オーバークロックとは、主に自作PCにおいて、CPUなどを定格の周波数よりも高い周波数で動かす行為である。通称OC。OCを常習的に行う人のことを、「オーバークロッカー」と呼ぶ。
なお、メーカー保証外の行為のため、オーバークロックを行ってCPUなどが全損しても一切救済措置はない。
概要
単純に言えば「オーバークロック」とは、CPUなどが定格動作周波数を超える周波数で動くよう、BIOSの設定を変更することである。
CPUの動作原理については他記事やWikipediaに譲り解説するとして、たとえば「最高3GHzの周波数(クロック)上限に設定され売られているCPUを、たとえば4GHzで動作させる」ようなことである。ただし、3GHzのCPUを4GHzにオーバークロックしても単純に性能が4/3=1.33…倍になる、というわけではない。CPUの性能は単純に周波数に比例するわけではなく、処理を行う「コア」がいくつあるか、など複数の要因で決まるからだ。
オーバークロックの醍醐味は、なんといっても「通常使用では得られない、秘められたパワーを引き出せる」というところにある。かつては高価なCPUを買うよりも、廉価なCPUを買ってオーバークロックをした方が大幅にパフォーマンスに優れるということもあった。特に2000年代初頭には1万円や2万円のCPUが5万円、6万円するCPUを抜かすこともあり、特にPentium IIからPentium IIIの時代にかけてオーバークロッカーが急増した。
止む事なき発熱との戦い
オーバークロックは、一言で言えば発熱との戦いだ。オーバークロックに耐えうる強力な冷却性能が必要である。高性能なCPUクーラーは必需品で、CPUボックスの標準添付品よりずっとデカいヒートシンクを備えたものや、簡易水冷装置、ペルチェ素子の入ったクーラーなどがある。ここまで程度なら最近は敷居が低く、多少自作PCに通じるだけでも運用できる。重症なオーバークロッカーたちは自前で一から組み立てた本格水冷装置を使うことも多く、あっちの世界に逝ってしまわれたクロックの亡者たちは液体窒素を持ち出し始める。ここまで来ると、もはやオーバークロックに取りつかれあちらの世界へ逝ってしまわれたと言わざるを得ない(誉め言葉)。
CPUは、処理を行う内部の本体部分を、ヒートスプレッダ(放熱のための金属板)で包み込んだ構造になっている。そのため、もともとあるヒートスプレッダを強引に外し、より熱伝導性の高い物質で覆うという、通称「殻割り」という行為もある。保証対象外となるのは言うまでもなく、失敗すればCPU自体を自らの手で物理的に壊し二度と使えなくするおそれすらある。それでも、オーバークロッカー達はCPUの殻を次々と割り、強靭な冷却用アーマーで武装することをあきらめないのだ。
CPU以外のオーバークロック
オーバークロックするのは何もCPUだけではなく、メモリなどもオーバークロックの対象になる。かつてはCPUをオーバークロックするためにはシステム全体のオーバークロックが必須条件で、メモリなどもあわせてオーバークロックすることが多く、単体で話題になることが少なかった。現在は比較的容易にメモリを独立してクロックアップすることも可能だ。ただし,CPUをオーバークロックするのに比べ、高いリスクに見合った高い効果が得られるとまでは言えない。
グラフィックボードのGPUもCPU同様にオーバークロックが可能だが、市販のグラフィックボードは既にオーバークロックされた状態で販売されている製品も少なくなく、CPUほど大胆なオーバークロックは求められない場合が多い。
グラフィックボードやメモリをオーバークロックする時も、CPU同様に冷却に気を遣わなければいけないのは言うまでもない。ただしグラフィックボードの冷却性能強化は、CPUに比べて難易度が高い。
オーバークロックの問題点は?
