グレートマジシャンとは、2018年生まれの競走馬である。青鹿毛の牡馬。
安平町・ノーザンファーム生産、美浦・宮田敬介厩舎所属。
馬主はサンデーレーシング(赤バッテンでお馴染みの一口クラブ。ノーザンファーム生産馬も多数所属)
ステップを踏むかのような特徴的な走り方、何よりもパドックで見る者の目を奪う見事な馬体。
彼の奇術に多くの人が魅せられ、誰もが彼の栄光を信じて疑わなかった。そんな馬であった。
概要
父ディープインパクト、母ナイトマジック、母父Sholokhovという血統。
父のディープインパクトは無敗三冠を含むG17勝を挙げ、種牡馬としても多くの活躍馬を輩出しリーディングサイアーをひた走る大種牡馬。
母のナイトマジックは現役時代に09年ドイツオークス、10年バーデン大賞を優勝するなどしてドイツの年度代表馬にも選出された。[1]
全兄達も順調に勝ち上がっている事とその良血もあり総額8000万円(一口200万×40口)で募集され、美浦の宮田敬介厩舎へと入厩することになった。
偉大なる奇術師
ダービーまで
グレートマジシャンは生まれたのが遅生まれに当たる5月[2]だったこともあり、2歳時の春は後れを取ることも多かったという。
そんな事情もあってデビューは11月となったがこの頃になると調教で格上馬を圧倒するようにもなり、鞍上にはクリストフ・ルメールを迎えた新馬戦。着差こそアタマ差と地味だったが他馬を弄ぶように躱されながら差し返し、最後は後続に差を縮めさせない見事な勝ちっぷりであった。
年を挟んで2戦目はセントポーリア賞(1勝クラス)へ出走。前走の勝ち方から1番人気に支持され、鞍上も前走と同じくルメール騎手が騎乗。
本番のレースでは見事に出遅れ。後方からのレースを余儀なくされることになったが、最終直線に入ると楽な手ごたえてあっという間に抜け出し後のプリンシバルSの勝ち馬バジオウを歯牙にも掛けず一蹴。2馬身半差の圧勝。このレースで叩き出した上り33.3は2着馬バシオウの上りにに1秒近い差を付けており、しかもこれだけのパフォーマンスをソエ[3]をケアするため調教の負荷も上げきっていない状態で見せた事により一躍大きな期待を寄せられることになった。
3戦目は毎日杯に出走。前走の勝ちっぷりから単勝2倍を切る1番人気に推されることとなり、鞍上も前走と同じくルメール騎手が騎乗。
9頭立てのこのレースではウエストンバートが1000mを57.5というかなりのハイペースで逃げ、その中でグレートマジシャンは終始大外を回らされた上に掛かってしまう。しかし最終直線に入ると大外から一気に加速して他馬を次々と撫で斬り、阪神競馬場1800mの日本レコードタイの1分43秒9で駆け抜けた。
…ただ1頭、内から突っ込んできたシャフリヤールを除いて。
レース後にルメール騎手は「バケモノが居た」と語ったが、ハイペースを終始大外で掛かり気味に走りながら、経済コースを通ったシャフリヤールにアタマ差まで詰め寄るのだからこちらも大概である。
日本ダービー
その後皐月賞へは出走せず東京優駿(日本ダービー)へ。
ここには皐月賞を圧勝したエフフォーリア、ウオッカ以来の牝馬のダービー制覇を狙いオークスを蹴ってやって来たサトノレイナス、グレートマジシャンはこれらに次ぐ3番人気に推された[4]これまでの主戦であったルメール騎手はサトノレイナスに乗り替わったため、鞍上は戸崎圭太騎手に乗り替わることに。
レース本番ではバスラットレオンが一気にハナに立った後スローペースに落とし、その中でグレートマジシャンは中段後方で掛かり気味になったが何とか折り合いを付ける。
第3コーナー辺りからシャフリヤールの外に張り付いて直線で馬群の中に封じこめると、前の方で粘っているサトノレイナスと叩き合いながら先頭に居るエフフォーリアに並びかけようとした。
…しかし、そこまでであった。エフフォーリアは更に二の脚を使って伸び続け、その後を追ったのは馬群に封じ込めたはずのシャフリヤール。馬群を突破して同じ位置からエフフォーリアを差し切ったバケモノシャフリヤールに対し、自身の伸びはサトノレイナスを躱した所で止まってしまい、挙句後方から上り最速でやってきたステラヴェローチェにも差し切られて4着に敗れた。
負けはしたものの後方には差を付けていたこと、ダービーでは不利とされる外枠13番であったこと、そしてこのダービーに参加した馬たちがその後多くの勝利を重ねた事もあってかグレートマジシャンの評価は落ちず、これからは世代を代表する名馬になれる。という評価は変わらないままであった。
