ウィレム・ホーランド(Willem Holland)は、「銀河英雄伝説」外伝に登場するキャラクターである。
概要
自由惑星同盟軍人。最終的な階級と地位は中将・第11艦隊司令官。石黒監督版における旗艦は第六次イゼルローン要塞攻防戦においてナンバー521のミサイル艦、艦隊司令官として旗艦級戦艦「エピメテウス」。
宇宙暦794年10月半ば時点で31歳(「まもなく32歳」と記述がある)という少壮の指揮官で、自らを英雄に擬す、過剰なまでの自負心を有する。石黒監督版OVAでは自信に満ち溢れた角ばった顔と張りのある声の持ち主。
第六次イゼルローン要塞攻防戦においてミサイル艦の集中運用を立案、実行。その功により中将に昇進、第11艦隊司令官に任ぜられたが、第三次ティアマト会戦にて帝国軍ミューゼル艦隊の攻撃を受け、敗死した。
戦歴
元より同盟軍若手将官のホープと目されており、ミサイル艦を中心とする分艦隊の司令官・少将として宇宙暦794年の第六次イゼルローン要塞攻防戦に参加。
同盟軍主力を囮として帝国軍イゼルローン要塞駐留艦隊を誘引し、その間隙を衝いてミサイル艦部隊が回廊外縁部を迂回、イゼルローン要塞に接近しミサイルによって直接攻撃を行う作戦案を提示。他に有効な作戦案もなかったことや、総司令官ロボス元帥からの評価が高い総司令部付参謀アンドリュー・フォーク中佐が同様の案を提示したことから、彼の案が採用されることとなった。
「火力の滝をもって、イゼルローンの鉄壁に穴をあけてごらんにいれましょう」
実際の戦闘においては、目論見通り要塞駐留艦隊を迂回し、帝国軍に気付かれずにイゼルローン要塞に肉薄することに成功。ミサイルの斉射によって液体金属層を打ち破り要塞外壁を露呈させ、第二層にまで打撃を及ぼすことに成功した。しかし帝国側で唯一この作戦に気づき後方に待機していたラインハルト・フォン・ミューゼル少将指揮下の分艦隊2200隻の側面攻撃を受け、作戦は頓挫することとなる。
その後戦闘は要塞前面での混戦の様相を呈し、さらに両軍入り乱れた消耗戦に雪崩れ込んだ。この期に及んで同盟軍首脳部は後退と戦線の再編を決断、作戦参謀ヤン・ウェンリー大佐の進言の下、要塞駐留艦隊を要塞主砲”雷神のハンマー”の射線上に押し込み、要塞主砲を封じつつ挟撃の体勢を作り上げることに成功する。この時ホーランド少将は麾下のミサイル艦部隊を指揮して柔軟かつ機動的に艦隊を動かし、三度に渡り帝国軍側面に突入、敵に痛撃を与えて先日の汚名を雪いだ。
イゼルローン要塞攻略作戦自体はこの後に要塞主砲の使用を許したことで失敗したが、戦闘中の活躍によって彼は中将に昇進、第11艦隊司令官に任じられる。32歳にしての中将昇進はかの英雄ブルース・アッシュビーに並ぶものであり、彼は自らを英雄アッシュビーの再来と目すようになった。
その後彼と第11艦隊はロボス元帥の後押しで第三次ティアマト会戦に参加することとなる。この会戦においては、前線に展開した三個艦隊の司令官のうち最先任であるビュコック中将の指示に従うべきところであったが、彼は自身の艦隊の行動に無用な掣肘は不要、無理な友軍との連係は敵を利するのみ、としてこれを拒否。更には「悪の総本山たるオーディンを長駆攻略し帝国を滅亡させる」と放言しただけでなく、
「小官はビュコック閣下の経験と実績を尊敬しております。過去の経験と実績を……」
と暴言を吐く。もっとも、老将ビュコックには
「作戦というものは実行するより早く失敗はしないものだ」
「わしの過去の経験によればね……」
と皮肉られてしまったのであったが。
戦闘が開始されると、ホーランド率いる第11艦隊は猛進を開始。直線攻撃に見せかけて帝国軍側面に回りこみ、その機動に帝国軍が追随できずにいるうちに帝国軍中央部に突入。一挙に帝国軍を混乱に陥れる。機動性に富んだ第11艦隊の艦隊運動の前に帝国軍主力はミュッケンベルガー元帥の怒号も虚しく翻弄され、戦況は完全に同盟側に有利であるかのように見えた。
