ゴールデンホーン(Golden Horn)は、2012年生まれのイギリスの競走馬・種牡馬である。
無敗で英ダービーを制したほか、名牝Treveの凱旋門賞3連覇を阻んで同レースを制覇し、2015年のカルティエ賞年度代表馬に輝いた。
概要
出自
父Cape Cross(ケープクロス)、母Fleche d'Or(フレッシュドール)、母父Dubai Destination(ドバイデスティネーション)という血統。既にOuija Board・Sea the Starsの2頭のカルティエ賞年度代表馬をはじめ中長距離馬を多く送り出していた父はともかく、母系はMumtaz Mahal直系の結構な快速血統であり、一見すると長距離向きには見えない母系である。ただ本馬の活躍を皮切りに、4代母のLoraを通じた本馬の近親から英仏でG1を4勝したクラックスマンや、日本で大活躍したメロディーレーン・タイトルホルダー姉弟といった中長距離路線で活躍する馬が出てきている。
生産者は長年キングジョージVI世&クイーンエリザベスSのスポンサーであったデビアス社の経営一族であるアンソニー・オッペンハイマーという人物である。彼は牝馬を手元に残して牡馬を売却するスタイルを取っていたが、ゴールデンホーンは1歳時にセリで主取りとなったため、生産したオッペンハイマーが自身で所有し、ベテランの名門ジョン・ゴスデン厩舎に入厩した。
ダービーまで
2歳10月の未勝利戦でウィリアム・ビュイック騎手鞍上でデビュー。このレースではSea the Stars産駒で伯父にGiant's Causewayがいるという良血馬のStorm the Starsに1番人気を譲ったが、出遅れたりよれたりしながらこれをアタマ差抑えて勝利。Storm the Starsと3着馬の間には7馬身の差が開いていたこともあり、ゴールデンホーンは一躍評判を集めた。
3歳始動戦のリステッド競走・フェイルデンSではこの後主戦となるランフランコ・デットーリ騎手が騎乗し、中団から伸びて快勝。英ダービーへの重要な前哨戦となるダンテS(GII)に駒を進めた。ここではデットーリ騎手が騎乗する2戦2勝の同厩馬Jack Hobbs、2歳GI・レーシングポストトロフィーの勝ち馬Elm Parkに人気を譲り、ビュイック騎手騎乗のゴールデンホーンは英ダービー前売り1番人気だったが前走で単勝1.25倍を裏切る3頭立てのシンガリ負けを喫していたJohn F Kennedyと並んでの3番人気となったが、最後の直線で後方から突き抜け、2馬身3/4差を付けて優勝した。
ゴールデンホーンはこれで英ダービー馬の最右翼になったと思われたのだが、なんと馬主はゴールデンホーンを英ダービーに登録していなかった。何となれば、父はともかく母系の方はゴールデンホーンが現れるまでの中長距離の活躍馬がほぼ不在であり、掛け合わされていた種牡馬を見てもあまり長いところに対応できるようには見えなかったのだ。
馬主は初め7万5000ポンドの追加登録料を嫌って、2100mで行われるジョッケクルブ賞(仏ダービー)に出走させようとしたが、ゴスデン師が馬主を説得して、何とか英ダービーへの追加登録・参戦が決定した。
こうして迎えた英ダービーでは、デットーリ騎手が騎乗するゴールデンホーンが1番人気に支持され、ゴドルフィンにトレードされたためその主戦騎手であるビュイック騎手に乗り替わったJack Hobbsが2番人気、以下Giovanni Canaletto(2年前の勝ち馬Ruler of the Worldの全弟)、Elm Parkと続いた。
スタートが切られるとElm Parkが逃げてJack Hobbsが中団につけ、ゴールデンホーンは後方からレースを進めた。そして最終コーナーからじわじわ差を詰め、直線で追い出されると一気に加速。先に先頭に立っていたJack Hobbsを並ぶ間もなく抜き去るとそのまま3馬身半差で圧勝し、見事無敗の英ダービー馬となった。2分32秒32の勝ちタイムは記録が残っているものとしては歴代3位(代替開催除く)という好タイムであった。
ちなみにこのレースでの本馬の単勝オッズは2.625倍で、これはブックメーカー側が血統的に一本被りは無いだろうと考えてこのオッズにしたそうだが、蓋を開ければデットーリ騎手の人気も相まってゴールデンホーンの単勝は飛ぶように売れたため、結局ブックメーカーは大赤字になってしまったそうである。
古馬との戦い
さて、ゴスデン師はこの後Jack Hobbsを愛ダービーに向かわせ、同馬はここを5馬身差で圧勝。一方のゴールデンホーンはその1週間後に行われた10ハロン路線のエクリプスS(GI・9ハロン209ヤード≒2002m)に出走した。強敵と目されたのは前年のジョッケクルブ賞・愛チャンピオンSの勝ち馬The Grey Gatsby1頭のみで、ゴールデンホーンは単勝1.44倍の圧倒的人気となった。
