イブキライズアップとは、1998年生まれの日本の競走馬である。芦毛の牡馬。
2000年代前半に高知競馬が誇る芦毛の貴公子であり、怪物であった。
地方の怪物
地方競馬には時として怪物が現れる。南関のハイセイコー、笠松のオグリキャップ、盛岡のトウケイニセイ、道営のドクタースパート、いずれも中央の馬に劣らない名馬である。
高知競馬では、ハルウララやホリエモンといった珍馬、ナムラコクオーなどかつて中央競馬で名をはせた名馬、古には地元高知産馬など、無駄に濃い個性あふれる馬が走っている。
「夜さ恋ナイター」の開始、インターネット投票の隆盛により2010年代後半から急速に売り上げが伸び、それに呼応して賞金手当のレベルが劇的に回復したことで、高知競馬の在籍馬のレベルは廃止寸前とささやかれた時代に比べれば上昇し、まだ中央競馬や他地区の上級でも善戦できそうな馬の転入も普通に行われるようになってきた。今や高知の馬が遠征で勝利を収めるのは珍しくない光景になった。
だが、そうではなかった頃は本当に強い、高知の怪物たる馬となると少なかった。当時レベルも賞金も日本で最も低いとされた高知競馬ではそういう馬は望むべくもないかもしれないが、いることにはいる。その一頭がイブキライズアップである。
夜明け前
父はトウカイテイオー世代の活躍馬イブキマイカグラ、母イブキプランタン、母の父ジェイドロバリーというパッとしない血統である。
左前脚に爆弾を抱えていたためデビューは3歳の9月まで遅れ、新潟の3歳未勝利に出走したが9着。その後の出走は困難だと判断され、高知競馬に都落ち移籍した。
日が昇る
二束三文で売られてきたイブキライズアップだが、高知の関係者はこの怪我もちながら大柄な芦毛馬に底知れぬ素質を感じたという。
厩舎を挙げての必死の治療の甲斐あり、4歳となってすぐ、高知の誇る2000勝騎手花本正三を背に、1月3日にE級1300メートルでデビュー。これは3着だったが、次走を勝利した。
高知の怪物
その後イブキライズアップは連勝街道を突き進んだ。巨体からくるパワーを武器に重馬場のレースを狙い、8月まで実に9連勝。ムチもなしに他の馬をぐんぐん突き放す様はまさに怪物そのものであった。
8月にD級浦戸湾特別を圧勝すると休養に入り、5歳となった2月のC級サラ系一般で始動。負け知らずのまま一気にA級まで駆け上がり、シーズン7戦目の四万十特別を7馬身もの大差をつけて圧勝し、特別競争を初制覇。
その後2勝を重ね、18連勝を記録。もはや高知に敵なしとなったイブキライズアップは佐賀に遠征し、ダートGIIIサマーチャンピオンに挑戦。中央馬も招待される中、高知競馬の夢を背負って走ったが、11頭中6着と敗北。連勝は18で止まってしまった。
日はまた昇る
初の遠征はほろ苦い結果に終わったが、高知には依然敵なしで、高知に戻って早速3連勝。しかしここにきて脚部不安が再びイブキライズアップを襲い、半年にわたって休養。その後6歳の5月に復帰したが、3戦連続で2着と精彩を欠き、高知の怪物もついに衰えたかと思われた。
だが次走のA級ルビー特別を圧勝すると再び3連勝。イブキライズアップの名を関した冠協賛レースも行われるなど、人気、実力ともに高知競馬をけん引する存在であり続けた。
続く足摺特別、2回目の重賞となる珊瑚冠賞はいずれも3着、続くトルコ石特別も2着と再び衰えたかに見えたが、これらはいずれも不得手の良馬場と稍重であった。
高知競馬の一年を締めくくるグランプリ、高知県知事賞にイブキライズアップは出走。あいにくの不良馬場であったが、イブキライズアップにとっては絶好の競馬日和である。
このレースのイブキライズアップはものが違った。筆者は現地で観戦していたが、最後の直線で他馬をぐんぐん引き離し、3馬身の差をつけて圧勝。高知の怪物の重賞初制覇に場内は沸きに沸いたものだった。
落日
その後のイブキライズアップは本当に精彩を欠いてしまった。7歳になって2戦使って4着、8着。続いて黒船賞に高知代表で出走した。
2枠2番に入ったイブキライズアップは好スタートを切った。ここから先頭集団につけて直線に抜け出すのがイブキライズアップの全盛期の姿である。
しかし、イブキライズアップはそこからそのまま失速し、見せ場のないまま8着。相手が強いのもあるだろうが、一つの時代の終わりを感じるレースであった。
その後次走は4着に入った。そこから2か月ほど休養し、7月10日、ルビー特別で事件は起こった。
スタート直後に左前足の爆弾がついに破裂した。複雑骨折を起こして競走中止。これはもうだめだと直感でわかる骨折だった。
普通なら予後不良となるところだが、何とか命だけは助けようと関係者は懸命に治療した。しかしそれもむなしく16日に自力で起き上がれなくなり、ついにイブキライズアップはこの世を去った。
イブキライズアップとハルウララ
高知競馬といえば世間の人が最初に思い浮かべるのがハルウララだろうが、ハルウララがマスコミに取り上げられたのは、最初はイブキライズアップのおまけとしてであった。
連勝街道を突き進む高知の怪物の陰で、ひたすら負けまくる馬がいるというのが本来のコンセプトであったが、いつの間にかハルウララが主役になっていた。
ハルウララのおかげで高知競馬は廃止を免れたのでそれが悪いことだとは思わないが、この記事を読んでイブキライズアップという馬がハルウララの道を作った事実も知っていただければ幸いである。
ちなみにこの2頭をマスコミに紹介したのは橋口浩二氏、痛レースでおなじみの橋口アナPその人である。
血統表
イブキマイカグラ 1988 栗毛 |
*リアルシャダイ 1979 黒鹿毛 |
Roberto | Hail to Reason |
Bramalea | |||
Desert Vixen | In Reality | ||
Desert Trial | |||
ダイナクラシック 1982 鹿毛 |
*ノーザンテースト | Northern Dancer | |
Lady Victoria | |||
*クリアアンバー | Ambiopoise | ||
One Clear Call | |||
イブキプランタン 1993 芦毛 FNo.21-a |
*ジェイドロバリー 1987 黒鹿毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
Gold Digger | |||
Number | Nijinsky II | ||
Special | |||
*アルズアニー 1979 芦毛 |
Al Hattab | The Axe | |
Abyssinia | |||
Annie Burns | Spring Double | ||
Shy | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Northern Dancer 4×5(9.38%)、Nashua 5×5(6.25%)
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関連項目
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