アベノマスクとは、安倍政権が2020年4月1日に表明した全世帯にマスクを配布する施策の俗称である。
俗称の由来は「アベノミクス」と「マスク」をかけたものである。
概要
2020年4月1日、新型コロナウイルス特措法に基づく政府対策本部は、急速な蔓延を見せる新型コロナウイルスの影響により国内でマスクの品薄状態が続くことへの対応として以下を表明した。
- 通常のマスクの供給量を月7億枚確保したこと
- 医療用のサージカルマスク1500万枚を医療機関へ
- 高齢者施設や介護施設へ再利用可能な布製マスク2000万枚を
- 妊婦向けに再利用可能な布製マスク50万枚を
- 小中学校へ同じく布製マスク1100万枚を
- さらに全世帯に2枚ずつ配布する
この政策の元になったと思われるのは北海道の一部自治体で新型コロナウイルスの感染対策に使い捨てマスクを日本郵政のタウンプラスで全家庭に送る施策が行われており、これを参考に全国に拡大した形で行ったものと思われる。
なお使い捨てと誤解する人がいるが、布マスクなので煮沸消毒や洗浄により繰り返し使用可能である。配られる布マスクの値段は1枚あたり約200円とされている。配布は日本郵政の配送システムが活用され、東京都など感染者の多い都道府県から順次投函されることになる。
前述したように医療関係者・介護従事者・高齢者・障がい者・児童などへの適切なマスク供給も行われるのだが、メディアによるニュース報道などでは「各世帯に2枚」という部分がクローズアップされたため、混乱する人々が現れることになった。
施策が表明された日は不運にも4月1日のエイプリルフールであり、施策の真偽を含め混乱に拍車をかけてしまったことは否めず、翌日のTwitterのトレンドには「#アベノマスク」がトレンド入りをしている。
マスクの配布で経済対策を疎かにしているという声があるが、このマスクの費用は予備費から捻出されたものであり、経済対策に用いられる補正予算とは別口である。
「アベノマスク」は海外メディアでも取り上げられた。ブルームバーグ通信の記事は「安倍総理のマスク配布政策は日本のSNS上ではアベノマスクの呼称で物笑いの種にされている」としたうえで、「アメリカの当局はマスク着用の効果を否定していたが立場を変えつつある」と布マスク普及の提言をリンクとして沿えるなど政策そのものは肯定的に伝える記事を掲載したが、朝日新聞や共同通信はこれに対し記事前半部分を抜き出し、『「アベノマスク」海外でも報道 マスク配布に「冗談か」』『「アベノマスク」、米でも失笑』と、あたかも海外メディアが失笑しているかのようなタイトル・記事で報道している。
その後の海外の動向
- 4月1日付(日本時間2日)のニューヨークタイムズは布マスクの型紙を紙面に掲載。
- 2日(日本時間3日、以下同)にはニューヨーク市は「顔を覆うもの」(「マスク」と書くと医療用マスクも含まれてしまうために婉曲表現になっている)を着用することを推奨。
- 同じく2日にはロサンゼルス市長もTwitterで外出時に布製の顔を覆うものをつけることを推奨。
- 4日にはアメリカ政府がCDCによる新指針として外出時に「顔を覆う布をかぶることを勧める」ことを発表した。
- シンガポールも国として布マスクの配布をはじめることを発表している。
- イタリアでも2枚の布マスク配布がはじまっている。
アサヒノマスク
朝日新聞はこの政府によるマスク配布を受けて布マスクは有効? WHOは「どんな状況でも勧めない」との記事を掲載したが、WHOが「布マスクはどんな状況でも勧めない」とするのは感染の恐れが高い医師・医療従事者向けの指針であり、後述するように米CDCも感染者が他人にうつさないために布マスクをすることは有効な手段であると認めている。記事タイトルはミスリードであると批判された。
更に朝日新聞の公式通販が布製の立体マスクを「洗ってくり返し使える、マスク品薄下の救世主」と称し、2枚のセットを3300円で販売していることも判明。これまたダブルスタンダードとの声が上がった。安倍首相によりこの点を指摘されるも、朝日は当然のごとくこの部分の発言の実をカットして報道するというお得意の偏向報道を行った。
Q&A
Q:何のためにマスクを配るの?
