オスプレイ(V-22"Osprey")とは、アメリカのベル社とボーイング・バートル(現ボーイング・ロータークラフト・システムズ)が共同で開発した輸送用ティルトローター機である。
日本ではマスコミや市民団体によって特筆すべき猛烈な反対にあっている(後述)。
概要
両翼端に3枚羽のローターを装備したVTOL機。ローターをエンジンごと上に向けることでヘリコプターのような垂直離発着を可能にしたうえ、水平飛行時には普通のプロペラ機のようにローターを使用することでヘリよりも高速かつ低燃費(つまり航続距離が長い)で飛行することができるのが最大の特長である。
なお、機体名のオスプレイとは鳥類のミサゴ(魚食性の猛禽類でタカに近い鳥。日本にも全国に分布している)を意味し、「オスプリー」と書かれる場合もある。
その特異な形状と、実質的にヘリコプターの上位機種となる利便性もあって、近未来系の作品でオスプレイのようなティルトローター機が描写されることもある。男がアッー!するビデオの事では。
仕様 [1]
全長 | 17.47 m(ピトー管含まず) |
全幅 | 25.54 m(ローター含む) |
全高 | 6.63 m(VTOL時) |
ローター直径 | 11.58 m |
空虚重量 | 15.032 t |
最大離陸重量 |
|
エンジン | ロールス・ロイスアリソン社製T406 x2基 (ロールス・ロイス社内名称: AE 1107C-リバティー) |
出力 | 6,150 shp |
航続距離 | |
最高速度 |
開発史
ティルトローター機としての系譜
垂直離着陸が可能なヘリコプター(回転翼機)が20世紀初頭に誕生し、第二次世界大戦前後に実用化されると、大きな革命をもたらした。というのも、大きな基地を必要とせずにビルのような狭い空間へ人員などを輸送できるようになったためである。
しかし、当時のヘリコプターはエンジン出力が低かったこともあって航続距離が非常に短かった。そこで、航続距離の長い固定翼機と垂直離着陸が可能な回転翼機の両方のメリットを併せ持つ機体の研究が実用化前後から始まっていた。
その両方のメリットを持つ方法として、離着陸時にはローター(回転翼)をエンジンユニットごと傾け(ティルト)、プロペラ方向を上部へ向けることで垂直離着陸を行い、通常飛行時にはプロペラを前方方向へ向ければいいという方法が考え出された。これティルトローター機という。ちなみに翼ごと傾けるタイプはティルトウィング機と呼ぶ。
もっとも、1930年代からこの手の開発は進められたものの、精々実験機止まりで実用化になるものはなかった、のだが、ある事件が発生したことにより状況は一変することになる。
<イーグルクロー>作戦の失敗
1980年、イラン革命が発生し、アメリカ大使館職員らが孤立・人質となってしまう。これにあわてたアメリカ軍は急遽救出作戦<イーグルクロー>を行うのだが、これが色々な理由から大失敗。挙句の果てにイランで航空機事故まで起こすというおまけつきの一大汚点としなってしまう。(イラン内陸部に設置した仮設飛行場までヘリ及び輸送機数機で進出。そのあとでヘリでテヘランに侵入する。というプランが砂嵐などの理由でヘリ2機が不時着、1機がトラブルで飛び立てなくなり作戦に必要な機数が足りず中断と思ったら風に煽られてヘリが輸送機と接触、火災、事故という流れ)
原因の一つとしてヘリコプターの航続距離・速度が足りないことがあげられた。ヘリよりも高速で、航空機よりも離着陸に場所を選ばない機体が必要だったのだ。
JVX[2]
1981年12月に、ワインバーガー国防長官は、同一機種で陸海空及び海兵隊の多様な要求を満たすティルト・ローター機の開発を決めた。1982年12月に4軍が使用するための統合軍運用要求(JSOR)が提示され、JVX(統合垂直離着陸機研究)の下に新型機を開発することとなった。メーカーに運用要求を示した結果、ベル社とボーイング社のチームが提案した、XV-15をベースとする案が採用された。
