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イクイノックス(英:Equinox)とは、「分点」または天球上の太陽が分点を通過する日を表す英単語。 「分点」とは、天の赤道と黄道が交わる点のこと。天球上に2つ存在し、春に通過する方を春分点(Vernal equinox)、秋の方を秋分点(Autumnal equinox)という。これが通過する日を「春分」「秋分」と呼び、この日は太陽が真東から昇り真西に沈み、昼夜の時間がほぼ同じになる。
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天皇賞(秋)。有馬記念。
ドバイシーマクラシック。宝塚記念。
昼となく夜となく見せた自在の脚質は、
世界の人びとの眼に焼きついた。
この先に挑む道。
どんな光で魅了してくれるのか。
イクイノックスとは、2019年生まれの日本の競走馬である。青鹿毛の牡馬。
2021年: 東京スポーツ杯2歳ステークス(GⅡ)
2022年: 天皇賞(秋)(GⅠ)、有馬記念(GⅠ)
2023年: ドバイシーマクラシック(G1)、宝塚記念(GⅠ)、天皇賞(秋)(GⅠ)、ジャパンカップ(GⅠ)
概要
血統背景
イクイノックス Equinox |
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生年月日 | 2019年3月23日 |
馬種 | サラブレッド |
性・毛色 | 牡・青鹿毛 |
生産国 | 日本![]() |
生産者 | ノーザンファーム (北海道安平町) |
馬主 | (有)シルクレーシング |
調教師 | 木村哲也(美浦) |
馬名意味 | 昼と夜の長さがほぼ等しくなる時 |
初出走 | 2021年8月23日 |
抹消日 | 2023年12月16日 |
戦績 | 10戦8勝[8-2-0-0] |
獲得賞金 | 22億1544万6100円 |
受賞歴 | |
競走馬テンプレート |
父キタサンブラック、母シャトーブランシュ、母父キングヘイローという血統。
父は言わずと知れたGⅠ7勝の2010年代を代表するアイドルホース。イクイノックスはその初年度産駒である。
母は2015年のマーメイドステークス(GⅢ)の勝ち馬。ちなみにそのレースの2着は2016年宝塚記念でキタサンブラックとドゥラメンテを破ったマリアライトである。
母父は11度目のGⅠ挑戦で高松宮記念を勝った不屈の良血馬。母父としてピクシーナイトやディープボンドなど2021年以降に重賞馬を多数輩出して注目を集めている。
半兄に2021年のラジオNIKKEI賞(GⅢ)を勝ったが4歳の夏に予後不良となってしまったヴァイスメテオールがいる。
2019年3月23日にノーザンファームで誕生。オーナーは一口馬主クラブのシルクレーシング、募集価格は1口8万円×500口(=4000万円)だった。
馬名の意味は、上記の通り「昼と夜の長さがほぼ等しくなる時」。
イクノディクタス等の「イクノ」冠名の馬がいるためか「イクノイックス」とよく間違われるが、イクイノックスである。たまにスポーツ紙のネット記事とかでも間違えられている。後述の東スポ杯2歳Sではテレビ東京「ウイニング競馬」の矢野吉彦アナウンサーが「イクノイックス」と連呼してしまっていた。
父キタサンブラックが頑丈でタフな先行押し切りタイプの馬だったのに対し、3歳までのイクイノックスはやや体質が弱く末脚のキレ味が武器の差し馬であったため、父よりもそのライバルだったドゥラメンテに似ているとよく言われていた。
明暗分かつ時
2歳: 超新星登場
美浦・木村哲也厩舎に入厩したが、デビュー前に木村師が自厩舎に所属していた騎手・大塚海渡に暴言・暴行等のパワーハラスメントを働いたことに対する簡易裁判所からの略式命令によりJRAからも調教停止処分を受けたため、7月末から同厩のオーソリティやファインルージュ、ジオグリフなどともども、馬房臨時貸付扱いで岩戸孝樹厩舎に転厩。
そんな人間側のゴタゴタはさておき、デビューは8月28日の新潟の新馬戦(芝1800m)。鞍上はクリストフ・ルメール。先頭集団につけて好位で先行し、直線残り200mから他馬を一気に置き去りにして6馬身差の圧勝デビューを飾る。
ちなみにこの新馬戦、3着には後に阪神ジュベナイルフィリーズを制するサークルオブライフが、6着には後に2024年のJBCクラシックを制するウィルソンテソーロがいた。
