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オラパリブ(Olaparib)とは、抗がん薬、分子標的治療薬である。販売名はリムパーザ®。
概要
オラパリブは、卵巣がんや乳がんなどの治療に用いられる経口の抗悪性腫瘍薬、分子標的治療薬である。DNAの修復に関与するPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)を阻害する作用があり、DNAの相同組換え修復が機能していない腫瘍細胞に選択的に作用する。
当初はカプセル剤として開発され、2014年に欧州で初めて製造販売承認を取得した。1回あたりの服用数の少ない錠剤も開発され、2018年から日本でも臨床に供されている。日本で上市されているリムパーザ®の剤形は錠剤(フィルムコーティング錠)のみで、規格は100mg錠(淡黄色の錠剤)と150mg錠(暗緑色の錠剤)の2種類がある。2021年4月時点での薬価は100mg錠が1錠3492.6円、150mg錠が1錠5185.1円である。
効能・効果
アストラゼネカ株式会社が製造販売しているリムパーザ®錠の医薬品添付文書第1版(2020年12月改訂)より、適応は以下の通りである。
- 白金系抗悪性腫瘍薬感受性の再発卵巣がんにおける維持療法
- BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法
- 相同組換え修復欠損を有する卵巣がんにおけるベバシズマブを含む初回化学療法後の維持療法
- がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん
- BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん
- BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵がんにおける白金系抗悪性腫瘍薬を含む化学療法後の維持療法
用法・用量
オラパリブ300mg(150mg×2錠)を一日2回経口投与する。患者の状態により適宜減量。服用する時間帯は通常朝・夕であるが、12時間ごとに服用可能であれば別の時間帯でもよい。食事の有無やタイミングを考慮する必要がなく、食後でも空腹時でもよい。
飲み忘れた場合は、いつもの服用時間から2時間以内であれば服用し、2時間を超えていれば服用せず、次の服用時間に1回分だけ服用する。一度に2回分を服用しない。
グレープフルーツを含む食品・ジュースや、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む健康食品は、それらの成分がオラパリブの代謝に影響を与えるため喫食を避けること。
作用機序
私たちの細胞の中にあるDNAは、体内で発生する活性酸素、太陽光に含まれる紫外線、環境中に存在する放射線、発がん性物質など、様々な要因によって損傷を受ける。DNAに損傷を受けた細胞はそのままでは細胞死へと至るが、正常な細胞にはPARP(パープ)やBRCA(ブラカ)といったDNAを修復する機構が存在し、損傷を受けたDNAが修復され細胞は生存できる。しかし、がん細胞はDNA修復機構のうちBRCAが機能していないことがある(BRCA遺伝子変異陽性)。
BRCA遺伝子に変異のあるがん細胞はPARPによるDNAの修復は可能だが、オラパリブによってPARPが阻害されるとDNAを修復できずに細胞死へと至る。正常な細胞のPARPもオラパリブによって阻害されるが、BRCAが機能している正常な細胞のDNAは修復される。
また、白金系抗悪性腫瘍薬(プラチナ製剤)はDNA二本鎖切断を増加させる。プラチナ製剤が奏功しているがんは、DNA二本鎖切断の修復が不十分、すなわちBRCAなどのDNA修復機構に異常があることが推定される。実際に、プラチナ製剤とオラパリブの感受性には相関関係が認められるため、プラチナ製剤感受性のがんにもオラパリブが使用される。
禁忌・副作用
禁忌は過敏症の既往歴のある患者のみだが、動物実験で催奇形性が報告されているため、妊娠していない女性やパートナーの男性は適切な避妊を行い、妊娠している可能性のある女性は医師と相談すること。
副作用は貧血(体のだるさ、めまい)、好中球減少(発熱、寒気)、悪心(吐き気)などがある。血液検査を実施し、状態により休薬や減量、制吐薬(吐き気止め)内服を行う。
同種同効薬
武田薬品工業株式会社が製造販売しているニラパリブ(ゼジューラ®)もPARP阻害薬である。オラパリブとの違いは、剤形がカプセル剤である、適応が卵巣がんのみである、用法が1日1回である、併用注意の医薬品がないなど。ただし、今後ニラパリブも適応拡大していくものと思われる。
関連リンク
関連項目
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