オリエンタル・リフ(Oriental riff)とは、リフ(短い印象的な旋律)のひとつ。
東洋的な雰囲気を持ち、さまざまな音楽で使用される。アジアン・リフ(Asian riff)やチャイニーズ・リフ(Chinese riff)などと呼ばれることもあるようだ。
概要
あなたもたぶん聴いたことがある。テレビ番組で中華料理店などの中国っぽいものが紹介されるときに流れる、「ちゃららら らんらん らんらんらーん♪」という、あのフレーズ。あれです、あれ。
「わかんねーよ」という人は、下の「関連動画」にもあるが「イー・アル・カンフーで、ラップ 【ヒャダイン】」を聴いてもらえれば、イントロでいきなりそれっぽいものが使われているので思い出してもらえるかもしれない。
他にも、挙げればきりがないくらいさまざまな楽曲で使用されている。ニコニコ大百科に作品の項目があるもので例を挙げると、
- ゲームソフト「イー・アル・カンフー」のBGM
- ゲームソフト「ドラゴンボール 神龍の謎」のステージタイトル表示時のジングル
- ゲームソフト「スーパーマリオランド」のチャイ王国ステージのBGM(イントロ)
- ゲームソフト「シティコネクション」の中国ステージのBGM
- ゲームソフト「チョロQ3」のBGM「チャイナ峠「Beijing Square」」
- 同人弾幕STG「東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.」のBGM「魔法少女達の百年祭」(同ゲームの制作者でありこの曲の作曲者でもあるZUNも、この曲について「時折中華風です」とコメントしている)
- コミックバンド「爆乳三国志」の楽曲「爆乳音頭」(イントロ)
- ボカロP「みきとP」の「いーあるふぁんくらぶ」(曲の後半で時折チップチューン調の電子音で挿入される。またサビの部分もよく聴くとオリエンタル・リフのアレンジのよう)
- テレビアニメ「てーきゅう」第4期のオープニングテーマ「ファッとして桃源郷」(曲の冒頭1~2秒にチップチューン調で挿入されている)
- 音楽ゲーム「SOUND VOLTEX」および「REFLEC BEAT」の楽曲「香港功夫大旋風」(主に曲の前半部で使用。元となった楽曲「Kung-fu Girl」の方が若干わかりやすい。)
- 音楽ゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」の楽曲「あんきら!?狂騒曲」(歌詞「ラーメンもいいかなぁ」の部分)
など。
色々とアレンジして使われるので楽曲ごとにちょっとずつ違うが、「ちゃららら らんらん~」という感じの旋律を持つことは共通している。
注目すべきは、日本国内では「中国の曲」というイメージが強いが、海外では中国に限らず広くアジア的なものに使われているという点。例えばThe Vaporsというイギリスのバンドの「Turning Japanese」という曲は日本をテーマとした曲だがこのリフが使われている。
そもそも中国由来のフレーズなのかどうかも怪しいようで、歴史を遡っても現在知られている最古の例はアメリカ合衆国で作曲されているようだ(「歴史」の項で後述)。
歴史
このフレーズの正確な起源を辿ることは難しい。「学術的に注目されて正式に研究される」ということが乏しかったようで、定説が無いらしい。
「オリエンタル・リフ(Oriental riff)」という名称すら「なんとなく広くそう呼ばれるようになった」という程度のようだ。
2004年には、ミシガン大学音楽学部の准教授であるCharles Hiroshi Garrett博士が学術論文[1]でこのフレーズについて少しだけ言及した。
それに興味をひかれたネットユーザーがこのGarrett博士に電子メールでこのフレーズの起源について知らないか質問してみたところ、博士は以下のように解答してくれたとのこと。
「詳しくはわかりません。私が知っているのはその論文で触れたことですべてです。ただ、1940年代のコミックソングや映画音楽や広告音楽にはすでに登場しているようですし、もっと昔に遡る歴史を持っているかもしれません。まだ調べていませんが、オリエンタリズムのオペラ、「マダム・バタフライ」とか「ミカド」などに起源があるのかもしれません。
あなたに質問を頂いてから音楽分野でのオリエンタリズムの専門家にも問い合わせてみました。彼の感想によると、このフレーズはとてもシンプルでピアノの黒鍵を打つだけで演奏できます。そういう単純な手法で五音音階(言い換えれば、「アジア的な」)音楽を模すことができるわけです。作曲家がこの方法を使って五音音階音楽を真似したのかもしれませんね。」
見知らぬネットユーザーからの質問に、知人に意見を聞いてまで丁寧に答えてくれているが、やはり起源は判明しなかった。
2006年には、スウェーデン人ウェブデザイナーのMartin Nilsson氏が、個人的に研究した内容をウェブサイト[2]という形で発表した。
その内容をいくつか紹介すると、
