「やめな…さい!」
「よっ、ん、ほっ、うわっ!」
「へへへ、締まらないな~」
「助けに来たよ、ミオリネさん!」
「……なんで……笑ってるの?」
「え?」
「人殺し……」
概要
「なんで......笑ってるの? 人殺し......」とは、アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第12話Cパートにおいて、ミオリネ・レンブランが最後に発した言葉である。また、この記事では前後にスレッタ・マーキュリーが発した言葉である「やめな…さい!」についても取り扱う。
一連の流れ
負傷したデリング・レンブランを運んでいる最中、ミオリネはデリング暗殺を目論むテロリストと遭遇してしまう。
万事休すと思われた直後、ガンダム・ルブリス・ウル、ガンダム・ルブリス・ソーンとの戦闘を終えたばかりのスレッタが、ガンダム・エアリアルに乗って外壁を破壊しながら登場。ミオリネを助けにやってくる。
それでもテロリストは死なばもろともでミオリネ達を殺そうとしたため、スレッタはエアリアルを使って止めるのだが……なんと、「やめな…さい!」と言いながらそのテロリストをハエ叩きの要領で思い切り押し潰してしまう。
当然ながら、周囲には大量の血飛沫が舞い、テロリストの手はちぎれてミオリネの方まで飛んでいく始末であった。衝撃的な光景を前に、ミオリネは一歩も動くことができず、返り血を全身に浴びてしまう。
そんな中、スレッタは「締まらないなぁ」と言いながら、コックピットから転げ落ちてくる。そして、エアリアルの手と同様に返り血で真っ赤に染まった手を差し出してミオリネに「助けに来たよ、ミオリネさん」と一言。
人を殺した直後だというのにうろたえる様子は無く、笑顔でいるスレッタに対して、ミオリネは「なんで……笑ってるの?人殺し……」と言い放つのであった。
解説
- 言葉の順序で若干わかりにくくなっているが、ミオリネはスレッタが人を殺したことを非難しているわけではなく、人を殺した直後なのに笑顔を見せていることにドン引きしている。
- あまりに衝撃的なシーンであり、スレッタの倫理観が狂っているように思えるが、彼女も最初から人を殺すことに抵抗が無いわけではない。スレッタはこのシーンの前に、母親であるプロスペラ・マーキュリーに洗脳説得されており、その結果このような行動に至ってしまった。
- その洗脳説得シーンは、エアリアルの格納場所に近づいたスレッタを始末しようとしたテロリストを、プロスペラらが射殺した直後のシーンである。目の前で人が死んだことに対して、スレッタは大きく動揺していたが、プロスペラは今作のキーワードである「逃げたら一つ、進めば二つ」という言葉を持ち出して手を差し出す。これにスレッタは言いくるめられてしまい、人殺しに対する枷が外れてしまった。スレッタは母親を妄信しており、以前から母親に無条件に従うきらいがあったが、それが最悪な形で現れたと言えるだろう。
- 一方のプロスペラは、母親という子供を最優先に守るべき立場にいるのにも関わらず、娘に殺人の一線を超えさせるという、親として最もやってはならないことを行っている。スレッタが純粋に親の言うことを聞きすぎるのも問題に思えるが、そもそも、そういった風にスレッタを育てたプロスペラに責任があると言えるかもしれない。
- ただ、テロリストを殺したことが間違いだったと言い切ることもできない。ミオリネが遭遇したテロリストは「死なばもろとも」の覚悟で襲おうとしたのに加え、ビーム等の攻撃はミオリネを巻き込んでしまう可能性があるため、テロリストを躊躇いなく押し潰したのは、ミオリネやデリングを救うためには最善手だったとも言える。だからこそ救いようがないのだが……
- もしスレッタがプロスペラの言葉に従わず逃げた場合は人殺しに対する精神の歪みに陥る事は免れても、ミオリネやエアリアルを失う事態になっていた可能性が高い。その事を考えても進まざるを得なかったのだが、この結末がスレッタにとってのモットーである「逃げたら一つ、進めば二つ」は「呪い(まじない)」であると同時に「呪い(のろい)」であることを強く示している。
- アド・ステラにおけるガンダム(GUND-ARM)は「呪いのMS」と呼ばれ、忌避される存在である。ミオリネは株式会社ガンダムを立ち上げ、地球寮の仲間と共にその呪いを克服しようとしていた。GUND技術を医療に活かす取り組みや、ガンダムが殺人マシーンであるというイメージを払拭しようと努力していた矢先に、ガンダムで生身の人間を殺すというのは、ガンダムは呪いのMSであることを肯定してしまい、会社の努力に水を差す行為だとも捉えられる。
- この一連のシーンには様々な対比構造が存在する。
反響
- この衝撃的なラストは大きな反響を呼び、Twitterのトレンドをガンダム関連のワードが埋め尽くすことになった。
- 水星の魔女は、女性主人公や学園物といった今までのガンダムシリーズにはあまりない新要素を盛り込み、新規の視聴者を獲得することを狙いに作られた作品であった。学園でのMS同士の戦いは、安全対策がきちんとなされた”決闘”という形で行われており、プロローグ及び6話以外では作中人物の死亡描写は殆ど無く、学園物のストーリーをなぞったシナリオであった。
- MSという兵器で戦うガンダムシリーズにおいては、主人公が殺人に手を染めざるを得ない状況であることは多い。しかし、水星の魔女は先に述べたように学園物としてストーリーが進行しており、第一クールの最終回のCパートで、MS同士の戦いでは無く生身の人間を、母親に言いくるめられる形で殺してしまい、なおかつそれに対する後悔を全く見せないという展開は、過去作以上の衝撃を与えることになった。
