クシクラゲ(英:comb jelly)とは有櫛動物門(Ctenophora)に属する動物の総称。クラゲと名前に付くが、刺胞動物のクラゲとはまた別の生き物である。
概要
全ての種が海に生息しており、浅瀬から深海まで多様な環境で暮らしている。全世界で100~150程度の種が知られている。透明で非常に脆く壊れやすい体を持つ。殆どの種が雌雄同体。
体は一見放射相称のように見えるが、2つある肛門の位置が互いにねじれており、厳密には180度回転相称という特異なものとなっている。なお口は1つある。
クラゲのように傘状ではなく球形や卵形に近い形のものが多いが、細長く変形したオビクラゲ(学名:Cestum veneris)のような種もいる。多くが海中を漂って生活している(プランクトン)が、コトクラゲ(学名:Lyrocteis imperatoris)[1]やクシヒラムシ(学名:Ctenoplana maculomarginata)など一部の種は固着性の生活を送る。典型的には2本の触手を持ち、それで捕まえた小さな生き物を口に運んで食べているが、触手のないウリクラゲ(学名:Beroe cucumis)やその仲間は他のクシクラゲ類などを丸呑みすることで知られる。
体の表面に繊毛が櫛の歯のように並んだ「櫛板」を8列放射状に持っており、これを波打つように動かすことで泳ぐ。クシクラゲの名はここから取られた。繊毛で泳ぐ生物としてはクシクラゲ類が最大のものである。固着性の種は櫛板が退化している傾向にある。
波打つ櫛板は光の反射で虹色に輝くのでとても美しく、幻想的である。これはクシクラゲ自身が発光しているわけではない。
しかし、NHKスペシャル『潜入!深海大峡谷 光る生物たちの王国』[2]ではライトを消して高感度カメラでクシクラゲの仲間を撮影すると、自力で網目状に発光していることが確かめられている。事実、クシクラゲの仲間は固着性の種を除き大部分が発光種である。
クシクラゲ類は非常に脆く、ほとんどが水分なので採集しても形が崩れてしまったり、標本にしようにも薬品で全て溶けてしまい使い物にならないので研究は難しい。
クシクラゲ類の分類
クシクラゲ類が動物の進化の枝(系統樹)のどこに位置するかについては論争が続いており、クラゲ仲間の刺胞動物と近縁とされてきた(昔は腔腸動物として同じグループに分類されていた)が確定していない。カイメンも含めた他の全ての動物より先に分岐している[3]という説も出たことがあるが、現在ではこの説は否定的な傾向にある。動物の進化を解明するための鍵を握っているロマンのあるグループかもしれない。
内部では、伝統的な分類ではウリクラゲ目のみからなる無触手綱とそれ以外からなる有触手綱に分類されていたが、分子系統学的な手法では否定されている。新しい内部系統も示されているが、まだ曖昧な点も多いようだ。
体が柔らかく化石になることは非常に稀だが、デボン紀の他カンブリア紀中期の地層からクシクラゲの仲間の化石が発見されている。現生種とは異なり櫛板の数が非常に多く、骨格も持っていた(!?)ようである。化石種のクシクラゲの多様性は非常に高いことが示唆されており、化石記録はクシクラゲ類の進化の謎を紐解く手がかりになると思われる。
実験動物として
胚発生でモザイク卵の性質を示す(ごく初期の段階であっても胚の一部を失うと不完全な胚に成長する)。クシクラゲ類は通常櫛板を8つ持つが、初期胚を2つに分割すると櫛板が4つの胚が2つ生じるのである。これが非常に分かりやすいため、発生生物学の実験動物としても知られている。
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関連項目
脚注
- *1941年に海洋生物の研究者でもあった昭和天皇が相模湾で採集した標本によって記載された。学名のimperatorisは「皇帝、天皇の~」の意であり昭和天皇への献名となっている。
- *シリーズ ディープオーシャン「潜入!深海大峡谷 光る生物たちの王国」|NHKスペシャル
- *新説:動物の共通祖先はクシクラゲ?(ナショナルジオグラフィック日本版サイト)
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