解だったんじゃね?」とか、「いや、そのための過程で忙しすぎて恩人と音信不通になっちゃってたわけで。やっぱえらくなり過ぎない方が正解だったのかもよ」などと、「人生訓としての妥当さ」について論じる人も居るようだ。
あるいは、「トンカツをいつでも食えるくらいの経済力て具体的にはどのくらいよ」「ここみたいに上質な素材使ってるトンカツ定食ってけっこうするだろ」「1950年代に発せられたという設定の台詞なんだから当時の社会状況・経済状態で語らないといけないのでは」などと、経済的な観点で論じる人も。
また、台詞の改変ネタをインターネットで披露する人々もいる。割とリアルな経験談や忠告になっているものも。
いいかい学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるぐらいの経済力がつくころにはトンカツみたいな重たいものは食えなくなってた…。
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https://twitter.com/Fumiaki_Taka/status/1178559474618863616
いいかい、学生さん、有休をな、有休をいつでも取れるくらいの仕事に着きなよ、それが人間きつすぎもしない緩すぎもしない、ちょうどいいワークライフバランスってやつなんだ。
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https://twitter.com/pochiw/status/979033153191866368
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