「うみまち鉄道運行記」とは、伊佐良紫築による小説作品である。富士見L文庫刊。
概要
2013年、第一回ラノベ文芸賞審査員特別賞を受賞した「Electro Fairy」の改題作。
20世紀初頭、アメリカ西海岸のインターアーバン(都市間高速鉄道)を舞台にした短編連作であり、現代と違い単車や連接車の短い編成が町中の高架線を走り回っていた時代の電車運転士を主人公とした明るく爽やかなストーリーもさることながら、ダイナミックブレーキ、手動進段制御、弓型台車といったマニアックな用語を駆使する緻密な運転描写も見どころの作品である。
ストーリー
西海岸有数の港町、サンミア。
この海辺の街を轟音とともに駆ける都市間高速電鐵(インターアーバン)「サンミア湾電鐵」と、「復興形電車」”リトル・フェアリー”の若き女性運転士メグ・クラックス、そして人情味に溢れた仲間たちの物語。
登場人物
- メグ・クラックス
- ”リトル・フェアリー”を担当する、16歳の小柄な少女運転士。震災孤児の出身。
車掌のシャーリーとともに西海岸初の女性運転士と女性車掌のコンビとしてスタアに立てられた身だが、若さに見合わず、健脚の”リトル・フェアリー”に相応しい高い運転技術を持つ。 - シャーリー / シャーロット・ヴィスク
- メグとコンビを組む電車車掌。震災孤児で、メグとは震災以来の親友。
運転士と正反対の長身を持つ気風の良い活発な少女で、メグの良き相棒である。 - レオン・ジョーゼット
- ”ネーム・レス”を担当する20歳の若手運転士。
メグとシャーリーと同じ震災孤児で、両人の兄のような存在。乗務員たちの中ではブレーキのかけ方が下手なことで知られている。子供のころからの鉄道ファンで、サンミア湾電鐵の車両には昔から詳しい。 - ムネミツ・コバヤシ
- レオンとコンビを組む車掌。東洋系の移民出身。
東洋人特有の生真面目で几帳面な性格を持つため融通が利かないところはあるが、目立ちたがらない性分がレオンと噛み合い良好な相棒関係を築いている。 - マルコ・ルチアーニ
- ”ロケットマン”を担当する40歳の運転士。
東海岸からやってきた移民一世。もともと車掌を務めていたのが震災による人手不足で運転士に転職した。メグに電車運転を教えた師匠でもあり、旧型車両にも慣れたベテラン。
地理
サンミア市
サンミア湾の湾口を形作る半島に位置する西海岸有数の都市で、湾内には極東行きを始めとした無数の客船や船団を組んだ漁船が錯綜する港町。
かつて「サンミア震災」と呼ばれる大地震が市内を襲い、死者5000人を数える大惨事を齎した。
しかしそれから12年経った作中現在では、立派に復興を果たしている。
- トア・ターミナル駅
サンミアの中心街トアの13階建て摩天楼の3階と4階を占める、サンミアの中心駅にしてサンミア湾電鐵の一大ターミナル駅。サンミア湾電鐵のデパートがある。 - ローズベル駅
トア、サンノゼ、インズベル、リーランドの四方に繋がる交通結節点。近くにビショップ・ホテルが存在する。 - サンミア湾橋
サンミアとインズベルとの間を結ぶ、上下二層、全長九マイルの重厚な巨大吊り橋。上部に国道88号線、下部にサンミア湾電鐵、インズベル電鐵、ウェストコースト鐡道貨物線がそれぞれ複線を並べる構造で、中間にアルネスト島があり、サンミア湾橋の信号管理所が位置する。 - サウス・サンタナ車庫
サンミア湾電鐵の車両が所属する車庫で、職員寮が隣接。回送線であるサウス・サンタナ支線は、メグが『お化けエルム』と呼ぶ巨木に近い地点でサンノゼ行本線から分岐している。
インズベル市
サンミアから見て湾の反対側に存在する都市。サンミアとは水面下で熾烈なライバル意識を燃やしている。
ハコマ市
インズベル市とリーランド市の間に挟まれる形でサンミア湾に面する都市。
- タクリスタ劇場街駅
四本の櫛形ホームに赤いマンサード屋根を持つサンミア湾電鐵Dラインの終点駅。「リスタ」と通称される都市圏最大級のミュージカル劇場街の中心に位置し、湾を隔てたサンミア市内からミュージカル客が押し寄せる。
リーランド市
サンミア市とはリーランド海峡で隔てられた、サンミア湾口の反対側の都市。西海岸最大の海軍拠点であるリーランド軍港が位置し、戦艦や巡洋艦が停泊している。
サンノゼ市
サンミア市の南にある周辺都市。
サンミア湾電鐵Bライン・サンノゼ線がサンミアとの間をつないでいる。
車両
サンミア湾電鐵
- ”リトル・フェアリー” - 三〇〇三号電車
- 車両担当運転士はメグ・クラックス。
「復興形電車」と通称される連接車で、白とライムの二色を纏う。その中身はサンミア湾電鐵唯一の超多段式自動進段制御を持ち、3つの三軸台車をあわせて1440馬力を叩き出す俊足のスプリンターである。 - ”ロケットマン” - 三〇二九号電車
- 車両担当運転士はマルコ・ルチアーニ。
震災による被災車両の部品を利用して製造された「復興形電車」の一員。「復興形電車」は白とオレンジに塗り分けられているが、”リトル・フェアリー”だけはとある事情で特別な塗装となっている。 - ”ネーム・レス” - 三〇〇八号電車
- 車両担当運転士はレオン・ジョーゼット。
以前の運転士が娘の名をつけていたことに遠慮したレオンにより暫定的に”ネーム・レス(名無し)”と呼ばれ続けていたが、ある出来事をきっかけに改めて名がつけられることとなる。 - ”チェック・メイト” - 九三五号電車
- 車両担当運転士を持たず、故障時の代車として残されているポール集電の旧型木造電車。
暗赤色の車体は30年ものの骨董品だけに老朽化が進み、若手の乗務員からは敬遠されている。
- ”プリンセス・フェアリー” - 二七七一号電車
- かつて”お芝居特急(ミュージカル・エクスプレス)”と呼ばれたトア・タクリスタ直通特急に充当されていた、白とライムのツートンカラーを誇る西海岸最速の特急電車。しかし12年前、サンミアを襲った大地震で被災し、車体大破の憂き目にあうことになる。
インズベル電鐵
- ”ストラト・ライナー” - 四五〇一号電車
- 車両担当運転士はスタン・パークス。
コルゲートを巻いた流線型のステンレス車体を銀に光らせ、サンミア唯一の電気笛を吹き鳴らす、サンミア・インズベル間の専用特急電車にしてサンミア湾電鐵最大のライバル。
関連動画
関連商品
関連項目
- 0
- 0pt