このレースには逃げ馬もペースメーカーもいなかったため、陣営は「厄介なことになった。スプリンターではないので逃げるわけにもいかない」(デットーリ騎手)、「相手は一線級なので少し厳しいかもしれない」(ゴスデン師)などとネガティブなコメントをしていたのだが、蓋を開ければゴールデンホーンが後手を踏みながらも逃げ、差し馬だったThe Grey Gatsbyもこれを追って先行するというレースになった。そしてゴールデンホーンは譲らないどころか最後は更に差を広げて3馬身半差で圧勝した。
この後はキングジョージVI世&クイーンエリザベスSに出走する予定だったが、大目標を凱旋門賞に据えたゴスデン師の意向により、大雨でタフな馬場になったこのレースは回避。最終的にインターナショナルS(GI・10ハロン56ヤード≒2063m)が次走になった。
英愛2000ギニー馬Gleneaglesが雨で湿った馬場を理由に回避したため、有力馬がThe Grey Gatsbyくらいしかいなくなったこのレースでゴールデンホーンが再び単勝1.44倍を背負ったのは自然なことだったかもしれない。しかもブラフは二度通用しないと読んだゴスデン師はペースメーカーまで用意して万全の体制で臨んでいた。
ところが、レースでは3番手を進んだものの、馬場が湿っていたこともあってか伸びを欠き、残り1ハロン地点でペースメーカーを交わして先頭に立った3歳牝馬Arabian Queenを捉えきれず、クビ差の2着に敗戦して初黒星。
Arabian Queenは単勝51倍・ブービー人気タイの超大穴であり、かつてデビュー16連勝を期待されたBrigadier Gerardを世紀の悪役Robertoが破った第1回競走を思わせる結末となった。
続けて参戦した愛チャンピオンSも馬場が雨で悪化していたが、前走ほど酷くはならなかったためそのまま出走。単勝2.25倍の1番人気に支持され、プリンスオブウェールズSの勝ち馬Free Eagle、マルセル・ブサック賞の勝ち馬Foundらが相手となった。
レースではデットーリ騎手が馬の行きたいように行かせた結果、逃げ馬Highland Reelと並んで逃げる形となり、最後の直線でHighland Reelは失速。代わって伸びてきたFree Eagleが並ぼうとしたところ、ゴールデンホーンは「スタンドの影に驚いた」(ゴスデン師談)と思われる理由で外に斜行し、同馬にまともに激突。ゴールデンホーンは2位入線のFoundに1馬身差を付けて1位入線したが、最後の直線での斜行が審議となってしまう。結局到達順位のまま確定したものの、前週のセントレジャーでも1位入線した牝馬Simple Verseが降着したばかり[1]ということもあってこの結果は大きな物議を醸し、非常に後味の悪いレースとなってしまった。
凱旋門賞制覇、そして引退
その後、馬場があまり悪くならないことが予想されたため、かねてからの大目標通りゴールデンホーンは凱旋門賞に出走。12万フランの追加登録料を支払って出走したこのレースの目玉は何と言っても史上初の3連覇がかかるTreveであり、単勝オッズは2.0倍の圧倒的人気だった。他のメンバーはFoundとFree Eagle、ジョッケクルブ賞の勝ち馬New Bay、GI3勝馬だが前年のこのレースを含めてGI2着が5回もあったFlintshireなどがいた。
単勝オッズ5.5倍の2番人気となったゴールデンホーンは、17頭立ての14番ゲートというあまり有利ではない枠を引いてしまった。馬主のオッペンハイマーこそ「馬場が良ければ楽勝だ」(意訳)と言いはしたものの、ゴスデン師は前年にTaghroodaで外枠を引いて3着に敗れていたこともあり、かなり作戦を講じたという。
レースはTreveのペースメーカーShahahの逃げで始まったが、あまりハイペースになることはなく、そのため馬群はしばらく凝縮したままだった。一方のデットーリ騎手は早々に外へ出し、1頭だけ馬群から離れた「横ポツン」状態のまましばらく追走した後、隊列が定まったのを見計らいながらスッとShahahの後ろに馬を入れて、最低限のエネルギーで単独2番手を取ることに成功した。
そしてロスなく走り続けたゴールデンホーンは400m地点で悠々と先頭に立ち、Treveが前残りに喘ぐ中、後続の追撃を完封して優勝。2着Flintshireは2馬身後方、3着New Bayはそこからクビ差で、3連覇を狙ったTreveはNew Bayにハナ差後れて4着に終わった。
デットーリ騎手は「今まで乗った中で最高の馬」と称賛し、またTreveを管理するクリスティアーヌ・ヘッド師の兄・フレディは「世間のプレッシャーに引っ張られて陣営が冷静さを欠いた可能性がある」と指摘したが、デットーリ騎手の奇策も勝利に一役買ったのではないだろうか。
