クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦とは、2002年4月20日に公開されたクレヨンしんちゃん映画である。
概要
劇場版クレヨンしんちゃん第10作目の作品。前作「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」と同じく高い評価を受けた作品。今作は時代考証・文献調査に力が入っており、戦国時代の生活や風景、合戦のシーンが綿密に描写されているため、本格的な時代劇の色合いが強く、歴史の専門家からも評価が高い。(ただし、子供向けであるため、流血シーンなどはない。)
ついでに、劇場版第3作目「雲黒斎の野望」でもしんちゃんたちは戦国時代に行っているが関連は不明。
監督は前作「オトナ帝国」と同じ原恵一。今作で劇場版クレヨンしんちゃんの監督を辞め、次回作「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」では水島努にバトンタッチした。
2010年、「BALLAD 名もなき恋のうた」という題名で実写化した。草彅剛、新垣結衣らが出演。山崎貴監督作品。設定は若干違う。
あらすじ
ある夜、野原一家全員がきれいな女性がでてくる夢を見るという不思議なことが起こった。
翌日、しんのすけが幼稚園から帰るとシロが大きな穴を掘っていた。しんのすけは宝が埋まってると思い掘ってみると、黒い箱が出てきた。ふたを開けると、「おらてんしょうにねんにいる」という文とぶりぶりざえもんの絵が描いてある手紙が出てくる。しんのすけは埋めた覚えがないのだが、「おひめさまはちょーびじん」という文を見つけ、夢の中の女性だと思ったしんのすけはもう一度会おうと目をつぶった。そして目を開けると、泉が広がっていた。しんのすけは天正2年(西暦1574年)の世界にタイムスリップしてしまったのだ。
しばらく歩くと合戦に遭遇する。そこで、春日城の武士である井尻又兵衛由俊(通称おまたのおじさん)と出会う。春日城を案内され、そこで夢の中であった女性春日廉と出会う。又兵衛と廉は幼馴染で互いの思いを打ち明けられずにいた。
ひろしたちもしんのすけを追ってタイムスリップする。だが、隣国の大蔵井高虎が春日を攻めてくる。しんのすけたちは無事現代に戻れるのだろうか。
登場人物
春日家の人物
井尻又兵衛由俊(いじり またべえ よしとし)
春日家に仕える侍。「鬼の井尻」として恐れられてるがその一方で女性には弱い。しんのすけからは「オマタのおじさん」と呼ばれてる。青地に雲が描かれた旗印を持ち、青空を眺める事が好きであるため、「青空侍」と呼ばれてる。廉とは幼馴染であるが、身分違い故にその思いを隠してきた。
詳しくは井尻又兵衛由俊の記事を参照。
春日廉(かすが れん)
春日城の姫。野原家の夢の中に出て来た女性で、美しい姿をしてる。しんのすけからは「廉ちゃん」と呼ばれてる。又兵衛とは幼馴染。高虎の元へ嫁ぐことになってた。
春日和泉守康綱(かすが いずみのかみ やすつな)
「主命じゃ! 下がってよい」
春日城の当主で、武蔵の国の春日領を治めてる。廉の父親。威厳がある一方で、未来から来た野原家の話を信じる寛大さと素直さを持つ。野原家の話をきっかけに廉と高虎の結婚を取りやめた。
仁右衛門(にえもん)
「嫁にでも作ってもらうがよいわ」
大蔵井家の人物
大蔵井高虎(おおくらい たかとら)
廉姫に婚約を申し込んだ大名。婚約を断られ、「小国に馬鹿にされた」という名分で春日城を攻めこむ。
居城がおそらく安土城がモデル、南蛮胴を身に着けている、非情な性格などから織田信長のイメージと重なるところが多い。
真柄太郎左衛門直高(まがら たろうざえもん なおたか)
大蔵井家の馬廻衆。終盤、ひろしの自動車で敵陣を切り分けられた隙に入り込んだ、井尻又兵衛と一対一で丁々発止の切り合いを行う。高虎からは「太郎左」と呼ばれている。
使用している長巻(武器)や名前から、朝倉家に仕えた武将・真柄十郎左衛門直隆(真柄直隆)がモデルと推察されている。
春日城下の子どもたち
かすかべ防衛隊のメンバーは戦国時代の方には直接登場しないためか、過去の先祖として出てくる。CVは原作の対応する人物と同じなので省略。
おおまさ
佐藤マサオの先祖。泣き虫でネネからリアルおままごとに強引に誘われている原作とは正反対の、威張り屋でガキ大将的な性格になっている。しかし、廉姫が野伏せりに襲われていた時に敵前逃亡して、化けの皮が剥がれ、現代のマサオ君と似たような立ち位置に落ち着く。
かずま
風間トオルの先祖。原作でのキザな性格はなりを潜め、泣き虫でいつもおおまさにいじめられている。だが、野伏せりに襲われた時の弁解はまさに風間くんそっくりである。
冒頭で現代の風間くんが「僕の家は先祖代々殿様だったんだぞ」と言っていたが、もしかしたら……?
