ウィルヘルム・フォン・クロプシュトック(Wilhelm von Klopstock)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
CV.あずさ欣平(石黒監督版OVA)、北沢洋(Die Neue These)。
概要
ゴールデンバウム朝銀河帝国末期の貴族・侯爵、帝国軍予備役大将。帝国暦486年には初老に達していた。
第35代皇帝オトフリート5世の息子たちによる継承権争いでの失敗を機に貴族社会での立場を喪い、約30年後に復仇のため第36代皇帝フリードリヒ4世の暗殺を試み失敗した“クロプシュトック事件”において服毒自殺をとげた。
経歴
ウィルヘルムは、開祖ルドルフ大帝以来20代、国務尚書を6人、皇族と婚姻するもの7人、一度は皇后すらも輩出した門閥貴族中の名門、クロプシュトック侯爵家の当主であった。
若き日の失脚
彼の宮廷人生に大きな転機が訪れたのは、第35代オトフリート5世が在位した帝国暦450年代だった。この時期の宮廷では、帝位の継承者をめぐり、廷臣たちが皇太子リヒャルト派と三男クレメンツ派とに分かれ争う状況にあり、帝国暦452年、リヒャルト皇太子が弑逆陰謀の罪で自死を余儀なくされ、代わってクレメンツが皇太子として立つに至る。しかし帝国暦455年、リヒャルトが無罪であり、クレメンツ派が冤罪によって陥れたことが判明し、失脚したクレメンツは逃亡中に事故死、クレメンツ派廷臣170名も粛清されたのである。
この抗争の当時、ウィルヘルムはこの三男クレメンツを帝冠の継承者と見据えて少なからず支援しており、口約束ながら国務尚書職の内示までを得ていた。しかしこの抗争の末に帝冠を継いだのは、もとより期待されず、またそれまでウィルヘルムが敗者とみなして嘲笑し軽蔑しつづけてきたオトフリート5世次男、フリードリヒ大公だった。そしてそのためにフリードリヒ大公の側近から憎まれていたウィルヘルムがいまさら宮廷に戻れるはずもなく、彼はフリードリヒ大公と立場を反転させ、宮廷抗争の敗者として表舞台を去るよりなかった。
クロプシュトック事件
以降、”皇帝フリードリヒ4世”の治世末期に至るまでの30年、ウィルヘルムは“過去の大物”として逼塞した後半生をおくった。彼はそのあいだに与えられた抑圧と冷笑、屈辱と軽蔑に対して復讐心を募らせ、ついに報復を決意する。そのためにウィルヘルムは、侯爵家創立以来所有する猟園の献上、宮内省・典礼省高官への献金、ブラウンシュヴァイク公をはじめとする門閥貴族たちへの貴重な美術品の贈与と懇願といった布石を積み重ねていった。
かくして、フリードリヒ4世朝末期を彩った宮廷の一大事件、“クロプシュトック事件”が発生する。
帝国暦486年3月21日、ブラウンシュヴァイク公爵邸に皇帝を招いて行われたパーティーにおいて、ウィルヘルムは爆弾入りのセラミック製ケースを片手に帝国貴族の社交界への復帰を果たした。公爵邸を訪れた彼は、まだ到着していない皇帝の賓席から五、六歩の近さに配された自身の席の脚下にケースを置きざりにすると、怪しまれることなく公爵邸を去る。そしてこの爆弾が炸裂した時、自家用宇宙船に搭乗した彼は、公共用の客船に優先されて悠々とオーディンを出立していたのだった。
しかし、この陰謀は結局失敗に終わっていた。肝心のフリードリヒ4世は腹痛のためついにブラウンシュヴァイク公爵邸を訪れず、爆弾自体も直前のハプニングによってちょうど広間をはこびだされかけたところで爆発し、大貴族たちの中心で爆発することがなかったのである。しかしそれでも、この爆発による即死者は10名以上、負傷者は100名を越える惨事となった。そして当然、それらの死者・負傷者は貴族によって構成されていたのである。
爆弾の出処がウィルヘルムの黒いケースであったことはすぐに突き止められ、翌22日朝までに彼は大逆罪の未遂犯として爵位を奪われた身となった。月末にはブラウンシュヴァイク公の指揮する討伐軍がクロプシュトック侯領へと派遣され、死を覚悟し自暴自棄になったウィルヘルムは金を惜しまず傭兵をかき集めて迎え撃つ。貴族の私兵と正規軍を混成した討伐軍側の無秩序さにも助けられ、クロプシュトック軍は地域的な小叛乱としてはよく持ちこたえた。しかし最終的には討伐軍に軍配が上がり、彼は服毒自殺の道を選んだのだった。
人物
宮廷の本流から外れていたためあまり印象的ではないが、ウィルヘルムも本来は典型的な特権階級的人物、傲慢な門閥貴族のひとりである。
クロプシュトック事件に至った理由も、宮廷における地位の失墜や縁談・交際の破談など敗者として受けたさまざまの屈辱があったとはいえ、基本的には30年の逼塞のあいだに彼の心情が他罰主義的な方向へと急速に傾いた結果であった。この事件に際してブラウンシュヴァイク公などの門閥貴族に対して頭をさげて懇願してみせたのも、貴族は優越感を刺激されることに弱いという自身の経験がもとになっている。
また、登極後のフリードリヒ4世についても、遊蕩のあげく借金返済に追われる“フリードリヒ大公”をさんざん軽蔑してきたこともあり、当然ながら皇帝に対する忠誠・敬意といったものは一切持っていなかったようである。
OVAにおける描写
OVAでは時系列が変更され、クロプシュトック事件は本伝第9話、帝国暦487年の出来事となった。
ウィルヘルムの性格面には若干の変更が加えられており、屋敷前のルドルフ大帝の銅像に対し帝室に弓引くことを謝罪しつつフリードリヒ4世とブラウンシュヴァイク公の暗殺を“王朝のおんため”と語るシーンが存在する、復讐に踏み切った理由として子ヨハンの早世が仄めかされる、フリードリヒ大公を擁立したブラウンシュヴァイク公オットーらがウィルヘルムを社交界からおいやった中核的人物と設定される、ヴェストパーレ男爵夫人マグダレーナに「変わり者」と評される、などといった描写が追加されている。
事件そのものの大筋に変更はないが、爆弾はウィルヘルムの持つ杖に変更され、事件後は私領に戻るのではなく私邸で企みの失敗を知り、屋敷に火を放って自殺する筋書きとなった。このためウォルフガング・ミッターマイヤー、オスカー・フォン・ロイエンタールとラインハルト・フォン・ローエングラム(原作でのクロプシュトック事件時はミューゼル)が知己となるきっかけとなったクロプシュトック侯領への討伐行はOVA作中では存在しないが、のちに本伝第87話においてクロプシュトック事件の名を出さない形で補完されている。
関連動画
関連項目
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