A:一般市民のマスク需要を再利用可能な品で少しでも埋め、使い捨てマスクを病人や医療機関など本当に必要な人々に届けるため。
現在使い捨てマスクは全世界で品薄の状態にあり、感染拡大が進んだ海外諸国では輸出禁止や他国のマスクの「押収」を始めるなど争奪戦の様相を呈している。当然それらの国は既に需要を賄えておらず、一般市民は処方箋が無いと買えないという国も。
海外からの輸入が停滞する中で日本は国内生産を大幅に増強して調達数を増やしたが、それでも調達できるのは月に7億枚。通常時のマスク需要でさえ年平均3.6億枚/月、ピーク時5.8億枚であるから、品薄の解消に十分とは言い難い。状況が悪化し続ければ一般人の購入は不可能に、果ては医療機関でさえろくに使えなくなるという事態に発展していく。だから今のうちに再利用できる品を各世帯に送って、完全な枯渇を防ぐか遅らせようという話。「国民には布マスクを普及させて使い捨ては医療機関へ」という動きは現在海外でも広まりつつある。
Q:マスク配る以外に具体的な経済対策とかやらないの?
A:もうやってるが、即効性がないため、倒産件数が増えている。
現時点で事業者には休業中の従業員給与など雇用を守るための助成金(雇用調整助成金)や納税の猶予、休業・失業者へは生活資金の援助などが行われている。事業者に対する支援は経産省がパンフレットをweb配布している。
しかし、雇用調整助成金は最大日額8330円と給与の補償としては心もとない金額である上に、提出する書類が膨大、その上支給まで時間がかかり使い勝手がよいものとは言えず、現に4月30日現在相談件数は20万件以上に及ぶが、申請までたどり着いたのはわずか2541件で、交付決定は282件にとどまっている。このことについては野党どころか自民党議員すら批判の声を挙げており(4月21日世耕参議院幹事長記者会見や4月28日岸田政調会長による衆議院予算委員会での質疑を参照)、政府は5月に入ってようやく日額上限を引き上げる検討を始めた。なお、参考までに、新型コロナウイルス関連倒産件数は5月1日現在115件である。
なお国民への現金給付をはじめ本丸となる事業規模100兆円超の経済対策は、税金の猶予や民間がこれぐらい使うだろうという予測を含めたものであり、国や地方自治体が今回新たに支出するお金は19兆円にとどまることに注意を要する。
(ちなみにSNS上では「各国で受け取れる現金額」と称したコピペが出回っていたおり、実際に振り込まれたという報告も多数存在するが、支給スピードを速めるためチェックを簡素化した結果、ドイツでは100億円もマフィアに詐欺られた、というニュースがある。これを国民の命を守るための経費と取るか、税金の無駄遣いと取るかは国民の感性によるものであろう)
Q:布マスクなんかで新型コロナウイルスに効果はあるの?
A:罹患者が他人にうつさないようにする効果はある。
米国CDCの内部資料によれば、普通の布マスクやスカーフでさえ新型コロナウイルス感染症に罹患している人のくしゃみ等による飛沫感染を抑える効果があるとし、従来の「医療従事者、病人、介護者のみマスク着用を推奨」としている指針の変更を検討している。新型コロナウイルス感染症は罹患しても無症状である場合が多く、全国民が布マスクを着用することは、全くの無意味ではない。
着用者をウイルスから守る効果に関しては、少なくともフィルターとしての機能はあまり認められていない(これに関しては不織布製のいわゆるサージカルマスクも大して期待されていない)。しかし無意識に口や鼻に触れることによる接触感染を防ぐ効果と、気道の粘膜を乾燥から防ぐ効果はあるため非感染者の着用にも一定の効果があるとの専門家の意見がある。
Q:一世帯に2枚じゃ足らない所も出るんじゃないの?子持ちの世帯はどうするの?
