アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ(AD&D)とは、TRPG ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)のシリーズの1つ。
概要
発売までの経緯
ダンジョンズ&ドラゴンズの初版は1974年に発売された。この版は主にウォーゲームの狭いコミュニティを想定していたこともあって、箱入りのルールブック三冊だけではゲームとして成立しないという、現在から見ると特異な代物だった。
具体的には、同作者ゲイリー・ガイギャックスによるミニチュア・ウォーゲーム『Chainmail』とアバロンヒルの『アウトドア サバイバル』が要求されており、とくに『Chainmail』は戦闘を処理するために必須であった。
この状況はサプリメントと呼ばれる書籍を順次発売しルールを足していくことで解消されていったが、今度は様々なルールが複数の本に分散してしまうという問題を招いた。
ダンジョンズ&ドラゴンズの予想外のヒットを受けて、ガイギャックス以下TSRのスタッフは、サプリメントおよびDragon誌などに掲載されたルールを統合、トーナメントでの使用も見越した新版に取りかかった。
この版はアドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズと銘打たれ、まず1977年に『モンスター・マニュアル』、1978年に『プレイヤーズ・ハンドブック』、1979年に『ダンジョンマスターズ・ガイド』が順次刊行された。
すでにマニアの間では人気を集めつつあったD&Dだが、この一連の出版を経た1979時点で、若者の失踪事件の原因として槍玉に挙げられるなど(良くも悪くも)社会現象となるほどの知名度を得るに至った。
同時にRPGというジャンルも本格的に確立され、ますます多くのフォロワー、そして影響を受けたコンピューターゲームなども商業ベースに現れつつあったのである。
その内容
1987年に改訂版となる第2版が発売されたため、70年代後半からの一連のルールは第1版(AD&D1e)と呼んで区別される。
この第一版は前述の通り、それまで分散していた様々なルールを整理統合するものとして意図されていたのだが、実際には整理されているとは到底言い難い、なかなかに混沌とした内容であった。
目次にない項目や、脈絡のない位置に重要な情報があるのは日常茶飯事、クリティカルヒットやモンスター種族の項ではガイギャックスからのダメ出しが長文で差し込まれ、ゲームの核のひとつでもある戦闘ルールが解読不能であるなど、その煩雑さは著者のややこしい文体も相まって非常に悪名高い。
どうややこしいのかの例として、この記事の編集者が個人的に引っかかった箇所を載せよう。以下の文は魔法使い(マジックユーザー)がスペルブックに記録できる呪文の「最少数」について説明した部分である。この文章は前にある別の文章を参照しているのだが、仮にその部分を読んでもまったく分かりやすくはならない。
Minimum Number of Spells/Level states the fewest number of spells by level group a magic-user can learn. If one complete check through the entire group fails to generate the minimum number applicable according to intelligence score, the character may selectively go back through the group, checking each spell not able to be learned once again. This process continues until the minimum number requirement has been fulfilled. This means, then, that certain spells, when located, can be learned — while certain other spells can never be learned and the dice rolls indicate which ones are in each category.
Example: The magic-user mentioned above who was unable to learn a charm person spell also fails to meet the minimum number of spells he or she can learn. The character then begins again on the list of 1st level spells, opts to see if this time charm person is able to be learned, rolls 04, and has acquired the ability to learn the spell. If and when the character locates such a spell, he or she will be capable of learning it.
