アネクドートとは、主にソビエト連邦で発達した政治的風刺を持つジョーク、小話である。
概要
アネクドートの語源は、ギリシア語のアネクドトン、「公にならなかったもの」であるとされる。
ソビエト連邦は憲法で「言論の自由」を謳っていたが、現実には反社会主義活動にはチェーカー→KGBのような秘密警察による弾圧が常に行われてきた言論統制社会であったため、語源の通りこのような風刺的ジョークもソ連崩壊まではおおっぴらに語られるものではなく、地下で語り継がれてきたと言われている。
むしろそのような圧政社会であったからこそ、不満のはけ口としてこのような皮肉めいたジョークが多く作られることになったと考えられる向きも存在する。
しかしながらソ連刑法第58条においては反プロパガンダ活動は最高刑で死刑を適用できるほどであり、「命がけの危険なスポーツ」的な楽しみ方をされていたという。
またアメリカなど西側諸国では、反共の一環として「理想と現実」のギャップを指し示すようなこのようなジョークが好んで宣伝的に取り上げられたため、世界でも広く知られるようになったと言われる。
なお、ソ連が関連したジョークとしてほかに「ロシア的倒置法」というものがある。例としては「アメリカではあなたがテレビを観る(watch)。ソビエトロシアではテレビがあなたを見張る(watch)!」など。これはソ連をネタとしてアメリカ合衆国で発祥したジョークでありアネクドートではない。だがソ連をネタにした政治的風刺を含んでいるジョーク、という類似点があるため、アネクドートと混同されやすい。
一例
共産主義体制そのものに対するもの
- 老いたボリシェビキ(共産党員)が同僚と会話していた。「ああ友よ、我々は共産主義の真の実現までは生きてはいまい。だが我々の子供たちなら・・・ああ友よ、なんとかわいそうな子供たちだろう」
- 資本主義国家でおとぎ話は「むかしむかし、あるところに・・・」で始まるが、共産主義国家でおとぎ話は「やがて、いつかは・・・」で始まる。
- コルホーズ(集団農場)の組長が演説をしていた。「共産主義へと躍進すれば誰もが腹いっぱい食べられる」すると組合員の一人が尋ねた。「じゃあなぜ今我々は飢えているんだ」組長は答えた。「行軍中に食事をするものではない」
- 「レーニンは死んだが、彼の事業は今もなお生きている」「逆の方がよかったのに」
- 「お前の職業は?」「著作者です」
「ふん、労働者じゃないのか・・・両親は何をしていた?」「裕福な商人でした」
「しかもブルジョワか。お前の妻は?」「貴族の娘です」
「資本主義の犬め! 名を名乗れ!」「カール・マルクスと申します」 - 強制収容所に3人の男がいた。「俺は党幹部のイワンを批判したらこのザマさ」「俺はイワンを支持していたから逮捕されちまったよ」「どうも、私がイワンです」
- ソ連の工場で3人の労働者が秘密警察に逮捕された。
1人は時間より5分早く来たために、スパイ容疑で。
1人は時間より5分遅く来たために、サボタージュ容疑で。
1人は時間ちょうどに来たために、西側の時計を持っている容疑で。 - ある幼稚園で海外使節団を迎えることになり、保母は園児たちに「ソ連のものは世界一です!」と答えるように教育した。
「おもちゃはどう?」「ソ連のものは世界一です!」
「食べ物はどう?」「ソ連のものは世界一です!」
しばらくして園児たちが泣きながら言った「ソ連に行きたいよう!」 - ソ連にて、公園で叫ぶ男が一人
「あの豚共のせいで俺の生活はめちゃくちゃだ」
男を逮捕する警官
「豚とはだれかね?」
「アメリカの奴らに決まってるでしょう」
あきれて警官は男を釈放する。男は去り際に言った。
「ところで、あんたは誰だと思ったんだね」 - 党幹部が党員に尋ねた。
「同志、資本主義の現状はどうなっているかね?」
「はい同志、資本主義は崖っぷちに立っています!」
「では、共産主義の現状はどうかね?」
「はい、共産主義は常に資本主義の先を行っています!」
スターリンに関するもの
- 「同士スターリン。この男はあなたそっくりです」「射殺せよ!」
「ひげを剃ってしまえばそっくりではなくなりますよ」「名案だ!ひげを剃らせてから射殺しよう!」 - スターリンの演説中、誰かがくしゃみをした。「くしゃみをしたのは誰だ!」誰も答えなかった。
「第一列起立! 射殺せよ!」「くしゃみをしたのは誰だ!」誰も答えなかった。
「第二列起立! 射殺せよ!」「くしゃみをしたのは誰だ!」最後列からおびえ切った男がおずおずと手を上げた。
「私です・・・」「お大事に! 同志!」 - スターリンが船遊び中、川に落ちて溺れたところをたまたま助けた農民がいた。