木村師の処分解除に伴い11月から木村厩舎に戻り、2戦目はGⅡ格上げ初年度の東京スポーツ杯2歳ステークス。単勝2.6倍の1番人気に推される。今度は後方からのレースになったがしっかり折り合い、直線入口で外に進路が開くと、残り300mから抜群の加速で一気に差し切り、レース史上最速タイの上がり3F32秒9を叩き出して2馬身半差の快勝。キタサンブラック産駒の重賞初制覇となった。鞍上のルメールも「馬が自分でリズムを見つけて走り、直線で加速して、すごく良い脚を使ってくれました。楽勝でした」と絶賛。
2歳GⅠには進まず、年内は放牧で休養。
3歳春: 不運と惜敗のクラシック
東スポ杯2歳Sでの圧巻のパフォーマンスで一躍クラシックの本命候補となり、クラシックへのローテーションが注目されたが、体質的に背腰に疲れがたまりやすいそうで、なんとそのまま前哨戦を一切挟まずGⅠ皐月賞へ直行。コントレイルのように2歳GⅠからのクラシック直行も珍しくなくなったとはいえ、東スポ杯2歳Sから5ヶ月後の皐月賞への直行は異例のローテである。
皐月賞当日は混戦ムードの中、大外8枠18番で、単勝5.7倍の3番人気。東スポ杯で見せたポテンシャルの評価の高さに対して、右回りも中山も2000mも初体験、おまけに大外枠かつレース自体5ヶ月ぶり……といった不安要素に皆が半信半疑だったことが窺えるオッズである。ルメールは同厩のもう一頭のお手馬ジオグリフがいたが、イクイノックスを選択。ジオグリフは福永祐一となった。
レースは前目の5番手という好位先行を選択。そのまま直線に入り、前に誰もいない絶好のポジションからするりと抜け出すが、そこに外からぴったりとつけてきたのが同厩のジオグリフ! 同僚との叩き合いに突入したが最後のひと伸びで振り落とされ2着。ルメールは「前に馬を置いて、我慢ができなかった。その差がでてしまった」とコメントした。
惜敗とはいえ、上述した数々の不安要素がありながらも1番人気ドウデュースら後続は寄せ付けない2着という結果に、改めてそのポテンシャルを見せ付けるレースとなった。
続く日本ダービーはなんとまたしても8枠18番。枠が不安視されたか、ダノンベルーガに次ぐ単勝3.8倍の2番人気。父キタサンブラック、母父キングヘイローとも14着に惨敗した舞台で1番人気の呪いを回避し栄冠を目指したが……。
レースはデシエルトがハイペースで飛ばす中、ドウデュースらを見ながらじっくりと後方3番手に構える。直線で外に持ち出し、逃げ先行勢がハイペースで潰れる中、上がり最速で前を行くドウデュースを猛然と追いかけるも、最後までドウデュースに凌ぎきられ、レコード決着に僅かに及ばず悔しいクビ差の2着。鞍上のルメールも「直線でドウデュースの外へ出した時は勝てると思いましたが、ドウデュースもまた伸びました。いい競馬はできたがしようがない」と悔しさを滲ませるコメント。
レース後、左前脚の腱に相当のダメージがあることが判明。レコード決着の代償は大きかったようだ。放牧で英気を養い、秋に備える。
3歳秋: 覚醒の時
2022年天皇賞(秋): 沈黙を打ち破る天才の一撃
秋は父の勝った菊花賞には向かわず、直行で天皇賞(秋)へ参戦。2022年の中央平地GⅠはここまで1番人気が一度も勝てておらず16連敗中という状況の中、4枠7番という真ん中の枠を引けたこともあってか、単勝2.6倍の1番人気に支持される。相手どころは同期のジオグリフとダノンベルーガ、古馬勢ではドバイGⅠを勝ったシャフリヤールとパンサラッサ、札幌記念でパンサラッサを下したジャックドールなどが人気を集めた。
パンサラッサ・ジャックドール・バビットの逃げ馬3頭のハナ争いが注目されたレースは、大方の予想通りパンサラッサがハナを奪って逃げる態勢。そのまま後続をどんどん突き放し、1000m通過57秒4というとんでもない大逃げになる。無理に追う馬はおらず、残りの面々はスローで直線末脚勝負の構えとなる中、イクイノックスはシャフリヤールを見るように中団に構えた。
4角でもじっとタイミングを待ち、直線で外に持ち出すと豪脚一閃。前目から先頭に追いすがろうとするジャックドールも振り切って猛然と追い込み、必死に逃げ粘るパンサラッサを狙い澄ましたように差し切ったところがゴール板だった。
残り200を通過している、さあ! 届くのか!? 届くのか!?
