クエンティン・タランティーノ (Quentin Tarantino) とは、B級映画を愛するケツアゴ映画監督である。
概要
撮る映画もさることながら、タランティーノ個人の強烈な個性と名前のファンキーさで、嫌が応にも頭に焼きつく男。映画オタクがそのまま映画監督になったという点は、ティム・バートンやサム・ライミなどに通じるものがある。日本では、メディア取材や宣伝でも早口でベラベラ喋る姿などの派手なキャラクターで、ちょっと映画知っている人ならば名前は知っているだろうと思われる有名人の映画監督。『スパイ・キッズ』や『デスペラード』で知られるロバート・ロドリゲス監督と仲が良く、共同で製作された作品も多い。
レンタルビデオ屋でバイトしつつ映画漬けの日々を送るうち、B級映画を愛して止まないオタクへ成長。さらに生活習慣の改善もないまま過ごすうち、オタクが高じて映画を作るようになっていった。
現在の彼の作品にも、彼が愛する映画へのオマージュがいたるところに仕込まれており、作品に隠された名作・迷作・珍作へのこれらのオマージュも、ファンをひきつける要素の一つになっている。
情報量が多く時間軸を自在に超える独創的なストーリー構成や、曲者揃いのキャラクター、妥協のない圧倒的な暴力描写などで見る者を圧倒する。また「どうでも良い話なのに、聞いていて面白い」というとても絶妙な“無駄話”の演出に定評がある。
劇中音楽の選曲センスにも優れており、『パルプ・フィクション』のオープニング曲に起用された1960年代のヒット曲「ミザルー(Misirlou)」を、映画公開とともに再ブームさせた。『キル・ビル vol.1』は日本が舞台ということもあり、日本のアーティストを積極的に起用した。中でも布袋寅泰の『Battle Without Honor Or Humanity』は、劇中曲及び予告編にて大々的に起用され、日本で大きく話題になった。
B級映画全般から、エド・ウッドなどに代表されるクソ映画まで幅広く愛する、まさに愛すべき映画オタクである。ジャパニメーションにも造詣が深く、『キル・ビル vol.1』ではアニメ・パートを日本のアニメプロダクション「Production I.G.」に依頼し、悪役の紹介に効果的に使用した。
日本映画にも造詣が深く、デビュー作『レザボア・ドッグス』のラストは日本のヤクザ映画を彷彿とさせる、究極の“仁義”を表現したシーンであると本人が映画のコメンタリーにて語っている。『キル・ビル』2部作では日本刀が物語の重要なアイテムとなっている。特に、黒澤明と深作欣二の大ファンであり、『キル・ビル』製作時には深作との共作を熱望していた。残念ながら深作の急逝により参加はかなわなかった。彼が亡くなった時にはかなりショックをうけたという。
前述した『Battle Without Honor Or Humanity』も、曲名の通り、本来は布袋が出演した『新・仁義なき戦い』のテーマだったのを、タランティーノがいたく気に入ってそのまま使ったものである。その際、布袋の方から「さすがにそのまま使わなくても、似たような感じで新しく作曲する」と申し出たが、彼は「このままがいい」と断固流用にこだわったという。そのおかげで、現在では、この曲が『新・仁義なき戦い』のテーマでもあるという事実があまり知られていない有様である。
作品
監督作品
- 『レザボア・ドッグス』――92年公開。デビュー作。タランティーノの脚本を気に入った名優ハーベイ・カイテルらの助力により映画化されたクライム・サスペンス。凄まじい暴力描写と、緻密な人間描写で一躍脚光を浴びる。
- 『パルプ・フィクション』――94年公開。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。『レザボア・ドッグス』でも用いたエピソードの時系列をシャッフルするという技法を、さらに生かしたギャング映画。ブルース・ウィリス、ジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソンなど主役級の俳優が多く出演している。ちなみに当時俳優として低迷していたジョン・トラボルタは本作の高評価も相まって出演オファーが殺到。スランプを打破し再びスターダムに返り咲くこととなった。
- 『ジャッキー・ブラウン』―-97年公開。幼少期に影響を受けたブラックスプロイテーション・ムービーにオマージュを捧げた作品。主演は監督の長年のファン、パム・グリア。また名優ロバート・デ・ニーロを少しおバカな動きの鈍い親父役で起用しており、徹底的におっさんらしいトロさを表現した役作りは笑いを誘う。
- 『キル・ビル vol.1』――03年公開。ブルース・リーのようなジャージをきた金髪女が、日本の料亭でカタコトの日本語を叫びつつ日本刀で暴れまわるという過激な作品。「修羅雪姫」「バトル・ロワイヤル」を中心に数多くの日本映画、さらには香港・台湾映画へのオマージュが詰まった作品。スプラッター場面の血などをモノクロにデジタル加工したUS公開版と、血みどろのスプラッター・シーンを加工無しの暴力シーン満載で描いたアジア公開版の2種類のバージョンが存在する。
