クラシック・ダンジョンズ&ドラゴンズとは、TRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』のシリーズの旧版の1つである。1977年から1994年にかけて発売された。
『クラシック・ダンジョンズ&ドラゴンズ』という名は通称である。製品名はあくまで『ダンジョンズ&ドラゴンズ』であったが、2000年以降に展開された第3版以降の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』と区別のために、現在ではこのように呼ばれることが多い(レトロニム)。
概要
1974年、TSR社から最初のD&Dボックスセットが発売される。この最初の無印版は現在ではオリジナル・ダンジョンズ&ドラゴンズ(OD&D)と呼ばれる。
当初はごく小さなルールとして始まったD&Dだが、70年代を通じて追加書籍などによって急速に拡張され大幅に複雑化、様々な矛盾を抱えることとなった。
1977年版(ホームズ・ベーシック)
そういった背景もあって1977年、改訂版であるAD&D(アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ)の展開が開始される。
それと並行し、オリジナルD&Dの入門編として『ベーシック・セット』を標榜するルールが発売される。サイコロと48ページの冊子を収めたこのボックスセットがクラシックD&D路線の始まりである。
この版は著者の名をとって『ホームズ・ベーシック(Holmes Basic)』と呼ばれている。
オリジナルD&Dのもっとも基本的なルールをまとめ、AD&Dへの入門を容易にすることが当初の意図であったとされる。実際に英語圏ではこの版を経由してAD&Dに参加したと語るユーザーは多い。
しかし、当時AD&Dの既刊は『モンスター・マニュアル』のみであり、『プレイヤーズ・ハンドブック』すらまだ発売されていなかった。後に発売されたAD&Dのルール群と『ホームズ・ベーシック』のルールには食い違いも多く、意図していたように「3レベル以降はAD&Dにキャラクターを移動」させるにはひと手間必要だった。
この版にはダンジョン作成チュートリアルも兼ねたモジュール『B1: In Search of the Unknown』が付属した。
1981年版(B/X)
AD&Dの主要な書籍がそろった1981年、クラシックD&Dも大幅に改定されることになった。この赤い箱が特徴的な『ベーシック・セット』は、著者の名前から『モルドヴェイ・ベーシック(Moldvay Basic)』と呼ばれる。
ガイギャックスはDragon誌26号において、あくまでもAD&Dをダンジョンズ&ドラゴンズの未来として強調しつつ、ルールの曖昧なオリジナルD&Dの精神はこの『ベーシック』の路線に引き継がれると説明した。
ここからクラシックD&DとAD&Dは異なるゲームとしての道を歩み始める。ガイギャックス自身はクラシックD&Dのルール作成には関わらなかったが、付録として彼が書き下ろした『B2: 国境の城砦』は伝説の初心者殺しモジュールとしてよく知られている。
『ベーシック・セット』とほぼ同時に発売された青い箱の『エキスパート・セット』では、キャラクターの上限レベルが3から14レベルに引き上げられ、野外での冒険のルールが追加された。また、グレイホークがAD&D用に予約されて使えなくなってしまったことを受け、独自の世界設定『ミスタラ』が採用されることになった。
『エキスパート・セット』に続くはずだった『コンパニオン・セット』は予告のみで、実際に発売されることはなかった。
後の1983年版での変更や追加ルールなどと区別するため、81年版の2つのセットを合わせて『B/X』と呼ぶことがある。
1983年版(BECMI)
1983年、ガイギャックスのアドバイザーでもあったフランク・メンツァーが、クラシックD&Dのさらなる改訂のために任命された。この改訂の目的のひとつはクラシックD&DからAD&D専用ルールを排除することだったとされる。
『ベーシック・セット』『エキスパート・セット』は『ベーシックルール』『エキスパートルール』に改題され、同時に未発売だった続刊も『コンパニオンルール』として日の目を見ることになった。
また、ルールブックも分冊形式に改められ、主に10代前半を意識し、わかりやすいチュートリアル形式が採用された。(しかしながら編者の意見としてはルールブックとしてはかなり使いづらくなったように思われる)
『コンパニオンルール』から『マスタールール』『イモータルルール』が続き、プレイヤー・キャラクターは王国の運営から、ついには神に近い領域にまで進出することが可能になった。
これらの一連の出版物の通称は、各ルールの頭文字を取った『BECMI』とされるのが一般的なようである。
言うまでもなく、株式会社新和によって邦訳されたD&Dはこの版である。これはとりわけてAD&Dから距離を置いた版でもあるため、TSR社にとっての主力製品だったAD&Dが輸入されなかった同時代の日本では、英語圏とは異なる独自のD&D観が形成された。
1991年版(ルールズ・サイクロペディア)