逃げ切るのかパンサラッサ!
外からイクイノックス! イクイノックス届くか!
そして、ダノンベルーガ届くのか!
イクイノックス! 届いた届いたー!!!!
最後は、天才の一撃!!!
大逃げパンサラッサを、ここで捕らえた!
クラシックの悔しさは、ここで晴らした天才の一撃!!!
上がり3ハロンはメンバー中最速、そして自己最速を更新する32秒7。悲願のGⅠ勝利を極限の末脚でつかみ取ってみせた。
世代屈指のポテンシャルを示しながらも、枠にも祟られ惜敗で終えた春を越え、史上最短となるキャリア5戦目での天皇賞(秋)制覇。父キタサンブラックが2017年に同レースを勝ったときと同じ枠番で産駒GⅠ初勝利。3歳での天皇賞(秋)制覇は史上5頭目、そのうち秋天でGⅠ初勝利はシンボリクリスエス以来2頭目。1番人気の呪いを蹴っ飛ばし、世代の主役から現役最強の一角へ、天才が高らかに名乗りを挙げる勝利となった。
デビューからコンビを組んできたクリストフ・ルメールも「春はアンラッキーだったけど、ようやく本当のイクイノックスを見せられた」と笑顔を見せた。
11月に発表されたロンジンワールドベストレースホースランキングでは、124ポンド123ポンドを獲得。これはタイトルホルダーに次ぐ日本馬2位の評価であった。
なおこの秋天の追い込みはSNSを通じて世界で話題となり、World Horse Racingの投稿にはイクイノックスがマリオカートのスターを獲ってパンサラッサを差し切る動画が添付された。だいたいあってる。
ポストを読み込み中です
https://twitter.com/WHR/status/1716268607276269570
2022年有馬記念: 天才少年の真価
ジャパンカップはパスし、年内の締めくくりは有馬記念。同年の天皇賞(春)と宝塚記念を圧勝した、凱旋門賞帰りのタイトルホルダーとの対決となった。前述の通りイクイノックスは父よりもそのライバルだったドゥラメンテにタイプが似ているのだが、そのドゥラメンテ産駒であるタイトルホルダーはまさにキタサンブラックのようなタフでパワフルな逃げ馬であり、全盛期が重ならなかった同期のライバルの産駒同士、お互いなぜか相手に似た子供同士の激突と言う意味でも血と因縁のドラマを感じさせる一戦と見込まれた。
その他にもエリザベス女王杯でGⅠ戴冠を果たした超良血ジェラルディーナ、JCを勝ち底を見せていないヴェラアズール、前年の1,2着馬で復活を期すエフフォーリアとディープボンドなどグランプリにふさわしいメンツが揃った。その中でもイクイノックスは単勝2.3倍の1番人気に支持される。
5枠9番から上手くゲートを出たが、ロケットスタートを切ったタイトルホルダーに鈴をつけようと周囲が押しているのをチラリと見やった鞍上ルメールはスッと下げ、馬群の真ん中に入れる。1000mは61秒2とやや緩く、タイトルホルダーの後ろは馬群ひとかたまり。イクイノックスはやや外目にいたこともあってか向こう正面中間あたりから行きたがる素振りをみせ、ルメールも無理に押さえつけなかったため3角から外を捲るように持ったまま進出。大外の3番手で直線を向き、ここでルメールがゴーサインを出すと別格の手応えで末脚炸裂。いつもの粘りがないタイトルホルダーもろとも先行馬を一瞬で抜き去り、後方から追ってきた菊花賞2着馬ボルドグフーシュも置き去りにして完全な一人旅。最後は2馬身半差をつける大楽勝でGⅠ2勝目を挙げた。
外から、持ったまんまで! ルメールとイクイノックスが迫ってきた最後の直線迎えました!
