オーギュストロダン(Auguste Rodin)とは、2020年生まれのアイルランドの競走馬である。青鹿毛の牡馬。
馬名は「考える人」などの作品で知られる19世紀フランスの彫刻家オーギュスト・ロダンから。
概要
父ディープインパクト、母*ロードデンドロン、母の父Galileoという血統。
父は言わずと知れた日本が誇る大種牡馬。2019年の早々に体調不良で種付けを中止、同年夏に死亡しており、本馬は世界で僅か12頭しかいないラストクロップのうちの1頭である。
母はロッキンジステークスなどG1・3勝で、母の父も英愛リーディングサイアーに君臨し続け欧州を席巻した説明不要の大種牡馬。この他、叔母(母の全妹)はアイリッシュチャンピオンステークス連覇などG1・7勝の名牝Magicalで、祖母Halfway to Heavenもアイリッシュ1000ギニーなどG1・3勝と、欧州最大の生産者グループであるクールモアが所有する超良血牝馬。ディープインパクトと交配するために日本のノーザンファームに預託されて誕生したのが本馬である。
2020年1月26日誕生。生産者はクールモアスタッド。馬主はM Tabor & D Smith & Mrs J Magnier & Westerbergらの共同所有。
管理する調教師は数々の名馬を手掛け、母や祖母も管理していたアイルランドの名伯楽エイダン・オブライエンとなった。
英雄が遺した彫刻
2歳時(2022年)
6月1日カラ競馬場の未勝利戦でデビューするも2着。1か月後の7月2日にネース競馬場の未勝利戦で初勝利を挙げた。
9月10日のチャンピオンズジュヴェナイルステークス(G2)では1番人気に支持されての出走。前の2頭を見ながら競馬を進め、最終コーナーからのペースアップに応じて追撃態勢に入る。残り1ハロン標識前で先頭を伺うと負いする後続をを寄せ付けずに押し切りパターンレース初制覇を果たした。
その後はイギリスに遠征して10月22日のフューチュリティトロフィー(G1)に出走。ドンカスター競馬場は不良馬場で一時は回避も検討されたが結局出走。ここでも1番人気に支持された。レースは後方で待機してから、後半から進出を開始すると不良馬場をものともせずに前に迫って交わし去ると2着馬に3馬身半差を付ける圧勝でG1初制覇を果たした。
また、この勝利でディープインパクトは世界に僅か12頭しか存在しないラストクロップ[1]からGⅠ馬を出し、2008年生まれから2020年生まれの全13世代の産駒からGⅠ馬を出すこととなった。
3歳(2023年)
3歳初戦はオブライエン師の夢であるイギリスクラシック三冠達成も目標に、一冠目である2000ギニーステークス(G1)に出走。イギリス2歳王者決定戦デューハーストステークスの覇者Chaldeanや同厩馬でアイルランドの2歳スプリント王Little Big Bear、フランスの2歳中距離王Dubai Mileなどの面々が揃うなかで単勝オッズ2.4倍の1番人気の支持を受けた。
しかし、レース序盤から何故か同厩のLittle Big Bearから不利を受け、馬群に閉じ込められてしまう。そこから隣の馬と接触するなど不幸が重なり、更に不安視されていた重馬場では巻き返すのは厳しくChaldeanの12着と惨敗した。ちなみにLittle Big Bearは最下位の14着だった。
同厩のLittle Big Bearによって与えられた不利から始まったこのあんまりな結果に鞍上のムーア騎手はインタビューに「トレーナー(オブライエン)に聞いてくれ」と一言。尤もオブライエン師がLittle Big Bearのローダン騎手に妨害を指示するとは考えにくいので不慮の出来事であったのだろう。まあ、先週にムーアの予定に合わせてLuxembourgのレースを変更したのに騎乗停止期間を変更して騎乗しない鬼畜ムーブをかましているので動機はあるが。実際Little Big Bearは跛行が見られ、それが原因で上手く走れずに図らずもオーギュストロダンに不利を与えてしまったのだろう。
第244回ダービーステークス
気を取り直して最大の目標であるダービーステークス(G1)に出走。馬場状態は母の父であるGalileoが優勝した2001年以来の硬くて時計の速い馬場となり、硬い馬場が得意なオーギュストロダンにとっては絶好の舞台となった。
主な出走馬は仏2歳G1クリテリウム・ド・サンクルー2着で前哨戦であるチェスターヴァーズを圧勝、同陣営の英2000ギニー覇者Chaldeanを回避させてここに挑むArrest。2021年の英ダービー馬Adayarの全弟で123年ぶりの全兄弟制覇を狙うMilitary Order。この他ダンテステークスなどG2・2勝のThe Foxes、ダンテステークス3着で追加登録をして臨むPassenger、距離延長からの巻き返しを図る仏2歳中距離王者Dubai Mileなど総勢14頭が出走することとなった。