ガイギャックスもメンツァーもTSR社を去り、AD&Dが第2版に更新された後の1991年、『BECMI』から『イモータルルール』を除く四冊の内容を統合、再編集した『ルールズ・サイクロペディア』が出版された。
AD&D1eモンクに対応するミスティック、二次スキルシステム等新たな追加ルールもあるが、基本的には以前のルールの再録である。
一方でAD&D2eへのキャラクター変換手順が追加され、久しぶりに「入門編としてのクラシックD&D」のポジションに正しく復帰する形になった。
また、TSR社は同時期に『ベーシックルール』の上限レベルを5レベルに引き上げた微調整版を、さらなる入門編として改めて発売している。
日本では株式会社新和の(AD&D2e展開の失敗に伴う)撤退後、メディアワークスによって独自の分冊形式で刊行された。新和時代とはルール的に重複するが、ワォーハンマーではない真っ当な翻訳をしたいという動機があったのかもしれない……D&Dらしからぬ漫画調の挿絵で、全体が翻訳される前に打ち切られてしまったが。
この後2000年代にホビージャパンが乗り出すまで、D&Dの日本展開はしばらく途絶えることとなった。
路線の終焉
1995年、TSR社はクラシックD&Dのサポートを打ち切った。同社の経営はこの時期と前後して混迷し、1997年にはMTGを主力に急成長を遂げていたウィザーズ・オブ・ザ・コースト社に買収された。
AD&Dが唯一のバージョンとなった後、2000年発売のAD&D第3版は名前からアドバンストを落とし、単にダンジョンズ&ドラゴンズと改名された。
第三版は大幅にルールを見直し、見方によってはまったく別のゲームのように生まれ変わったため、この命名には再出発の意味も込められていたと思われる。
が、ルール上の継続性がないクラシックD&Dとの名前の混乱を引き起こすこととなってしまった。
レトロクローンとしてのクラシックD&D
クラシックD&Dはルールが比較的簡潔で扱いやすいこともあってか、レトロクローンやOld School Revivalのムーブメントの中での人気が高い。クラシックD&Dを直接再現したルールだけでも、『Labyrinth Lord』『Basic Fantsy』『B/X Essentials』など複数あり、間接的に影響されたものはさらに数多くある。
これら2010年代のレトロクローンブームはD&D第5版のルール設計にも影響を及ぼし、宝探しを主とする昔ながらのプレイスタイルの再評価に繋がった。
公式のサポートは終了したものの、クラシックD&Dの遺伝子は現在も生き残っているのである。
アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズとの主な相違
本質は共有しているものの、細かい部分ではどこまでも異なるルールなので、代表的で良く話題になるものを上げる。
なお『コンパニオンルール』以降のルール・アイテム・モンスターはその大半がCD&Dオリジナルの要素である。
種族がクラス扱い
AD&Dでは種族とクラスはそれぞれ別々に選択するが、CD&Dでは種族はそれ自体が固有のクラスとして扱われている。これはオリジナルD&Dの基礎ルールにおいて、ドワーフはファイターにのみ就くことができ、エルフはマルチクラス可能とされていたルールを単純化したものといえる。
種族系クラスは優れたセーヴィングスローや隠し扉の探知などの特殊能力を持つかわりに、10レベル前後のレベルキャップが設定されている。
余談だが、AD&Dにおける人間以外のレベルキャップの低さから、ガイギャックスはエルフやドワーフ、いわゆるデミヒューマンの導入には消極的だったとも伝えられる。
その噂の信憑性は不明だが、D&Dの世界観は指輪物語よりもバローズ、ハワード、ヴァンス等のパルプファンタジーを基礎にしているため、トールキン的な要素とは必ずしも相性が良くないのは事実である。
クラスの種類
CD&Dのクラスは種族を除くとファイター、クレリック、マジックユーザー、シーフのもっとも基本的な四種である。これはオリジナルD&D+『Supplement I: Greyhawk』のカバーする範囲とほぼ一致する。
対してAD&Dの『プレイヤーズ・ハンドブック』には基礎4クラスに加えて、「サブクラス」としてパラディン、レンジャー、ドルイド、イリュージョニスト、アサシンが存在し、例外的なクラスとしてモンク、サイオニック、バードを加えた12種がある。(その後のDragon誌の記事、追加ルール等によってクラスはさらに増加した。)
さらにAD&Dのクラスには能力値の要件が設定されており、サブクラスは全体的に必要要件が高くなっている。
例えば最も一般的な能力生成メソッドの場合、パラディンになれる確率は24%程度である。
領地運営
この点はCD&Dのユニークな点としてよく言及される。AD&Dには砦を立て、兵士を雇用するための詳細なルールがあるが、具体的な領地運営に関するルールは断片的で、後からサポートされることも少なかった。他方、CD&Dには集団戦闘のルールや領主用のシナリオモジュールなどがあり、D&Dのやや風変わりな側面に光が当たっている。
無頼の冒険者から出世して一国一城の主になるという初期D&Dのビジョンは後のRPGにはあまり受け継がれておらず、CD&Dのこの部分に愛着をもつニッチなプレイヤーも存在するようである。