外に回してボルドグフーシュ福永祐一が追い込んでくる!
イクイノックス先頭!
イクイノックス先頭、2番手エフフォーリア、ボルドグフーシュが来ている、
そして、ジェラルディーナも追い込んできた、
しかし突き抜けた! 早めに突き抜けた!
天才少年! 中山でも強し!!!
イクイノックスーーーーーッ!!!!
これで天皇賞(秋)に続き父キタサンブラックとの親子制覇(シンボリルドルフ→トウカイテイオー、ディープインパクト→ジェンティルドンナ・サトノダイヤモンド、ハーツクライ→リスグラシューに次いで5例目)。秋天に続き、キャリア6戦目での有馬記念制覇は史上最短記録。そして2年連続で秋天を勝った3歳馬が有馬も勝つという結果になった。なお有馬記念での3歳馬同士のワンツーは1994年の1着ナリタブライアン→2着ヒシアマゾン以来28年ぶりである。そして秋天に続いて古馬を撃破したことにより、最優秀3歳牡馬は勿論の事、年度代表馬も十分に手繰り寄せられる勝利となった。
鞍上のクリストフ・ルメールは2005年ハーツクライ、2016年サトノダイヤモンドに続き有馬記念3勝目。実はこの3勝は全て12月25日の開催で、ルメールもインタビューで「二度あることは三度あると思ってました」と笑顔を見せた。ちなみにゴール後も相当掛かり倒していたらしく、現役最後の有馬記念を2着で終えてハイタッチをしようと声をかけてきた福永祐一に「ゴメン今ムリ!!」と返してしまうほど止めるのに必死だったらしい。
年度代表馬はタイトルホルダーとの争いになったが、やはり有馬記念で直接対決に勝利したのが大きく、288票中282票を集めて見事年度代表馬に輝いた(ルール上当然だが最優秀3歳牡馬も同時受賞)。
2022年度のロンジンワールドベストレースホースランキングでは、有馬記念の走りが評価されて、126ポンドを獲得。これはFlightline(140ポンド)・Baaeed(135ポンド)に次ぎ、Nature Stripに並ぶ世界3位で、日本馬の中では1位のレーティングである。Flightline・Baaeedは2022年限りで引退したため、現役馬として事実上世界最強馬となった。
こうしたイクイノックスの活躍もあって、キタサンブラックの種付け料は500万円だったところ、2023年からなんと1000万円に倍増。
思えば父キタサンブラックも3歳春は歯がゆい敗戦を重ねたあと、秋に菊花賞を制してから古馬戦線の王者となった。父同様、秋に戴冠を迎え孝行息子となった天才少年は、年が明けて天才青年へと成長した後、ここからどんな物語を紡いでいくのか。大いなる期待を持たせて3歳を終えた。
……このあと、そんな常識的な期待を遥かに超えていくとは、さすがに誰も想像していなかったのではなかろうか。
4歳春: 世界への初名乗り
2023年ドバイシーマクラシック: これほどまでに強いのか
4歳となって初戦は初の海外遠征となるドバイシーマクラシック。1歳上のダービー馬シャフリヤール、引退レースとなるウインマリリンとともに挑むことになった。BCターフ勝ち馬レベルスロマンスなどが出走してきたが、前述の評価もあり、日本の馬券発売はもちろん、海外ブックメーカーでも1番人気に支持される。