海兵隊は作戦地域までの遠距離展開能力や迅速な航空能力、海軍は艦艇相互間の輸送等後方支援用のC-2グレイハウンドの後継を必要としており、戦闘捜索救難や特殊任務にも使用するつもりであった。空軍は特殊作戦機として、空中給油なしで長距離にわたる隠密行動ができる機体を必要としていた。
1985年にJVX機にはV-22オスプレイの名称が付けられ、フルスケール開発が承認された。「オスプレイ」はホバリングから水面で餌を狙うミサゴのイメージから付けられている。型式も海兵隊仕様をMV-22、空軍仕様をCV-22、海軍仕様をHV-22とすることが決められた。
陸軍もJVXは各種任務に利用できると考えていたが、コストや運用要求が十分満たされないうえに他の航空機開発を優先させなければならないとの判断で、1988年にはJVXから撤退すると決めた。
安全性に対する懸念について
オスプレイの運用試験は困難を極め、2000年にはテストで乗り込んでいた海兵隊員もろとも19名が死亡する事故まで起きた。当初、事故理由については様々な意見が飛び交っていたが、実際のところはローターの揚力が突如失われるパワーセットリング(正式名はボルテックス・リング・ステート)が発生したためだった。これは航空力学では既知の原因であったが、ティルトローター特有の性質によりこの問題が強く浮き出るようになってしまったのである。
このような致命的な事故がたて続けて発生したことで、一時はあだ名が”未亡人製造機”(ウィドウメーカー)という不名誉なシロモノになってしまう。(もっともこの機体だけではなく過去にも未亡人製造機と呼ばれた機体にはB-26やF-104があるのだが…。)
実用化に至るまでに不幸な事故が立て続けに起きたために「未亡人製造機」と呼ばれもしたV-22ではあるが、正式運用となった現在のところ、海兵隊の運用回転翼機の中ではもっとも事故率が低い機体であることが公開されている。
飛行10万時間中、重大な事故(クラスA)の発生率は1.9程度(もっとも高いのは回転翼機ではCH-53D(シースタリオン)の4.51、海兵隊全体ではAV-8B(ハリアー2)の6.76である。V-22の航空機としての事故率は十分許容範囲内ともいえるだろう。ちなみに代替機体であるCH-46の事故率は36万時間・1.11である。ただし、老朽化・機体の酷使により事故率は増加する可能性もあることはいうまでもない。
なおオスプレイの事故率は2013年9月末には2.61、2015年9月末は2.64と上昇傾向にある。
2012年~2016年(9月末時点)までの平均事故率は3.44となり、同時期のオスプレイ以外の海兵隊航空機全体の平均事故率2.83を上回っている。
一般に航空機のみならず大抵の機械製品(車、PCなどに係らず)の故障率は、バスタブ曲線を示すといわれ、導入直後は事故率(不具合率)が高く、運用方法・整備手法が固まると低くなり、部品の摩滅・劣化などにより上昇する凹型を示す。それを踏まえると、MV-22の事故発生率はバスタブ曲線に照らしあわせても低いものと考えられるだろう。
「すでに軍高官だけでなく政府要職、および海外の軍将官(中国軍将軍もいる)も搭乗しており、運用面での注意事項はあるものの、特別な問題視はされていない。」というなんら科学的根拠はないけどとりあえず安全という意見もある(アメリカ合衆国のオバマ大統領は上院議員であった時にV-22に搭乗したことはある[3]が、大統領就任後にV-22には搭乗していない)。
ただし、回転翼機と固定翼機双方の利点を持つティルトローター機は、裏を返せばパイロットはヘリコプターと飛行機、またティルトローター機独自の操作を求められるという操縦の難しい機体であるということもできる。特に海兵隊では代替される機体が古いヘリコプターであるCH-46ということもあり、アナログ計器で雑然としたコックピットのCH-46から、液晶ディスプレイですっきりとしていて、難しい操縦を補佐するための最新のコンピューターによる操縦支援があるMV-22はかえって機種転換しにくいと古参パイロットからは不評であるようだ。これに起因する事故が起きる可能性も存在し、最初からMV-22で訓練を行った新世代のパイロットでさえも操縦ミスで事故を起こしたケースがあり、そもそも操縦性に問題がある懸念も存在する。
