インフレ恐怖症単語

インフレキョウフショウ
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インフレ恐怖症(inflation phobiaとは、経済に関する言葉である。

概要

定義

インフレ恐怖症とは、インフレ率の上昇に恐怖を感じてインフレ率を高める政策に猛反対することをいう。

症状

インフレ率を高める政策を提示されたら『インフレが制御できなくなり、ハイパーインフレになる』という口上を述べ立てて猛反対をする」というのがインフレ恐怖症の典的な症状である。

経済デフレになっていようがなんだろうが一切関係なく発症することでも有名である。この記事exitには日本インフレ率の推移が示されているが、1999年以降の多くの年でデフレとなっていることがわかる。そういう状況でも日本においてインフレ恐怖症が流行した。

インフレ誘導政策をひとたび実行したらデフレの状態から即座にハイパーインフレへ移行する」とすることを融の岩石理論と言う。「坂に置いてある岩石は放置していれば安全だが、ひとたび転がり出せば猛な勢いで加速して、坂の下に住む人々を危険なに遭わせるだろう。政策もそれと同じで、ひとたびインフレ誘導をしたら猛な勢いでインフレが進み、ハイパーインフレになる。ゆえにインフレ誘導をせず放置するのが一番だ」というである。

ちなみにインフレには数段階あり、2~3クリーピング・インフレ、5~7の高度経済成長期並みインフレ、10~20のギャロッピング・インフレ、26を3年続けるなどして3年以内に物価が2倍になるハイパーインフレといった段階を踏む。「デフレからいきなりハイパーインフレになる」というのはインフレ恐怖症特有の物言いである。

デフレの最中にインフレ誘導政策を提示する人に対して「ハイパーインフレになるから反対だ」というインフレ恐怖症の感染者の姿は、吹雪で凍えそうなときに厚着をしようとする人に対して「熱中症になるからを着るな」というのとだいたい同じである。

性質1 正の需要ショックを引き起こすことに反対する

インフレ恐怖症に感染すると、正の需要ショックを引き起こして実質GDPを上昇させることに反対するようになる。なぜなら、財政政策や融政策や貿易政策といった政策によって正の需要ショックを引き起こすと実質GDPを上昇させることができるが、そのときに必ず物価が上昇してインフレ率が上昇するからである。

財政政策や融政策や貿易政策といった政策を変更して総需要を増やして正の需要ショックを起こすと、タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルにおいて総需要曲線が右に行移動し、右肩上がりの短期総供給曲線に沿って均衡点が右上に移動し、実質GDPと物価が上昇する。

性質2 有利な供給ショックを引き起こすことに賛成する

インフレ恐怖症に感染すると、有利な供給ショックを引き起こして実質GDPを上昇させることをすようになる。なぜなら、有利な供給ショックを引き起こすと実質GDPを上昇させることができるが、そのときに必ず物価が下落してインフレ率が下落するからである。

総供給を増やして有利な供給ショックを起こすと、タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルにおいて短期総供給曲線が右に行移動し、右肩下がりの総需要曲線に沿って均衡点が右下に移動し、実質GDPが上昇して物価が下落する。

性質3 サプライサイダーが感染しやすくてケインジアンが感染しにくい

国家の供給を高めて有利な供給ショックを引き起こそうという考えを支持する人はサプライサイダー(サプライサイド経済学支持者)と言われる。そうした人々はインフレ恐怖症との相性が良く、インフレ恐怖症を発症しやすい。

国家の総需要を高めて正の需要ショックを引き起こそうという考えを支持する人はケインアンケインズ経済学支持者)と言われる。そうした人々はインフレ恐怖症との相性が悪く、インフレ恐怖症を発症しにくい。

自ら進んでインフレ恐怖症に感染する者

インフレ恐怖症の感染者には、自ら進んで感染する者がいる。

自ら進んでインフレ恐怖症に感染する者は、より巧妙にプロパガンダ政治的宣伝)を行う的でそうした行動をすることが多い。そうした者は「政府中央銀行が政策を実行して正の需要ショックを引き起こすことを阻止するため、他者のインフレ恐怖症を上手に刺する巧妙なプロパガンダを発したい」という政治的な欲求を持っている。

たとえば、労働者賃金を減らして使用者)の配当を増やそうと考える株主資本主義者がいる。政府政府購入を増やして公務員の人数や賃金を増やして正の需要ショックを発生させる政策は、労働市場の需要を増やすことになって民間企業労働者賃金を高めることになるので、株主資本主義者にとって実に忌まわしい政策である。そこで株主資本主義者は自ら進んでインフレ恐怖症に感染し、インフレ恐怖する心理を持ちつつ「政府購入を増やすとハイパーインフレになる!」と迫真の叫びを行い、他者のインフレ恐怖症を上手く刺して、政府購入を増やす政策を阻止する。

