大 河 ド ラ マ
いだてん
東 京 オ リ ム ピ ッ ク 噺
いだてん〜東京オリムピック噺〜とは、2019年1月6日から12月15日まで放送された、第58作目の大河ドラマである。作:宮藤官九郎、全47話。
「ってな訳で、大百科概要噺でございます」
「スポーツ」という言葉が一般的でなかった時代である1912年に日本人が初めて参加したストックホルムオリンピックの少し前から、1964年に開催された東京オリンピックまでの近代現代史を、オリンピックに関わった人々の目線から描かれる笑いあり、涙ありの群像劇。
4章構成(1部前半・後半と2部前半・後半)となっている。主人公は、第1部がストックホルムオリンピックに参加し、箱根駅伝など日本陸上界の基礎を作り上げた「日本マラソンの父」金栗四三。第二部が日本の水泳競技を向上させ、やがて東京オリンピックの招致を実現させた田畑政治。これに加え、語り手兼狂言回しとして落語家・古今亭志ん生の3人が物語の中心となる(本作は、古今亭志ん生の創作落語という設定のため、クレジットには"語り"ではなく"噺"と表記されている)。なおこの記事の噺も古今亭志ん生がおこなっている。
大河ドラマで主人公が複数存在するのは、2006年の「功名が辻」以来、かつ主役が途中で交代するのは2000年の「葵徳川三代」以来のこと。また、幕末を含まない近現代を舞台にした大河ドラマは、1984年の「山河燃ゆ」(昭和前期)、1985年の「春の波濤」(明治後期~大正)、1986年の「いのち」(戦後~現代)の、いわゆる大河近代三部作から33年ぶりとなる(※いずれも、スペシャルドラマ枠の「坂の上の雲」を除く)。
さらに、本作は古橋廣之進や河西昌枝といった、昭和生まれの偉人が登場する初めての大河ドラマである。中には吹浦忠正や谷田絹子のように放送時点で本人がご健在という登場人物もおり、スタッフとして作品づくりにかかわっていたり、「いだてん紀行」で当時の思い出話を語ったりしている。
なお、本作には高橋是清役で萩原健一が出演しているが(後述)、彼は主な登場シーンを撮り終えた後の2019年3月26日に逝去しており、本作が遺作となった。残りの出演シーンは編集で対応して放送されている。
「やっぱり、あらすじは必要でしょうな」
1959年5月、東京。
いつもどおり、タクシーで寄席に向かう古今亭志ん生は大渋滞に巻き込まれていた。
東京でオリンピックが開催される見通しとなり、どこもかしこも工事だらけ。
オリンピックにまったく興味がない志ん生は、いたく不機嫌だった。
ある日、志ん生のもとに、不思議な青年・五りんが、弟子入り志願にやってくる。五りんと話をするうちに、脳裏をある出来事がよぎる。その夜の高座で、突然、はなしはじめた落語が「東京オリムピック噺」。
志ん生は自らの人生を紐解いていく――。
ときは、1909年。若かりし日の志ん生・美濃部孝蔵は、遊び仲間の人力車夫が、ひとりの紳士を乗せてフランス大使館へ向かうところに出くわす。この人物こそ、金栗四三の恩師であり、のちに"日本スポーツの父"と呼ばれる嘉納治五郎だった。
1912年、ストックホルム。嘉納の奮闘によって、金栗四三がマラソンで、三島弥彦が陸上短距離で、日本初のオリンピック出場を果たす。だが、2人とも大惨敗。金栗は悔しさを胸に、後進の育成に情熱を注ぎ、日本スポーツ発展の礎になっていく。
生真面目な金栗とでたらめな孝蔵。関東大震災、二・二六事件、東京大空襲…激しく移りゆく東京の街角で、2人の人生が交差していく。
時は流れて、1964年。"昭和の大名人"となった志ん生の「オリムピック噺」は一段と熱を帯びていた。
舞台袖から、その様子をじっと見守る弟子の五りん。「オリンピック」を縁に、重なり合っていく志ん生と金栗と五りんの人生…。10月10日。田畑政治らの活躍によって開かれた「東京オリンピック」開会式で、ドラマはクライマックスを迎える。
(NHK公式サイトから引用・一部省略)
「作品ができる前。すなわち制作噺をここで一つ…」
前述のとおり本作のテーマは近代オリンピックであるが、放送される2019年は2020年東京オリンピックの開催前年にあたる。脚本担当の宮藤は「あまちゃん」の後にNHKから「何か面白いものを作ろう」と声をかけられ、古今亭志ん生を軸とした「戦前から戦後にかけての暗いだけじゃないドラマ」から、オリンピックを絡めた話となり、やがて大河ドラマの企画となったようである(公式ガイドブックより)。
脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英など、大ヒットした連続テレビ小説「あまちゃん」のスタッフが再集結し、キャストも同作に出演した俳優が多数参加している(主要スタッフ・キャストは下記参照)。なお、本作は大河ドラマ初の4K映像作品である(前年の「西郷どん」まではハイビジョン映像だった)。
「オープニングも特徴的なんですね。これが」
勢いのある明るい音楽が特徴的なオープニングは、金栗本人が世界記録を樹立したときなどの実際の新聞の画像や、東京オリンピック(1964年)などのアーカイブ映像等、大変貴重な映像が盛り込まれているので必見である。
またほぼ毎回内容や、音楽のリミックスが変わったりするなど、変化するオープニングを眺めるのも面白いかもしれない。田畑が泳いでいるシーンは大河史上初めて笑いを目指したとか。
ちなみに第38話にオープニング短縮Verが流れた、珍しい大河ドラマでもある。
「すごいねえ、あれもこれも魅力的だし…」
本作の魅力は多岐にわたるため、その中からいくつかを挙げる。
- 「身近な大河ドラマ」…大河ドラマで一般的な戦国時代や幕末より、現代に直結する話題・問題(例:女子スポーツの普及やオリンピック選手へのプレッシャーなど)が取り上げられており、親近感をもって楽しむことができる。時代は繋がっている。
- 「笑いのある大河ドラマ」…いだてんは、シリアスな場面にも笑える要素がある。これが面白い。シリアスな場面に笑い?現実味が薄れるんじゃ?と思う方がいるかもしれないが、現実のどんな場面にも笑いがあるように、逆にリアリティをあたえている。また、ストーリーと落語とのシンクロも心地よい。
- 「意外と史実が多い」…本作では毎回、「このドラマは、史実を基にしたフィクションです」というテロップが次回予告の後に表示されている。大河ドラマとはそもそもそういうものであり、このような注意書きは別に不要ではあるのだが、制作統括の訓覇氏いわく「ストーリーは事実ベースで、ネタかと思われるのが嫌」なのであえて付け加えたとのこと。実際に「天狗倶楽部メンバーが何かにつけて服を脱ぐ」「女学校の教員をしていたころ、金栗は生徒たちから"パパ"と呼ばれていた」「孝蔵(後の志ん生)は二・二六事件の日に引越しを予定していて、いつまでたってもトラックが来ないことで事件の発生を知った」などが、"ネタのような史実"として作中で描かれている。
- 「演出の斬新さ」…実際のアーカイブ映像や、水中カメラからの水泳シーン、落語ということを利用した落語実況(第12回)、ミュージカル風の踊り(第29話)等、普段の大河ドラマでは見かけない斬新な演出が多く刺激的である。脚本も攻めたシーンがいくつかあるため、大きな話題を呼んだ。
もちろん大きな歴史の波に翻弄される主人公、感動する場面、これまでの積み重ねが生きる場面などの大河ドラマの基本はしっかりと存在している。 - 「単なるオリンピック賛美でない」…実際に観ていない人から、よく「2020年東京オリンピックの賛美のために作られた作品」といわれる事がある(実際に新聞にそのようなコラムが載った)が、そんなことは決してない。オリンピックの光と“影”をしっかりと描いており、スポーツとは、オリンピックとはいったいどうあるべきかについて考えるきっかけを与えてくれる作品である。
「今のご時世、大河ドラマの過去最低視聴率なんて叩かれておりますが…」
そんな魅力あふれる「いだてん」だが、10月23日の放送で大河ドラマ史上最低の3.7%を記録してしまった。だが、この日はラグビーワールドカップ日本戦があり、仕方のない面もあるが、その前から一桁台が続いていた。それ以外にも放送期間中に演者2名(ピエール瀧・徳井義実)の不祥事が発覚するなど、内容とは無関係に悪目立ちしまう結果となった。
確かに時代が行き来したりするなど、メインの視聴者である高齢者に優しくないクセの強い面もある。しかし、先ほど書いた魅力のように、ハマる人はとことんハマるので、一度でいいので観て欲しい。利権関係か、NHKオンデマンド等での公開が終わっており、DVDレンタルを駆使しなければ視聴困難ではあるが、その価値は確かにある。
実際、批評家のウケは良く「ギャラクシー賞12月度月間賞」、第12回伊丹十三賞」、「第44回エランドール賞プロデューサー賞」、「東京ドラマアウォード2020グランプリ(連続ドラマ部門)」を受賞している。視聴率は振るわなくとも、クオリティ自体はとても高いのだ。