アメリカ軍において
アメリカ軍の運用実績
アメリカ海兵隊では老朽化著しいCH-46シーナイト(初飛行1958年)の代替として海兵隊向けモデルのMV-22の導入が急ピッチで進められており、17個飛行隊がすでにMV-22に機種更新済み。CH-46は6個飛行隊(実質3個飛行隊)としており、海兵隊ではすでにMV-22が主力運用されている。イラク、アフガンでも運用が進められている。
米軍による発注は既に終了しており、2025年に最後の機体が納入された時点で海兵隊用のMV-22が360機、海軍用のCMV-22が48機、空軍とSOCOM用のCV-22が54機という陣容になる。[4]
在日米軍への配備と反対運動
米海兵隊は沖縄・普天間基地へオスプレイを配備しているが、これについてマスコミや市民団体からの強烈な反対運動が起きている。しかしながら、
- 輸送ヘリに比べ、航続距離と搭載量が増大しているオスプレイは台湾有事の際に海兵隊員を台湾へ高速で輸送することが可能であるため、抑止力の観点から沖縄へのオスプレイ配備は日本の国益に合致している
- 普天間基地周辺の安全性を向上することになる
- 騒音がCH-46よりもかなり低下している
その他、米空軍は横田基地へのオスプレイ配備を行う予定である。
アメリカ以外での採用
アメリカ以外でV-22を導入したのは日本だけで、現在陸上自衛隊が13機を保有している。[5]
これについてはV-22が高価で陸自航空機調達予算を大きく圧迫し汎用ヘリの調達が減ること、日本の離島程度の距離であればCH-47系の方が輸送量が大きいこと、他の自衛隊ヘリがライセンス生産で国内で製造していると違って輸入品であり稼働率に不安があること、等から反対も大きかったものの政治主導で導入が決定された。
海上自衛隊が採用する場合は早期警戒型、空中給油型、艦上救難型、輸送型等が考えられる。
しかし、既に輸送用に掃海輸送ヘリ「MCH-101」が採用されているため、輸送用途には一般の汎用護衛艦に着艦できない(と思われる)オスプレイには若干不利。
次期救難ヘリコプターとしては現在のところ川崎重工のMCH系ヘリコプターが導入される見通しであるが、選定に不正があったとの通報があり特別監査が行われた、との報道もあり先行きは不透明である。
早期警戒型については、全く新しい任務であり、機体数の純増となるため財務省との激しい攻防が予想される。
航空自衛隊に関しては救難機が濃厚だが、空自の救難ヘリコプターは新しくUH-60J改が選定されたばかりなので、オスプレイの導入はしばらく無いと思われる。
その他
- 2013年6月には、日米の共同訓練でアメリカ海兵隊のオスプレイが護衛艦「ひゅうが」や輸送艦「しもきた」に着艦し、特に「ひゅうが」はエレベーターでの格納庫への収容までこなし、運用に支障がないことを確認している。いずも型護衛艦については「ひゅうが」よりも格納庫・航空整備庫ともに拡大されているため、オスプレイの運用に問題はないとみられている。
- JVXから離脱したアメリカ陸軍は、後にベル・テキストロン社が開発したティルトローター機であるV-280「バロー」を採用している。[6]
関連動画
関連項目
脚注
- *wikipediaより
- *「オスプレイの謎。その真実」森本敏 海竜社 2013 pp.144-148
- *https://www.jiji.com/jc/d4?p=osp010-07030248&d=d4_mili
- *米軍、V-22オスプレイの調達終了。不具合多発も原因か
2023.3.29
- *【2023年 自衛隊】主要航空機保有数、F-35 6機増!新たにKC-46A・グローバルホーク配備
2023.7.28
- *異形のオスプレイ? 新型ティルトローター機 ベル「V-280」米陸軍が採用へ
2022.12.6
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