クロスボウ(Crossbow)とは、矢を撃ち出す射出兵器である。
概要
クロスボウは銃の先端に弓を載せたようなシルエットをしている。
銃器のように引き金やグリップが(物によって銃床も)ついているが、火薬で射出している訳ではないため厳密には銃ではないし、既存の銃に弓矢をポン付けすればクロスボウになるわけでもない。[1]
裏を返せば静粛性の優れた無音殺傷武器という利点は通常の弓矢と同じである。
ただし発射後の再装填速度は通常の弓矢に劣る。
銃弾ほどの弾速はない反面、大型の矢では弾頭重量があるため急所や内臓に刺されば致命傷になり、急所を外したり小型の矢においても負傷によって行動を大きく阻害する事も可能。
ライフルのような大型なものから、拳銃のような小型なもの、爪楊枝を発射[2]するミニチュアなものもある。
射程距離としては、大型のクロスボウでも狙って当たる有効射程距離が50m、最大射程距離が300mほどといわれる。
現代
現代においては通常の弓矢と同様、警察・軍用の主力兵器となることはまずないが、趣味やスポーツ競技のほか、漫画・映画などでは武器の一種として用いられる場合もある。
TAC-15[3]のような、M16(AR-15)アサルトライフルに似たクロスボウもある。
The TAC-15 Crossbow | Military.com
民間人に銃が普及していない日本においても比較的違和感は少なく、無音の飛び道具といった特性からゾンビ作品などで登場する場合も珍しくない。
※日本国内においては、令和4年(2022年)に規制された。(後述)
使用法
使い方は簡単で、弦を引いてトリガーと連動した金具に引っかけ、矢(ボルトもしくはクォーラルと呼ぶ)をセットすれば発射準備は完了。後は狙いをつけてトリガーを引けば弦が金具から解放されて矢が射出される。
同種の兵器である弓と比較すると連射速度に劣るが、以下の利点があるとされる。
- 使い方さえ覚えれば十分なので、兵士の訓練が簡単(戦略的利点)
- 小型のものを除き、一般的な弓より長射程である
- 兵士には弦を引くだけの力があれば良く、回転式でハンドルを回すだけで済んだり、背筋を使って引っ張れる
- 弓を引いた状態で固定できるため、構え続けるのに体力を消耗しない
- 弓が横倒しにセットされている物が多く、伏せて構える事も容易
- 照準器を備え、命中精度の向上が期待できる。(アーチェリーと同様)
- 全長を伸ばしたり、張力を上げることで威力を強化しやすい
- 工業力がある国なら資金のある限り製造可能
欠点
- 連射速度が遅い。(再装填の手間がかかる)
- 撃発や固定部位があるため部品数が増え、通常の弓矢より生産性・メンテナンス性は劣る。
- 大型で威力を増したものはサイズも大型化し、携帯性・隠匿性は大きく劣る。
- 必然的に、再装填時に弦を引く必要な力も増大するといった欠点もある。
- 弓が横倒しに固定されるものが多く、全長だけでなく横幅も大きく取ってしまう。
近代兵器として見た場合
無音殺傷兵器・照準器といった利点もある反面、大きな慣れが必要となる。
- 銃弾ほどの弾速はなく、それと比較して着弾までのタイムラグがある。
- 銃弾のようにほぼ一直線に飛ばない。[4]
- 前述のように再装填の手間が大きく、再装填中の隙を狙われる可能性も高い。
- 射程外から一方的に攻撃される可能性もある。
- ランボーのように不意を突く戦術でもなければ、銃火器とやりあうのは自殺行為。
犯罪として悪用された場合
- 火薬を使用せず無音であることから、イタズラなどでこっそり悪用されると捜査が難航する。
- 弓矢同様、作ろうと思えば使いやすくそれなりの威力のものが作れてしまい、脅威となる。
- 弾体が細長く鋭利な先端に力が集中するため、一般的な防弾チョッキなどを貫通してしまう。
- ナイフとは異なり飛び道具で飛距離があるため、無差別に発射されるだけでも脅威。
日本国内における規制
クロスボウに関して令和4年(2022年)3月15日に規制が開始された。同年3月15日以降も許可なく所持し続けた場合は不法所持となる。
クロスボウの所持が禁止されます!|警察庁Webサイト (npa.go.jp)
西洋において
欧州においては、少なくとも古代ギリシャの時代から存在しており、軍事的に利用されていたようだ。
11世紀頃には、「キリスト教的に残虐すぎるからクロスボウ禁止」と威力の高さから時の法王に使用禁止令を出されたりもしているが、「異教徒相手なら何も問題ないよね」とばかりに第3回十字軍で大々的に使用が始まり、13世紀頃にはイタリアの都市国家が大量に導入して全盛した。
その後、クロスボウを使用したフランス軍がロングボウを使用したイギリス軍に連射速度の差で惨敗したりもしたが、クロスボウの軍事利用は続けられ、15世紀の終わり頃に、より簡易で威力の高い火器にとってかわられた。
その後も、狩猟用に小型・低威力にしたクロスボウが使われ続けた。
東洋において
中国
中国においては弩(ど)と呼ばれ、戦国時代(前5世紀~)から使われていたと言われており、誰が発明したかも不明である(神話の人物が発明したという伝説もある)。
その後、弩は中国における軍隊の標準装備となり、唐の軍隊では実に兵士の20%が装備し、一人当たり3本の替えの弦と100本の矢を持たされたとされる。宋に至っては弩を主力兵器として位置づけ、民間での弩の所有を他の兵器の所有よりも重く罰した。
これだけ中国の王朝で弩が重要視されたのは、事あるごとに「ヒャッハー!!水だぁー!!」とばかりに侵略してくる世紀末モヒカン遊牧民族の騎馬隊をアウトレンジで撃退するのに弩は大きな力を発揮したためである。
中国でもその後は火器にとって代わられることとなる。
日本
日本には中国から伝来し、奈良時代末期から平安時代初期まで利用されたが、当時の日本の弓矢の使い方が「近距離まで近づいて撃つ」という中国の遊牧民族的使い方だったので、弩の連射速度の遅さが敬遠されてか次第に廃れたとされる。
とは言え利用されていた時代においては弩は重要な武装と捉えられていたようで、現在の東北地方で蝦夷と相対していた「鎮守府」や、新羅と相対していた山陰地方の国々や対馬には、特に防衛的重要度が増した時に「弩師」を配置した記録が残っているという。ちなみに「弩師」とは弩を製作し、さらにその実用に関する兵への教練なども行った専門職らしい。
関連静画
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関連項目
脚注
- *弦の固定や解放といった機構が必要となるため。
- *爪楊枝ボウガンとも呼ばれるが、空き缶を貫通するなど割と洒落にならない威力がある。
- *TAC:Tactical Assault Crossbowの略
- *厳密には銃弾も緩い放物線を描く。(左右対称ではないが)
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