かんなぎ騒動とは、
2008年頃に話題になった、漫画『かんなぎ』のヒロイン・ナギが非処女であるとして処女厨が激怒し、ネット上を荒らしたり、ビリビリに破いた単行本を作者の実家に送りつけたりした為に、作者が倒れ連載休止に追い込まれたとされる騒動であるが、
非処女なんて描写は無いし、実際には破いた単行本なんて送られてないし、作者は全然関係ない病気である。
つまりデマである。
2ちゃんねるアニメスレが発生源でそれを2ちゃんねるコピペブログが利用した騒動。
概要
以下が騒動の主原因である。
- かんなぎの内容をヒロインが非処女に見えるように捏造した荒らしコピペ、画像が出回った
- 2ちゃんねるコピペブログがクリックさせたい為に捏造や荒らしを抽出して記事にし騒動を煽った
- タイミング悪く作者が急病で倒れた
- 多くの大手ニュースサイトが「ファンの誹謗中傷により休載に追い込まれた」と記事を書いた
- 信頼ある情報ソース(原作、公式発表)を踏まえずに騒動についての所感を述べるネットユーザーが大量に発生した
2ちゃんねるコピペブログや、伝聞、捏造コピペ、捏造コラ、2ちゃんねるの書き込みをソースとして扱うニュースサイト等から得た情報を根拠として「最近のけしからんキモオタ」について語った結果、肝心の原作の解釈は二の次になってしまい、結果根拠の無い情報を拡散させ、それを読んだ通りすがりが信じてしまう状況となった。
つまり、デマに騙された人がさらにデマを拡散させる事態になったのである。
かんなぎ騒動は「自覚的に誤情報を発信した者」と「自覚無しに誤情報を発信した者」の両者が居て引き起こされたものである。
ネット上で混乱が起きた場合、早急に訂正する事実を発表する必要がある。しかし、作者はくも膜下出血という大病であった為、早急に詳細な休載原因を発表することが出来なかった。原作は病気により中断してしまった為、騒ぎとなった第三十六幕はコミックス化出来ない状況が続いていたのも騒動が長く続くこととなった大きな原因の一つである。
デマの内容(以下記事の性質上ネタバレを含むので注意)
原作を常識的な読み方をすればそのような解釈には至らない。明確に非処女と描写する場面も一切無い。
第一話で「妾こそ産土神」「生きとし行ける者はすべて産土神から生まれるのじゃ」という台詞があるので、そもそも非処女かどうか議論する余地が無いキャラクター。
・どうして非処女ってことにされてるの?
2ちゃんねるには「恋人が居る・居た(かも知れない)」という描写があると「中古・非処女」とする文化があるから。一部の人たちですけどね。
・どんなシーンが原因なの?
大東というイケメンな重要キャラが登場するのだが、そいつがナギの元恋人だった?という台詞がある。(第三十六幕・コミックス7巻)
このシーンによって2ちゃんねるのアニメスレが大荒れになった(原作スレではない)。
内容を簡単に説明すると、読者をヤキモキさせる為のラブコメの王道展開である。恋人がいるかと思わせておいて後に誤解だと判明する内容。
この段階では先を読まないと何とも言えない。ストーリーが進むと、勘違いであったことが判明する。また、大東も仁の前世の姿であったことが判明する。
(全年齢向けのアニメや漫画に対する)処女厨とは、「ストーリーの流れとは関係無く、ヒロインと恋仲と思われる異性が存在すると中古(非処女)と断定して荒らす人々」。主に2ちゃんねる内に生息。彼らの言い分は嫉妬心を言い換えたものであるだろうから、言葉通りに受け取ると余計な混乱を招くことになる。オタク同士の間でも嫌われる事も多い。「現実の女性に対する処女厨」と、「エロゲーに対する処女厨」と同列に語ると齟齬が生じる。荒しの自覚無く、単に萌え談義の延長として女性キャラクターの処女非処女が議論になる事もある。この騒動に関しては荒し、釣り、煽り、ネタ、脊髄反射、考察、感想が混在していた。
騒動の原因となった2ちゃんねるアニメスレの書き込みの内容であるが、アニメ5話目が放送された後のタイミングで原作の最新話(36話)のネタバレが投下される所から始まり、初めは冷静に内容を解釈する動きもあったが、煽りの誘導によってナギが非処女か否かの話題に占領された荒れたスレへと変貌して行った。荒らし・煽りの内容は「中古・非処女の大合唱」、あるいは「原作を極端に解釈した感想を大量にコピペ投下」、「ナギが非処女に見えるように原作を滅茶苦茶な順番でコラージュしたものを投下」「原作を破いた画像をアップ」等といったものが含まれていた。書き込みの内容から察するに、原作の展開に怒っているというよりは「誰かを怒らせたいだけ」「感情を発露させたいだけ」であることが想像できる。つまり、正体としては釣り、あるいは釣られて脊髄反射的に書き込んだ者、ネットイナゴが大半であろう。原作の話題であるにも関わらず、原作スレは大して荒らされていなかった。