自ら進んでインフレ恐怖症に感染するわけではない者

インフレ恐怖症の感染者には、自ら進んで感染するわけではない者がいる。

そういう者がどうしてインフレ恐怖症に感染するのかは様々な原因が考えられる。それについて『インフレ恐怖症になる原因』の記事で述べる。

インフレ恐怖症になる原因

1970年代オイルショックのトラウマ

日本において年間インフレ10えるギャロッピング・インフレが発生した直近の年は1973年である。この年に第1次オイルショックが起こり、狂乱物価と言われるほど物価が上がった。トイレットペーパー騒動が起こり(画像exit)、社会になった。

「第1次オイルショックが幼少期と重なり、100円の小遣いで買える駄菓子の量がどんどん減っていくという恐怖体験を経たことでインフレに対する根深いトラウマが心に刻み込まれ、40年以上経った2020年現在でも心の傷(PTSD)に苦しんでいるインフレ恐怖症の感染者がいる」と論じられることがある。

青山雅幸衆議院議員exitは、インフレに対する恐怖心をTwitter上で露わにすることでとても有名である。彼のインフレに対する懸念のはいくらでも読むことができる(ツイート1exitツイート2exit検索exit

これに対して、「青山議員は1962年生まれで1973年の第1次オイルショックのときは11歳だった。第1次オイルショックを実経験したからインフレ恐怖症を抱えることになったのではないか」と分析するTwitterユーザーがちらほら現れている。

労働運動が弱くて実質賃金が下がることについて不安を持つ

インフレになったらっ先に苦労するのが労働者である。インフレになると物価の上昇が発生するが、賃金の上昇がそれに追いつかず、労働者の実質賃金が減って労働者生活苦になる。

インフレになったら労働三権を行使して戦闘的な労働組合を結成して果敢に労働運動をして賃金の上昇を勝ち取ればいいのだが、そういうことがあまり行われないがある。そういうに住んでいると、インフレになっても使用者の言いなりになる御用組合ばかりという状況になり、果敢な労働運動をすることができず、労働者が実質賃金の下落を甘んじて受け入れることになる。

つまり、労働運動が冷え切っていてインフレが起きると実質賃金が低下しやすいでは、インフレ恐怖症が流行しやすい。

銀行預金が目減りすることについて不安を持つ

富裕層は様々な形態で富を保有しているが、その中で最も基本的な形態は銀行である。

銀行の中でも普通定期には名利子率で計算される利子が付く。ところが、インフレ率が上がっていき「名利子率-インフレ率=実質利子率」で計算される実質利子率がマイナスになると、その銀行は価値が減りしていくことになる。

このため高額の銀行を保有する富裕層はインフレによる銀行の価値の減りを常に警している。その警心が強くなるとインフレ恐怖症を発症することになる。

商品貨幣論の影響を受けている

通貨の成り立ちを説明するために使われてきた商品貨幣論がインフレ恐怖症の原因となっている」という説がある。

簡単に商品貨幣論を説明すると以下のようになる。「原始社会では物々交換が行われていたが、そのうち、市場に参加する皆が一様に価値があると信認する商品が便利な交換手段として使われるようになり、通貨の地位を獲得するようになった。その代表例は塊である。時代が進むにつれて塊との交換を義務づけた兌換銀行券が流通するようになった。1971年のニクソショック塊とドルの交換が停止されてからは世界中から兌換銀行券が姿を消して不換銀行券ばかりになったが、不換銀行券利用する皆が一様に価値があると信認しているから、皆に使われて流通しているのである」というものである。

つまり商品貨幣論とは、「通貨とは、利用する皆が一様に価値があると信認しているもの」と定義する理論である。

商品貨幣論は、塊との交換を義務づけた兌換銀行券の時代までは上手に通貨を説明できた。ところが、不換銀行券の時代になるとあまり上手に説明できないので「共同幻想」というあやふやな言葉を持ち出して苦し紛れの説明をするようになった。「現代は世界中で不換銀行券が使われている。不換銀行券というのは原価がわずか17円切れなのだが、利用する皆が『1万円の価値が宿っている』と共同幻想を抱いているので通貨としての地位を得ている」といった説明をするのである。

その説明は、同時に、「インフレ誘導をして政府通貨価値を保つ姿勢を放棄すると、皆が不換銀行券を疑い始め、『切れに価値がある』という共同幻想が崩れ、利用する皆の通貨に対する信認一気に失われ、1万円札の価値が17円にまで即座に下落する、すなわち即座にハイパーインフレーションになる」という思考をもたらす。この考え方は「デフレから一気にハイパーインフレーションへ突き進む」という融の岩石理論と全く同じである。

「物々交換こそが経済の原型である」という思想の影響を受けている

通貨の成り立ちを説明するときに商品貨幣論紹介する人は、必ずと言っていいほど「物々交換こそが経済の原である」という思想を述べる。

物々交換こそが経済の原である」という思想は、「各人の所有する物が増えたり減ったりするだけの世界経済の原である」と考えるものであって、「各人の貸借対照表バランスシート)は、いずれも、資産の部が増えたり減ったりして変動するのに対して負債の部がずっと空白のままで変化しない」という社会を想定している(詳しくは商品貨幣論の記事の“「物々交換こそが経済の原である」という思想”の項を参照のこと)。

