クイックリスタート(quick restart)とは、MotoGPにおいて、決勝レースが中断した後にレースを再開する際のスタート方式を示す言葉である。
2016年からMotoGPの全クラスに導入された。
概要
決勝レース中断までの流れ
9.のあと、決勝レースが進んでいくのだが、決勝レースの最中に何らかの要因で赤旗が振られてレースが中断されることがある。
Moto3クラスやMoto2クラスでは、ドライレース宣言をしてレースを始めた後に雨が降ると赤旗中断となる。
最大排気量クラスではドライレース宣言をしてレースを始めた後に雨が降っても白旗が振られてレース続行となるが、雨脚がひどくなってハイドロプレーニング現象の危険性が増すと赤旗中断となる。
転倒者が出て、路面にエンジンオイルがまき散らされたり、コース上に部品が散乱したり、コース上に負傷者が横たわったりした場合も赤旗中断になる。
エアフェンス(空気で膨らませるもので、転倒して滑ってくるマシンを受け止めるため設置される)が破損した場合も、ライダーの安全を確保できないという理由で赤旗中断になる。
赤旗が振られると、全ライダーは徐行してピットに戻ることになる。
クイックリスタートでレースを再開
ピットに戻った各ライダーは、給油やマシンセッティング変更やタイヤ変更をしてもよい。そうした作業をしながら、運営の指示を待つ。
運営は、クイックリスタートを宣言し、「今から◆分後の○時○○分にピットレーンを1分間開く」と各チームへ通告する。◆に当てはまるのは、5以上の数字である。運営の通告の時刻と、ピットレーンが開く時刻の時間差は、5分以上である(資料)。
ピットレーンが開いているのは1分間だけで、その間にピットレーン出口を出なければならない。ピットレーン出口から遠いところにピットがあるライダーも、この時間を厳守する必要があるので、早めにピットを出ることになる。
ピットを出たライダーは1周だけサイティングラップを行う。その最中に、各ライダーを担当するメカニックが1人だけスタート地点に行き、ライダーを待ち受ける。こんな感じの、非常にシュールな様子になる。
1周のサイティングラップを終えたライダーは、自分を担当するメカニックを目で探しながら、スターティンググリッドに付く。
全員がスターティンググリッドに付いたら、ウォームアップラップを1周行い、その後にスタートとなる。
以上の手順をまとめると、以下のようになる。
ピットレーンオープンに間に合わなかったライダーは最後尾スタート
赤旗中断の前に転倒していてマシンの修復に手間取ってしまった、などの事情で、2.のピットレーンオープンに間に合わないライダーはどうなるのだろうか。
そのライダーはピットレーンの出口で待ち続けることになる。つまり、サイティングラップに参加できなくなる。
5.になってウォームアップラップが始まると、それと同時にピットレーン出口に立つ係員が赤旗を引っ込めて緑旗を振り、「通ってよい」と意思表示をするので、ウォームアップラップに参加できる。ところが、ウォームアップラップを終えたあと、係員によって最後尾に誘導され、最後尾スタートとなる。
予選で最速タイムを叩き出してポールポジションを獲得したようなライダーであっても、2.の1分間ピットレーンオープンに間に合わないと、最後尾スタートになってしまう。
ウォームアップラップに間に合わなかったライダーはピットスタート
赤旗中断の前に転倒していてマシンの修復に手間取ってしまった、などの事情で、2.のピットレーンオープンに間に合わず、さらに5.のウォームアップラップ開始にも間に合わなかったライダーはどうなるのだろうか。
そのライダーはピットレーンの出口で待ち続けることになる。
7.になってレースがスタートした後、係員の合図によってピットレーンからスタートする。こういうピットスタートは、最後尾からスタートしたライダーからだいたい7秒ほどの遅れになる(スタートの記事で解説されている)。最後尾スタートよりもさらに厳しい処遇となる。
2016年イタリアGP(Moto2クラス)
2016年イタリアGPのMoto2クラスが、史上初めてクイックリスタートを実行した記念すべきレースとなった。
4周目にシャヴィ・ヴィエルヘが転倒し、マシンをエアフェンスに突撃させ、エアフェンスを破損させてしまった。5周目になって、運営はライダーの安全性を確保できないと判断し、赤旗を振り、エアフェンスを交換した。そして、クイックリスタートでレースを再開することになった。
このときは、クイックリスタートのことを全く理解していないチームが多く存在した。合計8人のライダーが、1分間のピットレーンオープンに間に合わなかった。
各チームには毎年ルールブックが配布されるのだが、自発的にルールブックの隅々まで読んでいるチームばかりではない、という現実が浮き彫りになった。
運営の方も、なかなかお粗末な対応をしていた。1分間ピットレーンオープンが終わったら係員が赤旗を横に提示してライダーを制止しなければならないのだが、それを怠っており、ピットレーンオープンに間に合わなかった8人のライダーのうち6人が勝手に出ていく始末だった。この6人のうちの1人が中上貴晶だったが、中上は「ピットレーン出口の係員は、赤旗を持って突っ立ていて『行っちゃってくださ~い』という態度だった」と証言している(2016年振り返りG+座談会)。
その6人がサイティングラップを終えてスターティンググリッドに付いてウォームアップラップが始まるのを待ったので、運営がその6人に対して「ちょっと待って、君は本来、ピットから出てサイティングラップに参加してはならず、ずっとピットレーンで待ってなければならなかったんだ。ピットレーンに戻ってくれないか」と誘導することになった。メインストレートとピットの間には壁があるが、1ヶ所だけ扉があり、そこからピットに戻ることができるので、6人を懸命に誘導した。
6人を誘導しているときも大混乱だったので、テキパキと進まない。そのため、1分間ピットレーンオープンに間に合ってスターティンググリッドに付いてウォームアップラップの開始を待っているライダーはエンジンを掛けたまま待たされることになった。そのうちの1人であるダニー・ケントは「エンジンを掛けっぱなしだったので、ラジエーター(エンジン冷却装置)の水温が127度まで上がってしまって故障寸前になった」と言っている。
結局、「全てやりなおしましょう」と言うことになって、全ライダーがピットインしてクイックリスタートをやりなおすことになった。
当時の目も当てられないゴタゴタを示す動画はこちらで、記事はこちらとこちらになる。
関連項目
- 1
- 0pt