「スペル/レベルの最少数」はマジック・ユーザーが学習できるレベルグループごとの呪文数の最小を示している。グループ全体をチェックしても知力点に応じた最少数を生成できない場合、キャラクターは選択的にグループを戻り、学習できなかった各呪文を再度チェックすることができる。この手続きは最少数が満たされるまで続く。つまり、ある呪文は見つけたときに学習できるが、他のある呪文は学習できない。ダイスロールは各呪文がどちらのカテゴリに入るかを示す。
例:チャーム・パーソンのスペルの学習に失敗した上記のマジック・ユーザーは、彼または彼女が学習できる呪文の最少数も満たせていない。その後、キャラクターはレベル1呪文のリストから再び始め、チャームパーソンを今度こそ学習できるか確認することを選び、04をロールすると、呪文を学習する能力を獲得する。キャラクターがそういった呪文を見つけたときには、彼または彼女はそれを学ぶことができる。)
おおよそ本全体がこの調子で展開されるが、プレイヤーズ・ハンドブックは情報が絞られているのでこれでもマシで、ダンジョンマスターズ・ガイドは、もはやそれ自体がダンジョンと化していると言っても過言ではない代物である。
ルール関連書籍
- Monster Manual (1977)
- Player's Handbook (1978)
- Dungeon Master's Guide (1979)
- Deities & Demigods (1980)
- Fiend Folio (1981)
- Monster Manual II (1983)
- Oriental Adventures (1985)
- Unearthed Arcana (1985)
- (以下は第2版との中間期のもの)
- Dungeoneer's Survival Guide (1986)
- Wilderness Survival Guide (1986)
- Manual of the Planes (1987)
- Dragonlance Adventures (1987)
- Greyhawk Adventures (1988)
後世への影響
上述のような分かりづらさ、編集の不十分さはあったとはいえ、3冊の本に含まれた(現在の視点からも)膨大なファンタジー関連の情報量、そしてそのコンセプト自体斬新なルールによって、アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズはアメリカのオタクたちのバイブルとなり、後のファンタジージャンルに多大な影響を及ぼした。ファンタジーとゲームの歴史を語る上で避けては通れない呪い存在である。
例として、ヒットポイントという用語はD&Dの発明である。ヒットポイントが何をあらわす値なのか、プレイヤーズ・ハンドブックにおいて、恒例のガイギャックス節で説明されている。
Each character has a varying number of hit points, just as monsters do. These hit points represent how much damage (actual or potential) the character can withstand before being killed. A certain amount of these hit points represent the actual physical punishment which can be sustained. The remainder, a significant portion of hit points at higher levels, stands for skill, luck, and/or magical factors. A typical man-at-arms can take about 5 hit points of damage before being killed. Let us suppose that a 10th level fighter has 55 hit points, plus a bonus of 30 hit points for his constitution, for a total of 85 hit points. This is the equivalent of about 18 hit dice for creatures, about what it would take to kill four huge warhorses. It is ridiculous to assume that even a fantastic fighter can take that much punishment. The same holds true to a lesser extent for clerics, thieves, and the other classes. Thus, the majority of hit points are symbolic of combat skill, luck (bestowed by supernatural powers), and magical forces.
(大まかな訳:
モンスターと同じように、キャラクターのヒットポイントは様々である。これらヒットポイントはキャラクターが殺される前に、どの程度の(実際あるいは潜在的)ダメージに耐えられるかを表している。ヒットポイントの内のある量は、耐えうる物理的な処罰を表す。一方、高レベルにおけるヒットポイントの大部分は、熟練、幸運、および、あるいは魔法による要因である。
典型的な兵士は殺される前におよそ5ヒットポイントのダメージに耐えうる。それでは、55ヒットポイントを持ち、耐久力から30ポイントのボーナスを得た合計85ヒットポイントの10レベルファイターを仮定してみよう。これは約18ヒットダイスのクリーチャー、4頭の巨大な軍馬を殺すために必要な量と同等である。たとえ驚異的な戦士でも、ここまでの処罰に耐えられるなどというのは馬鹿げている。これは比較的弱いクレリック、シーフ、その他のクラスにも同じように当てはまる。したがって、ヒットポイントの大部分は戦闘能力、(超自然の力によって授けられた)幸運、そして魔法の力を象徴しているといえる。)
