「お砂糖」とは、VRChatユーザーの間で使用されるスラングである。
概要
VRChat内において「恋人」「カップル」「パートナー」とほぼ同義の言葉として使われており、「X」(旧Twitter)内の検索で、2018年頃から使用されていることが確認できる。
元々、女性向け(TL、BL)同人界隈において、ラブラブなカップルやシーンについて語ることを「砂糖(砂)を吐く」と表現しており(甘すぎるという意味)。そのような関係自体は「お砂糖関係」「お砂糖」と表現され、この「派生した用法」がVRChatに持ち込まれ定着に至る。
用例
通常は「恋人」を指すが、恋愛感情無しで「特に仲が良く、恋人『のように』一緒に行動するパートナー」程度の関係でも「お砂糖」を用いるユーザーも居り、この言葉が指す対象は厳密に定まっていない。
「カップルになりました」と報告することを「お砂糖報告」と言ったりもする。
「別れる」ことは、お砂糖の逆という事で「お塩」と言う。(解消報告は「お塩報告」)
一対一の関係に限定せず、多人数で「お砂糖」関係になる場合もあり、「多糖類」と呼ばれたりもする。
「実際にはお砂糖関係ではない」ユーザー同士が「お砂糖のように振舞ってスクリーンショットを撮ったりする」ことを「人工甘味料」と呼んだりもする。「VRChat内のお砂糖なんて、しょせんどれも人工甘味料さ」と冷笑的なことを語る人もいるようだ。
2023年に「VRChatのユーザーのうち、どの程度の層が「お砂糖」と呼ぶべき関係性を体験したことがあるか」を探るというインタビュー企画が行われた記録がある[1]が、ユーザー100人に聞いて31人が経験があると回答したという。つまり、VRChatユーザーの中で「お砂糖」という関係性を築くのはどちらかと言うと少数派である。「突然のインタビューに回答してくれる」という時点である程度コミュニケーションに積極的なユーザーであると思われ、そしてコミュニケーションに積極的でないと「お砂糖」と呼ぶべき親密な関係には至りづらいであろう。つまり「お砂糖関係を築きやすい層が回答者であった」と想定され、おそらくVRChatの全ユーザー内の実際の割合としてはさらに低いものになるだろう。
研究者による考察
こういった特定のコミュニティの内部での文化については、そのコミュニティ内からの視点も重要だが、そのコミュニティ外部からの視点も俯瞰する意味で参考となる。
というわけで、学術誌『Comunifé』[2]に2022年に掲載された論文「Virtual “sweet relationships” in Japan: Navigating affection through technology. Communal practices, behaviors, and latent socio-cultural meaning」(訳例:「日本におけるバーチャルな「甘い関係」:テクノロジーを通してナビゲートされる愛情 コミュニティ内の実践や行動様式、そして潜在的な社会文化的意義」)を参照してみよう。同論文では、「お砂糖」についてこう説明している。[3]
A number of Japanese VRChat users practice “sugar” (osatō). The term implies a “couple acting cute with one another.”
(訳例:多数の日本人VRChatユーザーは「sugar」(オサトー)を行っている。この単語は「互いに可愛らしく振舞い合うカップル」を意味する。)
On the Japanese side of VRChat, some players pose as cute girl couples, celebrate their union in churches, buy matching rings, and pat each other on the head. The practice is called “sugar” (osatō), meaning a “sweet relationship in VRChat.”
(訳例:VRChatの日本人ユーザー間においては、可愛い女の子のカップルとして振舞い、彼らが結ばれたことを教会で祝福し、結婚指輪を購入したり、互いに頭をポンポンしあったりするプレイヤーらがいる。こういった行動は、「VRchat内における甘い関係」という意味で「sugar」(オサトー)と呼ばれる。)
VRChatより以前から存在したネットゲームなどでもバーチャルな恋愛関係を築くユーザーは存在していた(いわゆるネトゲ恋愛)ので、そう考えればさほど特殊な例ではないとは言える。
であるのに、あえて「恋愛」ではなく「お砂糖」というスラング(ジャーゴン)が用いられる理由としては、同論文では以下のように記している。
As jargon, “sugar” avoids bringing “vivid concepts of real-world romance to VRChat” and gives the impression of “lightness.” The partners are perceived by the “atmosphere” of a “sweet relationship:” it is “sweet, kawaī[cute and lovable] and soothing to look at,” expressing feelings beyond “real gender.” It is a “seasoning,” away to add “a little accent to your life.”
