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エイズ(AIDS)とは、Acquired Immune Deficiency Syndromeの略で、直訳すると後天性免疫不全症候群という。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって引き起こされる免疫不全症である。
概要
性感染症として有名。コンドームの使用が叫ばれる最も大きな理由でもある。
性干渉のほか、血液接触によって体内に侵入したHIVによって免疫系が徐々に阻害され、やがて重篤な免疫不全状態にまで陥る。HIV感染後長期経過かつ23種の日和見感染症のいずれかの発症をもってエイズ発症と診断される。エイズ患者は、免疫不全の結果発症した感染症やがんによって死に至る。
世界中でもっとも注目され、恐れられている病気の一つといって間違いない。世界保健機関が「世界(病名)デー」を作った疾病の一つである。世界エイズデー(12月1日)は、エイズの感染拡大の防止や、エイズ患者・HIV感染者への差別・偏見の解消を目的として、1988年に制定された。毎年12月1日前後に、キャンペーンなどの啓発活動や学会などが開かれる。シンボルはレッドリボン(赤いリボン)。
発祥
HIVにはHIV-1とHIV-2の2種類があり、HIV-1の発祥はカメルーンのチンパンジーと言われている。またHIV-2の発祥は西アフリカのスーティーマンガベイと言う猿の一種だと言われている。これらの猿は、HIVに類似の「SIV(猿免疫不全ウイルス)」というウイルスを持っていることが多い。
アフリカでは野生動物の肉を食べる文化があり、英語圏の者たちからはその肉、およびその野生動物食文化を「ブッシュミート(bushmeat)」と呼ばれている。現地の住民が「ブッシュミート」としてこれらの猿の肉を食べているうちに、突然変異により人に感染する能力を持ったSIV、すなわちHIVが人間にも蔓延し始めたと考えられている。
感染
感染者・キャリアである人々に対する差別の原因となったため、先に書いておくが、通常の生活において感染することは全くありえない。HIVは、通常の空気中・水中では即座に死滅する、生命力の低いウイルスである。
主な感染経路は下の3つである。
- 性交渉
HIVは、精液・膣分泌液に多く含まれており、これらが性交渉時に体の粘膜(亀頭、膣内部、唇・口内など)に接触することで感染する。 - 血液接触
感染者の血液が、上述のように体の粘膜に接触したり、自分の体内に入ることでも感染する。粘膜接触もそうだが、最も問題なのは注射器の使いまわしである。
また、血液に関係する投薬で起きる薬害の場合もある。 - 母子感染
遺伝するわけではない。母親がキャリアであった場合、出産時に産道を通過することで感染する他、母乳にもHIVが含まれているため、授乳によって子供に感染することになる。
キャリアである人間を相手にして不安になるのも仕方ないが、差別するのは間違っている。もし関係のある人間が感染していても、感染を防ぐ意識を持ちつつ、普通どおりに接するべきである。
症状・進行
先述の通り、HIVによって免疫不全が起こった結果、通常の免疫状態なら屁でもないはずの日和見感染症にかかることで死に至るのが、エイズの進行。
現在、これらの感染症は占めて23個確認されているが、それぞれで治療・対策の発展度合いはまちまち。
感染直後
だいたい感染後1~2週間で、風邪に似た症状、発疹、口腔カンジダを発症する。といっても、見た目にはただの風邪、発疹、口内炎であるため、見過ごすことも多い。また、発症の時期もまちまちで、感染後1ヶ月前後で発症する人もいれば、最長では半年後に発症した人もいたという。
HIVが侵入し、抗体が作られていない状態。この後、体内で抗体が作られ、HIVの数は激減し、これらの症状はだいたい1週間、遅くても2,3ヶ月で収まる。
潜伏期
感染から5~10年。感染直後に抗体が作られたことでHIVが激減し、症状が治まった状態。殆ど無症状であり、この間にHIV感染の可能性を見過ごしてしまう人が多い。
HIVの数は激減したまま一定だが、実は盛んに増殖している。その度に、免疫を作り出す細胞が大量に作り出され、HIVを駆除しているのだが、これらの細胞は実は、HIVに感染して破壊されている。
つまり、HIVの数自体は一定でも、その裏で、免疫を作る細胞が徐々に減っていっている状態なのである。