明確な逃げ馬がおらず先行争いが注目される中、レースが始まって日本のファンの目に飛び込んできたのは、ハナを切る青鹿毛の馬体とシルクレーシングの勝負服。なんと差し馬のイクイノックスが先頭に立ったのである。おいおいここにきて父キタサンブラックに倣い脚質転換か、とファンがどよめく中、前半を時速59km/h台のスローペースで先頭を走ったイクイノックスは、そのまま抜群の手応えで直線へ。ルメールは鞭すら入れることなく、軽く押しただけで65~66km/hに加速。このスピードに後続はついていけず、あっさりと突き放す。残り100mで後ろを振り返ったルメールは勝利を確信し、ノーステッキのまま最後は流して、残り50mで馬にレースが終わった合図を出して減速したにもかかわらず、ミシュリフのコースレコードを約1秒更新するという、世界最強馬の評価に恥じない異次元の内容で3馬身半差の圧勝。逃げたというよりは、差し馬がただ最初から先頭を走っていただけというレースであった。
ルメールは2006年にハーツクライで勝って以来のこのレース2勝目。そのハーツクライも、後方からの追い込み一辺倒の馬だったのを、有馬記念で先行させてディープインパクトを撃破し、次いでこのドバイSCでは今回のように初めて逃げての勝利だった。勝利後のインタビューでルメールは「ハーツクライから自分の第2の騎手人生が始まったと思っています」と2週間前に旅立った相棒を悼みつつ、「今回の相手でこんな競馬ができてうれしく思います」と胸を張った。
世界の強豪が集まる海外GⅠ、1着賞金348万ドル(約4億5000万円)の大舞台で、まるきり公開調教のような内容での勝利には、日本のファンも興奮を通り越して唖然、戦慄、困惑。まさに「これほどまでに強いのか」と震えるしかない勝利であった。
もちろん国際的にも高い評価を受け、4/13にロンジンワールドベストレースホースランキングにおいて発表されたレーティングは129ポンド。この値は2013年の有馬記念のオルフェーヴル、2014年のジャパンカップのエピファネイア、2016年末に下方修正される前のエイシンヒカリに並ぶものであり、この2頭の実質最終的なパフォーマンスに付けられた値である。そんな値を未だ完成前・発展途上と評される段階で叩き出してしまったのだから末恐ろしい。
2023年宝塚記念: これが世界最高峰の走り
帰国後の次走は宝塚記念へ。天皇賞(春)を勝ったジャスティンパレス、アスクビクターモア・ジオグリフの同期クラシック馬やJC馬ヴェラアズール、前年有馬記念で鎬を削ったジェラルディーナ、ダービーが1秒で終わって疲れも少なかったので鞍上がまた変わっての参戦となった3歳馬ドゥラエレーデなどが集結。中間には調整の不安もささやかれたが、蓋を開ければ単勝1.3倍の断然人気に支持される。前走でレーティング現役1位となった事により、世界の競馬メディアが見守る中でのグランプリとなった。
3枠5番から発進したが、二の脚がややつかず押しやられるように後方の競馬となる。前日からことごとく前が残っておりファンに不安を抱かせたが、鞍上のルメールはペースの速さを感じ取り、荒れた内馬場を避けてそのまま外目に控える競馬を選択する。実際1000mは58秒9のハイペース、しかも前残りを狙った各馬が固まって馬群はかなり前掛かりになっており、ルメールの読みは的中していた。
3角から押し上げるように進出を開始。大外を回って直線を向き、かつて天皇賞(秋)や有馬記念で見せたような豪脚が炸裂。疲弊した先行馬を一気に斬り捨て、並んで仕掛けていたジャスティンパレスをこともなげに置き去りにする。馬群の間から突っ込んできた凱旋門賞を目指す伏兵スルーセブンシーズの追撃もクビ差振り切り、着差以上の強さを見せつけてGⅠ4連勝のゴールを駆け抜けた。
イクイノックスだ!イクイノックスです!!