A:各世帯と別口で小中学校へも配られる。
また二世帯住宅へは追加の配布も検討中とのこと。ただし「ひとまずどの家にも使えるマスクがある」という状態を作るものあって、安倍首相が発表で言及している通り必ずしもこの配布で全マスク需要を満たすという性質のものではないことには留意。
評価
熱心な安部政権支持者でもなければ大不評と言ってよいものとなった。
ようやく一律で配られたものがマスクというガッカリ感
発表前の時点で国によってはロックダウン措置の代償として国民に一律で現金などの支給で生活に支障がないように政府が支援しており、「生活費保証するから感染広げないように出回らないでくれ」と国が国民を支える姿勢をとっていたが、日本では一律保障と言えるものが乏しく一律の給付金を求める声が上がっていた。その中で出てきたのが1家庭に布マスク2枚である。これで生活していけるのだろうか。
マスクの性能
市販されている不織布マスクは鼻からあごまで覆える大きさなのだが、配布されたマスクは大きな布を折りたたんで15枚重ねにした13.5×9.5(cm)の大きさ。鼻と口を覆えるがあごまで届かず、明らかに不織布マスクよりも小さい。
配られたものの中にはあごまで覆える立体型のものもあったのだが、紐が伸縮性のあるものではなく耳にひもが届かなくて痛いと感じる人もいた。
出来の悪さからアベノマスクを解体してリメイクして使う情報も公開される始末である。また布とひもを購入して型紙から自分でマスクを作る人も現れた。
不良品混入
衛生面が問われる製品にもかかわらず、カビや髪の混入が確認されるなど前代未聞の品質となっていた。民間企業でこんなことが起きたら、たちまち社長など重役が出てきて記者会見になること間違いなしである。
4月中旬に先行配布となる妊婦向け布マスクについては全戸配布を行うのではなく、まず市区町村に配布され検品の後に配布される予定であったが、黄ばみ・カビの疑い・汚れなど不良品が報告されたため、厚労省は不良品を回収した。結果、46934枚が不良品として送り返されてきた。
更に4月下旬に全戸配布用マスクにもカビが生えたものがあるとの報道が出て、検品することになった。8500万枚の検品は目視で行われて、その費用にも8億円かかることとなった。だがそこまでしても「顕微鏡で確認したら虫が確認できた」という報告が出ている。
遅すぎた供給
不良品の検品の結果、全戸配布は予定より大きく遅れることとなった。その間に中国で生産されていた不織布マスクの工場の稼働が再開し、4月下旬がピークだったマスクの値段はどんどん下がり、入手は容易になっていった。
当時安倍政権支持者の一部は「アベノマスクの発表により売り惜しみで高値でマスクを売っていた店が、使いまわせる布マスクの供給で重要がなくなってくるから安値で売るようになった」と主張していた。だが実際は需要に合わせて大量生産を行い、船などで日本までの輸送までのかかった時間の結果、発表と供給を満たす時期が重なったように見えただけである。
配布が完了したのは6月15日。1回目の緊急事態宣言はとっくに終わっており、マスクの供給体制も戻っていた。
大不評にもかかわらず再配布!?
あれだけ性能や品質に問題があったにもかかわらず、7月下旬には介護施設や保育所向けの布マスクの調達を続けて8000万枚の配布を行うことが発表される。この発表に新聞やテレビではメディアグループを問わず批判的な報道が出て総スカンを食らう状態となり、最終的に配布を断念することとなる。
第2次安部政権は解散前までの任期で何をやろうがその後の選挙で当然のように勝ち続けることもあり、政策で問題を指摘されても基本的に間違いを認めず最終的に強引に物事を進める傾向があり、今回の介護施設や保育所向けの布マスクの配布続行も「ここでやめたらアベノマスクは失敗だったと認めるようなもの」だという考えが働いたのではと考えたくなってしまう。
配布はされなかったマスクは配布予定分の調達が終え、あとは配布するだけの状態まで準備してしまった8300万枚が残っており、2021年10月には会計検査院の指摘で総額約115億円分あり、保管に8か月間で約6億円の費用がかかっている。年9億円保管に使い続けるぐらいなら焼却処分したらどうだろうか。
不透明な契約
福島瑞穂からの質問で厚生労働省は布マスク調達の契約について当初、興和・伊藤忠商事・マツオカコーポレーションと非公表の1社と発表。政府との契約にもかかわらずなぜか非公表の企業という謎の存在が出てきたうえ、厚生労働省はなかなかその企業を明らかにしない。