発症
潜伏期を経て、免疫を作る細胞が減少しすぎたところで、免疫低下の症状を見せる。具体的には倦怠感、下痢、過労、体重減少、めまい、口内炎、熱炎症、咳、過呼吸など。
たいていの患者はここでHIV感染の恐れに気づくか、他の病気だと勘違いして医者に掛かり、そこで検査を受けてはじめて、感染に気づく。
まもなく、免疫力低下によって、ニューモシスチス肺炎・カポジ肉腫・悪性リンパ腫など、先述の日和見感染症を引き起こし、死に至る。また、HIV感染した細胞によって脳が冒された場合、俗にエイズ脳症と呼ばれる病に係り、認知症・精神障害・記憶消失を引き起こす。
予防
何より予防が叫ばれる病であり、先進国である日本においては、性交渉を行っていても十分感染を防げる病である。
性交渉における予防
現在の日本で最も多いケース。先進国は全て減少しているのに対し、日本だけが横ばい~徐々に増加するという状態にある、非常に情けないケースでもある。
- コンドームの使用
鉄則である。挿入行為中はもちろんのこと、口腔粘膜からも十分感染するので、フェラなどのオーラルセックスの段階からでもコンドームは装着しよう。女性がキャリアの場合は、クンニなどの行為は控えるのが望ましい。もちろん、エイズ以外の他の性感染症の予防にもつながる。 - ツルハダの服用
1日1錠服用し続けることでHIV感染を90%予防してくれる。アメリカではFDA認証されているので保険適用で買えるが、日本では認可されていないので非常に高価(1錠3600円以上)。現実的には個人輸入する必要があるだろう。イギリスではゲイの人々の間でHIV感染が蔓延していたものの、ツルハダが普及することで新規感染者数が6分の1以下にまで激減している。 - 相手の限定
コンドームを着けたくないなら、せめて相手を限定しよう。キャリアでない相手同士で性交渉を続ければ絶対に感染しないし、キャリアが含まれていても、感染の広がりは防げる(多少古い考え方だが、結婚した相手としか行わない、など)。
最悪なのは、『コンドームも着けずに(もしくは着けない相手と)複数の人間との交渉を行う』ことである。自分のみならず、交渉を行う全員を感染のリスクに晒す最悪の行為である。複数の人間と関係を持つなら、せめてコンドームの使用は徹底すること。 - むしろ性交渉を全くしない
当然、感染しない。接触したくてもする相手がいないというのも、ある意味ではいい環境である。 - 割礼
割礼を受けると、コンドームには及ばないもののある程度の感染予防効果がある事が確認されている。WHOや国連は、宗教的・経済的な理由でコンドームを付けることができない地域の住民に割礼を奨励する事を計画している。だが日本で「宗教的・経済的理由からコンドームを使えません」というケースは少ないと思われ、日本での実用性は乏しいかもしれない。
ちなみに、キスに関しては諸説ある。唾液にも若干HIVが含まれると言われるが(この時点でも諸説あり)、これらは通常の免疫系ならば余裕で駆逐できる程度のHIV数であり(一つでもHIVが入れば終わりだと考える人間がいるがそれは間違いであり、少数ならば他の病原体と同じく、免疫によって駆逐される)、キスによる唾液の行きかい自体には問題は無いといわれる。しかし、口内に傷などがあって、そこから血液が唾液に混じっていた場合、感染する可能性は十分にあると主張する学者もいる。
血液感染における予防
傷跡同士の接触を想像する人もいるが、通常生活においては考えにくい。もちろん一応気をつけるべきではある(性交渉と混ざってしまうが、『口に傷がある状態でキスをしてしまうケース』など)。だが、血液感染における予防は、個人よりも施設・社会が気をつけるべきことである。
- 注射器の使いまわしをしない
通常、日本をはじめとする、医療の発達した先進国では、注射針・注射器は使い捨てが鉄則である。注射針・点滴針の使いまわしはエイズのみならず様々な感染症を招く最悪の医療ミスであり、たまにこれを軽視して問題になる病院もあるが、現在ではまず心配は無いといっていい。が、一部の諸外国では徹底されていないこともあるので、注意。
問題は、麻薬使用における注射器の使いまわし。ドラッグ自体も許されがたい行為であるが、これによって、ドラッグ使用者の間で爆発的にエイズが広まっている現実がある。ドラッグに手を出す連中の仲間にならなければまず心配しなくて良いことなので、これを避けるためにも、絶対にドラッグには手を出さないようにしよう。 - 輸血用血液の徹底的な検査
