アメリカ合衆国51番目の州とは、現実的な候補又はジョークの一種である。
概要
よく知られている通り、アメリカには50の州が存在する。
しかし、アメリカの行政機構を見てみると実際には州の他にいくつか小さな行政主体が存在する。代表例としてはアメリカ合衆国の首都であるワシントンD.C.(コロンビア特別区)や、野球などでよく目にするプエルトリコがあてはまるだろう。他にもグアムや米領サモアなどの海外領土が該当する。
アメリカ合衆国で最後に州となったのは1959年のハワイ州で、以来60年以上にわたって州に昇格した行政主体は存在しないが、本格的実現に向けて政治的に動いている例があり、それがそれぞれ代表的な例にあげた2つの行政主体である。
また、それとは別にジョークや皮肉の一種としてアメリカと深い因縁関係を持つ国々を指して51番目の州と呼ぶこともあり、これは元宗主国であった英国、北に隣接するカナダ、そして太平洋を隔てた我が国日本を指して主に使われる。他にもイタリアや韓国などアメリカと浅からぬ関係を持つ国を指して用いられる。
依存度の高さや国力差から属国的な意味合いとして使われることが多い一方で、アメリカとの強い連帯や同盟を意味するポジティブな意味合いでもたまに使われる表現である。
ちなみにアメリカの星条旗は州が増えるごとに星が増えることになっているが、ワシントンDCやプエルトリコが州に昇格したときに備えて既にデザインが出されている。
一つは現在のデザインを踏襲して縦と横に星を配置するものと、もう一つは独立初期に立ち返って環形に星を配置するという二案がだされている。どちらが実際に採用されるかは昇格が確定した後に連邦議会が決定する。ちなみに56個までバリエーションが用意されている
。
アメリカ国内
アメリカ合衆国において州に昇格するには憲法で定められた要件を満たす必要がある。
建国初期につくられた北西部条例と。1802年の権限付与法が下地になっており、州側で議会や憲法などの統治機構を整備するとともに、連邦議会の承認を経る必要がある。
ワシントンD.C.
この特別区はそもそもの成り立ちから特殊で、連邦議会や政府が設置される中立的な場所として設けられていることもあってそこの住民は州政府に比べて特に参政権については大きな制約があった。1964年の憲法修正で大統領選挙の選挙人は獲得したものの、連邦議会への議決権をもった議員を送る権利は認められておらず、また条例の制定にも連邦議会の審査を受けなければならないなど大きく制限を受けているのである。
しかし、ワシントンDCに暮らす70万人もの人々にとっては承服できないものであり、長年州昇格をを求めて非公式ではあるが独立戦争時のスローガンをもじって「Taxation without representation(代表なき課税)」を合言葉に運動を続けている。元大統領のクリントンは在任中任期後半に大統領公用車にナンバープレートにそれをつけていたというエピソードも存在する。
2016年の住民投票では86%の圧倒的多数で州昇格を求める意見が通り、米議会に勧告がなされ、2020年、2021年の米議会下院においてはいずれも州昇格を承認する決議がされた。
だが、現実としてワシントンDCはほぼ一貫して民主党を支持している。1964年の大統領選以来、民主党の候補が圧倒的な大差で勝利していることからもそれは明らか(共和党がほとんど大勝している1972年や1984年大統領選でもワシントンDCでは民主党候補が共和党の4倍以上の大差を得て勝利している)で、上院での共和党からの反対が根強く実現には至っていない。
共和党からすればもし州昇格を認めて米議会に議員を送り込むことを認めれば上院2議席、下院3議席の都合5議席分の優位を民主党に明け渡すようなものなのでクビを縦にふるわけには行かないという事情があるのだ。
また、この特別区の行政的な立場は憲法に明記されていることから、州昇格には憲法改正(修正)が必須なのも大きな足枷となっている。
州昇格が適った場合の名称は、西海岸にあるワシントン州との混同を避けるため建国の父祖ワシントンと、奴隷解放運動家であるフレデリック・ダグラスにちなんで「ワシントン・ダグラス・コモンウェルス州」に改名される見通しになっている。
プエルトリコ
プエルトリコはコモンウェルス(米国自治連邦区)という特別な行政主体になっている。これは、外交と軍事はアメリカが受け持つ代わりに、自治政府をおいて内政を行うことが認められるという区分である。かつてはフィリピンが同じ扱いを受けていた。
しかし、この状態ではあくまでアメリカ国民としての権利を十全に受けられないため、州昇格を願う運動が度々行われている。これまで4回にわたって住民投票が行われ、2017年の選挙では97%の昇格賛成を得たものの、州昇格反対派の妨害もあって投票率は23%にとどまっている。とはいえ、プエルトリコ自体の経済停滞や人口流出は歯止めがかかっておらず、州昇格を求める意見は多い。2020年にも投票が行われ、これでも州昇格派が優勢となっている。人口は400万人近くにのぼり、アメリカの州の中でも25番目に相当する人口を持っている。
どちらかといえばこれは連邦政府側がこの議事を進めることを渋っているという向きもみられる。これには、プエルトリコの住民が経済的にかなり貧しく、維持には連邦政府が持ち出しで補填しなければならなくなること、かつてはスペインの植民地であったことからスペイン語・カトリック信徒がメジャーな地域であり、アメリカの政治情勢などのバランスを大きく崩す懸念があることなどが理由としてあげられている。
とはいえ、前者はともかく後者についてはプエルトリコ抜きでもアメリカ国内ではヒスパニックなどいわゆる非白人、非プロテスタントの国民が増えているため時間が解決するという見方もある。
アメリカ国外
日本