2ちゃんねるにおいて荒らしが出没するのは日常茶飯事であり、特に放映中のTVアニメのスレは人口が増える為荒らしも引き寄せやすい。しかし、2ちゃんねるコピペブログが「ナギが非処女疑惑でファンが発狂」という記事を乱立し、「行き過ぎたファンが原作の内容に怒っている」という文脈で荒れた書き込みを大量拡散した為に、騒ぎが変質して行った。
当時の大手2ちゃんねるコピペブログ「今日もやられやく」が非処女に仕立て上げた捏造コラをのみを抽出し「まとめ」と称して記事にしたのも混乱を大きくした。これらを鵜呑みにした者が、信頼ある情報ソースを二の次にして「オタクの貞操観念」「ヒロインが非処女であることの可否」「原作者はキモオタに負けて連載を止めるべきではない」「俺はナギが非処女でも気にしないよ(キリッ)」等の論を展開し始めた為、収拾がつかなくなって行った。
騒動から3年以上経った2012年の4月に、騒動の発端となったシーンが収録されたコミックス7巻が発売されると、アニメスレの住人は「読んだけど非処女じゃなかった」「なぜあんなに騒いだのか自分でも分からない」「作者には頑張って欲しい」などと手のひらを返し始める。
2ちゃんねるコピペブログも手のひらを返して好意的なまとめをアップした。
原作の内容に本気で怒っているファンが居るとすれば、7巻が発売されたタイミングで内容についての議論がさらに行われるはず。だがこれを機に騒動は沈静化してしまった。その後、恋人疑惑が晴れる展開や大東が仁の前世である展開が原作で発表されたが、その事について「ナギが非処女じゃなくて良かった」といった意見はなぜかネット上のどこにも見当たらない。
2ちゃんねるアニメスレへの投稿画像。多分、「下級生2」騒動の真似。
多くの2ちゃんねるコピペブログはかんなぎ単行本が破かれた投稿画像を抽出して記事に仕立て上げた。DVDを割る、本を破るといった行為は2ちゃんねるにおいては注目を集める手段として使われることも多い。投稿者によれば「作者の実家に送った」とのことだが、作者の実家の住所は公にはなっていない。しかし、騒動時は送られた事を事実として扱う者が後を絶たなかった。
作者HPの2012年4月28日付けの日記で「抗議するような物品は何も送られて無い」と作者本人が明言した。
・作者が心労で倒れた?
2012年4月27日に発売された7巻の巻末漫画と作者HPにて、病名はくも膜下出血であったことが発表された。HPの発表では「命に関わる大きな病気であったことと、回復に時間がかかったことで、すぐに病名をお伝え出来なかった」と語っている。また、翌日の日記では「ネット上が騒がしかった時は私はちょうどICUで長期間寝かされていた最中でしたのでどんな風に騒がしかったかすら全く知ることが出来なかった」と明かした。現在は不定期連載ではあるが、執筆を再開している。以下が経緯である。ネットで騒動が起こっている最中、タイミング悪く作者が急病で倒れてしまった。時期としては2008年11月初頭、話題となった三十六幕を仕上げた後である。ネット上では「騒動と関係があるに違いない」と、数多くのニュースサイトに取り上げられ、夕刊フジに記事が掲載される事態となった。 一ヵ月後の12月には出版社によってネット上の誹謗中傷とは無関係であり、手術と入院が必要な急病であることが発表された。
【08.12.12】『かんなぎ』休載につきまして
『かんなぎ』休載につきまして読者のみなさまにご心配をおかけいたしております。
武梨先生はREX12月号の原稿執筆後に突然急病で倒れられ、そのまま緊急入院となり休載のやむなきに至りました。その後手術も成功し、現在は順調に快方に向かっています。
「ComicREX」1月号の発売以降、「武梨えり先生が誹謗中傷によって休載した」という報道が一部でなされましたが、これは事実ではありません。
武梨先生は現在も入院中ではありますが、執筆の再開に向けて意欲を示しておいでです。
読者のみなさまには、武梨先生のご快癒をお待ちいただけますようお願いいたします。
基本的に「ネット上における作家への誹謗中傷に関して編集側が公式発表をする」事が異例な為、この発表は信頼の置ける情報と判断するのが妥当である。しかし、なぜかネット民はこの情報を華麗にスルー。