これも現在の日本では殆どありえないことだが、HIVに感染した血液を輸血したり、これを用いて血液製剤を造って使用したことで感染する。現在は、HIVを含む菌・ウィルスの不活性化のために加熱処理が行われる上、検査してHIV感染が確認された時点でその血液は使用不能として廃棄される。
かつて、日本では薬害エイズ事件として問題となったケース。当時、HIVに感染した血液で造られた血液製剤によって、全国の血友病患者などに爆発的にHIVが広まってしまい、現在まで続く訴訟となった。また、2013年に至っても検査精度は完璧ではなく、日本赤十字社の検査をすり抜けた感染者の血液が輸血に使用され、新たな感染者が発生すると言う事件が発生してしまった。
やはり、一部の諸外国では対策が徹底されていない。海外の輸血を受けるときは、覚悟するか、断ろう。
注意すべきなのは、献血して、血液検査の結果が陽性であっても、本人には決して通知されないこと。この場合、血液は処分される。たまに「献血施設によってはこっそり教えてくれる」などという噂も流れるが、検査目的で献血にいく輩が増えては困るため、陽性であっても絶対に告知はされない。
感染の恐れがあるならば、このような噂は信じず、後述の保健所などに検査に行くこと。
母子感染
検査
早期発見がものを言う病である。感染の恐れがある場合は、とにかく検査を受けることである。
全国の保健所で、無料・匿名で検査を受けることが出来る。遠慮せずに受けに行くべき。ちなみに普通の病院でも受けることは出来るが、5000~10000円程度検査料がかかってしまう。
HIV感染によって作られた抗体の有無を調べる検査である。普通は検査から結果がわかるまで1週間かかるが、最近では30分程度で終わる検査形態が増えている(精度に不備は無いので安心を)。
時期
感染直後の症状が現れた際に行くのは大事だが、目安として3ヵ月後に行かないと正確な結果は出ない。
これは、例え感染したとしても、2ヶ月以内ではHIVに対して抗体が作られておらず、検査しても陰性になってしまうことが多いから。もちろん、感染した恐れがあるなら、正確な結果が出ずとも早めに保健所へ相談に行くのが望ましいが。
3ヶ月経てば抗体が作られるので、この時期に検査を受けるのが望ましい。それ以前に検査を受けて陽性が出て、その分対策を早く打てた、というようなケースならば良いが、最悪なのは"3ヶ月以内に検査を受けて陰性と出て安心してしまい、感染しているのに検査を受けないまま気づかなかった"というようなケース。これを避けるためにも、感染の恐れがある行為から3ヶ月後に検査に行くべきである。
治療
治療が難しい病だが、がんなどと同じく、鉄則は早期発見。感染直後に発見できればベストであり、潜伏期でも感染を発見できれば、十分対策が取れる。
長年治療が難しいとされてきたが、治療法・抑制法の発展が著しい病でもある。
現在では、一般的にAZTと呼ばれる逆転写酵素阻害剤(HIVウィルスが、分裂をして、自分のRNAを逆転写してあたらしいウィルス粒子をつくろうとする酵素の働きを阻害して新しいウイルス粒子を作れなくする)やプロテアーゼ阻害剤(宿主細胞内で数珠のようにつながったウィルス粒子を切断して個々のウィルス粒子を完成させようとするHIVプロテアーゼの働きを阻害して、HIV粒子が完成しないようにする)を組み合わせるなどして発症を抑えるのが一般的になっている。
人によっては、HIVの数が検出限界を超えて確認できなくなることもあり、糖尿病などのように、薬を1日に一定量飲む程度で発症しないまま人生を終えることが出来るまでに発展している。
かつては治療薬は非常に高価だったが、現在では保険が利くようになったため、経済的な負担も随分と軽減された(それでも多少重いが)。
が、努々「薬で抑制できるからそこまで気を揉まなくてもよい」などと考えてはいけない。エイズの進行は人様々であり、薬を使わない状態でも進行が非常に遅いタイプの人間もいれば、薬を使っても急激な進行を止められないまま死に至るタイプの人間もいる。感染しても100%大丈夫なわけではもちろん無いのだ。
また、薬による副作用も強い。リポジストロフィーによって肝臓を患ってしまうケースなどがある。
感染してしまっても、十分、超長期生存への希望を持てる状態にまで医療は発展した。が、感染しないことに越したことは無いのだ。
特効薬?