- 『キル・ビル vol.2』――04年公開。前作の過激な暴力シーンから一転して、ラブ・ストーリーを描いた作品。マカロニ・ウェスタンへのオマージュ・シーンが多く、カンフー修行の場面も香港のカンフー映画を再現するなど本格的。
- 『デス・プルーフ in グラインド・ハウス』――07年公開。盟友ロバート・ロドリゲスとのオムニバス映画『グラインドハウス』の一編であるが、大人の事情でディレクターズ・カット版として単体で劇場公開された「長尺版」。過激なカーチェイスシーンや、“無駄話”を復活させたやたら長い会話シーンが特徴。
- 『イングロリアス・バスターズ』――09年公開。ナチス・ドイツ占領下のフランスを舞台にした戦争映画。監督最大の大ヒット作品となり、アカデミー賞など数多くの賞レースでもノミネート並びに受賞となった。SSの大佐を演じたクリストフ・ヴァルツ(本作でアカデミー賞助演男優賞受賞)の演技が強烈。ブラッド・ピットの馬鹿丸出し演技も見どころ。
- 『ジャンゴ 繋がれざる者』――12年公開。南北戦争以前のアメリカ西部を舞台としたウェスタン映画を、人気俳優から個性派俳優まで幅広く揃えた豪華キャストで映画化。「今まで映画史上に存在せず、他には比べられないキャラクター」という極悪非道の悪役を、世界的スター俳優のレオナルド・ディカプリオが演じる。
その他、関連作品
- 『トゥルー・ロマンス』――93年公開。トニー・スコット監督。「長話」「過激な暴力シーン」「過去の映画へのオマージュ」などタランティーノらしい場面が十分に発揮された映画。ゲイリー・オールドマン、デニス・ホッパー、クリストファー・ウォーケンなど大物個性派俳優が多く出演しているのも特徴。
- 『ナチュラル・ボーン・キラーズ』――94年公開。オリバー・ストーン監督。タランティーノ執筆の脚本(クレジットでは“原案”となっている)であったが、『トゥルー・ロマンス』とは逆に、内容が改悪されてしまった映画。あまりの内容の違いにタランティーノが激怒したそう。アニメや白黒、CMやイメージ映像などがザッピングのように頻繁に移り変わる。暴力の根源やマスコミ批判などの社会派な内容や、遊びのように人を殺す暴力シーンなどにより、欧米では上映禁止などの措置がとられた。
- 『フロム・ダスク・ティル・ドーン』――96年公開。ロバート・ロドリゲス監督。前半は凶悪な犯罪者ゲッコー兄弟の逃避行を描いたクライム・アクションであるが、後半にとんでもない内容になる。兄のセスを演じるのはジョージ・クルーニー、弟のリッチーを演じるのはタランティーノ。
- 『シン・シティ』――05年公開。ロバート・ロドリゲス&フランク・ミラー監督。人気アメコミ作家フランク・ミラーの同名コミックを、ロバート・ロドリゲスとフランク・ミラー本人で監督。コミックのイメージを崩さない為、CGが多用されたモノクロとパートカラーによる独特の映像美で映画化された。タランティーノは中盤5分ほどのシーン演出にスペシャル・ゲスト監督として参加。
- 『グラインドハウス』――07年公開。ロバート・ロドリゲスが監督した『プラネット・テラー』、タランティーノが監督した『デス・プルーフ』の2本の他、最近の人気ホラー監督3人が製作した“偽”予告編で構成されたオムニバス映画。“グラインド”とはアメリカに存在した、B級映画を2~3本から同時に上映する小汚い映画館のことで、それを現代に再現してしまおうという無茶な企画を映画化したのが本作。マニアックな内容の為に『グラインドハウス』単体は興行的に失敗してしまい、長編2本も個別に長尺版で劇場公開されてしまうが、熱心な映画マニアや映画評論家からは評価が高く、フェイク予告編も各々映画化企画も持ち上がったとか。実際に予告編から生まれた映画『マチェーテ』は劇場公開された。(後述)
- 『プラネット・テラー in グラインドハウス』――07年公開。ロバート・ロドリゲス監督。上記『グラインドハウス』の一編であり、個別に劇場公開された「長尺版」。アメリカの田舎町を舞台に、軍の生物兵器に毒ガスに感染したゾンビたちと田舎町の住人との戦いを描いたアクション・ホラー。タランティーノがノリノリの演技で、ゾンビ化してしまう軍人を演じている。またBlack Eyed Peasの“ファーギー”ことステイシー・ファーガソンが、冒頭にゾンビに襲われる女性という役で出演している。
- 『マチェーテ』――10年公開。ロバート・ロドリゲス監督。『グラインドハウス』の偽予告編の1つを映画。主人公“マチェーテ”を演じているのは、ロバート・ロドリゲスの従兄弟で、強面系脇役として有名な俳優ダニー・トレホ。対する悪役トーレスを演じたのが、『沈黙』シリーズで知られるスティーブン・セガール。脇を固めるのは、ロバート・デ・ニーロ、ジェシカ・アルバ、ミシェル・ロドリゲスなどの人気俳優。また度重なるスキャンダルにより人気が急落してしまった“元”人気アイドル、リンジー・ローハンもセクシーな役柄で出演している。意外にもセガールが一般映画にて本格的な悪役をするのは本作が初めて(それ以前に韓国映画で悪役を演じているが、それはチョイ役だった)。
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関連項目
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