「褒美を取らせる。なんでも言ってみろ」「では同志を助けたことを国家機密にしてください」
フルシチョフに関するもの
- 「世界で一番のマジシャンって誰だろう?」「フルシチョフさ。カザフに麦の種をまいて、カナダで収穫したんだ」
- コルホーズを視察したフルシチョフが冗談交じりで尋ねた。「調子はどうだい?」農民も負けじと陽気な冗談で答えた。「大変うまくいってますよ!」
- フルシチョフが養豚場で豚に囲まれている写真の据え置き。「フルシチョフ(右から2番目)」
ブレジネフに関するもの
- 赤の広場で酔っ払いが叫んだ。「ブレジネフは大馬鹿だ!」彼はすぐさま秘密警察に逮捕された。
「私の罪状はどうなるんでしょうか。侮辱罪ですかね」「いや、国家機密漏洩罪だよ」 - ある女優がブレジネフを表敬訪問した。
「君の願い事ならなんでも叶えてあげよう」
「じゃあ、亡命希望者はひとり残らず許可してくださいません?」
「おいおい、君は私と二人っきりになりたいのかい?」 - ブラント(西ドイツ首相)が神に尋ねた。「神よ、西ドイツ経済はいつ良くなりますか?」「あなたの任期中に良くなる」
ニクソン(米大統領)が神に尋ねた。「神よ、アメリカ経済はいつ良くなりますか?」「あなたの任期中には無理だ」
ブレジネフが神に尋ねた。「神よ、ソビエト経済はいつ良くなりますか?」「私の任期中には無理だ」
アンドロポフ、チェルネンコに関するもの
二人ともアネクドート作る前に死んじまったよ。実はあるんだなこれが。掲示板>>2より
- あの世にて
ブレジネフ「アンドロポフくん、私の机の上の眼鏡はとってきてくれたかな?」
アンドロポフ「申し訳ない同志、忘れてしまいました。しかしチェルネンコくんがすぐにとってきてくれるでしょう」 - 専制君主制において権力は親から子供に受け継がれる。
ソ連においては老人から老人に受け継がれる!
ゴルバチョフに関するもの
- レストランにて。
「なぜこのハンバーグは四角いのかね?」「ペレストロイカ(改革)!」
「それに生焼けじゃないか!」「ウスカレーニエ(高速化)!」
「しかもかじった後があるぞ!」「ガスプリヨームカ(国家品質保証)!」
「なぜ君はそんなずうずうしいんだ!」「グラスノスチ(情報公開)!」 - ゴルバチョフがソーセージを海外の検査機関に送って分析を依頼。その返事は・・・
「ゴルバチョフ様、あなたの排泄物からは寄生虫は発見されませんでした。」 - ある男がウォッカを買うために行列に並んでいた。ところがいつまで経っても行列は動かない。痺れを切らした男は「もううんざりだ!どこもかしこも行列だらけで何も買えやしない!全部あのゴルバチョフのペレストロイカのせいだ!今からクレムリンに行ってあいつをぶっ殺してやる!」と叫んで行ってしまった。
数時間後に男は帰ってきた。曰く、「あいつをぶっ殺そうとする行列の方がこっちよりずっと長かった」
エリツィンに関するもの
- エリツィンがアメリカを訪問した際、クリントンが地獄とのホットラインを披露した。
エリツィンは興味深々で地獄の鬼と電話で会話した。料金は100ドルもかかった。
「随分高いんだな」『へぇ、国際通話ですので』
帰国したエリツィンは早速自国でもホットラインを繋いで地獄の鬼と会話した。料金はたった1ルーブルで済んだ。
「随分安いんだな」『へぇ、市内通話ですので』 - エリツィンの息子が尋ねた。
「お父さん、お酒に酔うってどんな感じ?」
「簡単に言うとな、そこのテーブルの上にある二つのコップが四つに見える状態かな」
「お父さん、コップは一つしかないよ?」
プーチンに関するもの
ウクライナ侵攻以降は特にその数が増えている。
- ウクライナではコメディアンが大統領になった。ロシアでは、大統領がコメディアンになった。
- プーチンが死後、ロシアのことが気になるので神様に1時間だけ地上に戻して貰った。モスクワ市内のバーに入ってビールを注文し、バーテンダーに尋ねた。
「クリミアは今も我々のものなのか?」「その通りです」
「ドンバスもか?」「もちろんです。キエフもです」
プーチンは満足して勘定を頼んだ。
「いくらだ?」「はい、50フリブニャ(ウクライナの通貨)になります」 - ヘルソン市からロシア軍が撤退する時、プーチンがショイグ国防相を叱責した。
「なぜヘルソンから撤退するんだ?」
「閣下がご命令なさったじゃないですか。ファシストとナチスからウクライナを解放せよと……」
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