父キタサンブラックが勝てなかった宝塚記念を制し、現役世界最強馬としての初戦を制したイクイノックス。秋はブリーダーズカップ・ターフ遠征プランもあったが、国内に専念しジャパンカップを目標にする事を表明した。
4歳秋: 無双の閃光
2023年天皇賞(秋): 全てを蹴散らす天賦の才
秋初戦は天皇賞(秋)。二冠牝馬スターズオンアースこそ回避となってしまったが、前年のダービーで勝てなかったドウデュース、同世代の強敵ダノンベルーガ、大阪杯を逃げ切ったジャックドール、春秋天皇賞連覇を狙うジャスティンパレス、札幌記念を圧勝したプログノーシスら強力なメンバーを現王者として迎え撃つ。このメンツもあってか秋天では異例の11頭立てという少頭数で行われた。
また、本レースはエイシンフラッシュが制した2012年の天皇賞(秋)以来、11年ぶりの天覧競馬となった。
この影響もあってか1レース前からターフビジョン前が埋め尽くされる勢いで、昼過ぎには当日入場券すら完売となるなど異様な盛り上がりを見せた。
レースは藤岡佑介に手が戻ったジャックドールが大外からハナを奪い、ガイアフォースが2番手。イクイノックスは少し離れた3番手につけ、それを見る格好で武豊の負傷で戸崎圭太が代打騎乗するドウデュースという隊列で向こう正面に入る。1000mを過ぎたところで観客がどよめく。1000m通過タイム57秒7。昨年のパンサラッサのタイムと0.3秒しか変わらないほど速いペースだったからである。その後もペースは一切緩まず、1ハロン11秒台のラップを連発しながら大欅を通過していく。
そのまま3番手で最終直線を迎え、残り400mあたりで持ったまま前を走るガイアフォースとジャックドールに並びかける。そのまま後続を置いていく形で加速していき、後方から猛追してくるジャスティンパレス、ダノンベルーガ、プログノーシスらも突き放し、結局2馬身半の着差以上の余裕を見せつけてGI5連勝のゴールを駆け抜けた。天皇賞(秋)連覇はシンボリクリスエス・アーモンドアイに続き史上3頭目の快挙。ちなみに鞍上のルメール騎手はターフビジョンをちらりと見て、余力を残すレースっぷり。
全てを蹴散らす天賦の才!
これがイクイノックスだあああああああ!!
タイムは鞍上すら驚愕した1分55秒2の衝撃的レコードタイム。2011年の同レースでトーセンジョーダンが1分56秒1を記録して以来、高速化が進む中で12年間破られなかった日本レコードをコンマ9秒も縮め、それどころか、1999年にチリで記録された芝2000mのワールドレコード1分55秒4すらもコンマ2秒更新する新ワールドレコードというとんでもタイムを繰り出した。そして父キタサンブラックは2分8秒3という秋天最遅レコードタイムの所有馬という事で、親子で秋天の最速、最遅レコードホルダーとなる珍記録も飛び出した。
上がりは34秒2と3位ながら、ジャックドールのハイペースに付き合った先行勢が軒並み沈む中での走り。上がり最速が後方2番手から2着のジャスティンパレス、上がり2位が最後方から3着に突っ込んだプログノーシスであり、それらを先行策から2馬身以上突き放した内容からも改めてイクイノックスが世界最強たる所以を示したレースと言えよう。ジャックドール「パンサラッサ先輩とほぼ同じペースで進めたのに後ろが付いて来るなんて聞いてないですよ!」
レース後、ルメール騎手は馬上で天皇皇后両陛下に最敬礼をした。(イクイノックスは興奮した様子で少しいなないていたが)
なお今回もWHRのSNSでは、この秋天と2023年の世界の2000m級7レースの比較動画が投稿された。勝ち時計1分55秒2という数字が如何に異常なものかが分かるだろう。
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https://twitter.com/WHR/status/1718573337386053964
2023年ジャパンカップ:世界最強の証明