- 例えば、2022年公開の機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島では、アムロ・レイがガンダムの足でジオン兵を踏み潰すシーンがある。しかし、この時はアムロも敵兵もれっきとした軍人であるため、命のやりとりが発生することは当然であり、ジオン兵に逃げられると、増援を呼ばれる可能性もあった。そして何より、アムロは踏み潰したことに対してネガティブな反応を示しており、「アムロでも潰した時はもうちょっと嫌そうな顔をしてた」という声が上がった。
- また、殺人を躊躇わないガンダム主人公として挙げられる三日月・オーガスでも殺人を肯定しても忌避すべきものだとは理解していて、手が汚れているのなら握手はするべきではないという常識も持っている。これらにより歴代のガンダム主人公と比較してもスレッタの行動の異質さが際立っているのもインパクトの大きさに繋がっている。
- 水星の魔女はスレッタとミオリネの2人の関係を重点的に描いた作品でもあり、11話ではスレッタとミオリネがお互いの気持ちをさらけ出し、抱き合うシーン(百合展開)がある。それにも関わらず、2人の距離が縮まったその次の話で、人を殺したのに笑顔のスレッタと、惨殺を目の当たりにして同様しているミオリネの間には大きな軋轢が生まれてしまった。このような「上げて落とす」展開に衝撃を受けた視聴者も多かった。
- MSという兵器で戦うガンダムシリーズにおいては、主人公が殺人に手を染めざるを得ない状況であることは多い。しかし、水星の魔女は先に述べたように学園物としてストーリーが進行しており、第一クールの最終回のCパートで、MS同士の戦いでは無く生身の人間を、母親に言いくるめられる形で殺してしまい、なおかつそれに対する後悔を全く見せないという展開は、過去作以上の衝撃を与えることになった。
- この時のスレッタは母という名のゆりかごに囚われた事で壊れたロボットのようにプロスペラを妄信していると言ってもいい状態であり、ロボットという出自故当初は無機的な態度が強かったものの仲間との交流を通じて人間的なパーソナリティを確立していったキャプテンガンダムとは対照的である。とはいえまだ折り返しの段階。今後スレッタが辿る道は彼女自身や仲間たち次第でいかようにも変わる余地がある。果たして今後待ち受ける結末とは…?
- OPを歌うYOASOBIは「祝福などと言っている場合ではないんですが...」とツイートしている。
- 水星の魔女は、女性主人公や学園物といった今までのガンダムシリーズにはあまりない新要素を盛り込み、新規の視聴者を獲得することを狙いに作られた作品であった。学園でのMS同士の戦いは、安全対策がきちんとなされた”決闘”という形で行われており、プロローグ及び6話以外では作中人物の死亡描写は殆ど無く、学園物のストーリーをなぞったシナリオであった。
- このシーンにおけるスレッタは、どこかコミカルな演出がされているが、それがこのシーンの印象を強めている。スレッタ役の市ノ瀬加那はこのシーンにおいて、怖さを引き立たせる為に音声だけ切り取ればギャグ調に聞こえる様な明るい演技を指示されていたらしい。ラジオでは「ゾッとした」とアフレコの時の心境を明かしている。
- 元々12話の放映予定はよりにもよってクリスマス真っ最中の12月25日だったのだが、TBSの報道特番や年始特番の影響で放送日が遅れ、実際には1月8日に放送されることとなった。延期発表当時はTwitter民から非難の声があがっていたが、いざ12話が放送されると逆に感謝の声に変わったとか。
- 今作は菓子のエアリアルとコラボしているが、「12話を見た後だとフレッシュトマト味の意味が変わる」として「フレッシュトマト味」がトレンド入りする事態となった。
- 12話の脚本はトラウマエピソードとして有名な『コードギアス 反逆のルルーシュ』STAGE22「血染めのユフィ」を担当した大河内一楼であったため、否が応にもあれを思い起こしてしまった視聴者も少なくない。
その後
第二クールの16話にて、スレッタとミオリネはこのシーン以降の再開を果たす。再開までにしばらく時間があったことで、ミオリネも気持ちに整理がついたのか、スレッタに助けてくれたことの感謝と、突き放してしまったことへの謝罪を示すが、それと同時に「助けてくれたのはわかってる。でも、人をぺしゃって殺しちゃって……私は笑えない。正しくても、笑っちゃいけないよ!」と言葉をかける。
しかしスレッタは、”お母さんの言う通りに人を殺したことで、ミオリネらを助けることができた”と思いこんでおり、母親への盲信は全く直っていない。それどころか、ミオリネの「あんたが母親が言うなら、ガンダムで人を殺すの?」という問にも、(多少の間はあったが)「はい」と答えてしまう。人を殺したこと自体への後悔が全く無いわけではないが、スレッタはそれ以上に母親の言うことの方が優先であり、自らの意思を持たない、いわばプロスペラの操り人形のようなものであった。
娘を操り人形のように育て、扱うプロスペラに対してブチギレしたミオリネは、プロスペラにカチコミをかけるが……
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関連項目
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