「イージス・アショア」(Aegis Ashore、陸上配備型イージス・システム)とは、地上配備型のミサイル防衛システムである。
イージス・システムの詳細については、イージス艦の記事を参照。→イージス艦
概要
イージス艦に搭載されているイージス弾道ミサイル防衛システムを陸上配備型にしたもので、指揮通信システム、AN/SPY-1レーダー、Mk41垂直発射システム(24発のSM-3を搭載)で構成されている。[1]
地上設備なので、定期的な寄港や休養が必要なイージス艦と違い、24時間365日の警戒監視が可能。
2023年の時点でハワイのミサイル試射場、ルーマニア、ポーランドの3箇所に設置されている。
日本でも2017年末にイージス・アショアの導入が閣議決定されて計画が進められていたが中止になり、日本は代替として「イージス・システム搭載艦」を2隻建造する。
日本向けイージス・アショア
国内のミサイル防衛システムとしては、海上自衛隊のイージス艦、航空自衛隊のPAC-3に続き、初めて陸上自衛隊が運用を担うことになる。
2019年1月29日、アメリカのトランプ政権は、イージス・アショアの防衛システムを21億5000万ドル(日本円にして2350億円)で日本に売却することを承認し、アメリカ議会に通知した。
日本向けイージス・アショアに搭載されるレーダーは、レイセオン社のSPY-6ではなくロッキード・マーティン社のLMSSRが選定されていた。これはまだ製造されておらず、性能確認などの試験も全く新規に行う必要があった。[2]
導入まで[3]
日本のMDはこれまで二本建てになっていた。イージス艦から発射するSM-3。もう一つは特定の狭いエリアの防護する低空での迎撃を行なうPAC-3(パトリオット)である。
パトリオットはアメリカでは陸軍の装備なのだが、日本では色々経緯があって航空自衛隊の装備となっている。つまりパトリオットは、普段は空自基地に置かれているということであり、首都圏の防空は整備できたが、大阪や京都はいつまでたってもPAC-3で守られないという状況になった(名古屋と九州の間には空自の広い基地がない)。
さすがにこのままではよろしくないという話になり、「関東をTHAADで防空し、関東のPAC-3部隊はあらためて関西圏の防空に転用するべく運用を考える」という話がいったん決まりそうになったらしい。しかし日本列島は敵国から見て攻撃選択目標が横方向に散在しているのに、THAADがカバーできる水平距離は十分ではなく、その割にはシステム価格は高い、必要な調達数や部隊新編、訓練、宿舎等のやりくりなどを考えればイージス・アショアの方が断然コスパが良い、と試算され、結果的にTHAADの線は消えたようだ。
メリット
- 地上にあるため、自宅から通える。人員確保が容易。
- 海上自衛隊の激務を軽減。
- 運用コストが海上よりかからない。
- 管理・メンテナンスが楽。24時間365日防護可能。
- 地上からのサポートが容易であり、警戒・発射の面で即応性がある。
- 安全性と抑止力の強化。
デメリット
- イージス艦のように自由に移動することができないため、秘匿性と柔軟性がない。
- 海上自衛隊と違い、陸上自衛隊には運用のためのノウハウが不足している。
- 配備された基地とその周辺、及び関連施設(都内含む)は、有事の際、先制攻撃の対象として真っ先に狙われる。平時の警備も負担増となる。
- ロシア、中国、北朝鮮、韓国等の周辺諸国からの反発。
- 国内への防衛効果が低いと指摘する専門家もいる。
候補地
調査ミス問題
2019年6月5日、防衛省は秋田市の予定地と他の候補地を比較した地形に関するデータに誤りがあったことを明らかにした。
岩屋防衛大臣は、衆議院安全保障委員会で「断面図の高さと距離の縮尺が異なっていたことに気付かずに計算した人為的なミスで、調査結果全体の信頼性を失墜させかねないもので大変申し訳ない」と陳謝した。
結果を修正しても陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)が適地だとする判断に変わりはないとも説明したが、秋田市で開かれた説明会では住民から怒りの声が上がっている。
五味賢至戦略企画課長は、Google Earthを地図のデータとして使用した際、仰角の計算に用いた「高さ」と「距離」の縮尺が異なっていることに気付かず、定規で測り三角関数を用いて計算したためと語っている。
報道
2019年2月12日の通常国会衆院予算会議で、国民民主党所属の泉健太代議士が行った質問に対して、安倍首相はイージス・アショアの利点として「自宅から通える」等と答弁したため、各社マスコミにより「家から通えるイージス・アショア」というセンセーショナルな見出しで報道された。
ニコニコニュース 安倍首相「家から通えるイージス・アショア」答弁の無知と詭弁と恐ろしさ
計画中止
2020年6月に、NSCにおいて山口・秋田両県への配備断念を決定したと河野太郎防衛相が発表、代替地を見つけることは困難であるという認識も示した。[4]
配備断念の理由は、「迎撃ミサイルのブースターの落下」問題であった。そもそも「迎撃ミサイルを打ち上げる際にはブースターを用いる。そのブースターは切り離されて落下してくる」ことは以前から知られていた。そのブースターが市街地に落ちてくる可能性についての配備予定地からの懸念に対して、防衛省側は「市街地ではない場所に落下させるように、ブースターの落下地点をコントロールできる」システムにすると説明していたのである。
だが、その後の検討によって、そのようなシステムにするためには迎撃ミサイルや発射装置に「作り直し」と言ってよいほどの大改修が必要になる事が判明。その大改修には、10年とも言われる長い開発時間と約2000億円の巨額の開発費用が見込まれるとの試算も出たという。この時間的・予算的な多大なコスト増大は許容できないとの判断により、イージス・アショアの計画は見直されることとなった。
その後2020年12月には、「イージス・アショアの代替として新たなイージス艦を2隻建造する」ことが閣議決定された。こうして、日本におけるイージス・アショアの構想は夢と消えたのである。
関連動画
関連リンク
- 防衛省・陸上自衛隊(公式HP)
- <解説>陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)について 平成30年版防衛白書
- 防衛省・陸上自衛隊 陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)に関する秋田県及び山口県への説明について
関連項目
脚注
- *ポーランドで欧州二基目の陸上配備型イージスアショアの運用が開始 2023.12.12
- *イージス・アショア搭載レーダーの選定に専門家が抱いた「違和感」
- *「AI戦争論 進化する戦場で自衛隊は全滅する」兵頭二十八 2018 飛鳥新社 pp.144-145
- *イージス・アショア配備計画を断念、代替地は困難-河野防衛相 2020.6.25
- 12
- 0pt