- 1974年のCarl Douglasの曲「Kung Fu Fighting」がこのフレーズを使った楽曲として非常に有名であり、「少なくとも現在に近い形でのフレーズはこの曲が起源である」と考える人も多い。
しかし実際には、1930年代のカートゥーンでも既にほぼ現代と同じフレーズが使われているのでこの考えは正しくない。
著名な音楽家であるレナード・バーンスタインが1957年に「Chinese music」としてこのフレーズを短くピアノで演奏した映像記録[3]もある。
- さらに、プロトタイプとなったらしいフレーズは19世紀から見つけることができる。
Martin Nilsson氏が見つけた内で最も古いものは1847年のアメリカ合衆国の演劇「The Grand Chinese Spectacle of Aladdin or The Wonderful Lamp」(意訳:「アラジンと魔法のランプの中華大活劇」)の中で使われた「Alladin Quick Step」という楽曲であるとのこと。(Martin Nilsson氏曰く「中国のアラジン……?私に質問しないでくださいね!」とのこと)
結局起源については完全に判明することはなかったようだが、割と古い歴史を持つフレーズであることは確かであるようだ。
テレビ番組「さまぁ~ずの神ギ問」の2017年4月9日の放送回では、「テレビ番組とかで中国っぽいときに流れるあの曲ってなんて曲?」という疑問に対して調査を行った。そして上記のMartin Nilsson氏によるウェブサイトに辿りつき、掲載されていたオリエンタルリフの起源の候補曲約100曲を一曲ずつ聴いた。その結果、1933年の楽曲「The wedding Of Mr. Wu」という曲が現在のオリエンタルリフに一番近かったと結論している。[4]
上記の「Alladin Quick Step」は、メロディーの解析結果はともかく聴いた時の印象では現在のオリエンタルリフとはかなり異なるため、その点を補完した調査結果と言えるだろう。
ただし、上記でも少し触れたようにカートゥーンのBGMの分野を探ると、例えば1930年の作品「Chop Suey」[5]で既にほぼ現在のものに近いオリエンタル・リフが使用されている。そのため、この「The wedding Of Mr. Wu」はあくまで「Martin Nilsson氏のサイトに挙げられていた楽曲の中で、聴いた時の印象が現在のオリエンタルリフに一番近いもの」でしかなく、「現在のオリエンタル・リフに近いものの中で最古」というわけではない。
その「The wedding Of Mr. Wu」はイギリスの俳優でありシンガーソングライターだったGeorge Formbyによる楽曲であり、Youtubeで聴くことができるが[6]、確かに楽曲の最後でほぼ現在の形のオリエンタルリフが使用されている。
ちなみにこの「The wedding Of Mr. Wu」は「続編」的な楽曲であり、「Mr. Wu」は1932年にGeorge Formbyが発表した前作「Chinese Laundry Blues」[7]の歌詞で既に登場している。またこの「Chinese Laundry Blues」の中でも、オリエンタルリフに似たメロディーが使用されている。
(この「歴史」の項の初稿の記載はウェブページ「How The 'Kung Fu Fighting' Melody Came To Represent Asia : Code Switch : NPR」を大きく参考としている。)
関連動画
関連項目
脚注
- *Chinatown, Whose Chinatown? Defining America’s Borders with Musical Orientalism. Journal of the American Musicological Society 57:1 (2004):119–73.
- *The Musical Cliché Figure Signifying The Far East: Whence, Wherefore, Whither?(2014年12月現在、閲覧不能のためInternet Archiveへのリンク)
- *What is Folk Music? 2 of 6 - YouTube(7:03時点から)
- *価格.com - 「さまぁ~ずの神ギ問」2017年4月9日(日)放送内容 | テレビ紹介情報
- *Chop Suey - YouTube
- *The Wedding Of Mr. Wu - George Formby - YouTube(楽曲全体のアップロードであるようだが、George Formbyの没後50年以上が経過した現在では著作権が切れている)
- *Chinese Laundry Blues - George Formby - YouTube
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