前走は惨敗したものの距離延長や得意な馬場状態となったこともあり、一時期はArrest・Military Orderらの3頭で1番人気争いとなった。最終的にダービーステークスと同条件のG1であるコロネーションカップ・オークスステークスを連勝して、最後のダービーステークス挑戦で3勝目を狙うランフランコ・デットーリが騎乗するArrestが単勝オッズ5.0倍の1番人気となり、オーギュストロダンはMilitary Orderと並ぶ単勝オズ5.5倍の2番人気タイとなった。
ちなみにレース前に動物愛護団体アニマルライジングによる妨害行為があったものの無事に阻止。構成員31人がArrest(逮捕)された模様。
レースはSan Antonio・Adelaide Riverが行ってArrestが3番手外目、オーギュストロダンは9番手からの競馬となった。直線で早い馬場が苦手だったのかArrestの伸びは今一つで、14頭中の13番人気の伏兵King Of Steelが先頭に立って粘り込みを図る。だが、オーギュストロダンは外から末脚を伸ばして1頭だけ肉薄。一完歩づつ着実に差を詰めて最後は差し切り半馬身差でゴール。欧州3歳の頂点、そして世界最高峰のダービーの頂へ上り詰めた。
エプソムダウンズ競馬場は最後の直線が3.5ハロンほどあり、残り1ハロン地点からの上り坂を除けば下り坂が長く続くため一概には言えないものの、計測された上がり3ハロンは33秒01(!)と、日本ダービーですら滅多に見ないような数字が飛び出した。ちなみに父ディープは日本ダービーで上がり33秒4であり、単純な比較は出来ないがダービーの上がりタイムとしては鬼脚で知られた父をも超越してしまった。
この勝利でディープインパクト産駒は日本・フランスに続く3ヵ国目のダービー制覇。初年度産駒マルセリーナの桜花賞勝利から13年連続、全世代クラシック制覇を果たした。えっ、英ダービーは日本のクラシックじゃないって? こまけぇことはいいんだよ!!
2000ギニーステークスで惨敗して三冠達成が無くなったことからセントレジャーステークスには出走しないことが確定。セントレジャー君かわいそ。
ダービーステークス勝利後、ブックメーカーの凱旋門賞オッズで1番人気に浮上した。
第158回アイリッシュダービー
続いて地元アイルランドのアイリッシュダービー(G1)に出走。前走2着のKing of Steelはロイヤルアスコット開催に向かい、他のダービーステークス出走馬の多くが回避したため、完全にオーギュストロダンの一強状態となった。
更に出走馬9頭のオーギュストロダンを含む5頭がエイダン・オブライエンの管理馬。更に残りの4頭中2頭がエイダンの息子であるジョセフ・オブライエンとドナカ・オブライエン管理馬ということもあり、正にオブライエンの運動会状態と化していた。オブライエンあるある。当然ながら単勝オッズは1.3倍という圧倒的な人気となった。
レースは僚馬Adelaide Riverが逃げて同じく僚馬San Antonioが2番手となり、オーギュストロダンは後方待機だった前走と打って変わって3番手で競馬を進める。スローペースで進んだなか順調に進んでいたがAdelaide Riverに並び掛けようとしていたSan Antonioが躓いたのか落馬競走中止。この煽りを受けて後方勢は接触や回避行動で軒並み不利を受け、オーギュストロダンもやや順調さ欠くもAdelaide Riverに並び掛けて直線を迎える。2頭の一騎打ちとなりAdelaide Riverを交わして先頭に立つもAdelaide Riverも盛り返して差し返す。しかし、オーギュストロダンはもう一伸びを見せて今度こそAdelaide Riverを完全に交わし去り1馬身半差で勝利。2016年のHarzand以来7年ぶりの英愛ダービー制覇を果たした。
このレースでエイダン・オブライエン厩舎は完走した4頭が1着から4着を独占し、5着Up and Underも息子ジョセフの管理馬と上位は完全にオブライエン厩舎が独占したが、道中で落馬・競走中止をした僚馬San Antonioは予後不良という後味の悪い結果となった。
なお、鞍上ムーア騎手はこれまでアイリッシュダービーに10回挑戦して2着2回と優勝にあと一歩届かなかったが、11回目の挑戦にしてアイリッシュダービー優勝を叶えた。
第73回キングジョージVI世&クイーンエリザベスステークス