次走はドバイシーマクラシックからの転戦ボーナスもかかるジャパンカップ。今回はタイトルホルダーやディープボンドらに加え、牝馬三冠を達成したリバティアイランドも参戦。里帰り参戦の予定だったセントレジャーS勝ち馬のコンティニュアスこそ歩様の乱れから大事を取って回避したが、あまりの強力なメンバーに2週間前時点で名乗りを挙げたのはイクイノックス含めわずか9頭だった。しかしその後は秋天を回避してスライド参戦の同期の二冠牝馬スターズオンアース、チャンピオンズカップでの復帰予定を前倒しした稀代の逃げ馬パンサラッサ、仏GⅠ2勝のイレジン、更に兵庫からクリノメガミエースとチェスナットコートが出走を表明し、2006年のJC最少頭数更新は回避。それどころか10着入線までの賞金を狙うべく続々と新規参戦馬が現れ、結果的にはフルゲート18頭が埋まった。JRA史上初となる女性ジョッキーの3名騎乗もあり、世界的にも注目が集まる一戦となった。
枠順抽選では絶好の1枠2番をゲット。両隣には1番リバティアイランドと3番タイトルホルダーという豪華な並びとなった。この枠となればもう人気は一本被り、最終的に前走を超える単勝1.3倍の圧倒的人気を集めた。2番人気のリバティアイランドが3.7倍、3番人気ドウデュースが13.2倍であり、2強というより1強と次点とその他というような分布になった。
ゲートは隣でチャカついたタイトルホルダーにひるんだ影響か若干伸び上がるように出たが、すぐに持ち直し先団に進出。好スタートを切ったタイトルホルダーとお構いなしにハナを奪いに出たパンサラッサを行かせて単独3番手の競馬を選択する。すぐ後ろにリバティアイランドがつけ、さらにドウデュースが続く形となった。
前はパンサラッサが2番手に3~4秒差をつける大逃げでぶっ飛ばし、1000m57秒6と前走のジャックドールより速い超ハイラップを刻んでいく。2番手以下は平均くらいで流れており、前走は逃げ馬についていったイクイノックスも今回は深追いせずタイトルホルダーを射程圏に捉えながらの競馬。そのまま3番手で直線を向いた。
ここで軽く促されて加速を開始し、ほぼ持ったままでタイトルホルダーに並んで残り400を通過しここでゴーサイン。一瞬のうちにトップスピードに入れ、力尽きたパンサラッサもかわしていく。自身をマークしていたはずのリバティアイランドにも影すら踏ませずちぎり捨て、決定的な4馬身差をつけて圧勝。世界最強を証明してみせた。
最後は馬なりーーっ! このメンバーで余裕綽々!
強さの次元が、全くもって違いましたぁっ!!現役にして、既に伝説! 我こそは世界No.1!
2番のイクイノックス! 強さを堂々と見せつける圧巻の勝利!!
史上最多タイ、GⅠ6連勝! 強すぎましたッ!!
勝ちタイム2分21秒8はJC歴代2位の時計だが、アーモンドアイがレコードを出した時の斤量は53kgだったのに対し、イクイノックスは58kg。リバティアイランドと斤量差4kgがあるにも関わらず上がり33秒5の末脚で突き抜けたのだから恐れ入る。WHRの投稿によれば大体こんな感じである。
ポストを読み込み中です
https://twitter.com/whr/status/1729471092388184153
GⅠ6連戦6連勝は日本競馬史上初の偉業。通算獲得賞金はアーモンドアイのJRA最高獲得賞金額記録を軽く超え、日本競馬史上初めて20億円を突破し22億円に到達した。また生産者のノーザンファームは、同年のヴィクトリアマイルから継続し前週マイルCSで歴代最長の11となったGⅠ最多連勝記録を12に更新した。ルメール騎手はこれでJRAGⅠ49勝目。節目の50勝目にリーチをかけている。
後日JRAから発表されたレーティングは堂々の133を獲得。凱旋門賞馬エースインパクトに更なる差をつけ、世界最強馬の座を不動のものとした[1]。ロンジンワールドベストレースホースランキングのレーティングではさらに上の134ポンドという評価を受けたが、この年の有馬記念の上位がJC上位組で独占されたことを受け、さらに上方修正[2]。最終的には20年以上もの間高い壁としてそびえ立ってきたエルコンドルパサーの134を超える日本競馬史上最高レーティング、135ポンドを獲得した(JCのレース自体のレーティングも126.75ポンドとなり、日本競馬史上初となる年間ベストレースの栄冠に輝いている)。
鞍上ルメールは帰ってくるや男泣き。インタビューでもあまりの強さに驚きを隠せない様子で、「イクイノックスはポニーみたい。誰でも乗れると思う」とその賢さを絶賛した。お前のようなポニーがいてたまるか!