ネネ
桜田ネネの先祖。概ね原作のネネちゃんと同じキャラだが、ウサギが嫌いらしい。おおまさの化けの皮が剥がれた時に癇癪を起こして、原作そっくりにうさぎを殴るフリをした。
ぼうしち
ボーちゃんの先祖。原作とほぼ同じキャラクター。しんのすけとノリが合う。
豆知識
- しんのすけが飛ばされた時代は天正二年、西暦で言えば1574年で、歴史的には武田氏が大打撃をうける長篠の戦いの前年にあたり、織田信長が畿内で勢力を確立させつつあった時期にあたる。関東は北条氏が勢力を広げており、春日あたりは北条氏と、佐竹氏や宇都宮氏など北関東諸大名の勢力圏の狭間であった。ちなみに現実では春日部市近辺に城郭はなかった(当地の国衆・春日部氏の館は存在した)が、春日城と呼ばれた城は信濃国(長野県)に存在している。
- 槍は一般的にイメージされてるような、刺すものではなく、この映画のように槍自体の重さを利用して叩くのが主な使用用途。これは戦国時代に限った話でもなく、古代ギリシャのファランクスなどにもみられる普遍的な使い方である。
- 合戦シーンのうち、石つぶてを投げ合う箇所があるが、あれは印地とよばれ、古くは弥生時代から見られるとされる伝統的な投擲武器として用いられてきた。これも、インカ帝国には投石専門の兵がいた例があるように普遍的な事象である。投石は質量による打撃そのものも痛いが、それと同時に身体全体に伝わる衝撃が効果的であり、重武装の相手でもそれなりの効果を発揮するので、飛び道具として重用された。
- 合戦シーンで春日方、岩付方双方ともに竹を組んだ盾が置かれていたが、あれは竹束と呼ばれる主に対鉄砲用の道具で、鉄砲の弾を防ぐことは勿論、貫通してしまったとしても、竹によって軌道を左右にそらさせることで、兵士への受傷を防いだり和らげることを目的とした防具である。当初は矢盾と呼ばれる木の板が使われていたが、火縄銃の弾はそれで防げないため、容易に調達できる竹束が考案されたのである。
- 井尻+又兵衛+由俊のように、当時の武士の人名は氏+仮名+真名(諱)という風に分かれている。通常、諱を呼ぶのは無礼とされていたので、滅多に呼ばれることはなく、亡くなった後にフォーマルな場で呼ばれることが多い。生前は仮名やそこをもじったあだ名で呼ばれるのが一般的だった。また、当主の春日和泉守康綱のように、官職が与えられてる場合はそれまでの仮名にかわって官職で呼ばれることが多い(劇中では大蔵井高虎が康綱と呼んでいるが、あれは敢えてそう呼んで蔑んでる意図と推察される。和泉守のような官職は相手の権威の象徴であるため、敵国などの場合はそう呼ばずに仮名や旧名で呼ぶ例が史実でも遺された書状から多数確認されている)。
- 鉄砲(種子島)については、1543年に鉄砲が伝わり、関東地方には1553年前後にはもたらされていたとされている。北条氏の例ではあるが、1561年頃には攻め込んでくる上杉氏への備えとして500人規模での鉄砲衆が組織された記録も残っているので、そこから更に10年経過した天正年間には春日程度の小領主でもある程度の数はもっていたと類推される。
- この作品で描かれている春日方の館や屋敷は板張りの床が多いが、これはまだ畳が普及段階にあったためであり、この時代においてはまだ富裕の象徴(大坂城の千畳敷が好例)として畳張りのところは限られていた。春日方でも廉姫の部屋は畳張りだったのは当主康綱が娘を思っての事と考えられ、大蔵井の居城が畳張りなのはまさに力の象徴としての春日方の格差を強調する意図があったと推察される。
- 廉姫がロウソクを照明にして書物を読んでいるシーンがあったが、あれは現在用いられてるパラフィンを原材料とした洋ロウソクではなく、ハゼの実から圧搾した木蝋を用いた和蝋燭と呼ばれる灯具である。松明や油に比べて明るいものの、かなり高価であり、廉姫のような上流階級しか持ち得なかった。この傾向は製法の進歩で大量生産されるようになった江戸時代後期まで変わらなかった。
- 大蔵井が攻め込んだ際、事前に城下の収穫直前の麦を刈り取っていたが、あれは敵の兵糧を断つ手段として当時では立派な兵法として通用していた。ちなみに、収穫前の稲を兵糧削減目的で刈り取ることを青田刈りといい、ここから派生した言葉として青田買いという就職活動でつかわれる慣用句ができた。また、麦を育てていたのも二毛作の一環と考えられ、西日本でひろまった農法が関東にまで及んだのを反映している。
- 戦国時代は現代のように白米ではなく、麦などを混ぜた玄米が主流だったと言われている。しかし、合戦に限っては兵の士気を上げるために大名や武将たちのはからいで特別に白米が用意される場合があり、籠城戦の時に用意されていたおにぎりが白米だったのもそうした振る舞いの一環だったと考えられる。
スタッフ
- 原作/臼井義人
- 監督・脚本/原恵一
- 絵コンテ/原恵一、水島努
- 演出/水島努
- キャラクターデザイン/末吉裕一郎
- 作画監督/原勝徳、大森孝敏、間々田益男
- 美術監督/古賀徹、清水としゆき
- 色彩設計/野中幸子
- 撮影監督/梅田俊之
- 音楽/荒川敏行、浜口史郎
- 録音監督/大熊昭
- 制作/シンエイ動画、ASATSU-DK、テレビ朝日
関連動画
関連商品
関連静画
関連コミュニティ
関連項目
- クレヨンしんちゃん
- 井尻又兵衛由俊
- クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望(同じく戦国時代に行く映画)
- クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲(前作)
- クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード(次回作)
- 原恵一
- 戦国時代
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