オーバークロックはパーツに負荷をかける行為である。マザーボードの仕様や動作に最適な電圧など、様々な動作原理を理解している必要がある。また自己責任であり、できないようならやめておいた方が良い。
クロックを速くすればするほどCPUの要求する電圧は高くなり、安定性も失われていく。クロックや電圧が高すぎると計算に支障が出始めOSが起動しなくなったり、通常使用では起こらないような高熱を帯びたりし、最悪の場合はCPUが壊れて戻らなくなったり、発煙・発火に至ったりする。このため、オーバークロックをする場合は通常使用時に比べ、きわめて強力にCPUを冷却する必要がある他、メモリやマザーボードなどのパーツも高負荷に耐えられるものを慎重に選ばなければいけない。当然初心者にはお勧めできない。
オーバークロッカーは、CPUを「力を秘めた宝石」になぞらえ「石」と呼ぶ。オーバークロックには、「石」がどれだけの力を秘めているのか試すというバクチ的側面も多分にある。個々のCPUによって発揮できる力にはバラつきがあるのだ。
もっと踏み込んで言うと、「同じ商品名だが動作周波数だけ異なるCPU」が型番違いとして販売されている(たとえばIntelの第8世代Core i5なら8400、8500、8600、8600Kがある)が、これらは実は製造段階では区別されていない。全く同じように造られつつ、どうしても性能には生まれつきん歩バラツキが生まれてしまい、たまたま持った性能によって「少ない電力で高速処理が行える優秀な個体たち」をオーバークロックを見据え高い周波数上限の設定された最上位モデルに、「同じ処理により多くの電力を要するやや劣る個体たち」を控えめな周波数の下位モデルに、それぞれ刻印して売っているだけなのだ。
つまり、同じ品番のCPUの中にも「上位寄り」の個体と「下位寄り」の個体とがあり、「上位よ寄り」の個体は「アタリ石」、「下位寄り」の個体は「ハズレ石」があるのだ。「アタリ石」だと数倍の周波数で動かせるが、「ハズレ石」だとちょっとOCするとすぐ不安定になるということもある。ただし、以前に比べるとこのバラツキ自体はかなり小さくなっている。かつては「製造週」「原産国」も重視された、現在は製造国によるバラつきはかなり減っているようだ。
オーバークロッカー
オーバークロッカーは、オーバークロックに魅入られオーバークロックにすべてを捧げる人のことだ。
液体窒素を持ち出すような域に達すると、もはやオーバークロックは性能向上の手段というよりオーバークロックそのものが目的であり、いかに高速で動作させられるかを競う競技の様相を呈している。実際、秋葉原等でオーバークロックの大会が開かれることもよくあり、中にはAMDなどの(オーバークロックを保証対象外としているはずの)CPU会社が大会を開くことさえある。ジャンキーたちは新CPUの発売とあらば、最も早く売り出される秋葉原に徹夜してでも乗り込み、数万~十数万円もする高価なCPUを惜しげもなくオーバークロックしまくる。
一歩間違えればCPUが即死し(だけで済めば良いのだが、最悪他のパーツや家屋、人的被害がでることすらあるとか……)、当然メーカー保証の対象にもならない。一般人から見れば札束を火にくべるがごとく映るが、オーバークロッカーにとってそれらはさしたる問題ではないらしい。世界的に活躍する日本人オーバークロッカーも存在し、たびたび日本から世界記録が生まれている。
一般的には瞬間最大風速的な(数秒でも動けば良いというレベルの)周波数ではなく、少なくとも数分間のベンチマークを一周できる程度の安定動作を実現しなければ重要な記録とは見なされない。オーバークロックをウリにしているマザーボード会社なども存在し、著名なオーバークロッカーはたびたびメーカーから製品の提供を受けて「世界記録」にチャレンジしている。
で、どうやればいいの?
オーバークロックは自己責任の行為だ。基本的には自力で方法を調べ上げられ、理解でき、「何があっても自己責任」と覚悟ができる人でなければやめておいた方が良い。「質問して教えてもらった通りにやったら失敗した」となれば、教えた方も後味が悪くなる。
具体的な方法はあえて提示しないが、オーバークロックの難しさとは、
- 動作周波数が高いほど、高い電圧が必要になる
- 電圧が高いほど、発熱およびCPU自体への負担が問題になる
の2つのせめぎ合いだ。よって、やることもただひたすら電圧と周波数の上げ下げと、ベンチマーク(CPU温度と安定動作の確認)との繰り返しだ。なお以下の方法は、近年主流となっているCPU動作倍率の変更を前提としている。
- 定格動作でベンチ、最大電圧を調べる
→必要な電圧が低いほどオーバークロック適性は高い目安になる - CPU電圧を少しだけ上げる
→許容する電圧を超えそうならそこが周波数の限界(6.へ)
※一般には.35V~1.4V程度が上限だが、もっと低い方がCPUへの負担は少ない - 電圧アップ後のベンチマーク
・熱すぎ、まだ冷やせる→冷却強化しもう一度ベンチ
・熱すぎ、もう冷やせない→電圧(冷却)の限界(7.へ)
・熱くないが動作不安定→2.へ戻る
・熱くなく動作安定→4.へ - 周波数を1段階上げる
- クロックアップ後のベンチマーク
・動作安定→4.へ
・動作不安定→2.へ - 周波数の限界が見えた
→動作周波数を限界以下の範囲で決め、徐々に電圧を下げていき安定動作する最も低い電圧を見つけ8.へ - 電圧(冷却)の限界が見えた
→その電圧の中で安定動作する周波数で決め8.へ - 最後のベンチ
・不安定→難しければ周波数を下げるか、許容範囲内で電圧を上げもう一度ベンチ
・安定→常用設定決定!
