イェーテボリ級駆逐艦(Göteborg-klass jagare)とは、スウェーデン海軍が保有した駆逐艦の艦級である。
スウェーデン海軍駆逐艦史上最多となる同型艦6隻が建造された。
概要
第二次世界大戦勃発に前後してスウェーデン海軍が建造した駆逐艦。1000tクラスと海軍列強諸国の同時代艦と比較すれば小型の駆逐艦であるが、のちには一部がフリゲートに改装され1960年代後半まで使用された。
建造経緯
第一次世界大戦後のスウェーデン海軍は、1920年代のエレンスコルド級駆逐艦(2隻)、1930年代初頭のクラース・ホルン級駆逐艦(2隻)と、ほぼ同等の1000tクラス駆逐艦を少数ずつ建造していた。この流れを汲むかたちで設計・建造された駆逐艦がイェーテボリ級である。
1932年にクラース・ホルン級が就役したのち、1933年に2隻(<イェーテボリ>、<ストックホルム>)の建造が認められ、1934年に起工。1936年には追加で2隻(<マルメー>、<カールスクルーナ>)が建造されることとなり、ほどなくしてさらに2隻(<イェヴレ>、<ノールショーピング>)の建造が決まったことで、最終的には1936年から1941年にかけて全6隻が就役することとなった。
兵装・性能
竣工時の艦体・兵装などの諸元は、先行するエレンスコルド級とクラース・ホルン級にほど近いものであった。
艦体は全長94.6m、全幅9.0m、基準排水量1060tと、クラース・ホルン級よりわずかながら拡大された。機関はクラース・ホルン級の26000馬力から32000馬力へと大きく強化され、20kt/1600海里という航続距離こそ据え置きなものの、最大速力は39ktと両艦級のそれを3kt以上も上回った。艦橋構造物もクラース・ホルン級のものに似た形状であり、前部が半円形で後方にやや長いかたちとなっている。
兵装の点でも従来艦と同等で、主砲にボフォース12cm単装砲3基、雷装に53cm三連装魚雷発射管2基といった主要な搭載兵器や、2基の煙突の間に12cm主砲のうち1基を置く配置もエレンスコルド級以来のものである。その他、ボフォース25mm機関砲を始めとする機関砲・機銃類、爆雷などを搭載した。
1940年代末からは、<イェーテボリ>以外の5隻が近代化改修を受け、25mm機関砲の40mm機関砲への換装やレーダーの搭載を実施。煙突間にあった主砲も後方の艦橋構造物上へと移され、射界が大きく拡大した。またこの時、艦の安定性の観点から全幅が9.7mに拡幅されている。
その後、1950年代後半から1960年代にかけて<マルメー>、<カールスクルーナ>、<イェヴレ>の3隻がフリゲートへと改装された際には、魚雷発射管を廃してイギリス製の対潜迫撃砲スキッドに置き換え、293型レーダーの導入と合わせて対潜能力が格段に向上した。
艦名
イェーテボリ級より前のスウェーデン駆逐艦は北欧神話ないし軍人の名がつけられていたが、本級および次級であるヴィスビュー級駆逐艦はスウェーデン各地の都市名を使用したことからStadsjagare(都市駆逐艦)と総称される。Stads(Stad)は「街(City)」、jagareが「駆逐艦」である。ちなみに最初のaにウムラウトが付くとjägare(ハンター)になる。
各艦の名称の由来は以下の通り。
- イェーテボリ:南部(イェータランド)西海岸、カテガット海峡に面したスカンディナヴィア随一の港湾都市。
- ストックホルム:中部(スヴェアランド)、バルト海に面した北欧最大の都市。スウェーデンの首都。
- マルメー:南部、エーレスンド海峡に面し、デンマーク・コペンハーゲン都市圏にも含まれる国内第三の都市。
- カールスクルーナ:南部、バルト海沿岸の軍港都市。
- イェヴレ:北部(ノールランド)南端近くに位置する河口都市。
- ノールショーピング:南部北端、モータラ川河口に位置する織工業都市。
艦歴
イェーテボリ Göteborg
1934年起工、1935年に進水し、1936年就役。二次大戦開戦前後にはもっぱらスウェーデン沿岸艦隊に所属したが、1940年の一時期には西海岸カテガット海峡方面に置かれたイェーテボリ戦隊に編入されていたこともあった。
1941年9月、ストックホルム群島での係留中にホースフィヤルド惨事と呼ばれる爆発事件が発生。艦直近にあった油槽ないし魚雷貯蔵庫が爆発したことで<イェーテボリ>は甚大な損傷を受け着底したが、引き上げられて1943年9月に再就役した。1944年頃からは再びイェーテボリ戦隊に所属している。
1940年代末からイェーテボリ級各艦に行われた近代化改修については、このホースフィヤルド惨事で受けた損傷をはじめとする老朽化が進行しているとみなされた<イェーテボリ>のみ実施されなかった。1958年に退役し、1962年に標的艦としてバルト海に沈められている。
ストックホルム Stockholm
1941年のホースフィヤルド惨事の際には<イェーテボリ>と同じ部隊に所属していたが、事件発生時には近くにおらず難を逃れた。1948年には<ノールショーピング>、装甲巡洋艦<フィルギア>とともにスウェーデン海軍恒例の訓練遠征を実施し、イギリス、オランダ、ノルウェーなどを巡行している。
マルメー Malmö
1937年起工、1938年進水、1939年就役。満載状態での試験で速力42ktを記録している。
就役直後に二次大戦が勃発したこともあり、バルト海で領海の警備に従事。大戦終結後の1948年にはスウェーデン西海岸方面に移った。1950年前後には近代化改修を受け、1953年から1957年ごろまで沿岸艦隊に所属。
1960年、改装の上でフリゲートに再類別され、1967年退役。1969年、解体された。
カールスクルーナ Karlskrona
1944年頃には<イェーテボリ>と並んでイェーテボリ戦隊に編入されていたが、翌年までに編成から外されている。1950年前後には近代化改修を受けた。
1960年頃に改装の上でフリゲートとなったが、1966年に退役。1974年まで標的艦として使用された。
イェヴレ Gävle
竣工・就役は独ソ戦の開始と同時期であり、バルト海でもっぱら警備・護衛に従事した。1944年秋頃には、ソ連の再占領を受けつつあったバルト三国を脱出した難民の対処にもあたっている。
1950年前後の近代化改修、1960年ごろのフリゲートへの改装を経て、1968年退役。原子力企業アセア・アトム社に払い下げられ、オスカルスハムンの原子力発電所でのタービン試験に用いられた。1972年解体。なお、主砲はスウェーデン北部のボーデン要塞に移されて使用された。
ノールショーピング Norrköping
1948年には<ストックホルム>および装甲巡洋艦<フィルギア>とともに訓練遠征を実施。1949年に近代化改修を受けたのち、1965年に退役。
1977年にバルト海で標的艦として使用され、<イェーテボリ>のすぐ近くに沈んでいる。
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