名実ともに頂点に立ったゴールデンホーンはこの後、アメリカでブリーダーズカップ・ターフ(GI・12ハロン)に出走。単勝1.8倍の1番人気に支持され、GI4勝のBig Blue Kitten、アーリントンミリオンの勝ち馬The Pizza Man、凱旋門賞は9着に敗れたがその後に英チャンピオンSで2着となっていたFoundらがこれに続いた。
レースはShining Copperという馬が後続を20馬身ほども離すツインターボまがいの大逃げを打ち、ゴールデンホーンは2番手から更に3馬身ほど離れて前を追走。直線入り口で失速していた逃げ馬を交わし、堂々先頭に立って粘り込みを図ったものの、最後の最後で本馬をマークしていたFoundにクビ差競り負けて2着に敗れ、史上初となる凱旋門賞・BCターフの同一年勝利とはならなかった[2]。ゴスデン師は敗因について馬場状態を挙げ「ゴールデンホーンにとっては柔らかい馬場だった」と語った。
凱旋門賞のレース後にゴドルフィンを率いるドバイのモハメド殿下に購入されていたゴールデンホーンは既にこの年限りでの引退が決まっており、このレースを最後に通算9戦7勝2着2回で引退。この年のカルティエ賞年度代表馬・最優秀3歳牡馬を受賞した。
ちなみに偶然か必然か、ゴールデンホーンが敗れた2頭はいずれも牝馬であった。所謂「ターフのフェミニスト」的なタイプであったのかはもはや永遠の謎だが……。
種牡馬として
2016年からゴドルフィンが英国に所有するダルハムホールスタッドで種牡馬入りしたゴールデンホーンは、2019年から産駒が続々とデビュー。99頭の初年度産駒からWest End Girlが早速同年のスイートソレラS(GIII)を制するなど、順調な滑り出しを見せ、West End Girlを管理するマーク・ジョンストン厩舎のアシスタントも「概ね晩成型」と語るなど期待が高まっていたが、その後はイマイチ平地の活躍馬が出ていない状況である。
他方、障害では勝ち上がり率が50%を超え、レーティングも高い水準にあることから、2022年7月に障害種牡馬を中心に繋養するダッシュグランジスタッドに売却された上で、オーヴァーベリースタッドで平地・障害両用の種牡馬となることとなった。本馬の豪快な強さを彷彿させる産駒は出てくるだろうか。
血統表
Cape Cross 1994 黒鹿毛 |
Green Desert 1983 鹿毛 |
Danzig | Northern Dancer |
Pas De Nom | |||
Foreign Courier | Sir Ivor | ||
Courtly Dee | |||
Park Appeal 1982 黒鹿毛 |
Ahonoora | Lorenzaccio | |
Helen Nichols | |||
Balidaress | Balidar | ||
Innocence | |||
Fleche d'Or 2006 鹿毛 FNo.9-c |
Dubai Destination 1999 鹿毛 |
Kingmambo | Mr. Prospector |
Miesque | |||
Mysterial | Alleged | ||
Mysteries | |||
Nuryana 1984 鹿毛 |
Nureyev | Northern Dancer | |
Special | |||
Loralane | Habitat | ||
Lora | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Northern Dancer 4×4(12.5%)
- 父Cape CrossはロッキンジS(GI)などマイル重賞を3勝し、タイキシャトルが勝ったジャック・ル・マロワ賞で3着。種牡馬としては先述した通り中長距離にも活躍馬を送り出した。
- 母Fleche d'Orは不出走馬。ゴールデンホーンが生まれるまでの近親の活躍馬は殆どが短距離~マイルの活躍馬で、ゴールデンホーンの4代母Loraから連なる牝系にチャンピオンステークス連覇を含む中長距離GI4勝のCracksmanや菊花賞5着の牝馬メロディーレーン、菊花賞・天皇賞(春)・宝塚記念と中長距離GI3勝のタイトルホルダーが現れるのは少し後の話であった。
- 母父Dubai DestinationはクイーンアンS(GI・1マイル)の勝ち馬で、他に2歳時のシャンペンS(GII・7ハロン)で翌年の年度代表馬*ロックオブジブラルタルに土をつけている。血統としてはヒシアケボノやアグネスワールドの甥に当たり、半弟にLibrettist(ロジャーバローズの母父)がいる。直子にレーシングポストトロフィーの勝ち馬Ibn Khaldunなど。
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関連項目
脚注
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