コンドロクラディア・リラ(Chondrocladia lyra)とは、深海に生息する海綿動物の一種である。肉食性カイメン[1]として知られる。
概要
コンドロクラディア・リラは2000年にモントレー湾水族館研究所(MBARI)による調査でカリフォルニア沖の水深3,300m付近から発見された。
その後、2000年と2005年に採取された2個体を元に2012年に新種として発表され、その動物とは思えない奇妙な姿と肉食というフレーズからかなりの話題を集めた。国際生物種探査研究所(IISE)が毎年行っている「世界の新種トップ10(Top 10 New Species)」の2013年度にも選出された[2]。
コンドロクラディア・リラの体は放射相称で、体の中心から放射状に伸びた1~6本の枝(匍匐枝)から垂直に捕食に使われる枝(垂直枝)が多数伸びている。この垂直枝は体の中心から伸びる枝の末端ほど短くなっており、結果的に全体が三角形の板やハープのように見える。垂直枝の先端には球状の構造があり、途中に瘤を持つものもある。球状の構造には精細胞が詰まっており、生殖に使われる。
垂直枝には、全体に渡って獲物を捕まえる為の細かなマイクロメートル単位のフックのような突起がある(後述)。
枝はイソギンチャクの触手やウミユリの腕のようにアグレッシブに動くという訳ではない。映像でも、根のような構造で海底に固着してじっと佇んでいる様子を見ることができる。
均等に5本の枝が伸びている美しい個体も撮影されており、コンドロクラディア・リラといえばその個体のイメージを持っている人も多いのでは?それ故、他の個体がなんだかしょぼく見えるとか言ってはいけない。
種小名のlyraはLyre[3]というハープに似た弦楽器(単にハープと説明される事の方が多い)に似ていることから名付けられた。英名はそれに倣い「harp sponge[4](ハープスポンジ)」または「lyre sponge」、和名は「タテゴトカイメン」という呼称が定着している。
肉食性カイメンとは
「肉食」とは言っても、自在に泳ぎ回ったり触手を伸ばして魚を捕えたりビームを出したりする訳ではない。
カイメンの仲間は最も原始的な動物として知られている。一般的なカイメンは体に空いた穴から水を吸い込み、その中の微細な有機物や微生物を濾しとって食べている(濾過摂食)。
しかし、肉食性カイメンの仲間は、体表のフックのような突起に流れてきた甲殻類などの小型の生物(一般的なカイメンが食べている微生物より格段に大きい)を引っかけて、じっくりと消化・吸収するという方法をとる。突起はマジックテープの表面に似ており、捕まったらまず逃げられない。獲物にとって肉食性カイメンは死の罠も同然である。
この摂食方法は、深海という流れてくる栄養分が少ない環境に適応した結果だと考えられている。また、肉食性カイメンの仲間は同じく餌に乏しい海底洞窟内でも発見されている。
2020年4月現在、肉食性カイメンの仲間は海綿動物門・普通海綿綱・多骨海綿目・エダネカイメン科(Cladorhizidae)に纏めて分類されているが、今後の研究で変更されたり、他のグループから肉食性カイメンが見つかる可能性もあると思われる。
肉食性カイメンの不思議な仲間たち
ここではコンドロクラディア・リラと同じエダネカイメン科コンドロクラディア属(Chondrocladia)の種を載せる。
- Chondrocladia lampadiglobus ピンポンツリースポンジ
コンドロクラディア・リラと並んで有名な肉食性カイメンの代表的な種。木からピンポン玉かガラス玉が生えたような姿をしている。2003年にモントレー湾水族館研究所から報告された。実は科と同じ「エダネカイメン」という和名がある。 - Chondrocladia concrescens エルタニン・アンテナ
アンテナのような姿の肉食性カイメン。1964年にアメリカの海洋調査船USNSエルタニン号が水深3,904mでこれを撮影した時、あまりに奇妙な物体だったので船の名前を取って「エルタニン・アンテナ(Eltanin Antenna)」と呼ばれ、地球外生命体や海底文明が遺したものではないかと騒がれた。既に記載されていた生物だと判明するのは2003年になってからである。
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関連項目
脚注
- *英:carnivorous sponge
- *Scientists Announce Top 10 New Species
- *リュラー、ライアー、リラなどと訳される
- *スポンジというのはもともとカイメン(海綿動物)のことを指す
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