簡略化された戦闘
CD&Dの戦闘はOD&D時代のものをさらに簡略化しているため、より複雑化したAD&Dに比べて単純である。
例えばAD&Dの各武器には長さや必要な空間などの細かいパラメータがあったり、アイテムの素材別に火や雷による破損セーヴィングスローの表が用意されていたりする。
特に重要な違いはイニシアチブの処理で、CD&Dでは1ラウンドは10秒の設定だが、AD&Dでは1ラウンドは1分であり、これを10分割して6秒のセグメントと呼ばれる単位に分ける。
AD&Dの呪文にはこのセグメントごとの詠唱時間が設定されており、ラウンドのイニシアチブを取ったとしても呪文詠唱中に妨害される可能性が残っている。また、イニシアチブロールがタイの場合には武器の速さも行動に影響するとされており、装備選択に意味が加えられている。
……のだが、これらAD&Dの戦闘ルールは記述が曖昧でページをまたぐと普通に矛盾していたりするので、当時の海外プレイヤーの間でも卓によって扱いが異なり、CD&Dの戦闘ルールで代用したという話も聞かれる。
ガイドラインとしてのルール
版によって表現方法は異なるが、CD&Dはプレイヤー、またはレフェリーの判断でルールを変更・追加してもいいというオリジナルD&Dのスタンスを基本的に維持している。
AD&Dは対照的に、ルールは書かれている通り厳守すべきがスタンスである。ただし理解できるように書いたとは言っていない。これはAD&Dが公式トーナメントを念頭において作られたためでもある。
作品
リプレイ
『ロードス島戦記』はコンプティーク誌で連載されたTRPGのキャンペーンリプレイ。第1部と第2部はクラシックD&Dのシステムを使っており、「D&D誌上ライブ」のサブタイトルが付いていた。なお、単行本化にあたっては、第3部以降で使われたオリジナル・ルールで再収録された。
『ミスタラ黙示録』は電撃アドベンチャーズで連載されたクラシックD&Dのリプレイ。後、電撃ゲーム文庫から単行本化された。
アーケード・コンピューターゲーム
クラシックD&Dを題材に、カプコンからアーケードゲーム『タワーオブドゥーム』と『シャドーオーバーミスタラ』が発売された。
開発に当たってはTSR社とSSI社も関わっており、カプコンUSAから雇われたD&Dに詳しいコンサルタントを仲介にして、米国側で制作されたシナリオをもとに日本で開発するという特殊な方法が取られた。
ベルトスクロールアクションの名作として知られるが、文化と言語の壁に日本でのD&Dの知名度の低さも相まって、開発には苦労が多かったようである。
日本ではルールサイクロペディアのメディアミックスとしても宣伝されたが、『シャドーオーバーミスタラ』の発売はクラシックD&Dの展開が打ち切られた後でもあり、事実上最末期のクラシックD&D製品となっている。
本国でのクラシックD&D系ゲームとしては(凄まじくマイナーだが)TurboGrafx-16でのみ発売された『Order of the Griffon』とジェネシスでのみ発売された『Warriors of the Eternal Sun』がある。
両者はAD&D系CRPGである『プール・オブ・レイディアンス』や『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』などの入門的内容を意図していることが伺えるのだが、家庭用ハードユーザーには煩わしく、PCユーザーには単純すぎるという、如何ともしがたいゲームである。ミスタラのホロウワールドを舞台とするなどアイデア自体は悪くなく、もったいない部分もあるのだが……
PCにおいてはRPGではないものの、クラシックD&Dの運営要素を取り上げた『Stronghold』が隠れた良作である。『STRONGHOLD 皇帝の要塞』のタイトルでPC-98およびFM-TOWNSに移植されている。
「赤箱」の復活
2010年に発売された「ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版スターター・セット」のパッケージが、クラシックD&Dの第4版の「赤箱」を模したデザインになっている。もちろん、内容は(クラシックでない)D&D第4版の簡易ルールである。
関連動画
関連商品
クラシックD&Dで検索されたい。 いずれも絶版であり、検索では出てこない。
関連項目
- TRPG
- ダンジョンズ&ドラゴンズ
- アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ
- ダンジョンズ&ドラゴンズ第3版
- ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版
- ダンジョンズ&ドラゴンズ ―ミスタラ英雄戦記― (タワーオブドゥームおよびシャドーオーバーミスタラの記事)
- ミスタラ
- ロードス島戦記
- レトロニム
- 1
- 0pt
- ページ番号: 4756438
- リビジョン番号: 3142672
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