そして11月末、有馬記念には向かわずGⅠ6連勝の勲章を手土産に引退。社台スタリオンステーションにて種牡馬入りすることがシルクHCから公式発表された。なお引退式は12月16日に中山競馬場で行われた。その際のクラブの代表からのあいさつの全文はここに書かれている通りなのだが、ライバルの具体例としてジオグリフ、ドウデュース、パンサラッサを挙げていた。
生涯成績は10戦8勝、2着2回。出走回数の少なさからGI勝利数は父キタサンブラックに1つ及ばないものの、競走馬の格としてはその戦績やレーティングの高さから曾祖父ダンシングブレーヴの再来と言っても過言ではないだろう(ダンシングブレーヴの生涯成績も10戦8勝で、凱旋門賞の鬼脚での差し切りレコード勝ちが語り草となっている一方、エプソムダービーを2着で取りこぼしている点も似ている)。
2024年1月9日JRA発表により、昨年に続き2023年々度代表馬に選出(ルール上同時に最優秀4歳以上牡馬も受賞)。満票ではなかったが、全295票中293票と堂々の受賞で父キタサンブラックの16・17年と共に史上初の「2年連続親子による年度代表馬受賞」という偉業を成した。
種牡馬時代
2024年度の種付け料は父キタサンブラックと並ぶ最高額タイの2000万円という破格の種付け料。初年度の種付け料としてはディープインパクト・コントレイル親子の1200万円を大きく上回って日本歴代1位となった。世界全体で見てもこの額を超える馬はAmerican PharoahとGhostzapper(いずれも当時の日本円で2400万円)くらいなものである。また、ディープインパクト・コントレイルは父が亡くなってから種牡馬入りしているが、イクイノックスは父が種牡馬として活躍しているにも関わらず、この価格が設定されたことも特筆すべき点である。
高額馬でありながら父キタサンブラックとともに2年連続で200頭に設定した種付け受付が開始早々に満口となっており、周囲からの期待も非常に高いものとなっている。
父キタサンブラックから早くも世界最強となった後継種牡馬が現れたという事で、世界の競馬界がその産駒に注目するだろう。果たしてデビューする仔がどのような走りをするか、楽しみは尽きない。
血統表
キタサンブラック 鹿毛 2012 |
ブラックタイド 黒鹿毛 2001 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ウインドインハーヘア | Alzao | ||
Burghclere | |||
シュガーハート 鹿毛 2005 |
サクラバクシンオー | サクラユタカオー | |
サクラハゴロモ | |||
オトメゴコロ | *ジャッジアンジェルーチ | ||
*テイズリー | |||
シャトーブランシュ 鹿毛 2010 FNo.16-b |
キングヘイロー 鹿毛 1995 |
*ダンシングブレーヴ | Lyphard |
Navajo Princess | |||
*グッバイヘイロー | Halo | ||
Pound Foolish | |||
ブランシェリー 鹿毛 1998 |
*トニービン | *カンパラ | |
Severn Bridge | |||
メゾンブランシュ | Alleged | ||
*ブランシユレイン |
クロス: Lyphard 5×5×4(12.50%)、Halo 4×4(12.50%)
- 三代母メゾンブランシュの産駒に大雪で順延されて2004年年明けに開催された第126回中山大障害と2004年中山グランドジャンプを連勝した名ハードラー・ブランディスがいる。
有馬記念で強かったのも、ゴール後もスタミナが余りあったことも、2023年の秋天でハイペースからの先行押し切りができたのも納得がいくところである。
余談
- 青鹿毛の馬体に映える顔の太い流星が特徴であり、その流星の形状から一部では「エクレア」と呼ばれている。JRA70周年記念で作成された年度代表馬を紹介する動画
においてもトリを飾るイクイノックスの場面においてハッシュタグをイメージし[#白い靴下][#エクレア]とつけられており実質公式化している。
- 黒鹿毛の馬体に映える顔の太い流星が特徴のイスラボニータとよく似ており、一部では冗談でイスラボニータ産駒扱いされることも。
- イクイノックスの活躍を受けて、母シャトーブランシュは2022年、2023年と2年連続でキタサンブラックが種付けされることとなった。2024年もおそらく確定であろう。このままステイゴールドとオリエンタルアートの再来となるだろうか。
関連動画
関連静画
関連リンク
- 競走馬情報 イクイノックス Equinox(JPN) - JRA
- イクイノックス|JBISサーチ(JBIS-Search)
- イクイノックス | 競走馬データ - netkeiba
- イクイノックス | シルク・ホースクラブ
関連項目
脚注
- *この133は、2016年の*カリフォルニアクロームに匹敵する強さ(なおその年の最強馬はArrogate(134))
- *グリーンチャンネル『ALL IN LINE ~世界の競馬~ #87 2023サラブレッドランキング特集』より。
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