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クロロキン(Chloroquine)とは、マラリアや全身性エリテマトーデスの治療薬である。かつて、副作用のクロロキン網膜症が社会問題となった。
概要
クロロキンは、蚊が媒介する感染症マラリアの治療薬である。1934年、ドイツの製薬企業バイエルによって開発された。マラリアには有効であったものの、その強い毒性のため開発は中止された。1943年、アメリカでも開発され、マラリアの治療薬として製造販売された。
マラリアは、熱帯~亜熱帯を中心に世界各地で猛威をふるい、歴史を変えたとも評される感染症である。ハマダラカ(蚊)によって媒介されたマラリア原虫が、ヒトの体内で増殖し赤血球を破壊する。激しい高熱、頭痛、関節痛、嘔吐、下痢、呼吸器症状などが引き起こされ、死に至ることもある。クロロキンは、このマラリアの治療薬として開発された。クロロキンに耐性のないマラリアの第一選択薬である。マラリア以外にも、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの疾患に有効性が認められ、海外ではその治療にも用いられている。
1950~60年代、日本ではエリテマトーデスや関節リウマチだけでなく、腎疾患やてんかんなどに適応を拡大して製造販売された。それにより投与が長期化するようになり、クロロキン網膜症を引き起こす事例が相次ぎ、ついに患者の一人が厚生大臣に直訴したことで社会問題化した。クロロキン網膜症はクロロキンの重篤な副作用で、視野が狭くなり、いずれは失明に至る視覚障害である。1976年に日本薬局方からクロロキンは削除され、現在は医薬品として製造販売されていない。ただし、この薬害事件は適応拡大・長期投与により引き起こされた日本独自のもので、諸外国ではそこまでの問題にはなっていない。ちなみに、クロロキン誘導体のヒドロキシクロロキンは、日本でもエリテマトーデスの治療薬として製造販売されている。
2020年3月、アメリカ合衆国の食品医薬品局(FDA)は、SARS-CoV-2感染症(COVID-19)の患者へのクロロキンおよびヒドロキシクロロキンの緊急使用を認めた。また、ドナルド・トランプ第45代アメリカ合衆国大統領がヒドロキシクロロキンを予防的に服用していることが報じられた。しかし、同年4月にブラジルでの治験において被験者81名中11名の死亡例が報告されるなど諸外国での治験の結果は芳しくなく、心疾患などの有害事象の懸念もあったため、同年6月にFDAはクロロキンとヒドロキシクロロキンの緊急使用許可を取り消した。
関連リンク
関連項目
- 医学 / 薬学
- 医薬品
- マラリア
- 全身性エリテマトーデス
- キニーネ
- ペニシリン - 1950年代に薬害を引き起こした医薬品。
- サリドマイド - 1960年代に薬害を引き起こした医薬品。
- 化合物の一覧
- 医学記事一覧
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