翌年4月以降更新された作者のHPでは「リハビリ」「最低でも1年の休養が必要」「つつみ隠さずお話して余計にご心配をかけるのもアレですので「無理がたたった末の大病」とだけ今のところはお知らせさせて下さい」と本人が語っていた。担当編集はコミックナタリーのインタビュー上で「これは単純な事実として、ネットで騒動が起きたときには、もうすでに武梨先生はご病気で入院されていたんですよ。だから騒動が休載の原因ということはありません。」と説明した。しかし、「誹謗中傷のせいで作者が精神的ダメージを負ったに違いない」という憶測が後を絶たなかった。
アニメから入ったファンと原作ファンの情報格差
騒動が起こった時期はアニメ放映中であった。2ちゃんねるのかんなぎ関係スレを比較してみると、
かんなぎアニメスレは「阿鼻叫喚」で、原作スレは「何その反応?( ´_ゝ`)アンチでもまぎれてんのかな…」といったかなりの温度差があった。
騒動を盛り立てたのは釣り師と原作未読者であることが想像される。
ちなみに原作3巻までの内容でアニメは最終回を迎えている。2期の制作を待ち望む声が多い。
2ちゃんねる文化の侵食とメディアリテラシーの低下
かんなぎ騒動は2ちゃんねるコピペブログが台頭して来た時期と重なる。現在においてはそれらを批判する言論もあるが、当時はまだ警戒心を抱くものは少なかった。当時多くクリックされていた2ちゃんねるコピペブログ「今日もやられやく」は捏造コラを抽出しまとめと称して記事にしたが、デマであることを指摘する声はほとんど見られなかった。さらに、J-CASTニュースやITmediaやZAKZAKなどにも記事が掲載されたが、これらは2ちゃんねるを情報ソースとして扱っていた。
2ちゃんねるは根拠の無い誹謗中傷や暴言(差別、不謹慎、卑猥な内容等)を投げつける快楽の連鎖といった発言が溢れる匿名掲示板であり、事実を示すソースとしては不適切である。
…とはネットを閲覧する上での常識だと考えられるが、騒動が大きくなった事実を見るにオタク界のメディアリテラシーの低さが露呈したと言えるだろう。
なぜかんなぎだけが?
ネット上では、「非処女といえばかんなぎ」という人が多く居る。
ところが、騒動の発端となった描写は他の漫画にも多く見られるもので、内容の酷さ=騒ぎの多きさではない。なぜかんなぎだけがこんなに騒がれてしまったのか。
原因は上記のように複数あるが、アニメかんなぎが元々スキャンダルを好む人々に目をつけられていた作品だったからだろう。監督を務めていた山本寛氏(通称ヤマカン)は他作品の批判をするなどの歯に衣着せぬ言動で有名であり、アンチやウォッチャーが多くついていた。後者の最大手の一つが2ちゃんねるコピペブログ「今日もやられやく」(現「やらおん!」)であり、捏造画像を記事にした騒動の火付け役である。ヤマカン監督アニメ作品である「らき☆すた」は途中降板という珍しい形を取っていて、スキャンダルを好む人々からはその時の京アニの公式コメントが多くの推測と共に注目を集めていた。当時は京アニがカリスマ的人気を誇っていた為、京アニ出身者であるヤマカンにも多くの注目が集まっていたのである。そういった騒ぎの中、次回作となったのが「かんなぎ」だった。
それらの下地に加えてタイミング悪く作者が重病となった為、異常に騒ぎが大きくなってしまったのだ。
ちなみに「やらおん!」は2017年3月24日にかんなぎについての記事を書いており、「誰だよナギ様非処女とか騒いだ奴は」「おめぇだよ」というAAを残している。
まとめ
情報の出所を確認しないと、かえって迷惑がかかるよ、という話。
アニメから入ったファンだが原作を読む気はない、しかし騒ぎには一言言いたい。そんな層が騒動の主役であった。
大量の憶測が事実を塗り潰してしまったという事例。
今回の問題に怒りを覚えた方へ
2ちゃんねるアニメスレの1人の煽りの書き込みから騒動は始まった。
多くの人が騒いだり慌てたり怒ったりしている状況を見て彼は今頃ほくそ笑んでいることだろう。
また、それを利用してアクセス数を稼いだ2ちゃんねるまとめサイトも同じ。
これに対抗する手は一つ。
「それデマだよ」でスルーし、荒れた書き込みの代わりに「かんなぎ面白いよ」と語りあえばいい。
怒りを利用する人達の傀儡にならないように。
関連項目
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- 0pt
https://dic.nicovideo.jp/t/a/%E3%81%8B%E3%82%93%E3%81%AA%E3%81%8E%E9%A8%92%E5%8B%95