ヒットポイントに次いで、レベルもまたD&Dの概念であり、もともとは各クラスの経験による成長と社会的な地位を同時に表すものだった。(ネームレベルと呼ばれるレベルに達するとそのクラスが「完成」し、砦や魔法の塔を所有可能になり、それ以後の能力の向上が少なくなる)
能力値と種族の兼ね合わせによるレベルキャップも存在するが、追加ルールでこの上限が引き上げられたりする様はMMORPGの展開を思わせるものがある。
コンピューターゲーム方面では、アイテムのランダム出現テーブルを使ったアイテム狩りの影響も多大である。
またそれに関係して、ダンジョンマスターズ・ガイドにはダンジョンをランダム生成するテーブルもある。ローグに先駆けるものであることは言うまでもないが、ウィザードリィにおいても宝箱の罠に関する部分が応用されている。
TABLE V. I.: TREASURE IS GUARDED BY (d20)
1-2
3-4
5-6
7
8
9
10
11-12
13
14
15
16
17
18
19
20Result
コンテナに触れると毒
宝物に触れると毒
鍵の中に毒針
取っ手の中に毒針
コンテナの前面から仕掛け矢
コンテナの頂点から仕掛け矢
コンテナの底から仕掛け矢
内側にブレードの仕掛け
毒を持った爬虫類か虫が生息
開けると毒ガスが放出
コンテナの正面に落とし戸が開く
コンテナの正面6'に落とし戸が開く
コンテナの正面に落石
開けると壁から槍が放たれる
エクスプローシヴ・ルーンズの呪文
シンボルの呪文
ウィザードリィは発売された時代もあって、一見して奇妙な要素はAD&Dに由来していることが多い。(テレポートで壁に埋まって即死するルールや、ダンジョンの中に突然現れるエレベーターもAD&Dの影響と思われる)
他、直接参照されることは少ないものの、AD&Dの7つの種族(人間、ドワーフ、エルフ、ハーフエルフ、ノーム、ハーフリング、ハーフオーク)と12種類のクラス(ファイター、レンジャー、パラディン、クレリック、ドルイド、シーフ、アサシン、イリュージョニスト、バード、モンク、サイオニック)、および武器と防具とモンスターのリストは、今でもファンタジーRPGの一種の標準として意識されるほど、依然として強い影響力を持っている。
当然ながら、嫌われていたり扱いづらかったために受け継がれなかったルールも多くある。いわゆるヴァンシアン・マジックと呼ばれる、ジャック・ヴァンスの小説に影響を受けた「記憶してから呪文を唱える」ルールがその一例で、単純に面倒なためD&D系以外ではほとんど扱われていない。(ただし、呪文の中身そのものは頻繁に模倣された)
もう一つの路線
プレイヤーハンドブックの発売に先駆け、新しいルールセットへの導入としてオリジナル版の3レベルまでのルールを簡素にまとめたものが、1977年に発売された。このルールブックはそのままダンジョンズ&ドラゴンズと題され、若年層も視野に入れてやや明るいトーンの文章を特徴としていた。
3レベル以降アドバンスト版に移行することを想定した内容だったが、オリジナル版とアドバンスト版の間でルールに差が出てしまったこともあってか、1981年に改定される際に独自の要素を追加し、無印のダンジョンズ&ドラゴンズは別路線として展開していくことになる。これが邦訳も出版された、いわゆるクラシックD&Dの系統である。
この路線は当時は若年層向けとしてさほど重視されていなかったものの、AD&Dと比べて明快なルールだけでなく、最終的に領主となって大規模戦闘を指揮するまでのスケールを提供していることから、今でも一定の根強いファンを有する。
第二版
予想外の成功を収めたTSR社は社内に問題を抱え、最終的に創立者であるガイギャックスは追加ルール集『Unearthed Arcana』を残し会社を追放されてしまう。
(ちなみにこの『Unearthed Arcana』はAD&D基準でさえも破綻したバランス故に評判は悪かったが、キャントリップやプレイヤー種族としてのドロウ(ダークエルフ)が正式に採用された記念すべき本でもある)
第2版の編集は残ったスタッフに委ねられ、最終的にはそれまでのルールを手堅くかつ簡明に編集した形で1989年に発売された。第1版の時のようなブームとはならず、その販売期間中にTSR社の経営はますます混迷するものの、AD&Dのファンベースは維持されつづけた。
新版に乗じてこれまでアドバンスト未上陸であった日本にも、1991年に株式会社新和による邦訳が出版されたが、諸々の事情からコアルールを数冊訳した時点で展開が休止してしまった。
コンピュータゲーム
AD&Dを直接題材にしたゲームとしては、第一版時代には「プール・オブ・レイディアンス」から始まる総勢12作の『Gold Box』シリーズがある。AD&Dの戦略戦闘を当時としてはかなり高度なレベルで表現し、ウルティマやウィザードリィに次ぐ80年代の名作CRPGとしての地位を確かにしている。(「ヒルズファー」はこのシリーズのミニゲーム集的なスピンオフである)
第二版時代は『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』、『Dark Sun: Shattered Lands(残念ながら日本語版はない)』が『Gold Box』シリーズ同様SSI社から発売されるが、売上の低下、SSI・TSR両社の低迷も重なり関係を解消。その後はFPSやRTSの隆盛でRPGが下火になり空白の期間があったが、1998年、満を持してバイオウェアから『バルダーズ・ゲート』が発売される。RTSの要素を取り入れた半リアルタイム戦闘は完成度が高く、史上最高のCRPGとして名前を挙げられることも少なくない。
同作で開発されたエンジンはその後『アイスウィンド・デイル』、『Planescape: Torment(やはり日本語版がない)』等でも使用され、D&D系コンピューターゲームの一時代を築いた。
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第1版
第2版
関連項目
- 2
- 0pt