概要
2006年6月に刊行されたSF小説。著者は山本弘。
2009年には文庫版が発売された。
普通の作品とは違い、本筋のストーリーと直接の関係が無い短編ストーリーがいくつか登場し、ストーリーも短編集のような形で進行するが、これは作者・山本弘が過去に製作してきた作品を短編集として纏めたいと考えていたところ、『いずれの作品も人工知能や仮想現実についてを扱った内容』『全ての作品が「私」という女性(主人公)による話』といった共通項から「これって上手くまとめれば一本の長編にできないか?」と考え、『アンドロイドのヒロインが人間の主人公に対して、フィクションストーリーを語って聞かせる』形式の物語が出来上がったという。
その結果、作中では時代も思考も性格も異なる、複数の女性(女性格?)によって物語が語られる。
また、タイトルの「アイ」という言葉にも下記に示すような複数の意味合いを与えられており、作中でも重要な意味を持ってくる。
そして、作者が「泣ける話」「僕自身、自分で書いてて泣いた」と評している通り、本書を読んだ多くの読者達に支持を集めているほか、作者の持つ人工知能やアンドロイド(ロボット)に対する考えも所々に見え(AI同士の会話や、人間の矛盾だらけの思考を理解しようとするロボットなど)、これらに対する既存のイメージを一変させられた方もいるのではないだろうか。
ストーリー
人類が衰退した、遠い未来の話。かつて過去にマシンが人類に反旗を翻した結果現代ではマシン達が世界に台頭し、人類はマシン達に抵抗しては細々と生きている世界。
そんな世界で、ヒトが地球の支配者だった頃の古い物語を、字が読めない人々に語って聞かせることから「語り部」の名前で呼ばれる主人公『僕』は、マシンたちの輸送列車を襲撃して日用品や食料を盗み逃げ帰る最中に少女型アンドロイド『アイビス』に捕えられてしまう。
やがてロボットの医療機関で治療を受ける『僕』に、アイビスと名乗るアンドロイドは「人工知能や仮想現実を題材とした」架空のストーリーを語って聞かせるのだった。
「『僕』が望まない限り、歴史上の事実は語らない」と述べながら、物語を語る彼女の真意は何なのか?
宇宙をぼくの手の上に
架空の宇宙船と、自身(会員達)を投影したキャラクターを題材としたリレー小説を執筆しているSF創作サークル『セレストリアル』。本作の「私」は、同サークルを主宰するOL。
ある時、私の自宅を刑事が訪れる。「サークルの会員である少年が殺人を犯した」という驚愕の事実を聞かされた私は、逃亡中の彼を救うべく、サイトに公開中の小説を通して呼びかける。
ときめきの仮想空間
現実と全く違わない仮想体験ができるヴァーチャル空間「MUGENネット」。
本作の「私」は、そのネットワーク内の商店街でウィンドウショッピングを楽しんでいる16歳の少女。
(仮想現実という発想や「私」にまつわるネタバレ設定→(仮想世界の中ならば目が見える、盲目の少女)など、
現代でいうとソードアート・オンラインが世界観としては近いだろうか。)
ネットワーク内の書店で立ち読みをしていると、「私を以前から見ていた」という昴と名乗る少年にナンパされてしまう。それがきっかけとなって、私は彼を仮想世界の中のゲーム「ドリームパーク」へと誘うのだった。
ミラーガール
魔法の鏡越しに異世界から会話をしてくれる鏡の国のお姫様、という設定のAI搭載式玩具『ミラーガール』。
本作の「私」は9歳の誕生日に父から贈られた『ミラーガール・シャリス』と話すのが好きな女の子。
母親を失って悲しみに暮れていた私にとってシャリスは唯一無二の親友であり、「彼女が現実に存在しない」架空の存在である事を知った上で、シャリスを「一人の女の子」として接し、友情を育んでいった。
やがて時は過ぎ私は大人に成長し、シャリスは・・・
ブラックホール・ダイバー
銀河系から7000光年離れた宇宙の果てに存在する巨大ブラックホール「ウペオワドゥニア(この世の果て)」。
本作の「私」は、そのウペオワドゥニアを何千年に渡って観測し続けている無人宇宙ステーション「イリアンソス」の管理AI。
定期的に観測したデータを発信する以外に誰かと接触する事は殆ど無く、これまで会ってきた多くは「ブラックホールの先の別世界に希望を見出し」ブラックホールに身を投げる狂信者や自殺志願者達だった。
そんな中、シリンクルと名乗る少女がステーション・イリアンソスへやって来る。「ブラックホールへ飛び込む為」という目的はこれまでの人々と一緒だが、彼女は彼らとは何かが違ったようだ。
正義が正義である世界
本作の「私」は、メル友の「冴子」とメールを交わす事を楽しむ女子高生。
ある日、冴子から「私は実はあなたと同じ世界の人間ではない」というメールが届く。
そして「私(冴子)たちの世界は滅びかけている」という謎めいた奇妙な内容のメールが次々と届き、それらの内容からすると「冴子の住んでいる世界は物理法則から何からがまるで異なる異世界」であるようだ。
それを読んだ私は、冴子へメールを返信する。
「そんなひどい事をする悪者ってどんな奴?大体、あなたの世界のヒーローは何やってるの?」
詩音が来た日
本作の「私」は、老人保健施設で働く看護師。
ある時、勤め先の看護施設に看護用アンドロイドの試験機「詩音」がやってきた。そして私は詩音の教育係として任命されるのだが、ロボットである詩音との接し方や「介護というデリケートな仕事がロボットにできるだろうか」という考えに悩む中、詩音は様々な人々と接し経験を積んで、驚くべき早さで精神的成長を遂げていく。
上記で紹介した作品とは異なり、後述の「アイの物語」共々、本書の執筆にあたり新規に書き下ろされた作品。
また、著者・山本の妻は老人保健施設で看護師を務めていた経験もあり、本作の執筆にあたり介護活動の体験談や苦労話をストーリー内容へ反映させたり、書き上げた内容を推敲してもらったり(そしておかしな部分を手直ししてもらったり)と、様々に協力してもらった事を自身のサイトの中で述べている。
アイの物語
本作の「私」はアンドロイド『アイビス』。
上述の幾つものストーリーを通して「ヒトとマシンの間で何があったのか、真実を知りたい」と望み始めた僕に、彼女はフィクションではない真実の物語を、彼女にとっての「私の物語」を語りだす。
時は2040年代。なぜ彼女は生み出されたのか。そして彼女たち「マシン」はなぜ創造主たるヒトに反逆を決意したのか。僕がこれまで知らされなかった、歴史上の真実が語られる。
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関連項目
- SF
- 山本弘
- 涙腺崩壊
- 小説作品一覧
- アイ(愛 / AI / i)
- 世界の中心で愛を叫んだけもの
- 去年はいい年になるだろう
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