「さようなら、水星のお上りさん。」とは、アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第17話において、ミオリネ・レンブランが最後に発した言葉である。
一連の流れ
学園のホルダーであるスレッタ・マーキュリーはミオリネ・レンブランの婚約者となる権利を持ち、ミオリネが17歳の誕生日を迎えるのを待っていた。その直前、ミオリネからグエル・ジェタークと決闘するように言い渡される。これはミオリネにとって誕生日に欲しいものが『勝利』だった、というのは建前。
誕生日当日に決闘を用意した目的は、スレッタがエアリアルから降りるよう仕向けることだった。
その方法はエアリアルにバックドアを利用した強制シャットダウンのシステムを仕込み、アプリとして動作出来るようにしたこと。アプリはスレッタが製作したキーホルダーがアイコンとなっており、彼女は何の疑問も無く学園の端末にアプリを導入した。
結果、エアリアルはスレッタに「ごめんね……」と告げて動かなくなり、決闘はグエルの勝利で幕を閉じる。
「ごめんなさい。私……エアリアル……突然、動かなくなっちゃって……その……」
「知ってる。」
「え?」
「だって私がやったから。」
「どう……して……」
「アンタに負けて欲しかったからよ。いい弾除けになったわ。」
ミオリネはキーホルダーを返した上で、動揺するスレッタを無視してホルダーを剥奪。
悲鳴を上げた彼女にこう告げるのだった。
「さようなら、水星のお上りさん。」
解説
ここまでの流れだけだと、ミオリネが婚約者であるスレッタを一方的に見捨てたように見える。
しかし、そうせざるを得ない要素が幾つも重なってしまったのだ。
- スレッタについて
第1クールの12話におけるプラント・クエタの一件(⇒なんで......笑ってるの? 人殺し......)やそれに対する第2クール16話でのスレッタとミオリネの会話からも分かる通り、スレッタの倫理観は母親であるプロスペラ・マーキュリーへの妄信が根底にある。- 特にガンダムで人を殺したことについては、12話で母親から「逃げたら1つ、進めば2つ」の教えで丸め込まれてしまう。16話の時点で、(後悔が全く無いわけではないが)母親が言う事なら殺人をも肯定する事に変わりはなく、プロスペラの操り人形と化していた。これは一時的な問題ではなく、幼少期からそう教え込まれたものであるため、そう簡単に治らない。
- 一方で、スレッタが真っ直ぐ進む精神そのものは、確かにミオリネやグエルらに良い意味で影響を与えたのも確かである。
- デリングについて
ダブスタクソ親父……でお馴染みのデリング・レンブランは、密かにGUNDフォーマットを用いた研究をしていた。それが『クワイエット・ゼロ』である。- クワイエット・ゼロは、「GUNDフォーマットを用いて全兵器の掌握、戦争の無い世界」を目的としている。この計画は、デリングの妻(=ミオリネの母)であるノートレット・レンブランが提唱したものでもある。
- しかし、既存の兵器が無意味になってしまうため、軍需企業(=御三家)にとっては相容れないものである。そもそも、GUNDフォーマットの研究自体、御三家を主体とした『モビルスーツ評議会』によって凍結に追い込まれていた。
- それに対し、デリングは『監査組織カテドラル』を立ち上げることでGUNDフォーマットを禁忌に指定、他のGUNDフォーマット研究を徹底的に潰すことで、夫婦の研究を秘匿した。
そして、地球での情勢不安から、グループは次期総裁を選出する必要があった。 - プロスペラについて
ミオリネを動かした最大の要因。クワイエット・ゼロでデリングと組み、秘密裏にエアリアルを開発。
その上で、クワイエット・ゼロの内容をミオリネに明かすことで、両親の研究を守るよう仕向けた。
- 「シン・セー開発公社」やミオリネが設立した「株式会社ガンダム」はクワイエット・ゼロのカモフラージュとしての役割を担っていた。
- スレッタを学園に入学ささせたのも、安全上のリスクが低い決闘を通してクワイエット・ゼロに必要なデータ蓄積を行っていたから。入学そのものはあくまでスレッタ自身の意思だが、そう仕向けるよう教育したのもプロスペラだ。
- プロスペラの目的は娘のエリクト・サマヤにある。水星の過酷な環境に耐えられなくなったエリクトはGUNDフォーマット(ルブリス⇒エアリアル)の中でしか生きられなくなってしまった。そして、エリクトが自由に生きられる世界を作るため、復讐相手であるはずのデリングと手を組むことにした。
- クワイエット・ゼロの実現には高密度のパーメット粒子(=高い『パーメットスコア』の実現)が必要なのだが、プロスペラはベルメリア・ウィンストンに対し、「パーメットスコアが8に到達、クワイエット・ゼロでデータストームの領域を広げればエリィは自由に生きられることが出来る」と発言している。
- プロスペラの行動の原動力は夫・仲間・恩師を死に追いやった者達への「復讐」と「娘(エリクト)が自由に生きられる世界の実現」にある。
元々ミオリネは総裁になるつもりは無かった。そこで、21年前の『ヴァナディース事変』を持ち出し、「復讐」という動機があることをミオリネに伝える。これに対しミオリネは、「スレッタを復讐に巻き込まないで」と花婿の身を案じていた。母に忠実なスレッタが復讐に協力することは容易に想像出来た。 - ミオリネの決断
以上のことから、「スレッタをプロスペラの復讐に巻き込まない」かつ「自身が総裁になる」ためには この4点を満たしつつ、決闘に挑む動機を用意することが可能だったのが、ジェターク社再起を模索するグエルだった。
彼は決闘するつもりは無かったが、自身の計画とプロスペラについて話したことで納得したようだった。
この時ミオリネは「あの子には幸せになって欲しいの。ガンダムとか、何にも縛られない世界で……」と本心を露わにしたが、グエルは自ら出奔した時の経験から「そんな世界は無いよ。」と暗に否定している。
備考
- 今まで「逃げたら1つ、進めば2つ」の教えを守っていたスレッタだったが、今回の敗戦でホルダーの座を失うばかりか、エアリアルも決闘の対価として奪われ、ミオリネにも見捨てられたことで「進んだことで多くのものを失う」ことになった。仕組まれたものではあるが、これにスレッタがどう動くかが今後の展開の鍵である。
- 「お上りさん」は「田舎者」といった蔑称の意味が込められている。
- 第1話での「よろしくね、花婿さん。」と台詞が対になっている。
関連動画
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関連項目
- 機動戦士ガンダム 水星の魔女
- ミオリネ・レンブラン - 主導者
- グエル・ジェターク - 協力者
- プロスペラ・マーキュリー - 黒幕
- ベルメリア・ウィンストン - 黒幕の協力者
- エアリアル - 仕組まれた側だが、彼女の意思でもある。
- スレッタ・マーキュリー - 仕組まれた側・全てを失った少女だが……
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