このため「物々交換こそが経済の原である」という思想からは「負債を全く抱えずに通貨などの資産を持っているだけの状態が、人類にとって本来の姿だ」という考えが生まれてくる。

そういう考えが強くなると「すべての人が『通貨を保有していて負債を抱えていない人』である」という錯覚を生み出す。実際は多くの人が銀行などからお金を借りて負債を抱えているのであるが、そういう現実を忘れてしまう。

その錯覚が「インフレにすると『通貨を保有していて負債を抱えていない人』に損を与える。そして世の中の人はすべて『通貨を保有していて負債を抱えていない人』である。ゆえにインフレにすると世の中のすべての人に損を与える」というような三段論法を導き、「インフレ通貨圏に属する全員に迷惑を掛ける悪行である」という嫌悪感を作り出し、インフレ恐怖症の原因となっていく。

実際のインフレは、負債を削減する効果があるので、通貨圏の中で負債に苦しんでいる人に対して恩恵をもたらすものである。ゆえに「インフレ通貨圏に属する全員に迷惑を掛ける悪行である」というのは間違いである。

自然率仮説を支持してヒステリシス仮説を支持しない

経済学には自然率仮説ヒステリシス(経済学)の仮説がある。

自然率仮説というのは、正の需要ショックを起こして短期において実質GDPと物価の両方を上げたとしても長期において有利な供給ショックが起こらず実質GDPが元通りの準に下がりつつ物価がさらに上昇するという仮説である。

ヒステリシス(経済学)の仮説というのは、正の需要ショックを起こして短期において実質GDPと物価の両方を上げたとき、長期において有利な供給ショックが起きて実質GDPが元通りの準よりも高い準を維持しつつ物価の上昇が抑制されるという仮説である。

自然率仮説を信じる者は「正の需要ショックで有利な供給ショックを引き起こすことができない」と考えるのでインフレ恐怖症になりやすい。

ヒステリシス(経済学)の仮説を信じる者は「正の需要ショックで有利な供給ショックを引き起こすことができる」と考えるのでインフレ恐怖症になりにくい。

政府や中央銀行の権力を過小評価する

政府が消費課税の増税をすると消費を抑制して総需要を抑制して負の需要ショックを引き起こしてインフレ率を抑制できる。特に消費税を増税すると劇的に消費を冷え込ませて、がっちりとインフレ率を押さえ込むことができる。日本1997年4月1日消費税増税からデフレが深刻化して、デフレが基本のとなった。

中央銀行資金吸収オペレーションをして利下げすると投資を抑制して総需要を抑制して負の需要ショックを引き起こしてインフレ率を抑制できる。

に対する反抗意識が強いとか、権を毛嫌いする意識が強いなどの理由で、政府中央銀行の権を過小評価する人がいる。そういう人は「インフレになったら政府中央銀行が権を使ってどうにかインフレを抑制するだろう」と確信できず、インフレ恐怖症になりやすい。

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インフレ恐怖症

11 ななしのよっしん
2020/02/26(水) 05:11:36 ID: rYP+aW8+zr
ニコニコ的な意味で言うと
ジャンプに代表されるようなバトルものの「戦インフレ」を極端に嫌う人かな。

ぶっちゃけいうほど悪くはない
結局フリーザ編とかピークといわれるのはインフレの最中のことだし、仮にそれ以降が蛇足だとしてもインフレの前に打ち切られるよりもずっと良い。内容的にも売り上げ的にも
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12 ななしのよっしん
2020/03/11(水) 23:54:26 ID: rCY6Sfl2Uu
オンラインゲームでやたら弱体化調整をする運営のことかと思った
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13 ななしのよっしん
2020/05/24(日) 10:38:17 ID: BUDlp5ScIs
>>11
バトルものでかれるインフレって連載引き伸ばしや長編エピソードの切り替わりに付随するタイプだと思う
DBならサイヤ人フリーザ編は一連のエピソードだからその中でのインフレキャラクターの成長や盛り上がりに一役買ってたから悪く思わなかった
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14 ななしのよっしん
2021/12/09(木) 03:47:12 ID: LCyThPhJG3
物価が上がるのを嫌がる消費者は多いだろ
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15 ななしのよっしん
2021/12/24(金) 03:09:23 ID: YFmphKUBxJ
アメリカの6インフレで政権と中央銀行が右往左往してるのもインフレ恐怖症なんですかね
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16 ななしのよっしん
2022/05/26(木) 07:27:00 ID: 5kZxH78+T9
科学技術、という面が無視されてないか?

たとえば、新しくアルミが安い素材として世界に加わった、巨大産業が増えたこととインフレの関係とか。
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