…思えば、彼の運命はここで決まっていたのかもしれない。
偉大なるマジックは、まるで幻のように
ダービーの後
その後は毎日王冠を目標に調整が行われることになったが、9月に右前脚の種子骨靭帯炎症[5]を発症してしまい、長期休養を余儀なくされてしまった。
その間、エフフォーリアが天皇賞秋、有馬記念を制覇、シャフリヤールはドバイシーマクラシックを制覇するなど活躍し、それらの名馬達としのぎを削ったことがグレートマジシャンの評価を上げ続けた。
だが、それらの評価とは対照的にグレートマジシャンの状態は一向に上がらなかった。
何とか7月30日の関越ステークスに目標を定めるも左トモの関節炎を起こし、レースの2週間前に獣医師から右前脚の球節の指摘を受けていた。関係者からもあまり良い情報は伝わって来ず調教師からも急仕上げでの出走であるとコメントしていた。しかも復帰戦は特に高速化する新潟の開幕週である。
それでも、彼は走らなければならなかった。今更止まるには、彼のマジックは人を魅了し過ぎたのだ。
幻に消えた
そうして426日振りにターフへと戻ってきたグレートマジシャン。不安要素があったとはいえ実力や実績からグレートマジシャンは2.4倍の1番人気に支持された。鞍上は戸崎騎手から乗り替わりで福永祐一騎手。
レースが始まりグレートマジシャンは上手くスタートを切ると、掛かり気味で少しポジションを下げながらも中段から大外を回って良い手ごたえで最終直線に入り、歩様の乱れも無く上がって行く。これなら行ける…そう思った次の瞬間、彼はガクンとノメり、一気に失速していった。
レース後に福永騎手は下馬し、宮田調教師もグレートマジシャンの下へ一目散に駆け付けたが、最早手の施しようなど無かった。
診断結果は右第1指関節脱臼、更に右前脚の繋靭帯も切れかかっており、[6]。その日のうちにグレートマジシャンは予後不良のため安楽死処分となった。奇しくも、この日は父ディープインパクトの命日でもあった。衝撃が遠い空に消えたその日に彼が魅せたであろう偉大なるマジック達もまた、彼の秘めた無限の可能性とともに幻に消えてしまったのである。
これほどの怪我を負っても鞍上の福永騎手を落とすことは無かった。それがせめてもの救いだろうか。
種明かし
思わず息を飲むほどの見事な馬体、細長いモデルのような脚、整った顔立ちは多くの人を魅了した。
生涯で僅か5戦ながらも5月の遅生まれであったことに加え、母方の血統を見るに古馬になっても成長を続けた可能性は高く、それでいて毎日杯でのレコード決着に着いていける天性のスピードと切れ味を兼ね備えていた。
そんな彼が無事に現役を続けていればどれほどの偉大なマジックを魅せてくれたかは、しかし今は想像で語るほかにない。
血統
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
*ナイトマジック Night Magic 2006 芦毛 FNo.[4-r] |
Sholokhov 1999 鹿毛 |
Sadler's Wells | Northern Dancer |
Fairy Bridge | |||
La Meilleure | Lord Gayle | ||
Gradille | |||
Night Wowan 1998 芦毛 |
Monsun | Konigsstuhl | |
Mosella | |||
Noveka | Kalaglow | ||
Novelle |
クロス:Northern Dancer 5×4(9.38%)
関連リンク
関連項目
脚注
- *繁殖成績も6頭中5頭が勝ち上がるなど活躍していたが、2020年の1月23日に亡くなっており2019年の産駒も居ないため、グレートマジシャンがラストクロップとなっている。
- *通常競走馬の出産ピークは3月頃であり、それを過ぎると遅生まれである。
- *若駒によく見られる炎症。
- *シャフリヤールは共同通信杯で既にエフフォーリアに敗れており、グレートマジシャンの方が可能性があると見込まれてのものだった。
- *ようするに繋靭帯炎である。
- *一言で言えば皮膚の皮だけで繋がっている状態
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