ここでは、2018年以降のオーストラリア競馬の格付けに関する問題について解説する。
現在の状況
本問題は現在進行中のものであるため、どのように決着するかは不明である。
そのため、現時点(2026年7月)の状況について下記に記載する。
- オーストラリアのレースの格付けについて、2026/27年シーズンからアジア競馬連盟(ARF)の意向によりアジアパターン委員会(APC)によってレースの格付けが直接管理されている。
- 2026/27年シーズンについて、ゴールデンイーグルを含む30のレースが昇格・新規格付けされている。一方で降格となるレースは1レースのみ。9月の会議で更なる格付けについて検討予定。
登場組織について
最初に本記事に登場する主な組織とその役割について説明する。
アジアパターン委員会(APC)
ARFの下部組織。アジア地域(オセアニアや南アフリカも含む)の競馬の格付けを管理する立場にある。
格付けに関する主な役割は2つ。
- 各国の競馬統括機関より申請されたブラックタイプ競走の昇格・及び新規格付け
ブラックタイプ競走とはグレード/グループ競走(G1・G2・G3)及びリステッド競走の事を指す。 - 既存の競走に対する降格審査を実施し、格付けの警告及び降格の認定
国際格付けには一定のレーティング基準が設けられており、直近2年間のいずれかでレーティング降格基準値以上を満たす必要がある。満たしていなければ降格の恐れがあると警告を発し、場合によっては警告が発せられた翌年に格付けの降格、または格付けの取消を認定する。
日本では2022年にJRAのニュージーランドトロフィーに対し、格付けに関する警告を受けている(詳細は該当記事参照)。
レーシング・オーストラリア(RA)
オーストラリアは連邦制であるため、日本のJRAのように全国の競馬場を一元的に主催する機関は存在せず、州ごとに統括機関が存在する。そのため各州の統括機関を束ねる立場にある。
特に影響力が大きいのは、ニューサウスウェールズ州のレーシングニューサウスウェールズ(RNSW)とヴィクトリア州のレーシングヴィクトリア(RV)である。
レーシングニューサウスウェールズ(RNSW)
オーストラリア最大の都市シドニーをはじめとするニューサウスウェールズ州の競馬を統括する機関。
近年はジ・エベレストやゴールデンイーグルなど高額レースの開催に力を注いでいる。
競馬の競走の格付けについて
ここでは、日本とオーストラリアでレースの格付けがどのようにされているか説明する。
日本の場合
日本では国内のパターン委員会として「日本グレード格付管理委員会」が存在する。この委員会はJRA・NAR・JBBA(日本軽種馬協会)・IRPAC(国際格付番組企画諮問委員会)・WBRRC(ワールドベストレースホースランキング委員会)のメンバーで構成されている。
番組の編成はJRAや地方競馬を運営する各主催者で行うが、グレード競走・リステッド競走を新規に設立・昇格させる場合は日本グレード格付管理委員会に諮る必要がある。
日本グレード格付管理委員会は対象のレースが必要な条件(レーティングや賞金等)を満たしているか確認し、新規設立・昇格について判断する。判断の基準となるのは国際競馬統括機関連盟(IFHA)傘下のIRPAC、国際サラブレッド競売人協会(SITA)、そしてAPCの定める国際ルールである。
通常、日本グレード格付委員会のお墨付きを得た申請であれば、G2以下は報告のみ、G1であれば申請の上アジアパターン委員会でも承認される。これによって、日本のレースの格付けは担保されている。
日本の場合、JRAでは興行面で番組編成を厳格に定めているため、単にレーティングを満たしてからといって無闇に昇格申請することはない。
同様に他国でもパターン委員会がレースの格付けを管理しており、グレード/グループ競走・リステッド競走を新規に設立・昇格に関して、APCのルールに基づいて管理を行っている。
オーストラリアの場合
ではオーストラリアの場合はというと……
そもそもパターン委員会が設置されていない。格付けの管理は各州に委ねられているのが現状である。
最大の理由はオーストラリアが連邦制国家であり、「格付けの決め方を一元化することは独占禁止法に抵触する」という考え方が国内に一定数存在するからだ。