「スタッフ紹介を忘れておりました」
- 作:宮藤官九郎
- 音楽:大友良英
- 題字:横尾忠則
- タイトルバック画:山口晃
- タイトルバック製作:上田大樹
- スポーツ史考証:真田久、大林太朗
- 風俗考証:天野隆子
- 衣装コーディネート:宮本まさ江
- 所作指導:橘芳慧
- マラソン指導:金哲彦
- 落語・江戸ことば指導:古今亭菊之丞
- 熊本ことば指導:志水正義
- 芸能考証:友吉鶴心
- 馬術指導:田中光法
- 副音声解説:宗方脩
- 制作統括:訓覇圭、清水拓哉
- プロデューサー:岡本伸三、家冨未央
- 演出:井上剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
「出演者の皆さん。いい顔ぶれですな」
主人公
東京高等師範学校・大日本体育協会
- 嘉納治五郎:役所広司
- 大森兵蔵:竹野内豊
- 大森安仁子:シャーロット・ケイト・フォックス
- 永井道明:杉本哲太
- 可児徳:古舘寛治
- 岸清一:岩松了
- 武田千代三郎:永島敏行
- 野口源三郎:永山絢斗
- 徳三宝:阿見201
三島家・天狗倶楽部
女子スポーツの先駆者たち
熊本の人々
- 金栗実次:中村獅童
- 金栗信彦:田口トモロヲ
- 金栗シエ:宮崎美子
- 金栗スマ:大方斐紗子
- 春野スヤ:綾瀬はるか
- 春野先生:佐戸井けん太
- 池部幾江:大竹しのぶ
- 池部重行:高橋洋
- 美川秀信:勝地涼
- 五条教諭:姜尚中
- 小松勝:仲野太賀
東京の人々
- 美濃部孝蔵(後の古今亭志ん生)・語り:森山未來
- 清水りん(後の美濃部りん):夏帆
- 小梅:橋本愛
- 清さん:峯田和伸
- 黒坂辛作:ピエール瀧→三宅弘城
- 橘家圓喬:松尾スズキ
- 万朝:柄本時生
- 三遊亭小圓朝:八十田勇一
- 金原亭馬生:森山未來
- 古今亭朝太:森山未來
- 三遊亭圓生:中村七之助
- マリー:薬師丸ひろ子
- 「水明亭」店主:カンニング竹山
浜松の人々
朝日新聞社
水泳日本代表チーム
- 高石勝男:斎藤工
- 大横田勉:林遣都
- 鶴田義行:大東駿介
- 宮崎康二:西山潤
- 小池礼三:前田旺志郎
- 野田一雄:三浦貴大
- 松澤一鶴:皆川猿時
- 前畑秀子:上白石萌歌
- 松澤初穂:木竜麻生
- 小島一枝:佐々木ありさ
1964年東京五輪招致チーム
女子バレーボール"東洋の魔女"
1964年東京五輪にかかわる人々
- 川島正次郎:浅野忠信
- 津島寿一:井上順
- 池田勇人:立川談春
- 市川崑:三谷幸喜
- 丹下健三:松田龍平
- 亀倉雄策:前野健太
- 黒澤明:増子直純(怒髪天)
- 三波春夫:浜野謙太
- 森西栄一:角田晃弘(東京03)
- 村上信夫:黒田大輔
- 大島鎌吉:平原テツ
- 吹浦忠正:須藤蓮
- 大河原やす子:川島海荷
- 田畑あつ子:吉川愛
- 坂井義則:井之脇海
- 松下治英:駿河太郎
- 与謝野秀:中丸新将
志ん生一家と弟子など
その他(政界・財界関係者など)
- 大隈重信:平泉成
- 加納久宜:辻萬長
- 内田定槌:井上肇
- 伊藤博文:浜野謙太
- 田島錦治:ベンガル
- 永田秀次郎:イッセー尾形
- 犬養毅:塩見三省
- 高橋是清:萩原健一
- 副島道正:塚本晋也
- 杉村陽太郎:加藤雅也
- 牛塚虎太郎:きたろう
その他のその他
- 夏目漱石:ねりお弘晃
- クーベルタン:ニコラ・ルンブレラス
- ラザロ:エドワード・ブレダ
- ダニエル:エドヴィン・エンドレ
- カメラマン:山下敦弘
- 牢名主:マキタスポーツ
- 河西三省:トータス松本
- ナオミ:織田梨沙
- ラトゥール:ヤッペ・クラース
- ムッソリーニ:ディノ・スピネラ
- ヒトラー:ダニエル・シュースター
- 山本照:和田正人
- ヤーコプ:サンディー海
- ゲネンゲル:マルテ・オームントゥ
- 森繁久彌:渡辺大知
- 分隊長:村杉蝉之介
- マッカーサー:ダニー・ウィン
- 東照子:筒井真理子
- 円谷幸吉:菅原健
- アレン:エドワルド・マナル
- 新タクシー運転手:宮藤官九郎[1]
"志ん生の富久と関連動画は絶品"
「関連商品。関連商品。こう聞いただけでも私たちの心はおどります」
※詳しくは下記にアクセス
「え?関連項目がなんだって?」
「外部リンクで、この噺も終わりですな」
脚注
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 20
- 0pt