グリゴリー・ヤコヴレヴィチ・ペレルマン(Григорий Яковлевич Перельман)は、
「少し変わり者」で知られるひきこもり数学者である。
生い立ち
1966年ロシア・レニングラード(サンクトペテルブルク)生まれ。ソ連崩壊後は一時アメリカに移住。
電気技術者の父親と数学者の母親を持ち、それが後述のポアンカレ予想にも大きく影響していると思われる。
少年時代から天才の片鱗を発揮し、16才で国際数学オリンピック最年少出場で全問正解満点の金メダル、
そして友人から「国際物理オリンピック に出ていればそっちも満点だったろう」とまで言わしめる。
大学で博士号に相当する資格をとった後は大学を渡り歩き、最終的にはロシアの数学研究所に落ち着く。
そしてポアンカレ予想前後にも数々の数学の解法の手助けをするなど積極的な活動をしていた。
ポアンカレ予想
彼がこの難問を解いたことが、その名を有名にした一番の要因である。
といっても彼が1人で説いたというわけではなく、ポアンカレ予想は既にそのほとんどが証明されており、一部の解析不可だった部分を独自の理論で導いたというもの。詳細は→ポアンカレ予想
コレに対してはNHKで特集が組まれるほど多くの逸話が残っており
- とにかく100年間未解決だったものを彼があっさり(実際はかなり苦労したようだが)解いてしまった。
- その解法は物理学まで駆使するほどの独自すぎる理論であった。
- そんな画期的な理論を示した論文を、なぜか学術雑誌に投稿しなかった(オンライン論文投稿サイト「arXiv」にのみ投稿)。
- それが正しいか証明するのに3チームに分かれて時間をかけて検証された。
- 彼の説明を聞いた数学者達は
「まず、ポアンカレ予想を解かれたことに落胆し、
という。
それがトポロジーではなく微分幾何学を使って解かれたことに落胆し、
そして、その解の解説がまったく理解できないことに落胆した」
(NHKスペシャルより) - しかし彼はポアンカレ予想の功績によるフィールズ賞、およびポアンカレ予想にかけられた懸賞金(100万ドル)を辞退した。(元々賞や功績に興味がなかったことに加え、有名になるのを嫌った、数学界に不満があったなど様々な理由があるようである)
- ポアンカレ予想を説いたあとは別人のようになってしまった(それまでは人懐っこい性格だったのに仕事を辞め年金生活で人目を避けて生活するように)
なお、最後に関してはNHKでの特集でキノコ狩りを趣味にしていると報じられたことから大百科ではキノコ狩りの男の一角として名を連ねている。
また、ポアンカレ予想で燃え尽きてしまったのではと心配する者もいるが、ひっそりと新しい数学の難問に挑んでいるという噂もある。
まだ若いこともあり(フィールズ賞は40歳以下の数学者に送られ、彼が辞退したのは2006年である)今後の彼の活躍を期待したい。
ペレルマン式「手術」カルテ
では、ペレルマンがポアンカレ予想に用いた「手術」と呼ばれる手法について簡単に解説していこう。
前提 サーストンの幾何予想
「手術」の患者である四次元図形は一見して複雑怪奇で一般の感覚では訳のわからない形状をしている。だが、1980年にウイリアム・サーストンが提唱した「サーストンの幾何予想」によれば「どんなに複雑な四次元図形でも、その表面は8種類の3次元図形から構成されている」という。8種類の内訳は3次元球体、トーラスとその変形、クラインの壷とその変形だ。 これらのうち「単連結」である図形は3次元球体(2次元球面)だけだ。なのでもしどんな四次元図形でも8種類のパーツに分割する手法を編み出し、それで3次元球面(四次元球体の表面)が2次元球面だけからなることを証明すれば、ポアンカレ予想が証明されたということになるのである。
道具 リッチ・フロー方程式
ペレルマンが「手術」の為の道具として選んだものがリッチ・フロー方程式だ。これはトポロジーにおける粘土をこねるような同相図形同士の変換を微分幾何学でもできるようにした便利な数式だ。もう少し詳しく言うと多様体を金属の様な熱伝導体と見做してその熱を「空間の歪み」に置き換えることで多様体を自在に変形させるというもの。ぶっちゃけて言うと宇宙を餅のように熱して焼いて引き伸ばすと考えればいい。ペレルマンの「手術」とは、リッチ・フロー方程式を用いて4次元立体の表面を8種類の三次元立体に分類し切り分ける手法なのである。
病巣の分類
ペレルマンは、4次元図形を8種類のパーツに分類する手法として統計力学を用いた。統計力学とは統計学を熱力学の言葉に書き直したものだ。なので温度とかエネルギー、エントロピーといった言葉がポンポン登場する。なのでトポロジーしか知らない学者たちは混乱のし通しになってしまうのだった。
問題発生 図形の腸閉塞
さてこれで図形の分類が完了したので今度はリッチ・フロー方程式を用いてそれぞれ単独の図形に切り分けよう。…ところがここで問題発生。リッチ・フロー方程式を用いて無理やり図形を引きちぎろうとすると二つの図形の間に微分方程式では計算不能になる点「特異点」が発生、これ以上の変形が不可能になってしまうのだ。いわば図形の「腸閉塞」である。実はペレルマン以前にもリッチ・フロー方程式を用いてポアンカレ予想を証明しようとした数学者はいたのだが、この特異点の問題を解決できずに挫折してしまったのだ。ではペレルマンはどうしたか? 何のことはない、切り分けたい図形を引っ張り出した後にメスで切り裂いただけだ。だがここで別の問題。トポロジーで扱う図形は中身が詰まったものに対して、微分幾何学の図形は中身が空っぽなのだ。ポアンカレ予想はトポロジーの問題だから穴が開いたままにすることはルールに反する。そこでペレルマンは穴にパッチを当てて塞ぐ方法を考えたのだ。パッチで塞ぐといっても簡単ではない。シワや折り目、傷跡などを残さず滑らかにパッチを当てねばならない。ここが「手術」の最大の秘訣なのだ。
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