2018年以降パターン委員会は事実上廃止され、代わりにRAが国内の格付けを管理しているという体になっている。が、統括機関が格付けを直接管理するのはAPCの定める格付け管理のルールに反する。
一応、G1の申請に関してはRAでの全会一致が必要なのだが(後述)、それ以外の格付けの管理は州で決められている。言い換えれば、国際競走の格付けが州の匙加減で決まっているのがオーストラリア競馬の現状だ。
概要
2024年10月
この年のオーストラリア競馬を象徴する出来事が「ニューサウスウェールズ州とヴィクトリア州の和解」である。
この2州は非常に仲が悪く、G1の昇格を決めた会議でも単純に「あの州のレースをG1にしたくない」という理由で双方が反対票を投じていた。
これで割りを喰らったのがジ・エベレストやオールスターマイルといった高額レースに出走する陣営を始めとする関係者であり。本来G1の格付けを貰ってもおかしくないレースが、こんな内ゲバのせいで認定されないとは……と憤慨していてもおかしくはない。
しかし、2024年10月に両州が和解し、ジ・エベレストとオールスターマイルもG1の承認が得られた。ジ・エベレストに至っては開催直前であったが、APCもこれを認めたため国際G1として施行された。
ここまでならオーストラリア競馬の前進と捉えられるが、問題はここから。
RAがブラックタイプ競走に関する新たなガイドラインを示したことだ。ガイドラインの詳細については不明であるが、このガイドラインに基づいた新たな格付けがオーストラリア競馬界で大きな波紋を呼ぶ。
何と、最大87のブラックタイプ競走に関して、追加または昇格させる計画が明らかになったからだ。
87という数にピンと来ないかもしれないが、2025年におけるJRAの平地グレード競走は芝・ダート合わせ130、リステッド競走は63レース開催されている。地方競馬におけるブラックタイプ競走は東京大賞典、全日本2歳優駿を始めとした地方ダートグレード競走の大半が該当するため40レース。日本で全て併せて233レースなので、数だけで見れば日本のブラックタイプ競走の4割弱に匹敵する。
加えて、オーストラリアでは既に600以上のブラックタイプ競走が開催されている。オーストラリアにとっては全体の1割格上げすることになり、国際的にはインパクトが大きいものになる。
ちなみに、生産頭数は日本が約8000頭に対し、オーストラリアが約13000頭。生産規模が日本より上であることを鑑みても、明らかに差が大きい。
この時点で関係者の中には「1年以内にIRPACが是正に動く」「2年後にはパートⅡ国に降格する」といった反発の声が上げられていた。
そして一番の問題はこの時点でRAはいくつかのレースの「昇格」を認めている点である。
先程日本の事例でも触れたのだが、G1の昇格はAPCへの申請が必要なのだが、G2以下に関しては本来報告せずともAPCの承認が得られる。しかし、今回のケースでは「例外的な状況」としてAPCは承認していない。
この時点でオーストラリアと国際的な競馬格付けにズレが生じていた。
2025年2月
2025年2月、APCは17のレースの格付けの申請を正式に却下した。
が、この時点で17のレースのうち15のレースは既に開催しており、主催者もRNSWもRAも「昇格」後の格付けを広めていたからだ。
当然ながらブルーブックには反映されないため、対象レースを勝っても血統的には無意味ということになる。生産界を始め関係者に混乱をもたらすのは言うまでもない。
2025年9月 APC会議
この会議に先立ち、RAは4つのG1格上げを含めた申請を行っていたが却下された。
その4レースが以下の通り。
- ゴールデンイーグル:総賞金1000万豪ドル(約10億円)。日本でもオオバンブルマイが勝ったレースとして有名
- ラッセルボールディングS:総賞金300万豪ドル(約3億円)。ゴールデンイーグル同様格付けなし。
- プレミアS:G2。総賞金100万豪ドル(約1億円)。ジ・エベレストの前哨戦。
- アポロS:G2。総賞金30万豪ドル(約3000万円)。秋シーズンの短距離戦。
ゴールデンイーグルやラッセルボールディングSは高額賞金によって高いレースレベルが担保されるなら、G1にする意味があるかもしれない。直近ではジ・エベレストやサウジカップが格付け無しの状態からG1に昇格を果たしており、これらのレースも世界中からレベルの高い競走馬が集まっている。
