曖昧さ回避
ここではケシと、その仲間を指す「ポピー」について解説する。
ポピーに関連する植物以外の事項については→ポピーの記事を参照。
概要
ケシ
【分類】ケシ目ケシ科ケシ属
【学名】Papaver somniferum
(学名の由来)Papaver→ギリシャ語古名より。語源には諸説ある/somniferum→眠り+運ぶ
ヒナゲシ(ポピー)
【分類】ケシ目ケシ科ケシ属
【学名】Papaver rhoeas
(学名の由来)rhoeas→ザクロの(ように赤い)
アヘンの原料。成分のモルヒネ(モルフィン)は強力な麻薬。それをもとに化学合成したヘロイン(ジアセチルモルヒネ)はさらに強力な麻薬。
果実(ケシ坊主)の未熟なものを傷つけると乳液が出てくるので、これを採取しアヘンを得る。アヘンは禁断症状が強いために中毒性が高く、重度の中毒患者はやがて自力で活動する気力も失い、アヘン窟とよばれる吸引所に入り浸ることになる。
一方、童謡「肩たたき」で"真っ赤な芥子が笑ってる"と歌われたり、NHKのテレビ人形劇「にこにこぷん」で「はなばなガールズ」として登場するなど、花の可憐な姿は子供たちに愛される対象ともなる。
藤圭子の楽曲「圭子の夢は夜開く」で"赤く咲くのは けしの花"と歌われているが、全てのケシの花が赤いわけではない。
歴史
どうしても「ケシの歴史」というよりは「アヘンの歴史」になってしまうので、のちにアヘンの記事ができる場合(あるのか?)も考慮して、ここでは簡潔な説明のみにとどめる。
19世紀の中ごろ、清国との貿易で莫大な赤字を出していたイギリスは、その対策として植民地のインドで盛んにケシを栽培、採れたアヘンを清に密輸することを行い始めた。清ではアヘン吸引法が発達したうえ、現代ほど麻薬の恐ろしさが知られていなかったことから中毒患者が激増。その割合は人口の10%にも達するほどの勢いだった。これに危機感を覚えた清の欽差大臣・林則徐がアヘンを没収・廃棄を行ったが、その事を密輸業者に泣きつかれたイギリス政府は激怒。投棄アヘンに対する賠償を求め、その要求を全て呑まなかったことを口実としてついにアヘン戦争(1840-1842)を起こし、武力でこれを認めさせた。なお戦争に勝利したのはイギリスだったため、南京条約にはアヘンに関わる条項は一切設けられず、それどころか事実上の合法商品として大量のアヘンが清に流入し続けることとなった。
現在は、1928年に定められた麻薬製造制限条約により、世界的にアヘンの貿易が禁止されている。日本ではあへん法と麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)により、ケシを含むいくつかのケシの仲間が規制の対象になっている。麻薬成分を含んでいないケシの仲間は規制されていないので、栽培してもよいし、野に生えているのを見てしまっても黙認してよい。
食用
麻薬の原料になるケシを食べるなんて、と思うかもしれない。特に「実はケシの種子にはモルヒネが含まれている」などと聞けばなおされそう思うだろう。しかしその含有量は本当にごく微量なので、よほど大量に食さない限りなんの問題もないと思われる。
欧米ではケーキ・マフィン・ベーグルなどの材料として一般化していたり、またポーランドのマコーヴィエッツやハンガリーのベイグリにもその実がふんだんに使われているのを見ることが出来る。また日本でも菓子の材料として普通に売られているほか、あんぱんの上にのっているゴマのようなものは、実はケシの種子(ポピーシード)である(注・本当にゴマがのっている場合もある)。この他、七味唐辛子の中に入っていたり、京菓子の一種「松風」に使われたり、さらには小鳥用のエサにされたりもしている。
このように、誰もが普通に食べていながら何の問題も起こらなかったりする辺り、やはり当たり前に食べる分には、よほど大量に食さない限りなんの問題もないと思われる(大事なことなので二回言いました)。いずれにせよ、食用のケシの実は全て炒るなどの処理がされ、発芽しないようになっている。
生産
ミャンマー・タイ・ラオスの国境地帯はかつて「黄金の三角地帯」とよばれていたが、この場所では19世紀以来ケシが盛んに栽培され、麻薬が密造されてきた。時には膨大な金を手にした密輸業者が、さらに事業を拡大しようと武装化を推進。ついには戦車やヘリまで動員して中国の国境警備隊を攻撃し、あげく幾つかの町を占領してしまう事件が起きるなど、過去におけるこの地域の麻薬ビジネスは凄まじい規模を誇っていた。
現在ケシが最も多く栽培されているのはアフガニスタンで、タリバンを主導として栽培が推し進められ、世界のアヘン生産をほぼ独占している。近年はミャンマーにおけるカレン人、ワ人(世界第2位規模)、ロシアにおけるチェチェン人(アル・カーイダと提携)、スリランカにおけるタミル人(現在は壊滅)など、独立を求める民族や集団が、その武装闘争の資金源とするため生産を行う例が増えてきている。
一方で、麻薬目的ではない食用ケシは、チェコとトルコがほぼ並んで最大の生産国となっている。
ケシの仲間
ケシの仲間をポピーというが、多くはヒナゲシを指す。ヒナゲシは観賞用に栽培されるが、もちろん麻薬成分は含んでいない。
雑草として近年やたらとその辺で見られるようになった、ナガミヒナゲシ(P. dubium)は茎を傷つけると黄色い液体が出てくるが、これもセーフ。
なお、春の雑草として代表的なノゲシ(野罌粟)は、ケシに葉が似ているだけで、キク科の全く別の植物である。
その他・豆知識
- 芥子は「からし」とも読む。というか、むしろこっちが本来の読み。「けし」の読みは、誤用により広まった読み方である。
- ケシの種のように小さな、1mm前後の大きさの核のない真珠をケシ真珠という。高級品。
- アニメ「大魔法峠」のOPの冒頭に登場するのはケシの花…ではなく、クレマチスの花。花言葉は「腹黒い」。
ケシに関連した名前を持つ人物
架空の人物
ケシに関連する楽曲
関連動画
関連項目
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