グリニャール試薬(英:Grignard reagent)とは、有機化学で用いられる試薬である。
概要
グリニャール試薬は代表的な有機金属試薬である。1900年にフランス人化学者ヴィクトル・グリニャールによって発見され、今日もなお使われている。アルファベット表記は"Grignard"だが、「グリグナード」とは読まず、フランス語読みして「グリニャール」と呼ぶのが一般的である。
強塩基性で非常に強い求核力を示し、後述するグリニャール反応の他、様々な反応で利用されている。一方で、強塩基性であるがゆえに水や酸性物質が存在する条件では、それらの持つプロトン(H+)と反応してしまうという欠点もある。
なおグリニャールは、1912年に「グリニャール試薬の発見」でノーベル化学賞を受賞した[1] 。
合成法
合成方法は、マグネシウム片に溶媒としてエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)を加え、そこにハロゲン化アルキル(R-X)を加えていく。すると大まかに以下の反応式で、ハロゲン化アルキルの結合間にマグネシウムが挿入され、グリニャール試薬(R-MgX)が合成される。
ここで、Rは炭素鎖を、Xはハロゲン(Cl, Br, I)を表している。ただし、実際にはグリニャール試薬はシュレンク平衡と呼ばれる平衡状態にあり、R-MgX以外にR2MgやMgX2のような様々な形を取っている。また、R-MgXの形もそのままの形で存在しているのではなく、溶媒といて用いたエーテルやTHFの非共有電子対がマグネシウムに配位することで、安定的に存在している。
グリニャール反応
グリニャール試薬を用いた代表的な反応がグリニャール反応である。この試薬を用いることで、ほとんどのカルボニルを、グリニャール試薬のアルキル基を付加したアルコールの形に変換することができる。
上のように、無水条件でグリニャール試薬と反応させた後に、酸性条件の水と反応させることで、効率的にグリニャール反応が進行する。このような反応は有機金属試薬を用いたカルボニルへの付加反応は、グリニャール試薬以外でも起こる。反応性は低いものの、グリニャール試薬以前からジアルキル亜鉛を用いたカルボニル付加反応は発見されていた。また、アルキルリチウム(R-Li)はグリニャール試薬と同じくらい反応性を示す。
グリニャール試薬を作らずに、直接ハロゲン化アルキルとカルボニル化合物をマグネシウム存在下で反応させる場合には、バルビエ反応と呼ばれる。マグネシウムの代わりに、亜鉛やリチウムを用いた場合もそのように呼ばれる。このバルビエはグリニャールの指導教授であり、グリニャール試薬の発見もバルビエがグリニャールに、バルビエ反応の再現性を高める研究を命じたことからの結果である[2]。
関連動画
参考
- Vollhardt, Schore著, 古賀, 野依, 村橋監訳, 大嶌, 小田嶋, 小松, 戸部訳『ボルハルト・ショア―現代有機化学(上)』pp. 374-380(化学同人, 第6版, 2011)
- 東郷秀雄『改訂 有機人名反応 そのしくみとポイント』pp. 162-166(講談社, 2011)
- グリニャール反応 Grignard Reaction | Chem-Station 2020/03/27閲覧
関連項目
脚注
- *Victor Grignard Biographical | The Nobel Prize2020/03/27閲覧
- *檜山爲次郎「分子を操る匠の世界:有機合成化学 | ChuoOnline」2020/03/27閲覧
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