最終的にユースビオと明かしたのだが、公開された3社に比べて明らかに規模の小さい企業だった。大串博志からユースビオは3月時点に法人登記簿にマスクの生産・輸出入についての記載がないと指摘。すると新たにシマトレーディングが生産・輸出入をしているなど、ユースビオについては複雑な状況で契約が行われていることが判明した。
更に介護向けに横井定、5月には新たな契約先としてワークス・ブルマーレ・東洋繊維・RELIEF・TSO Internationalと次々企業が現れている。
一世帯に二枚のマスク
ツイートを読み込み中です
https://twitter.com/punxjk/status/1245347220259393537
アベノマスク発表間もないころに投稿されたイラスト。北村ヂンはこの施策に対して『サザエさん』の磯野家の7人(+1匹)が支給されたマスク2枚を家族全員で使うシュールなイラストを投稿して話題を呼んだ。
J-CASTニュースの記事ではこのイラストが海外でも取り上げられ、韓国の公共放送「KBS」、フィンランドの新聞社「ヘルシンギンサノマット」の公式サイト、イギリスの新聞社「ガーディアン」で伝えられたという。[1]
一方でこの時点で小中学校への配布は行われる事が表明されており、イラストが描かれた時点の情報だけでも磯野家のケースでは最低でも4枚配布される事(後からの発表であるが二世帯住宅へ追加で配布される事が改めて知らされた、つまりこの場合では6枚のマスクが貰える)、当初から「世帯によっては必ずしも十分な量ではない」事は明示されいる事、布マスクの配布は「繰り返し使えるマスクの利用によって急速に拡大する需要に対応する為」であり、使い捨てマスクも7億枚の供給を確保できている等、政府からの表明の内容をよく確かめもせずに描かれており、発表後の不完全な情報拡散による混乱ぶりを象徴するイラストになっている。
その他
- 海堂尊はアベノマスクを酷評しており、アベノマスクのようなものができあがる理由に「新自由主義による社会福祉分野の軽視」を挙げている。アベノマスクの騒動はのちに『コロナ黙示録』を書くきっかけとなった。
- ぼうごなつこは第2次安倍政権末期の政策をテーマにした自身のTwitterの連載まとめマンガの『100日後に崩壊する政権』でアベノマスクの問題を盛んに取り上げた。アベノマスクをつけた安倍晋三は書籍版の表紙を飾っている。
- 2020年7月の東京都議会北区補欠選挙ではゆづか姫こと新藤加菜がアベノマスクを下着のようにしたアベノマスクブラ姿を自身の選挙ポスターとして使っていた。その後問題があったのかNHK撃退シールが上から貼られていた。
- 保守論壇人から「朝日新聞はアベノマスクを批判しながら自身の通販サイトで3300円のぼったくり価格で布マスクを販売している」と批判の声が上げ、安倍晋三も朝日新聞の記者に対し「御社も2枚3300円で販売していたと承知しております」と反撃。3300円のマスクをアサヒノマスクとして揶揄していたが、そのマスクは泉大津市の地場産業の繊維産業を生かして150回洗って使える高性能布マスクであり、値段相応の製品である。そもそも伝統や歴史を重んじる保守が地場産業の製品を敵対勢力を貶めるための攻撃のネタとして使うということ自体、かなり矛盾した行動である。
- 牧田寛の『誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか』では布マスクやウレタンマスクは新型コロナウイルスの感染防止に役に立たず、最低でも不織布マスク、最高なのはKF94マスクとしている。ただ布マスクやウレタンマスクは捨てる必要はなく、不織布マスクの上からつける二重マスクにすることでフィルターの量が増すのでよいとしている。またひげの位置次第ではマスクの隙間ができるためひげは剃ることを推奨している。
- アベノマスクは2020年の新語・流行語大賞のトップ10を受賞した。
- ニコニコ大百科の本記事では発表当初から1か月ほどの間「アベノマスクはまともな政策でありマスコミの偏向報道で事実がゆがめられている」かのような編集がたびたびおこなわれていた。
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- 全世帯に布マスク2枚配布へ 安倍総理
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- マスク2枚配布で「アベノマスク」がトレンド入り
- 菅官房長官「1枚200円程度、ポスト投函」布製マスク配布巡り
関連項目
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