グリモワール(仏:grimoire)とは、主にヨーロッパで見られる魔術、呪術、神秘学に関する書物のことである。
概要
日本語では魔術書、魔法書、魔道書(魔導書)、呪術書、奥義書などといわれる。天使・悪魔などの召喚方法や呪文の詠唱法、薬の調合法や魔除けの作り方、占星術に関する記述など、その内容は書によって多岐に亘る。ユダヤ神秘主義(カバラ)に関する内容を含んだものも多く見られる。
早くは中世盛期の文書にその存在が確認されているが、原典が残存するものはほとんどない。そして現在残されている写本の多くは17~18世紀以降のものである。またその多くは完本が存在せず、断章の形で残されている。これは教会の弾圧から逃れるため、わざと分けて隠すなどしていたためと思われる。
魔術書=グリモワールというわけでなく、魔術書のうちでも「グリモワールであるもの」「グリモワールとは呼べないもの」があるとされるがその線引きは曖昧である。ここでは特にこだわらず、魔術書とされる書物を列挙する。
代表的なグリモワール
- ソロモンの大いなる鍵(The Key of Solomon the King)
大英博物館に所蔵されていたソロモンの名を冠する7つの断章を基に、秘密結社「黄金の夜明け団」の創立者のひとりマクレガー・メイザーズが1889年に再構成したグリモワール。図版が豊富で、魔術に用いる道具の作り方や、儀式における約束事、精霊の召喚方法などについて書かれている。「付録」に護符がたくさん収録されていることでも知られる。 - アルマデル奥義書(The Grimoire of Almadel)
同じくメイザーズの編纂によるグリモワール。パリのアルスナル図書館で発見され、英訳された。『ソロモンの鍵』の異本で、天使、悪魔、儀式の作法や召喚した精霊がどうやって出現するかなどが書かれている。 - レメゲトン(Lemegeton)
「ソロモンの小さき鍵」ともいわれ、これもメイザーズが編纂したものである。主に悪魔や精霊について書かれている。特に有名なのがその第一書「ゴエティア(Goetia)」で、ソロモン王が使役したとされる72の悪魔とその召喚・命令方法が記されている。 - 悪魔の偽王国(Pseudomonarchia Daemonum)
神聖ローマ帝国の医師ヨハン・ヴァイヤーが16世紀に書いた『悪魔による眩惑について』の第五版補遺。悪魔の一覧とその召喚方法について書かれており、内容の多くが『ゴエティア』と共通する。但し『ゴエティア』の正確な成立年代が不明なため、どちらが基となったのかはわからない。 - 大奥義書(Grand Grimoire)
『大いなる教書』とも。アントニオ・ヴェニティアナというラビによる著書とされる。悪魔の名称と階級や、悪魔を召喚して財宝を得る方法などについて書かれた黒魔術書とされる。 - モーセ第六・第七の書(The Sixth and seventh Book of Moses)」
旧約聖書にある「モーセ五書」には実は続きがあった、という形式をとるグリモワール。このさらに続編として「モーセ第八・第九・第十の書」もある。モーセが起こした奇跡の起こし方が書かれている。 - 術士アブラメリンの聖なる魔術の書(The Book of the Sacred Magic of Abramelin the Mage)
『アルマデル奥義書』同様、メイザーズがアルスナル図書館で発見、英訳したグリモワール。メイザーズが発見したのはフランス語の写本だったが、後に発見されたドイツ語版が原典とされている。その内容は、ユダヤ人の魔術師「ヴォルムスのアブラハム」が真理を求めるたびの途中で出会ったアブラメリンという老賢者から学んだとされる天使および悪魔召喚の秘術についてで、その手法はいかにも魔術的でおどろおどろしい他のグリモワールとは一線を画す。 - 天使ラジエルの書(Sefer Raziel HaMalakh/ספר רזיאל המלאך)
天界の秘密を司る天使ラジエルが書き、アダムに授けたとの伝説を持つグリモワール。後にノアが手に入れ、この書を参考にして方舟を造ったともされる。ヘブライ語、アラム語のほかラテン語版も存在する。内容は天使学、占星術、数秘学など。なおこの書についての記録は今のところ13世紀以降に見られる。 - エメラルド・タブレット(Emerald Tablet)
伝説の錬金術師ヘルメス・トリスメギストスがエメラルドの板に書いたとされる錬金術の奥義書。内容自体は数十行にわたる暗示めいた文章。原典は既に失われているが、ギリシャ語からアラビア語、ラテン語に翻訳されて伝えられた。 - アルバテル(Arbatal)