初の古馬対戦となるキングジョージVI世&クイーンエリザベスステークス(G1)は、3歳馬からKing of Steel、古馬ではコロネーションカップを勝ったEmily Upjohn、前年のコロネーションカップを勝ちこの年の初戦ブリガディアジェラードS(G3)で前年の英ダービー馬Desert Crownを破る勝利を挙げ好調のHukum、前年の愛ダービー馬でこの年はGIを3戦して1勝2着2回と安定して走っていたWestover、前年のこのレースの勝ち馬Pyledriverなどが出走してきたが、それでも単勝3.25倍の1番人気に支持された。
中間は雨の影響もありGood to Softだったがレース当日は馬場が良化していき、出走予定だったHamishがこれを嫌ってスクラッチし10頭立てとなった。スタートが切られると同厩のPoint Lonsdaleが逃げるのを後方寄りの外目から追走していたが、最終コーナーで全く手応えが無くなると直線では追われることも無く、そのまま勝ち馬Hukumから126馬身3/4という差で10頭中10位で入線。ブービーのDeauville Legendも8着Point Lonsdaleから40馬身差(勝ち馬とは68馬身3/4差)だったがそこから更に58馬身も離された上、ゴール後にムーア騎手が下馬するに至った。
馬は大丈夫だと思うが、何が起きたか分からない。数日中に何か分かるかもしれない。ライアン(ムーア騎手)は全く気合が入らなかったと言っていたし、途中までは押していた。普段と非常に違う走りだった。レース前は大いに満足していたし、全てが素晴らしかった。何かがあるんだろうと思うし、今後数日で何かはっきりすることを期待している。ライアンはパワーが無くなってから無理をさせなかった。
(エイダン・オブライエン師の談話
による)
レース中に早々に失速したこと、更にはムーア騎手が下馬したことから故障の可能性も疑われたが、オブライエン師は上記のような意見を示し、レース後にBHA(英国競馬統括機構)が発表した裁決レポートでも「獣医検査を行ったが、報告事項は無かった」という見解を発表した。
第48回アイリッシュチャンピオンステークス
前走の大敗を受けて候補にあったインターナショナルステークスへの出走は見送られ、次走アイリッシュチャンピオンステークス(G1)となった。また、出走と前後して今年限りでの引退が陣営から示唆された。
出走馬はG1・3勝馬で連覇を狙うLuxembourg、インターナショナルステークス2着から継戦のG1・3勝の牝馬Nashwa、昨年のパリ大賞優勝馬Onesto。4度目の対戦となる同期King Of Steerなど強豪ひしめく構成となった。
レースはLuxembourgが逃げてそれをマークするようにPoint Lonsdaleが2番手、オーギュストロダンは3番手を追走した。直線入口で手応えが悪くなったPoint Lonsdaleを内から交わして2番手になる。逃げ粘るLuxembourgとの叩き合いとなり、更に後方2番手からNashwaが末脚を伸ばして追い込んできた。それでもLuxembourgとの叩き合いから前に出るとそのまま押し切って勝利。前走の大惨敗から巻き返してG1・4勝目を挙げた。
この後はブリーダーズカップへの遠征も表明されている英愛ダービー馬オーギュストロダン、彼が走れるレースも残りわずかとなったが、どのような走りを見せるかに期待したい。
特徴
彼は英国と愛国の2つの2400mのG1を制覇しているが、オブライエン師は彼の得意距離を2400mよりも2000mにあるという認識を示しており、重い馬場は不得意との認識も示している。また、ハイペース戦のほうが得意とのことでもある。
血統表
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
*ロードデンドロン 2014 鹿毛 FNo.3-d |
Galileo 1998 鹿毛 |
Sadler's Wells | Northern Dancer |
Fairy Bridge | |||
Urban Sea | Miswaki | ||
Allegretta | |||
Halfway To Heaven 2005 黒鹿毛 |
Pivotal | Polar Falcon | |
Fearless Revival | |||
Cassandra Go | Indian Ridge | ||
Rahaam |
クロス:Northern Dancer 4×5(9.38%)
関連動画
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関連コミュニティ
関連項目
脚注
- *ディープインパクトは2019年の種付けシーズン中に体調を崩して亡くなったので最終世代は種付け数20頭弱。その内誕生し血統登録された産駒が13(日本6頭、欧州7頭)頭で、欧州の登録産駒は1頭亡くなっているため12頭。
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