はじめに ~名称について~
この銃の正式名称は「M1911(エム・ナインティーンイレブン)」である。
「コルト・ガバメント(Colt Government)」とは、元々軍用のM1911シリーズを民間市場で販売する際につけられた、いわば商品の仕様名である。日本ではこの通称が一般的だが、アメリカの銃砲店で「ガバメントください」と頼んでも、M1911に造詣の深いおやっさん店員にしか理解してもらえないので注意すること。
日本の銃器紹介雑誌やサイトではめんどくさいガンナッツ達による「M1911/ガバメントの記載名選定問題」が至る所で起こっているが、当記事内では以後、特記しない限りは一般的なM1911拳銃を指して「ガバメント」と記載することにする。
概要
スペック(ガバメントモデル) | |
---|---|
全長 | 216mm |
重量 | 1,130g |
銃身長 | 127mm (約5.1インチ) |
機構 | オートマチック |
口径・弾薬 | 45口径・.45ACP |
装弾数 | 標準弾倉で7発 |
ジョン・ブローニングの設計に基づき、アメリカのコルト社によって米軍向けに開発された拳銃「M1911」を基本形とする。
それまでの米軍制式拳銃であったコルト シングル・アクション・アーミー(SAA)の後継として制作され、トライアルを経て1911年に米軍に採用されたのが名称の由来である。以後、1985年にM9(ベレッタ92)に更新されるまでの74年間もの間、米軍制式拳銃の地位にあった。
その後も海兵隊や一部特殊部隊では改良モデルが運用されており、それらも含めれば2020年ごろまで使い倒されている。
現用拳銃の基本となったレイアウト、登場から100年経過しても現役の基礎構造、幅広いシューターから支持される優れた使用感、多様なカスタムに対応する高い拡張性から、民生用としても大人気の銃である。様々なメーカーからクローン・コピー品が製造され、更に1986年に本家コルト社の特許が失効してからは、雨後の筍のように他メーカーから正規の独自改良モデルが発売されまくった。今では各社のカスタムパーツだけで一丁組み上げるのも容易なほどに普及している。そのせいで本家コルト社のシェアが減少し経営難に拍車をかけることになった。
AR-15(M16)自動小銃と並ぶ「アメリカの国民銃」であり、ヨーロッパではあまり人気のない.45ACP弾がアメリカでバカスカ売れるのはガバメントのおかげと言える。むしろヨーロッパの伝統あるメーカーも、最大の銃市場であるアメリカ銃社会でのウケを狙って、ガバメントと同じようなレイアウトで拳銃を開発することを強いられている節もある(H&K USPとか)。
流石に現代では往時ほどの勢いはないが、様々なメディア作品に現在進行形で登場していることもあり、日本でもガンマニアには大人気で、多種多様な遊戯銃が発売されている。ガンマニアは大体ガバメントが「大好きな人」と「好きだけど素直に好きと言えない人」に分別できる。
アメリカでは単純に「1911(ナインティーンイレブン)」と呼ばれる他、45口径自動拳銃の代名詞ということもあって「45オート」とも呼ばれる。
コルト社販売バリエーション
本来なら基本構造などを一通り解説してから入るセグメントだが、名称問題をわかりやすくするためにも先に表記しておこう。
米軍制式採用モデル
コルト社正規の民生用(シビリアン)モデル
- ガバメント(官給用)
- 基本的にM1911と同型の、銃身長5.1インチのフルサイズモデル。
- 有名なモデルはMk.IV。1970年-1983年まで「シリーズ70」、83年以降は「シリーズ80」が発売され、以降のモデルの基礎となっている。
- 1991年に限定販売されたメモリアルモデルとして「M1991A1」が存在する。
- 現在では近代化改修モデル「XSE」、XSEにマウントレイルを追加したモデル「Rail Gun」を経て完成した「CCU(コルト コンバットユニット)」が主流。昔ながらのモデル「1911クラシックス」も相変わらずの愛好家人気で販売され続けている。
- 特殊表面加工を施されたステンレス製のCCU「コンバットエリート」も存在。
- ナショナルマッチ(標準競技)
- コマンダー(指揮官用)
- オフィサーズ(事務官用)
- ディフェンダー(護身用)
基本構造
アメリカの対フィリピン原住民戦争の戦訓から開発された「45口径(0.45インチ、約11.4ミリ)オートマチック・コルト・ピストル弾」=「.45ACP弾」を使用する銃器として設計されている。
強力な拳銃弾薬を使用するため、撃発時に一時的にスライドと銃身をロックするショートリコイル機構を採用した。このブローニング式ショートリコイル機構は現代オートマチック拳銃の基本構造となり、ライバルのS&W社や、スイスのSIG、チェコのCz、オーストリアのグロックなどの各メーカーを始め、トカレフ拳銃の生みの親であるトカレフ技師や、独自規格に固執していた定評のあるH&Kまでも使用している。