「入門書」とも呼ばれる。天使の領域に至る、超越的論文の質をそなえた文書。およそ八箇所にわたって内容が失われているが、かつて出版された中ではもっとも完璧な魔術秘法だったと推測されている。天使や悪魔の階級のほか、アポロニウス文献、ヘルメス学文献の魔術秘法などが載っていたと思しい。残っている部分でも、宇宙の196領域を支配するオリュンピア霊に関連した金言や記号が記されている。 - 黒の雌鳥(Black Pullet/La poule noire)
「メナピオスのドルイド」「赤の魔術、あるいはオカルト学精髄」とも題される。18世紀末に発行された魔術書で、黒魔術の実践、指輪の護符としての使用法などを扱っている。魔術書としての価値は低いが、類似名の書物が多数生み出されたという点で知名度がある。 - 光輝の書(Sefer ha-Zohar)
カバラの基本文献。2世紀のシメオン・ベン・ヨーハイが、モーセ五書についてカバラ的観点から解説している。しかし実際は13世紀のカバリスト、モーゼス・デ・レオンの作という説がある。世界創造に関わるセフィロトの解釈、現世と霊界におけるユダヤ人の状況と運命という二つの主題でつづられている。 - 創造の書(Sefer Yetzirah)
3~6世紀に著されたらしいカバラの根本教理書。アブラハムの作とされるが、実際は後年のラビの手によるという説が有力。生命の樹の解説、万物照応の根幹をなすヘブライ文字への神秘学的考察などが記載されている。 - 高等魔術の教理と祭儀(Dogme et Rituel de la Haute Magie)
フランス人魔術師エリファス・レヴィが1855年に発表した魔術書。好評を博したため序文や付録を追加して重版されたり、同作者による続編本が記されたりした。タロットとカバラ魔術を結びつけた内容を含み、タロットが単なる占いカードではなく魔術具としても重視されていくための転機となった。同年代や後世の魔術師や文学者たちに大きな影響を与えており、19世紀末結成された魔術結社「黄金の夜明け団」や同団出身の魔術師アレイスター=クロウリーなどが有名な例。比較的近世に書かれた魔術書、かつヒット作でもあるので豊富に流通している。和訳版も容易に入手可能。
付録として「ヌクテメロン(Nuctemelon)」と言う書のフランス語訳も添えられていた。「1時」から「12時」までのそれぞれの時間と、それぞれの時間ごとの7柱の守護霊に関して記載されている。この「ヌクテメロン」は元々「ティアナのアポロニウス」という人物が原著者であると記載されている。「ティアナのアポロニウス」は1世紀後半頃に活動した実在の人物だが、本当に原著者かどうかは不明。 - 法の書(The Book of the Law)
イギリス人魔術師アレイスター=クロウリーが1904年に著したとされる書。クロウリー自身は、「Aiwass」という精神体が自分に伝えた内容を記載した物であると主張していた。魔術師が書いた書物ではあるが魔術自体に直接関わる内容は乏しく、一般的な「グリモワール」の範疇には入れられないことが多い。
「The Book of the Law」は通称で、その正式な書名は「Liber AL vel Legis, sub figura CCXX, as delivered by XCIII=418 to DCLXVI」。「CCXX」だの「XCIII=418」だの「DCLXVI」だのと記号的な部分が多くわけわからん題名だが、ゲマトリア(数秘術)に基づいた記法であるらしい。「DCLXVI」はローマ数字での「666」である。
下の「関連商品」のニコニコ市場リンクからAmazon経由で日本語版が購入できるが、「この封を破ってなんかやばいことが起こっても責任は取りませんぜ?」みたいな文言が書かれた封印がしてあるなど、なかなか凝っている。 - ネクロノミコン(Necronomicon)
アメリカの小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが創作したクトゥルフ神話に登場する架空のグリモワール。詳細は当該記事を参照。
関連項目
- 魔術
- ローゼンクロイツ(薔薇十字団)
- ネクロノミコン
- アレイスター=クロウリー
- 666
- タロット
- カバラ
- ソロモン王
- ゴーレム
- タブリス 上記「ヌクテメロン」において、「6時」の守護霊に「タブリス」という名がある。
- The Grimoire of Marisa
- the Grimoire of Alice
- 14
- 0pt
- ページ番号: 4155098
- リビジョン番号: 3248202
- 編集内容についての説明/コメント:
「高等魔術の教理と祭儀(Dogme et Rituel de la Haute Magie)」の説明文のうち「和訳も下のニコニコ市場から買えるよ。」という文章を「和訳版も容易に入手可能。」と書き替えました。