しかし、プレミアSはジ・エベレストの前哨戦でしかなく、アポロSも秋の大一番であるT.J.スミスSの約1ヶ月前に開催していることを鑑みれば、G1の格付け申請には疑問を感じる。日本で言えば高松宮記念やスプリンターズSの前哨戦をG1に昇格しようとしていることになる。
ちなみに4つのレースは全てニューサウスウェールズ州で開催されるレースであり、RNSWがRAに働きかけて要望したものとなる。
加えて、RAは「国内の40以上の競走の格上げ承認を求める申請」もしていた。
そしてこれだけの数の格上げを申請しておきながら、RA側から格下げするレースは一切存在しない。あくまでもレーティングに基づいて申請したというのがRAの言い分だ。
ブラックタイプとレース体系の在り方
以上がAPC会議で却下されたRAの申請内容となるが、同会議では「オーストラリアにおけるブラックタイプ制度が機能不全に陥っている」とし、解決可能な策がないか議論された。
このような状況に陥った理由は単純で、オーストラリア国内にパターン委員会が設置されていないのは最初に触れた通り。
ではブラックタイプ制度の在り方とは何か。
そもそも、G1はその国で最も重要なレースであり、その次にG2・G3・リステッドと重要性が決められている。そのため、ブラックタイプ競走を設定するにあたり、G1を頂点としたピラミッド構造によるレース体系を構築しなければならない。
日本の場合レーティング上ではGⅠの水準に達しているGⅡレースも存在するが、GⅠに格上げしないのはJRA側がそのレースの位置付けを理解しているからである。同様にリステッド競走も、それまでのオープン競走の中からレーティング基準を満たしかつ重要性の高いレースをリステッド競走として認定している経緯がある。
欧州ではレーティングを基準に格付けを行ってきたが、近年はG1から降格するレースも多く見られる。これはレーティングによってG1と認定されていたレースの多くが、レース体系の変化・確立によって出走する競走馬のレベルが低くなり、レーティングに反映された結果でもある。フランスでは仏1000ギニーと仏オークスの間にサンタラリ賞という3歳牝馬限定戦もG1で施行していたが、1000ギニー→オークスという流れが主流になる中でG2に降格していった。
アメリカではレーティングの他に出走馬のグレード競走実績など様々な指標を用いて判断。12月にダートの2歳G1が2つ開催されていたが、レベルの高い競走馬が10月末~11月頭のブリーダーズカップを優先、次走の3歳戦まで放牧というローテが定着すると、競走馬のレベルが低下した2レースはG2に降格されている。
ちなみに、オーストラリアは2012年以降数十のレースを格上げしているものの、レースの格下げを一切おこなっていない。
パートⅠ開催国として歴史が浅く、レース数の少ない国ならともかく、オーストラリアのようにパートⅠ開催国としての歴史が長く、多くのレースを開催する国で降格が一切ないというのは世界的に見てもあり得ない話である。
APCの要求
10月にAPCはRAに対し以下の2点を解決するように求めている。
第一に「APC基本規則に準拠した形式」で新たなブラックタイプ基準を制定すること。第二に「ブラックタイプ格付け管理を監督する全国パターン委員会、または同等の機関が稼働する」。
要するに他国と同様に、ブラックタイプの適切な基準とパターン委員会の設置を求めている。その上で、APC側の満足する対応がなされない場合、APCがオーストラリアのレースの格付けを直接決める可能性があるとしている。加えて、オーストラリアのブルーブックが日米英仏愛と同等のパートⅠ国から韓国やサウジアラビア、イタリアと同等のパートⅡ国に格下げする可能性も示唆している。
一方的な「格上げ」
このような状況下の中、10月18日にジ・エベレストが開催された。
問題は同日にニューサウスウェールズ州で開催されたレースの中にある3つの「G3」。これらは全てAPC会議でG3の格付けが承認されていない。
前年10月にRAは複数のレースの「昇格」を認めたと記載したが、その格付けのまま、2025/26年シーズンもレースを施行している。