開発時期が時期なので、スライドやフレームなど、主要部分は重いスチールで作られている。1990年代以降の主流であるポリマーフレーム拳銃にはどうあがいても軽量化で勝てないが、この重さが.45ACP弾の強い反動を吸収しやすくしている面もあり、一長一短と言える。
撃発機構はシングルアクションのハンマー式。トリガーに連動してハンマーが起きるダブルアクションと違い、最初の一発目は事前にコッキングしておかないと発砲できない。
安全装置
安全装置レバーは撃鉄が起きた状態で固定する(コックアンドロック)機構になっている。
デコッキング(ハンマー戻し)機構はないため、ハンマーを戻すには(撃針の劣化には目をつぶって)弾倉と薬室の弾を抜いた上で空撃ちする。弾を込めたままハンマーを指で押さえ、トリガーを引いてゆっくりとハンマーを戻す方法もあるが、正確に操作しないと暴発の危険がある。
もう一つの安全装置として、グリップの後方に、銃をしっかり握って押し込まないと発射できないグリップセフティ機構が組み込まれている。この2つの安全装置により、登場当時の自動拳銃としてはかなり優れた安全性を獲得していた。
シリーズ80では、撃針をロックするAFPBが搭載され、さらに安全性が高まった。半面、それまでのシリーズ70とトリガー感触が変化してしまい、古参ユーザーには嫌う人もいたという。このためあえてシリーズ70の機構を搭載したモデルも継続して販売されている。
弾倉(マガジン)について
標準弾倉の装弾数は7発。薬室に込めた1発と合わせて8発が最大装弾数になる。
当時の製造技術の制限などもあり、単純で信頼性の高い単列装填(シングルカラム)構造が採用されている。装弾数が犠牲になる代わりにグリップが細くなるため、手の小さい人でも意外と握りやすい。
オフィサーズ以下の小型モデルでは、グリップと共に弾倉も切り詰められ、装弾数は6発になっている。
また、XSE以降の新型ガバメントでは、7発弾倉とそんなに変わらない長さの8発弾倉も用意されている。ただし7発に比べると装弾不良を起こす確率が高いらしく、軍用のM45A1では従来の7発弾倉が採用されている。
その他、射撃競技向けの10発以上装填できるロング弾倉もある。
弾倉の固定を解除するためのリリースボタンは、銃の左側のトリガーガード根元部(親指の付け根部分)に設けられており、片手で操作可能。これは開発当時の主流であった「弾倉底面を固定するヨーロッパタイプ」よりも安全性では劣る代わりに、素早い交換が可能だった。現在では技術進歩に伴って安全性が確保され、自動拳銃のほとんどが同様の配置になっている。
反面、銃の反対側にもボタンを付けて左右両用化(アンビ化)することは出来ず、左利きの人にはちょっと扱いづらい(軍隊では右手持ちに矯正されるのであんまり問題にならないのだが)。
引き金(トリガー)について
ガバメントが愛用される理由の一つが、絶妙なトリガーの構造だろう。
シングルアクションのトリガー感触は軽いが、ガバメントのそれは特にスムーズ。更に構造が単純な上に遊びの調整幅が広く、シューター個人に合わせて適切な形状のトリガーに交換したり、絶妙なシア設定を行うことができる。
シングルアクション&コックアンドロックの組み合わせによって「銃を抜く→安全装置を解除しつつ対象に向ける→撃つ」抜き撃ち(クイックドロウ)を素早く正確に行える点も、競技用拳銃として高い支持を集める要因になった。
とはいえ、銃の操作に慣れたつもりの人間が迂闊にトリガーに触れて暴発させたり、長時間ハンマーを起こしたままにしてバネをダメにするトラブルも多かった。こうした安全性の問題と、装弾数の少なさから、アメリカの州警察でM1911系の拳銃が制式化されることはほとんどなかった。訓練時間を確保できるSWATなどの特殊部隊や、そもそも戦場で拳銃をほとんど使わない軍人とは違い、拳銃を日常使いする警官たちにはより単純で安全なモデルこそが必要だったのである。
各州警察の制式拳銃は、単純な操作と安全性を兼ね備えたダブルアクションリボルバーと、ダブルカラム(複列弾倉)のダブルアクション自動拳銃が基本である。
運用について
こうした基本構造は登場から100年経過しても大きな変更はなく、ブローニングM2重機関銃と並んで登場当時の物がほぼそのまま使い続けられている傑作銃器として評価されている。アメリカ人にとって最も馴染み深い拳銃であることは確定的に明らか。むしろガバメントが存在したためにアメリカとヨーロッパに異なる銃文化(アメリカの45口径神話)が根付いたのである。
先述の通り、米軍制式拳銃は1985年にM9に更新されたが、外征軍である海兵隊や一部の特殊部隊では、大口径の制圧力と信頼性、そして隠密性を評価してガバメントが使い続けられた。45ACP弾は亜音速弾で音速を越えないため、別途に減装弾を用意・使用せずともサプレッサー(消音機)が効果を発揮できるのである。海兵隊ではMEUピストルがリサイクルされ、更に後にはM45A1が採用されたのは有名だが、陸軍デルタフォースではウィルソン・コンバット社製のガバメントが採用されたようだ。