(訳例:「お砂糖」のジャーゴンを用いることは、「現実世界の恋愛の生々しさをVRChatに持ち込む」ことを回避することになり、また「軽さ」の感覚を与える。パートナーらは「甘い関係」の雰囲気で認識され、これは「甘く、カワイイ(可愛らしく愛らしい)で、観ていて癒され」るもので、「現実でのジェンダー」を超越した感覚を表出する。これは「あなたの人生に少々のアクセントを与える」ような「調味料」なのだ。)
Some sweet partners engage in “precious” (teetee) behavior, a slang form of “precious”(tōtoi).
(訳例:甘い関係のパートナーらは、「てぇてぇ」(尊い)行動様式をとる場合がある。これは「とうとい」のスラング形である。)
ところで、上記のような記述からは、この論文では「可愛い女の子のアバター同士での親密な関係」に重点をおいて解説していることに気づいただろうか。
「可愛い女の子のアバターのユーザー同士でなければ「お砂糖」とは呼ばない」というほど厳密に限定して用いられている用語と言うわけではないのだが、この論文の著者が観測できた限りでは「可愛い女の子のアバターを用いる男性同士」で築かれる関係性であることが多かったようだ。
When it comes to VRChat, there are heterosexual couples, those “who do not care about gender in the VR world,” those “who care about gender in the VR world and choose a partner of a specific gender” and “those who care about gender in the actual world but not in VR world.” However, “most couples are male-to-male in cute girl avatars.”
(訳例:VRChatにおいては、「VRChat内でのジェンダーは気にしない」あるいは「VRChat内でのジェンダーを気にして、特定のジェンダーのパートナーのみを選択する」あるいは「現実世界のジェンダーを気にするが、VRChat内でのジェンダーは気にしない」ような異性間カップルもいる。しかし、「ほとんどのカップルは可愛い女の子のアバターを使用する男性同士のカップル」である。)
可愛いアバターに身を包むだけでなく、可愛らしい動作(カワイイムーブ)で魅力を増すことを意識しているユーザーも多く、そのことが「お砂糖」の関係性が育まれる要因になっているとされる。
My informants are conscious of stereotypical gendered behavior, using it as a tool to craft an alternative identity and acquire desirability and healing. To appear “desirable” and “cute,” participants do kawaī moves such as “exaggerated movements like characters in an anime” or using “a lot of body language that Japanese people do not often use.” Users claim that kawaī moves “amplify the attractiveness of cute girl avatars,” “facilitate being liked by others,” and “help hack the sense of distance between us.” However, cuteness can cause doubt about the genuineness of their relationship: “it can be just me falling in love with him because he is using a female avatar” or “this love may not be possible if he was using a different avatar.” Nevertheless, in the end, “cute girls heal because they are kawaī.”
(訳例:私に情報を提供してくれたユーザーらは、もう一つのアイデンティティを作り上げ、好ましさと癒しを獲得するための道具として、ステレオタイプなまでにジェンダーを強調した振舞いをすることを意識している。「好ましさ」「可愛さ」をアピールするために、各人は「アニメキャラクターのように大げさな動き」または「日本人があまり使わないような豊富なボディランゲージ」を用いたりなどのカワイイムーブを行う。ユーザーらは、こういったカワイイムーブは「可愛い女の子のアバターの魅力を増幅する」「他者から好まれやすくなる」そして「私たちの間にある距離感をハックするのを助ける」と主張する。しかし、可愛らしさは彼らの関係性の純正さへの疑念をも引き起こしうる。「私が彼への恋に落ちたのは、彼が女性のアバターを使っていたからにすぎないかもしれない」あるいは「この愛は、もし彼が別のアバターを使っていたら不可能なものだったかもしれない」などといったような。それでもやはり、結局のところ「可愛い女の子は癒しである。なぜなら彼らがカワイイだから」なのだ。)
関連リンク
関連項目
脚注
- *「エンジンかずみ」氏による2023年6月17日の投稿動画、「【VRで恋人!?】VRChatプレイヤー100人のお砂糖経験率調査してみた【VRChat100人インタビュー】 - YouTube
」
- *ペルーにある大学「Universidad Femenina del Sagrado Corazón」(日本語で言うと「聖心女子大学」。日本にある「聖心女子大学」とは姉妹校)、略称「UNIFE」の翻訳通訳コミュニケーション科学部が出版している雑誌
- *Bredikhina, L. (2022). Virtual “sweet relationships” in Japan: Navigating affection through technology. Communal practices, behaviors, and latent socio-cultural meaning. Comunifé, 22, 53–62.
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