一個艦隊をもって四倍の帝国軍を圧倒している戦況を見て、彼はすでに自らの勝利は決したものと確信し、なすすべもなく敗走に移りつつある帝国軍を追撃、撃滅するようビュコック、ウランフ両将に求めた。しかし帝国軍艦隊の一部が秩序を保ったまま後退していることに気づいていた両将は彼に後退と艦隊の再編を指示する。しかし彼は
「先覚者はつねに理解されぬもの。もはや一時の不和、非協力は論ずるにたらず。永遠なる価値を求めて小官は前進し、未来に知己をもとめん」
との迷言をもって返答。指示の一切を無視してなお攻撃を続けた。実際の所、後退して戦機を窺っていたミューゼル艦隊を除いた帝国軍は、荒れ狂う嵐のごとき第11艦隊の攻撃により、醜態といっていい惨状を呈しつつあった。
しかしこの時、戦場に転回点が訪れる。第11艦隊がついに攻勢の限界点に達したのである。
ラインハルト・フォン・ミューゼルはこの機を見逃さなかった。第11艦隊の前進が止まったその瞬間、ミューゼル艦隊から放たれた主砲斉射三連の直撃を受け、ホーランドは旗艦とともに消滅。続く第二斉射によって艦隊はパニックに陥り、完全に潰乱して敗走した。
こうして未来に知己を求めんとした彼は、未来を通り越して天上に知己を求めに行ってしまったのであった。
自らを英雄に擬した彼は、真の英雄の手によって死んだ。
「芸術的艦隊運動」
彼の戦術の特徴は、本人曰く「芸術的艦隊運動」であるところの無秩序なまでに機動的で奔放な用兵にある。
第三次ティアマト会戦において彼の用兵を観察していた金髪の英雄と赤毛の副官のコメントは以下のとおりである。
「(前略)ただ、あの艦隊運動はみごとですね。芸術的なほどです」
「芸術とは非生産的なものだな。動線の無秩序さを見るがいい。エネルギーを浪費するためにうごきまわっているようだ」
「敵軍のうごきを見るに、速度と躍動性にはすぐれているが、他部隊との連携を欠き、また補給線の伸長を無視しているのがあきらかだ。つまりその意図は極端な短期決戦であって、用兵の基本を無視したうごきにより、わが軍の混乱をさそい、それにつけこんで出血を増大せしむるにある。だとすれば、わが軍は無用な交戦を避け、敵が後退すれば同距離を後退し、敵が物心両面のエネルギーを費いはたした時点で反攻にうつるべきだ。(以下略)」
「あんな非常識な艦隊運動が、いつまでもつづくはずがない。限界点に達する時間が早くなるだけだ。もし、その帝国軍の指揮官に充分な戦力があったら、ホーランドを縦深陣のなかに引きずりこんで袋だたきにするでしょうな。奴はそのことに気づかないのか」
と言われてしまっている。これについてのビュコックの意見は、「勝っているときに、あるいはそう信じているときに交代するのは、女にふられたときに身をひくよりむずかしいだろうと思うよ」といったものであり、ウランフもその正しさを苦笑とともに認めたのであった。
しかしこの艦隊運動も、ミューゼル艦隊参謀長ノルデン少将によればこうなる。
「敵ながらみごとな用兵ですな」
「敵将の用兵は、既成の戦術理論をこえております。一定の戦闘隊形をとらず、さながらアメーバのように自在に四方にうごきまわり、意表をついて痛撃をくわえてきます。なかなか非凡と言わざるをえません」
……むしろこの参謀長の表現力に少し敬意を表したいところではあるが、それはともかく、実際にこの「先覚者的戦術」としての「芸術的艦隊運動」が戦術として有効であったかどうかは、諸氏には既にお分かりのことであろう。
評価
彼の戦いぶりについての各人の評価として、以下のようなものがある。
確かに、彼にもすくなからぬ実績はあった。しかしビュコックが「ホーランドの自信は実績の一〇倍ほども巨大」と感じたように、自身の能力と戦況への過信によって、”ブルース・アッシュビーの再来”を自認する男は身を滅ぼした。アッシュビーは大勝と同時に戦死したが、ホーランドは惨敗と同時に戦死した。そして元帥昇進と国葬、英雄の呼び声をもって報われたアッシュビーに対し、ホーランドは戦死によって責任追及をまぬがれたのみだったのである。
関連動画
関連項目
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