HIVは非常に変異性が強く、実用に耐える特効薬やワクチンを製造するのは非常に難しい。
現在では、開発に成功したというニュースもちらほら聞こえてきているが、少なくとも現状は発症抑制が精一杯であり、HIVを全滅させるような薬の開発はかなり先、という状態である。
海外を中心に、定期的に「エイズ完治に成功」というニュースが報道されるが、これはあくまで「現在の検査技術では確認できないレベルまでHIVの活動・個数が減少した」だけのいわゆる完全奏効であり、5年10年といった長期的な視点で見ると後年になって再びHIVが活性化したケースが殆どである。
極端に言えば、潜伏期間が異様に長いエイズのような病気が完治したかどうかは、その人が死ぬまで検査を続け、その結果HIVの活動がとうとう見られなかった、と確認できて初めてそう宣言できるものであり、HIVが確認できなくなったと言うだけのケースを完治と呼べるものではない。
もっとも、それだけの奏効が患者への負担も少ないままに見られたのならば、患者が寿命を全うするという目的においては十分な成果である。
子供は作れないのか?
男女に関わらず、現在では、エイズ感染者であっても子供を作ることは出来る。
正確には、『配偶者を感染させることなく、先天的に感染していない子供を作ることが可能』 になっている。
- 体外人工授精
まず、感染者はほぼ例外なく、通常のSEXでの受精は出来ない、という問題だが、現在では感染者が子供を作る際は、体外人工授精が行われる。
男性がキャリアである場合も同じである。男性の場合、HIVが含まれるのは精液であって精子ではない。精子とHIVを分離させる技術が発達しているので、精液中の、ひいては体内のHIVの数を減少させる治療と併行して行うことで、無事に受精させることが可能である。
この分離以外は通常と同じく、受精卵を人工的に着床させることになる。 - 母体への抗ウィルス剤の投与
妊娠中は、HIVの活動を抑える薬を投与して、母体内のHIV数を抑えることになる。
これらは、通常のエイズ患者に処方されるものとは違う。母体への負担も小さくはないし、何より胎児への影響もある。この投薬療法は、もちろん、母体のエイズの進行度合いに左右されるため、まだそれほど投薬を必要としない=エイズの初期段階にある女性の方が一応安心して出産できる。
したがって、HIVに感染した女性が子供を作る場合は、人一倍体調管理に気をつけ、医師の専門的なアドバイスに従い、万全の体調を維持し続けなくてはならない。妊婦であれば当然のことではあるが。 - 帝王切開
上述の通り、基本的に出産は帝王切開で行う。
もちろん大量の出血を伴うため、感染のリスクがないわけではなく、医師・病院側の技術に全てが掛かる。しかし、そこまでリスキーというわけでもなく、適切な対応が取れる医師の下であれば、非常に高い確率で、子供を感染させずに出産が可能である。
最近では、出産直前の治療の結果母体のHIVの数が減少していた場合、経膣出産でも大丈夫であるとする意見もあるようだが、体力面などの問題を考慮した上で帝王切開が可能ならばそちらの方が良いとする意見が依然圧倒的である。 - HIV検査
母子感染で万が一子供が感染してしまった場合、ほぼ確実に2年以内に日和見感染症を発症する。
したがって出産後は、HIVに感染しているかどうかの検査を徹底的に行う。
万が一感染を防げていなかった場合、投薬治療が行われる。出生時から感染しているわけだから、もちろん、子供がエイズを発症する時期は非常に早くなり、長期生存率は非常に低くなる。しかし、現在では、一旦エイズ発症を抑えることが出来たというケースも確認されるようになっている。 - 人工ミルク
これも上述。母乳にもHIVが含まれているため、人工ミルクで授乳することになる。
これらの対策を行うことで、配偶者・子供への感染の確率は非常に低くなる。
それでもゼロではなく、何より母子の健康状態が重要になるが、まずは確かな腕を持った医師との相談が先決である。
分布
日本国内
日本国内では、都市部での増加が著しい。特にひどいのは東京・大阪・茨城。
日本国内の感染者の6割以上が東京に集中している。東京では、10万人当たり40人弱が感染している。
世界
何と言っても感染の広がりがひどいのはアフリカ大陸。特に南部(南アフリカ共和国を含む)は、国民に対する感染者の割合が5割に迫る国もあり、低い平均寿命の原因となっている。
性環境の未整備もあるが、治療薬などの普及が全くといって良いほど進んでいないことも原因である。
また、近年発展の著しい中国・インド・ブラジルでは、感染者の急激な増加が問題視されている。特に中国では都市部での増加が凄まじく、社会問題として認知されている上、「エイズに似ているが別の何か」が広がっているというニュースもある。
ちなみに、日本の感染者数は、国民の0.1%以下であるといわれている。が、それでも「10万人以下」という数値でしかなく、増加傾向にあるのは事実である。
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