太平洋戦争に敗れて以来、我が国はほぼ一貫して親米的な姿勢を取り続けており、そのためアメリカ51番目の州と揶揄されることがある。
だが、実際に日本がアメリカ51番目の州となると大統領選挙には最低162人(米国内最大人口を持つカリフォルニア州が人口約4000万人で2024年の選挙人数は54人のため)の選挙人を送ることが可能になり、アメリカ政治における重要な決定主体である下院にも同じだけの人数を送り込める。
簡単に言えば、大統領選挙と下院選挙にだいたい3分の1ほど日本人又は日本の意思を代弁してくれる政治家を送り込むことができので事実上政治を乗っ取れてしまうのである。日本人ないし日系大統領が出ることも決して夢ではない。政党としてももし今の政党が引き継げるならば与党の自民党ないし最大野党の立憲民主党がアメリカの下院や上院で大きな力を持つことになり、アメリカの伝統的な二大政党制にも新たな第三(四)勢力が登場することになるだろう(とはいえ、現実にそうなれば合流する可能性もある)。更に連邦予算も人口によって配分されるため、我が国にはより大量の連邦政府からの資金が流れ込んでくる。
だがもちろんデメリットも多数存在する。合衆国憲法においては州政府の自治が広範に認められてはいるものの、連邦法には従わなければならない。公教育や社会における英語の存在感は更に大きくなり、通貨も円は通用停止となってドルに取って代わる。日本の”法律”は大陸法の影響も大きく受けているため、アメリカ流の英米法に合わせた改正も大幅に行わなければならない。関税も当然事実上なくなるので第一次産業への打撃も極めて大きくなる。それによる経済活動や国民生活への影響は計り知れないものになるだろう。様々なところから忌み嫌われているヤード・ポンド法についても完全に無視するわけにはいかなくなるため、合衆国本土とのやりとりで度量衡関係のミスが頻発することも予想される。
政治を牛耳れるなら合衆国憲法も変えれば……という話もあるだろうが、アメリカ合衆国憲法改正には下院に加えて上院の3分の2を取らねばならない上に、上院に出せる議員は各州均等であるため数の暴力も使えない。かなり高いハードルとなるだろう。
また、天皇についても、アメリカ本土の国民が天皇の権威を認める事は非現実的であるため少なくとも元首としての地位は廃されることになり、制度そのものも廃止される公算が高い。ただし、GHQ統治下で天皇制の存続が容認された史実を見ると、州憲法の制定過程で連邦政府との交渉次第では天皇に一定の地位が保障される可能性も0ではないかもしれない。
銃刀法についても、合衆国憲法で抵抗権を保証している以上ある程度の緩和が余儀なくされる事が予想され、銃犯罪の増加や治安そのものの悪化も懸念しなければならないところである。
このような事情から日本のアメリカへの州編入は非現実的なものとして扱われており、我が国の場合は日本政府に対する対米従属とされる姿勢への批判や揶揄として用いられることがほとんどである。
英国
歴史の授業で習う通り、英国は元々アメリカ合衆国の宗主国であった。歴史上においても第一次世界大戦までは経済的立場としては優越していたため、どちらかといえばアメリカが英国より目下だという意識も多分にあった。
しかし、第一次世界大戦でアメリカからの借款で経済的な立場を大きく落とし、第二次世界大戦では結果的に多くの植民地を喪失した上にアメリカからの軍事的な援助も大きく受けていた。その上、ブレトンウッズ協定で事実上米ドルが基軸通貨となることを承認したことからあくまで噂として本当に属国になるのではないかという噂が立ち上った。
もちろんそんなことは与太話として忘れ去られることになったが、第二次世界大戦後から冷戦、そして現代にかけての英国におけるアメリカの影響はとても大きなものであり、英国内には多数の米軍基地が設置され、CIAをはじめとする諜報機関も英国内に多数拠点を築いている。また、いわゆるブレクジット(英国のEU離脱)の際にもかわって北米向けの貿易協定であるNAFTAへの加盟の議論があがったこともある。
そういう背景がありながらも基本的に英国は独立した主権国家であり、アメリカはあくまで自由民主主義政体を共有する西側のパートナーとして見ているが、他国や国内からはアメリカの51番目の州または属国であるとの批判も相次いている。また、近年においてはイギリス英語からアメリカ英語への変化が英国民の中で起こっており、より大きな影響力の増大が注目されている。
ちなみに1999年にポール・ジョンソンという歴史家は英国を10州に分割し、カナダやオーストラリア、ニュージーランドといった旧英連邦諸国が合衆国の州として加わるべきだという壮大な構想を提唱している。
カナダ
北米大陸の北に位置し、アメリカとの長大な陸上国境を有するカナダは自由貿易協定などを通じ、当然その影響も大きく受けている。また、かなり古い話ではあるが、アメリカ合衆国憲法の前段階である連合規約にはカナダの合衆国編入について条文が設けられていた。
元々アメリカとは対立する理由が少なく、経済的な依存度も高いことからごく一部の団体がアメリカへの編入を訴えていることもあるものの、現実的な議論にまでは至っていない。
また、カナダ南西部に位置するアルバータ州はカナダのテキサスなどと呼ばれるほどの石油産業の中心地帯である。そのためより大きな経済的機会とカナダ政府の”搾取”に反抗してカナダから離脱してアメリカ合衆国に編入することを支持する人々が一定数存在する。2019年の総選挙ではリベラル的な政策に反抗したアルバータ州民がトルドー首相に反発する意見が多く見られ、州内では反トルドー派が勝利している。その中には連邦から離脱する意見があり、完全独立と共にアメリカ編入の選択肢もあげられていた。
関連項目
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