ARFによる介入(2026年7月更新)
事態が進展しないまま12月17日、ARFはAPCによるオーストラリア競馬の格付けに関する介入を表明した。これによって、2026/27年シーズン開始前よりオーストラリア競馬の格付けはAPCが直接決めることになる。
2026年7月2日、APCによってオーストラリア競馬の格付けが決定した。
新たな格付けとしてはゴールデンイーグルがG1、他14のレースが重賞・リステッドの格付けに認定された。また、11のレースがリステッド、G3からG3、G2に昇格となった。降格となったのは1レース(G2→G3)のみで、G1からの降格は無い。但し、ザ・メトロポリタン、レールウェイS、ヴィクトリアダービーについては降格の検討がされたものの、2026/27年シーズンではG1での施行が決定した。
(2026年9月の会議で追加の検討を実施予定)
この格付けはRAの申請内容を踏まえての決定したことがARFのリリースに明記されている。ゴールデンイーグルのG1を始め多くのレースの新規格付け・昇格という点でRAの申請内容がAPCにある程度受け入れられたことが示唆される。
ARFによればあくまでも暫定的な措置であり、APC基本ルールに従って機能するブラックタイプの管理システムが機能すれば終了するとのこと。但し、解決策が見いだせない場合は他の措置も検討するとしている。
今後の展開
ここまでの流れを踏まえ、今後の予想される展開について記載する。
大規模なレース降格・格付け取消
ARFはRAに対し、APC基本規則を満たしていない7レースが格下げ対象の可能性にあると指摘していた。その中には、シドニーC、ザ・メトロポリタン、レールウェイSといった3つのG1レースも含まれている(2025年時点)。
更にヴィクトリアダービー、クイーンズランドダービー、オーストラリアンオークス、ウィンターボトムSといった4つのG1レースを含む10レースを警告の対象にすべきとしていた。
更に、今後の精査次第では多くをレースが降格or警告の対象となる可能性がある。
これらの措置はAPC基本規則に則ったものであり、見方を変えれば本来の格付けに是正されるとも言える。
とはいえ、2026/27シーズンについては降格したレースは1レースに留まっているため、パターン委員会が設置されるまで降格・格付け取消は最小限となる可能性が高い。
豪国内のパターン委員会設置
APCの格付け決定はあくまで一時的なものでしかなく、問題解消のために必要なのはオーストラリアにおけるパターン委員会の設置し、ブラックタイプ競走の決定権をオーストラリアに戻すことである。既にRVは設置を呼び掛けている。
パートⅡへの降格
APCによる格付け管理が長期化した場合、オーストラリアがパートⅡ国に降格する可能性がある。
仮に降格になった場合、大きな問題となるのが生産界の信用低下である。
基本的にセリ名簿に掲載される馬はパートⅠ国のブラックタイプ競走の勝ち馬であり、パートⅡ国のレースの勝ち馬は掲載されない。則ち、パートⅡ国のブラックタイプ競走を勝っても血統的に評価されない。
オーストラリアは競走馬の輸出入が盛んであり、種牡馬においても北半球からのシャトル種牡馬を広く受け入れている。これらはオーストラリアの生産規模が世界トップクラスであると同時に、オーストラリア国内の格付けが担保されているからこそ、成り立っているものである。パートⅡに格下げされた場合、輸出入に大きな悪影響が懸念される。
参考記事
- 莫大な数のレースの昇格計画により広がる混乱
(JAIRS 2024年10月21日)
- 国際サラブレッド競売人協会、豪州のレース格上げ乱発に失望を表明
(JAIRS 2024年10月24日)
- アジア競馬連盟、豪ニューサウスウェールズ州の17レース格上げを却下
(JAIRS 2025年3月13日)
- アジアパターン委員会が40以上のレース格上げを却下
(JAIRS 2025年9月25日) - オーストラリアの国際格付け降格の恐れ
(JAIRS 2025年12月11日) - アジアパターン委員会がオーストラリアのブラックタイプ競走の格付けを決定
(
JAIRS 2025年12月25日)
関連項目
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