有名なオーバークロック
オーバークロック自体はどのCPUでもできるため、ここでは記憶と記録に残るCPUを紹介する。
- Intel Celeron 300A
オーバークロックの名を一般人にまで広めた傑作CPU。定格300MHzながら450MHzでの常用使用が可能で、高価なPentiumと同等の性能が引き出せるという噂がたちまち広まった。CPUの周辺をモニョモニョすることでデュアルプロセッサとして認識させることも可能で(普通はできないようにメーカーで封印されている)、「デュアルCeleron」を略して、通称「デュアロン」「Dualon」と呼ばれ、非常に多くの人がお世話になった。この「デュアロン」のおかげでオーバークロック熱に火が付き、この世代以降、マザーボードメーカーがオーバークロックを簡単にするスイッチなどを搭載することが常態化した。
ちなみに、この改造を最初に行ったのは日本人のKIKUMARU氏だとされる。半田付け・基板改造を駆使してデュアロン動作を可能にし、「CeleronはただのPentium廉価版ではない」ことを示して世界を震撼させ、後にほとんど改造不要のデュアロンマザーボード発売などに貢献した。 - AMD Athlon XP
コードネーム「Thunderbird」をつけたCPUであったが、コアがむき出しであり、また熱で壊れやすかったため、「焼き鳥」と揶揄された。 - Intel Core iシリーズ
主に第3世代(Ivy Bridge)から。CPUのコアを保護およびコアが発する熱を伝えるために金属製のカバー(これをヒートスプレッダと呼ぶ)がついているのだが、CPUのコアとカバーの間が(冷却で問題になる熱伝導率で不利な)グリスで塗られていることが発覚した(それまでは熱伝導率が高いハンダであった)。CPUとCPUクーラーの間にもグリスを塗るとコア・グリス・カバー・グリス・CPUクーラーのように2回グリスが登場するため、「ダブルグリスバーガー」として話題になった。このため、金属製のカバーを取り外して、グリスからより熱伝導率の高い液体金属などを塗る、通称「殻割り」「メタル化」が頻繁に行われるようになったのだが、ほんのちょっと手元が狂って数万円もするCPUをただの石にしてしまうユーザーが続出した。なお、2017年に発表された第8世代(Coffee Lake)でもグリスバーガー状態は続いており、「殻割り」は伝統行事になりつつある。2016年あたりから「殻割りツール」が登場し、安全に殻割りを行えるようになったため、殻割りの敷居はかなり低くなった。 - Intel Core iシリーズ第9世代
第3世代から続いたダブルグリスバーガーだったが、2018年発表の第9世代(Coffee Lake Refresh)から、第2世代以来のソルダリングが復活した。
すわ殻割り脱却か!と思いきや、なんと第9世代CPUはPCBとCPUコアの厚みが増しており、コアそのものの熱伝導率が低下したのだ。加えてこれらを厚くした差分を、ヒートスプレッダを薄くすることで調整をとったため、ヒートスプレッダの冷却性能も低下。
これらを解消するには、例のごとく「殻割り」をしたうえで、さらに「CPUコアのソルダリングを除去し、そのうえでコアを研磨する」という非常に難易度の高い作業が要求される。
特にコア研磨は、当時の「殻割り」同様にシビアな行為なため、オーバークロックは再び敷居の高いものになってしまった。
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