とはいえ2010年以降、9mmパラベラム弾の性能向上と実戦フィードバックによる再評価に伴って45口径神話の威光が失われてきたこともあり、海兵隊特殊部隊のMARSOC(マリーン・レイダース)では2016年にグロック19を新たなMEUピストルとして採用。そして2017年にはM9からM17・M18(SIG P320)への変更が決定し、2020年には海兵隊もその流れに習い、M45A1の運用を終了した。
各州警察の一般部隊における採用例はほぼないのも先述の通り。ただしLAPDのSWATではキンバー社製モデルが正式採用されたように、特殊部隊やFBIなどではこの限りではない。
民間の射撃競技用としては「.38スーパー弾」仕様が人気。.45ACPと並ぶもう1つの人気モデルである。他にも世界的にメジャーで価格も安い9mmパラベラム弾仕様もバッチリ用意されている。
日本において
第二次大戦後間もないころは、日本の警察や自衛隊でも、米軍から給与されたM1911A1を11.4mm拳銃として運用していた。
とはいえ現場では日本人の手には大きすぎて不評だった。銃器類の訓練時間を余り割けない警察では持て余し、老朽化して暴発する事故もチラホラあったため、早期に交換が進められる。一方の自衛隊においても、旧来のヨーロッパ風射撃姿勢(片手で構える)が教本で指定されており、これが.45ACP弾を扱うには不向きだったせいで余計に不評だった模様。
その後、1982年に自衛隊はSIG P220を9mm拳銃として採用。警察では過渡期を経てミネベア ニューナンブを始めとする.38口径拳銃に更新されていった。余談ながら米軍がM9を採用したのが1985年(本格運用開始は1990年)のため、採用時期がズレれば自衛隊でもベレッタ92が採用されていた可能性も……なくはないかもしれない。
更なる余談ながら、2024年時点で、大体50代後半辺りから上の世代が該当するが、ヤクザや刑事やらが沢山でてくる映画やドラマに慣れた世代は「コルト」といえばコルトM1903(通称「日活コルト」)を思い浮かべる人が多い。が、ノリや勢いでトイガンを買いに来るお父さん世代は、大抵は銃器には詳しくないため、同じコルト社製で、一番有名なガバメントをなんとなく買っていく事が多い(執筆者は目前でそんなおじさんを目撃し、その後で店員さんに「大体同じパターン」と言われた)。
バリエーション
コルト社純正モデル
他社製モデル
特許失効前の無許可クローン・コピーモデルや、個人製作に近い零細メーカー製品も含めるとキリがないので、有名どころ(と思われる)モデルのみ記載する。
ここに書いていないメーカーでは、高品質カスタムガバメントを作るアメリカのウィルソン・コンバット社がとくに有名。他にもコルト社のライバルのS&W社もクローンを作っている。その他、スイスのSIG社やスペインのスター社、ブラジルのインベル社、中国のノリンコなど、昔から存在する大手メーカーは大体1911に手を出していると考えていい。
グロック社は2024年現在手を付けていない。「グロックが1911を作ったらこうなる」というオリジナル銃妄想は一つの定番ネタである。
- AMT ハードボーラー
- パラ・オーディナンス P14
- デトニクス コンバットマスター
- SFA ウルトラコンパクト
- キンバー ウォーリア
- キンバー カスタムⅡ
- STI / スタッカート 2011
- SV インフィニティ
M1911系が登場する作品
ぶっちゃけ数えきれない。メディアと時代を問わず出演しまくっており、素のガバメントだけに絞ってリスト化するだけでも大学論文執筆並みの手間がかかる。※順次追記していって下さい。
Wikipediaの当該項目とかInternet Movie Firearms Database
とかMEDIAGUN DATABASE
とか参照してほしい。
- メタルギアシリーズ - カスタム銃「スネークマッチ」が有名
- スティーブン・セガール - 作品…? とりあえずセガールのお気に入りではある
- ルパン三世 - 銭形警部の愛銃
- あぶない刑事 - タカ役・舘ひろしの趣味でカスタムガバメントが制作されている。ワイルドホークの商品名で有名
- 緋弾のアリア - 神崎・H・アリアが二丁拳銃で使用
関連動画
関連項目
- 拳銃
- 銃の一覧 / 銃器関連項目の一覧
- アメリカ軍 / アメリカ
- 軍事
- コルト・ファイヤーアームズ
- スネークマッチ - メタルギアシリーズに登場するカスタムガバメント
- ベレッタ92 / SIG P320 - 米軍制式拳銃の後輩たち
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